来間直樹さん(AIR475代表)
#1 地域にひそむ「おもしろい」を再発見したい

国内外で活躍するアーティストやキュレーターを招き、米子市の街中や郊外を舞台にダイナミックなプロジェクトを実施しているAIR475(エア・ヨナゴ)。代表の来間直樹さんに、アーティスト・イン・レジデンス(滞在制作アートプロジェクト)や2025年に鳥取県倉吉市にオープン予定の鳥取県立美術館についての思いを伺いました。


- AIR475の活動について簡単に教えてください。

来間AIRは「アーティスト・イン・レジデンス」の略称で、アーティストを米子に招いて、米子でしかつくれない作品をつくってもらう、というのが、僕たちの活動です。
「それが一体、何の意味があるのか」と考えたとき、アーティスト的には「その場所じゃないとできない、限定された文脈」の中で作品づくりをする機会を得ることができる。一方で、僕たちの目的は「アーティストに作品を作ってもらう」ということではあるんだけど、必ずしもそれが最終目標ではなくて、アーティストが米子に来て、米子のことを一生懸命理解しようと歩み寄ってくれることが大切だと思っています。
作品を通じて、アーティストが再発見した「僕らが気が付かない米子のおもしろさ」みたいなものを教えてもらえる、というのが、アーティストインレジデンスのひとつのかたちなのかな、と思います。

2022年度のAIR475のアーティスト・三田村光土里さんとAIR475代表・来間直樹さん(中央)(ゲストトーク2022.10.2)
トーク後半にはもう一人の2022年度のAIR475アーティスト・岡田裕子さんも登壇(ゲストトーク2022.10.2)

来間最初に「この活動をやらない?」とお声がけいただいたときには、僕も何のことかさっぱりわかりませんでした。だから、作品をつくってもらうのはいいけど、どれだけ人に見てもらえるか。具体的に描けるようなものが果たして生まれるのかどうか、自分たちも経験がないから見当がつかなくて、わからないままスタートしたんです。だけど、それが良かったのかもしれないな、とも思います。最初からガッチリしちゃうと、自分たちの想像を超えるものってなかなかできないですよね。

AIR475の展示は今回が10回目になりますが、スタンスとしては「10年間で何がやりたいか」みたいな大きいテーマを持って、自分たちで何かをつくっていくようなものではないんです。
毎年いろんなアーティストやキュレーターの方が関わってくださるので、毎年テーマが変わって、毎年アプローチが変わるんですよ。だから、自分たちがまったく体験したことがないようなことを「これ考えて」とか「これやっておいて」とお願いされるわけで、悪い言葉で言えば「振り回される」。(笑)でも、非常に個人的なことなんだけど、自分が振り回されながら、アーティストとものづくりをする体験って、すごくおもしろいんです。
アートを地域に持ってきて展示するだけで終わらずに、そこに混ざって、一緒に作品をつくっていく。
このおもしろさをいろんな人に伝えたいと思っているんだけど、今はまだうまく伝わっていないように感じています。それでも10年やってきて、おもしろいと思っている人はいるようになったし。ごめんなさい、あんまりうまい説明になっていないんだけど……。

- 大丈夫です。熱意がすごく伝わります。

 

〈Art&Breakfast〉は三田村さんによるアートイベント。地域住民と出会いその土地の風土等を知る機会としてきた(2022.8.6)

来間多分、アーティストインレジデンスというのは大昔からあって、「裸の大将」の山下清も、地方を放浪しながらその地で作品をつくって、そうやって爪痕を残しながら活動していた。アーティストは「まれ人」というか、「いろんな土地に行ってものをつくっていく」というところがあるので、アーティストインレジデンスの醍醐味として作家としての根源的な部分もあるのかな、と思います。いろんな場所で作品をつくるというのは、作家の「業(ごう)」というか、何かそんな気がするんです。

僕ら建築家も、自分の住んでいる地域の外で仕事をする時は、その地域のことを一生懸命「読む」。田舎とか、日本全国どこも同じような景色だと思うかもしれないけれど、細かく観察すると意外と違うんですよ。たとえば屋根の作り方が違う、とか。

- 豪雪地帯は傾斜が、とか?

来間:そう、風景がちょっと違う。そこはとてもおもしろいところで、住んでいる人にとっては当たり前だから、気付かないんですよ。

- なるほど。

来間:山陰だったら、赤い石州瓦。あの瓦の風景って、僕らは当たり前だと思っていたけど、外から来る人はすごく特徴的でおもしろいと思うわけです。自然の緑に対して、赤い瓦は「補色」じゃないですか。それが風景の中にあるのは、改めて考えるとすごいことだし、素敵じゃないかなって思います。仕事柄、そういうことには敏感でいるつもりだけど、それでもやっぱり気が付かないところもあって。僕自身、2006年に東京からUターンしてきたので、当時はすごく敏感に地域の違いを感じていたんだけど、だんだん見えなくなってきている気がするんです。

- 見慣れちゃう感じというか。違和感に気付けなくなっちゃう。

来間:そう、それが「日常」になっているから。それは悪いことではないんだけど、やっぱりいろんなことに気付けなくなっているときに、アーティストの方が有益な刺激をくれて、「ああ、そうなんだな」と教わるんです。これが個人的にはすごく楽しくて、このおもしろさをいろんな人に共有したいんです。でも、AIR475の展示は普通の絵画展とはちょっと違うので、「一見とっつきにくい」というところもありますが、まちの魅力を再発見する面白さをみんなで共有したい、という気持ちがあります。

- 今回、岡田さんのギャラリートークを聞いたときにも思ったんですが、「滞在型の展示」というか、作品が成長していく、変わっていく、というところで、「プロセスを楽しむイベントだな」というのはすごく感じました。
アーティストが作品を自由に制作できる最低限の場所だけつくって、あえて遊びをつくるというか、「余地をたくさんつくる」というのがすごくおもしろいと思いました。

米子市美術館にてギャラリートークをするアーティストの岡田裕子さん(2022.8.5)
岡田さんの作品《Qさんちのつくりかた》(2022年、ヴィデオ・スチル)には来間さんも出演

来間:実際のところは、アクシデントがあって間に合わなかったという。(笑) だから申し訳ないんだけど、1日1日でどんどん展示が変わっていく、というね。それを「滞在制作」というかたちにしました。今回の展示は前日の夜遅くまで準備をやっていたし、当日の朝まで作業しているときもありました。でも、それはすごく大事なことだと思います。
「ギリギリまでやり尽くす」というのが本当に大事で、それがないと良いものはできない。僕は建築の仕事を何年もやっているけれど、やっぱり予定調和のようにはいかないです。「おもしろいものはできにくい」という感じがあって、AIR475でつくってきたものというのは、前日までまったく予想もできないことばかり。予定は一応立てるんだけど、その通りには絶対いかないんです。でも、アーティストもキュレーターさんも、そこはまったくひるまない。妥協しないんですね。

- 最後まであきらめないというか、「間に合わないからこれでいいや」じゃなくて、高めていく感じ。

来間ええ、そんな感じです。多分、とっても苦しいと思うんだけど、それもなんとなくわかるので。そこはなんとかしてサポートするというのが、僕たちの在り方としてあったほうがいいんじゃないかと思います。しんどいけど、ちょっとおもしろいというか。

かつて時計店だった「野波屋」を会場に時報を奏でるパフォーマンスを行う三田村さん(2022.9.23)
観客は舞台となっている2階を見上げてパフォーマンスを楽しむ

ー 「場所づくり」という観点から、県立美術館への想いをお聞きしたいです。

来間:美術館設計というのは、建築家が一生に一度はやってみたい、憧れの仕事なんです。自分は多分、そういう機会には恵まれないんだろうな……と思っていましたが、県立美術館のコンセプトを考える「基本構想委員」というのになったんです。
県内外から専門家を呼んで、基本的な構想や予算について話し合いをしたんですが、議会を通さなくちゃいけないので、一般的に世の中の美術館で語られるような、当たり障りのない意見が由々しく並べられました。
だけど、僕がそのときに思ったのは「美術館は地域にとってどういう役割があるのか」ということ。鳥取県には「米子市美術館」と「植田正治記念館」があるけれど、県立美術館ができるのは初めてなので、地域に与える影響はとても大きいと思います。だから、そこはやっぱり「徹底的に議論しなくちゃいけないな」と。

県立美術館におけるもっとも大切なミッションというのは、その地域に住む、鳥取にまつわる作家さんの作品を貯蔵して、次の世代にバトンを渡すことだと思っています。美術館や博物館にはそういう役目があるから、そこは絶対に外せないわけです。
一方で、おもしろい企画展をたくさんやって、全国から人を集められるような場所にしたい、とも個人的に思っています。「全国から人に来てもらう」というのは最終目的ではなくて、県外から人がたくさん来ることで、地元の人が「うちの美術館はすごい!」と誇りに思えることが大事だと思っているんです。だから、もっとも気になるのは「質の良い企画展や展覧会をできるか?」というところですよね。

「野波屋」は大正時代に建てられた長屋。明かり取りの天窓がそのまま残る

来間:たとえば、金沢市の21世紀美術館はすごく人が来ますよね。美術館としてのつくりもとてもユニークだし、「仕組みとしての美術館」としても結構とんがっているんですよ。でも、それはすでに県立美術館があるからできることでもある。21世紀美術館のすぐそばに、重厚な県立美術館があるんです。そこの収蔵品は素晴らしいですよ。特に金沢の工芸、すごいお宝ばかりあって、それを次の世代に伝えていく、というのは非常に重要だと思います。だけど、市立美術館である金沢21世紀美術館は、そういう部分とはあまり関係なく、おもしろい企画をバンバンやっているでしょう。

- 「21世紀美術館」は現代美術寄りですよね。

:そうそう。「現代美術」というと、苦手意識を持っている人が多いかもしれないけど、年に1回ぐらいは県立博物館でも現代美術のおもしろい企画をやっているんですよ。同じぐらいの割合になるとしても、県立美術館でも、何かとんがった企画展をやってほしいと思います。それで全国から人が呼べるようになるかはわからないけど、今回の「AIR475 2022」の展示では、大阪から全国紙の記者の方が取材に来られたんです。何十人単位ではないけれど、米子のすごく寂れた長屋をめがけて、全国から評論家とか新聞記者、アートのプロジェクトを主宰しているような人たちがやってきて、興味を持ってくれている。鳥取県で暮らす人は、そういうところで誇りを持ってほしいと思います。

- 私もずっと鳥取県で暮らしていますが、なんにもないと思っていました。県民性かもしれないけど、結構自虐的になりがちですよね。

来間:そう。どこの地方でも「うちの街には何もない」と思っていたりする。でも、アーティストはそこを拾うんですよ。「なんにもない」なんて思わずに、いろんな発見をしてくれるんです。だから、県立美術館もそういう場になってほしいと思います。美術館の中だけじゃなくて、外の施設とも連携した展覧会をやってほしい。AIR475の活動に絡めて言えば、米子の寂れた商店街でも県立美術館の展覧会ができる、というふうになってほしいです。

時報パフォーマンスでは一般の方にもパフォーマンスの機会を開いている
著者もポエトリーリーディングや独唱で参加した

- 「美術館を起点として、街に人を誘引する」というイメージでしょうか。

来間:もちろん作品の質も大事なんだけど、地元の人にもたくさん来てもらったり、展示を通じて自分の価値観を書き替えられるような体験をしたり、そういうことをやってほしいと思います。

- 「うちの街も捨てたものじゃない」というか……「誇り」というんですかね。

来間:そうですね。それに繋がるような企画展をやってほしいです。それを目指しているのが「加茂川芸術祭(仮称)」なんですけどね。(笑)

- 加茂川芸術祭のお話を聞いて、すぐに瀬戸内国際芸術祭が思い浮かびました。以前、ベネッセミュージアムに行って四国を回ったときに、鳥取と街の雰囲気がすごく似ているな、と思ったんです。コンパクトで雑多だけど、シームレスな感じ。だから、個人的には実現できそうな気がしています。

来間:問題はお金です。もしも県立美術館の予算で実現するとしたら、僕らは実働部隊として動きますよ。(笑)
瀬戸内の離島も、人がどんどんいなくなって、以前は「捨てられた地域」だったでしょう。だけど、そこを起点にアートの動きが始まった。直島では、地域のおじさんが自主的に作品を説明してくれるんです。外からたくさん人がくるので、地域の人がはりきっている。「男木島」という島では、移住者が増えたことで廃校になった小学校が復活していたり、瀬戸内芸術祭をきっかけにそういう動きもあったりするわけです。そこにはもちろん「功罪」というか、良いところも悪いところもあると思うから、米子で同じことができるとは思わないけどね。
山陰ではそういう芸術祭をやったことはないけれど、僕らの先輩はすでにアーティスト・イン・レジデンスやっていたんです。

- えっ!そうなんですか?

来間:それが「彫刻シンポジウム」です。「彫刻ロード」と言うほうがわかりやすいかな。「彫刻で地域を見直してみよう」とか「みんなで盛り上げよう」という感じで、2年に1度、国内外から作家を連れてきて、湊山公園で屋外制作をしていたんです。米子市民が結託して、そういった活動を20年続けていたというのは、とてもすごいことだと思います。

〈つづく〉


※この記事は、令和4年度「県民立美術館」の実現に向けた地域ネットワーク形成支援補助金を活用して作成しました。また、鳥取県立博物館が発行する「鳥取県立美術館ができるまで」を伝えるフリーペーパー『Pass me!』07号(2022年10月発行予定)の取材に併せて2021年8月にインタビューを実施しました。


来間直樹 / Naoki Kuruma
1965年 鳥取県米子市生まれ。1989年 武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。1989年 株式会社菊竹清訓建築設計事務所入所。1995年 有限会社伊藤進建築設計事務所入所。2001年 クルマナオキ建築設計事務所設立(東京)。2006年鳥取県米子市に拠点を移し、米子在住(出身)の建築の専門家らを中心に2003年に設立された「米‌子‌建‌築‌塾‌」塾生となる。2013年より「くらしとアートとコノサキ計画」、さらに2014年・2015年には「鳥取藝住祭」のプロジェクトとして「AIR475」を実施。2016年には、AIR475に中心的に関わっていた塾生5名と団体としての「AIR475」を設立し現在に至る。https://air475.com/


AIR 475 2022 レジデンス成果発表展「ふたつのヨナゴ・ファンタジア」
[第2期]三田村光土里×AIR475
〈この場所に時計を取り戻す ー古い時計の⽂字盤に、まちの記憶が蘇るー〉

⽶⼦の商店街にあるコミュニティ・ラボ・野波屋は、かつて昭和初期より時計・眼鏡の個⼈店を営む「末次⼤陽堂」でした。現在は⼈々が集まる多⽬的スペースとなっています。この古い町屋を舞台に、三⽥村光⼟⾥は《この場所に時計を取り戻す》と題し、建物の奥に残されていた当時の古い時計を復活させ、時を刻む様⼦を空間に投影する映像インスタレーションを展⽰します。同時に、時報としての⾳楽を奏でるアートパフォーマンスを公開します。

会期|2022年9⽉23⽇(⾦・祝)〜 10⽉10⽇(⽉・祝)
   ※⼟・⽇・⽉・祝⽇のみ開館。⽕〜⾦の平⽇は事前予約制。
時間|12:00 〜 18:30
会場|野波屋(⽶⼦市道笑町1-28-1(旧末次太陽堂))
詳細はホームページ https://air475.com/ を参照ください。


ライター

木谷あかり

米子市生まれ、米子市在住のフリーライター。米子高専機械工学科卒。 「コミュニケーション」「情報保障」「ものづくり」に興味があり、聴覚のサポートとして要約筆記に取り組む傍ら、リモート組織のシステム構築をおこなったり、コピーライティングや記事作成をおこなったり、理系と文系のはざまで様々なアウトプットを試みている。「読めば都」な本の虫。育ての親はMicrosoft。座右の銘は「言行一致」。特技は「焼肉のレバーを上手に焼くこと」。好きな言葉は「コンセプト」。