高山 明さん(演劇ディレクター/アーティスト)♯2
鳥取県内の全店舗での展開は、本当に画期的

鳥取県立博物館では、シリーズ企画展「ミュージアムとの創造的対話04 ラーニング/シェアリング ―共有から未来は開くか?」が、2023年12月28日まで開催中です。前回に続き、本展の参加アーティストのひとりである高山明さんと、高山さんが代表を務める演劇ユニット「Port B」の田中沙季さんに『マクドナルドラジオ大学』の制作の裏側をお聞きしました。


- 『マクドナルドラジオ大学』は、最初のドイツ・フランクフルトの展示から、どのように他の国々に展開されていかれたのですか?

高山フランクフルトの試みが評価されて、色々なところから声がかかるようになり、ベルリンや東京、金沢、香港、ブリュッセルといった都市で展開してきました。

ただ、当初は、バルカンルート上にあるマクドナルドでやりたかったんです。つまり、アテネからスコピエ、ベオグラード、ブダペスト、ウィーンといった都市を結ぶルートを逆に辿っていくような。しかし、国によっては難民問題に非常にセンシティブで、難民の方たちが授業をした際に安全を確保できない恐れがあるということで、断念せざるを得ませんでした。

いずれ、もしかしたら、できる機会があるかもしれないけれど。


- 各都市では、どのようにして「教授」を探されていますか?

高山僕ら「Port B」には、「都市リサーチセンター」というリサーチ部門があります。都市についてのリサーチを常に溜め込んでいて、そのデータをアレンジしてプロジェクトにすることが多く、今回も、人探しやキャスティングといったディレクションは、主に田中が担当してきました。

田中:ケースバイケースなんですが、美術館や芸術祭の枠組みで展示させてもらうことが多かったので、海外の場合だと、まずは主催者の方に、難民支援団体などを探してもらってから、その団体にプロジェクトの趣旨を説明して、「教授」になってもらえそうな方を紹介してもらうことが多いです。

一方、日本の場合は、難民支援がそもそも制度的にあまり確立していなくて。「誰が難民なのか分からない」とか「難民はいない」といった反応をされることが多いです。ただそうは言っても、セーフティーネットが必要な方を支援してる方々は日本にもいらっしゃるので、そういう方を訪ねて行って、協力を仰いだりします。

カインズモール鳥取店にて 撮影:田中良子

- 田中さんが『マクドナルドラジオ大学』に関わるようになった経緯を伺いたいです。

田中他のPortBのプロジェクトでもキャスティングや制作といった形で参加していたので、その流れで『マクドナルドラジオ大学』にもコミットするようになりました。都市ごとに作品を展開できる条件や、一般的なマクドナルドへの距離感、教授として参加してくださる方たちの事情も全く違うので、学ぶことが多いです。

私は過去のPortBの別のプロジェクトでインタビュアーとして参加したものがいくつかあるのですが、『マクドナルドラジオ大学』も制作のプロセスに「教授」の方々から「話を聞く」というとてもシンプルな時間があります。返す言葉もないような瞬間が多々あり、そういった時間は日常生活ではアクセスが難しい類のものだと思いますが、『マクドナルドラジオ大学』のようなフレームであれば、難民支援といった方法とは違うレイヤーで、それでも切実でリアルなもののシェア、が可能になるのかなと思います。

- 困難を抱えながらも日本社会に埋もれてしまっている方々に光が当たるというか、行政などでは難しい領域に切り込んでいるのが、とても意義深いと思います。

田中:そういう風に言っていただけることは、どちらかというと少なくて。「アートとかよく分からないものに彼らの情報は出せない」とか「冗談じゃない、彼らがどれだけ苦労してきたと思ってるんだ」といった風にお叱りを受けることも結構あります。

ただ、中には、もしかしたらそういう枠組みを外れたところで、彼らの経験やアイデンティティーをもっと違う風に伝えることもできるのではないかという点に賛同してくれる方もいて。そういう方につないでもらうということもあります。

高山:難しいところなんですけれど。保護が必要な方は明らかにいて、そういう方々を守らないといけないっていう部分は絶対あると思うんです。 ただ、ずっと守られ続けて、ずっと「良い」難民でいなければいけないということに嫌気が差していると仰る方も少なくないんです。彼らも別にずっと難民をやっていきたい訳でもないのに、彼らが活躍できる場が開かれていないというのは、全然フェアじゃないですよね。このプロジェクトには、そういった問題提起も含まれています。

高山明/PortB《McDonald’s University @Frunkfurt》 2017 撮影:蓮沼昌宏

- 「授業」のテキストはどのように制作されるのですか?

高山今回の鳥取の3名の教授を例にすると、鳥取大学の2名は、博士課程在籍中で半分学者みたいな方々ですから、ほとんど全部、ご自身で書いてもらいました。

ただ、それができない方もたくさんいます。りささんは、とても記憶力が良くて、自分がこれまでどういう経験をしてきたかということは事細かに語ることができる方です。ただ、授業を作る上では、それらの思い出と少し距離を置く必要があるのではないかと考えて、中根千枝さんの『タテ社会の人間関係-単一社会の理論』(講談社現代新書、1967年)という本を媒介にして、授業を制作しているところです。

りささんは、本を読んで自分の意見や感想を述べるということを苦手にされていますが、それでもこのプロジェクトはやり遂げたい、形にしたいという熱意で取り組んでいらっしゃいます。
※インタビュー内容は会期前の時点のものです。りさ教授をはじめ、鳥取の3名の教授の講義をぜひ会期中にお聴きください。

- マクドナルドとは、どのように連携してこられましたか?

高山今回、鳥取県内のマクドナルド10店舗全てで展示できたことは、本当に画期的なことなんです。

実は、フランクフルトのマクドナルドで実施する際、最初はゲリラ的にやってみようかと考えたのですが、訴訟問題になるからと、すぐに劇場の弁護士にストップをかけられました。そうしたら、当時の劇場長が交渉してくれて、マクドナルド側はバーガーさんっていう方だったんですけど(笑)、プロジェクトに共感していただいて、7店舗で開催することができました。

田中:ただ、フランクフルトはラッキーなケースで、香港や金沢でもマクドナルド店舗での展示を試みたんですが、交渉がうまく進まず、結局これまでに実現できたのはフランクフルトとブリュッセルだけでした。

- なんと、その次が鳥取!

高山東京の六本木ヒルズ店でも実施させてもらいましたが、同店は主催側の森ビルのテナントで、森美術館に交渉してもらいやすかったという特殊な事情がありました。また、同店は全国のフラッグシップ店舗で、少し特殊なマクドナルドだと思うんです。なので、今回鳥取で、フランクフルトと同様のコンセプトで実施できるのは本当に凄い。

田中:最初はフランクフルトで実験的に始まり、様々な都市の芸術祭や美術館といった「アート」の枠組みの中でお客さんに来てもらっていたものが、今回の鳥取では本当に都市の中に入り込んでいくような展開になってきていて、制作側として醍醐味を感じています。

 

マクドナルドラジオ大学@鳥取の入学案内(左)とチラシ(右)

【県立博物館 赤井あずみ主任学芸員にも聞きました】

 赤井今回、鳥取県内のマクドナルド10店舗全てで展示できたのは、マクドナルドの担当者が非常に理解のある方だったのが大きいです。また、県の教育委員会や博物館と連携することで、マクドナルドとしてもSDGsの文脈で県内の学校教育に貢献できるといったメリットを感じてもらえたのも嬉しかったです。

あとは、マクドナルドはフランチャイズなので、たとえ本部の了解が得られても、何でもかんでも店舗で実施できるわけではないそうなのですが、県内の店舗オーナーの方々も非常に協力的で、ありがたいことに、県内の全店舗で展示できることになりました。

#3へ続く

※この記事は、令和5年度「県民立美術館」の実現に向けた地域ネットワーク形成支援補助金を活用して作成しました。


高山 明 / Akira Takayama
1969年生まれ。2002年、演劇ユニットPort B(ポルト・ビー)を結成。実際の都市を使ったインスタレーション、ツアー・パフォーマンス、社会実験プロジェクトなど、現実の都市や社会に介入する活動を世界各地で展開している。近年では、美術、観光、文学、建築、都市リサーチといった異分野とのコラボレーションに活動の領域を拡げ、演劇的発想・思考によって様々なジャンルでの可能性の開拓に取り組んでいる。主な作品に『ワーグナー・プロジェクト』(横浜)、『マクドナルド放送大学』(フランクフルト)、『ピレウス・ヘテロピア』(アテネ)、『北投ヘテロトピア』(台北)、『横浜コミューン』(横浜)、『国民投票プロジェクト』(東京、福島ほか)、『完全避難マニュアル』(東京)など多数。

マクドナルドラジオ大学 / McDonard’s Radio University
演劇ユニットPort Bによる町中のマクドナルドを大学に変えるアートプロジェクト。「教授」はなんらかの理由で故国を離れることになった移民や難民で、参加者は「学生」としてマクドナルドに入店し、ハンバーガーやコーラとともに「教授」のレクチャーを注文して聴講することができる。アフガニスタン、シリア、ガーナ、エリトリアなどからやってきた「教授」らによるレクチャーは、自らの経験・知恵・思考が濃縮され、建築・哲学・ジャーナリズム・音楽・スポーツ科学・リスクマネジメントなどバラエティに富んでいる。鳥取県立博物館での企画展〈ラーニング/シェアリング ―共有から未来は開くか?〉では県内在住の3人の「教授」による新しいレクチャーが加わる。
マクドナルドラジオ大学 @鳥取 Informationページ https://www.mru.global/information/


令和5年度鳥取県立博物館企画展 ミュージアムとの創造的対話04
ラーニング/シェアリング ― 共有から未来は開くか?

https://www.pref.tottori.lg.jp/cd04/

会期|令和5年11月26日(日)-12月28日(木)
   休館日:12月11日(月)
   開館時間:午前9時-午後5時(入館は閉館の30分前まで)

会場|鳥取県立博物館(第1・第2特別展示室および中庭)
   鳥取県内のマクドナルド ※高山明作品のみ各店舗の営業時間内に体験できます。

観覧料
【当日】一般/700円(大学生・70歳以上の方・20名様以上の団体/500円)※高校生以下の方、学校教育活動での引率者、障がいのある方・難病患者の方・要介護者等及びその介護者は無料 
【前売り】一般のみ/500円

主な関連イベント
アーティスト・トーク 小沢剛、高山明
  日時:11月26日(日)14時~15時30分
  場所:鳥取県立博物館 講堂
  講師:小沢剛、高山明
  定員:200名
  参加費:無料

高山明による《マクドナルドラジオ大学》イントロダクション
  日時:2023年11月26日(日)午後6時〜6時30分
  ガイド:高山明(Port B)
  会場:マクドナルド鳥取駅南店
  定員:30名(要予約・電話0857-26-8045〈当館美術振興課〉にて受付)
  参加費:無料 ※店舗にてセット商品をお買い上げください

主催|創造的対話展実行委員会(鳥取県立博物館、日本海テレビジョン放送株式会社)

問合せ|鳥取県立博物館
〒680-0011鳥取県鳥取市東町二丁目124 TEL.0857-26-8042 FAX.0857-26-8041(美術振興課 TEL.0857-26-8045)

ライター

梶谷彰男

広島県生まれ、鳥取県育ち。東京大学でまちづくりを学んだ後、鳥取県庁に入庁。認定NPO法人日本NPOセンターに派遣されNPO魂を学び、県内の市民活動の促進や協働の推進に取り組む。青年海外協力隊の制度を活用してジャマイカに派遣され、ノープロブレムな暮らしを満喫して帰国。「おもしろがろう、鳥取」のビジョンを掲げ、人と組織の可能性を開くNPO法人bankup(旧:学生人材バンク)の理事も務める。