高山 明さん(演劇ディレクター/アーティスト)♯3
人だけでなく、建物や場所も演技をする

鳥取県立博物館では、シリーズ企画展「ミュージアムとの創造的対話04 ラーニング/シェアリング ―共有から未来は開くか?」が、2023年12月28日まで開催中です。前回までに続き、本展の参加アーティストのひとりである高山明さんに、2025年春にオープンする鳥取県立美術館や今後の活動の展望についてお聞きしました。


- 鳥取では2025年春に県立美術館がオープンするのですが、県立美術館では誰もが芸術文化に触れることができる「アートを通じた学び」に取組むこととしています。このことなど、県立美術館に対するお考えや期待することなどをお聞きしたいです。

高山僕らの展示は美術館の中というよりは外に出ていく方ですが、『マクドナルドラジオ大学』が、美術館がハブになって街の中に学びの場を広げていく 1つのモデルになれば最高だと思っています。

マクドナルドは、実際にビジネスの中で多文化共生をやっているんです。これだけ移民や難民の方を雇っている企業はなかなかないと思いますし、たとえばフランクフルトではホームレスの人たちも排除されることなく利用してました。そういう意味では、マクドナルドは色々な方々にとってのセーフティーネット、避難所になっていると思います。それを今回、博物館が声をかけてくれて、そしてマクドナルド側も後押ししてくれたというのは本当にありがたいことです。

ただ一方では、アートや演劇関係者からは、『マクドナルドラジオ大学』は批判されることもあります。「なぜ資本主義と組むんだ」などと言われて。でも、本当はアート業界もマーケットがあり強烈にお金が絡む世界があって、どっちもどっちだと思うんです。

そこに、博物館が綺麗ごとではなく、多文化共生を実現できているマクドナルドのような企業とコラボするというのは新しいと思うし、本当の「公共」、新しい「公共」を考える意味では、大きな一歩なのではないかと思います。

鳥取県立博物館での展示スペースにて 撮影:田中良子

- アートと「公共」の関係性は、とても興味深いです。

高山:演劇も、元々は「公共」と深く結びついていたんです。例えば、ギリシャ悲劇を書いていたのは、軍人や今でいう「官僚」などでした。

建築家の磯崎新さんは、建築の枠組みを超えて活躍された方で、僕も大いに学んでいる方ですが、磯崎さんがよく仰っていたのは、かつての演劇人は都市国家の設計図を書いていた、即ち「建築家(アーキテクト)」でもあったのが、現代にはそのような演劇人はいないのではないかというもので、とても考えさせられました。演劇というものは、舞台上だけで劇をつくっているのではないのだと。それは今でも肝に銘じていることです。

『マクドナルドラジオ大学』は、教育や美術館の構造を「弄る」プロジェクトですが、磯崎さんが建築という手法から社会を変えてこられたように、僕は演劇という手法で社会に介入していけたらと思っています。

- 最後に、今後の活動についてお聞かせください。

高山:僕は劇場から出る活動をたくさんしてきたのですが、ベースには劇場という場のことをずっと考えてきました。だから、本当は劇場をやりたいという思いがあります。ただ、舞台を作らずに、別の活動をする劇場です。

どういうことかというと、演劇と言うと、変身するのは舞台上で、しかも人が人の真似をするという風にイメージすると思うのですが、実はそれだけではなくて、建物や場所も「演技」をすると思うんです。だから、毎年、劇場という場所が何かに変わる、例えば、ある年は難民の人たちが自分のビジネスを始めるための「サポートセンター」に変身する、次の年はヒップホップの人たちが仲間と技を磨く「スクール」に変身する、といったことをやってみたいと思っています。

そうすると、舞台は必要なくなるんですよね。興味ある人たちが集まってきて、そこにその年だけの実験的なコミュニティができて、そのコミュニティにとって一番使いやすい空間をデザインし、その事業を成立させるための「経済」も同時に考えだす。これを10年やって、1年経つごとに劇場を出て町の中にインストールされていったら、町に10個の新しい「コミュニティ」が生まれていくわけです。もちろん本当のスクールやサポートセンターではないので、ちょっと変わったものになり、そこからなにか面白い機能や経済システムが生まれていく。そのような劇場をやりたい。



- その劇場では、観客は誰でしょうか?

高山例えば、難民が起業するためのサポートセンターだと、難民の方々がプレイヤーです。その光景をメタ的な視点で観る観客も出てくると思いますし、もう一歩踏み込んでサポートセンターの運営に携わろうと思えば、その中に入ってサポートすることもできる。こうなったらもう観客ではなくプレイヤーですよね。つまり、舞台を無くして、観客とプレイヤーをもっと流動的にしたい。そういったことを考えています。
日本ではちょっとハードルが高いので、ベルリンかどこかでまず実験してみると思うんですが。

- 日本で実現する難しさとは、どのようなことでしょうか?

高山:身近な例で言うと、演劇を作ろうとしたときに、文化庁や文科省から助成金を活用しようとすると費目が細かく決められていて、例えばマクドナルドのリサーチ費なんて出せないわけです。照明や音響、機材、舞台装置、舞台監督といったものにお金が流れるように設計されてしまっている。
それの何が問題かと言うと、最初から「型」が設計されてしまっているために、出来上がる作品がみんな同じようなものになってしまうんです。ただ、一気に変えようとするとハシゴを外されて終わりになるというのはこれまでも経験してきているので、社会の構造や仕組みをステップバイステップで変えていかなければいけないと思って活動しています。
演劇は、そのために多分まだ使えるツールであると思っているので。

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※この記事は、令和5年度「県民立美術館」の実現に向けた地域ネットワーク形成支援補助金を活用して作成しました。


高山 明 / Akira Takayama
1969年生まれ。2002年、演劇ユニットPort B(ポルト・ビー)を結成。実際の都市を使ったインスタレーション、ツアー・パフォーマンス、社会実験プロジェクトなど、現実の都市や社会に介入する活動を世界各地で展開している。近年では、美術、観光、文学、建築、都市リサーチといった異分野とのコラボレーションに活動の領域を拡げ、演劇的発想・思考によって様々なジャンルでの可能性の開拓に取り組んでいる。主な作品に『ワーグナー・プロジェクト』(横浜)、『マクドナルド放送大学』(フランクフルト)、『ピレウス・ヘテロピア』(アテネ)、『北投ヘテロトピア』(台北)、『横浜コミューン』(横浜)、『国民投票プロジェクト』(東京、福島ほか)、『完全避難マニュアル』(東京)など多数。

マクドナルドラジオ大学 / McDonard’s Radio University
演劇ユニットPort Bによる町中のマクドナルドを大学に変えるアートプロジェクト。「教授」はなんらかの理由で故国を離れることになった移民や難民で、参加者は「学生」としてマクドナルドに入店し、ハンバーガーやコーラとともに「教授」のレクチャーを注文して聴講することができる。アフガニスタン、シリア、ガーナ、エリトリアなどからやってきた「教授」らによるレクチャーは、自らの経験・知恵・思考が濃縮され、建築・哲学・ジャーナリズム・音楽・スポーツ科学・リスクマネジメントなどバラエティに富んでいる。鳥取県立博物館での企画展〈ラーニング/シェアリング ―共有から未来は開くか?〉では県内在住の3人の「教授」による新しいレクチャーが加わる。
マクドナルドラジオ大学 @鳥取 Informationページ https://www.mru.global/information/


令和5年度鳥取県立博物館企画展 ミュージアムとの創造的対話04
ラーニング/シェアリング ― 共有から未来は開くか?

https://www.pref.tottori.lg.jp/cd04/

会期|令和5年11月26日(日)-12月28日(木)
   休館日:12月11日(月)
   開館時間:午前9時-午後5時(入館は閉館の30分前まで)

会場|鳥取県立博物館(第1・第2特別展示室および中庭)
   鳥取県内のマクドナルド ※高山明作品のみ各店舗の営業時間内に体験できます。

観覧料
【当日】一般/700円(大学生・70歳以上の方・20名様以上の団体/500円)※高校生以下の方、学校教育活動での引率者、障がいのある方・難病患者の方・要介護者等及びその介護者は無料 
【前売り】一般のみ/500円

主な関連イベント
アーティスト・トーク 小沢剛、高山明
  日時:11月26日(日)14時~15時30分
  場所:鳥取県立博物館 講堂
  講師:小沢剛、高山明
  定員:200名
  参加費:無料

高山明による《マクドナルドラジオ大学》イントロダクション
  日時:2023年11月26日(日)午後6時〜6時30分
  ガイド:高山明(Port B)
  会場:マクドナルド鳥取駅南店
  定員:30名(要予約・電話0857-26-8045〈当館美術振興課〉にて受付)
  参加費:無料 ※店舗にてセット商品をお買い上げください

主催|創造的対話展実行委員会(鳥取県立博物館、日本海テレビジョン放送株式会社)

問合せ|鳥取県立博物館
〒680-0011鳥取県鳥取市東町二丁目124 TEL.0857-26-8042 FAX.0857-26-8041(美術振興課 TEL.0857-26-8045)

ライター

梶谷彰男

広島県生まれ、鳥取県育ち。東京大学でまちづくりを学んだ後、鳥取県庁に入庁。認定NPO法人日本NPOセンターに派遣されNPO魂を学び、県内の市民活動の促進や協働の推進に取り組む。青年海外協力隊の制度を活用してジャマイカに派遣され、ノープロブレムな暮らしを満喫して帰国。「おもしろがろう、鳥取」のビジョンを掲げ、人と組織の可能性を開くNPO法人bankup(旧:学生人材バンク)の理事も務める。