レポート:鳥取夏至祭2022 #3

6月18日と19日、鳥取市の鳥取城跡の久松公園とわらべ館を舞台に、鳥取夏至祭2022が開かれました。コロナ禍の2年間のオンラインを利用した開催を経て、再び県外パフォーマーの来鳥が実現した昨年の夏至祭についてnashinokiが振り返るレポート、続編です(過去のレポートはこちら#1#2


夏至祭の終わった後

鳥取夏至祭(以下、夏至祭)本番の2日間はあっという間に閉じっていったのだが、その後も参加者間でのやりとりは続き、7月1日はオンラインでパフォーマー同士の打ち上げが行われた。皆飲み物や食べ物とともにリラックスして当日の振り返りを楽しんだのだが、ふと一つの話題が出たと思ったら自然に次の話題に移り、会話が一つのまとまりとして流れていくような心地よさがあった。この夜は身体ではなく言葉でのやりとりだったが、これはまるで19日のWSでの即興セッションのようだと思った。あの全身を使ったコミュニケーションの時間を共にしたことで、参加者の間に何か共有するものが生まれていたのかもしれない。

この振り返りには参加していなかったが今回3回目の参加だった井澤大介は、「夜のわらべ館」のツアーの列の後ろで電灯を持ち、会場で来場者の気づかないところを照らしながら動いた。これは井澤が自身の企画する展覧会「深夜の美術展in鳥取」で培った手法で、2022年の参加はパフォーマーとしてではなかったが、そこで独自の表現を行うことができた。これは技術や方法を含めた参加者それぞれのあり方をできるかぎり受けとめ、自由に存在させようとする夏至祭のスタイルによるといえ、井澤によれば、自分のやってきたことは意味があった、パフォーマーではなくとも自分の解釈の仕方でかかわってよいのだと思え、昨年までの参加と異なり後に残るものがちがったという。次の機会には、輪の中にいる自身がクリアに想像できたそうだ。

鳥取城跡即興ツアーのパフォーマンスを撮影しツイートする井澤大介(鳥取)

このレポートの初回でも述べたように、筆者は夏至祭終了後、他の出演者の住む町を訪ねたり、登山したメンバーに遅れて一人で久松山に登ってみたり、辻(たくや)や井澤を含む関係者の何人かに話を聞いりしたのだが、ここでは実行委員の一人である森本みち子のインタビューを紹介したい。2021年までの夏至祭は発案者の木野が運営面も含め引っ張る面が強かったが、2022年は実行委員会として複数人で運営する傾向が強くなった。木野自身も「今年で1ループ終わった印象がある」と語っており、今後の夏至祭を考える上でも、他の中心となったメンバーに夏至祭がどのように映っているのか、聞いてみることが重要だと思った。また前回筆者は夏至祭を通して考えたことを書いたが、夏至祭の全体像は一人の考えには収まりきらないようにも思われ、筆者以外の夏至祭メンバーにこのレポートで登場してもらいたいと思った。

久松山登山口でセッションする森本家(森本みち子、カエデトイツキ)

森本は夏至祭だけでなく、「おととからだであそぼう」のワークショップ(以下、WS)の共同ファシリテーターも通年で務めており(1)、夏至祭との関わりが深いメンバーの一人といえる。もともと鳥取大学で音楽教育を学び、現在は鳥取市内で障がいのある子どもたちのための「フロイデン音楽教室」を開いている。また7年ほど前から「ドラムサークルがらがら☆どん」も運営している。森本が最初に木野のプロジェクトで参加したのは、2019年に開かれた鳥取銀河鉄道祭(以下、銀河鉄道祭)(2)だった。以下、森本から聞いた話を紹介する。

森本みち子さんの話

銀河鉄道祭はなんとしても行きたいと思っていました。芸術性が高いものだけが素晴らしいと言われない世の中になると、もっと楽になるのにと思っていて。銀河鉄道祭に参加して、「生活の中で行われること、農家の味噌づくりでも、すべてのことを『表現』と捉えることから夏至祭はきている」という木野さんの話を聞いて、自分が悶々としていたことを芸術と絡めて言語化していこうとしている人がいるんだと知って、夏至祭に参加しようと思いました。

もともと大学は音楽科教育で入りました。学生時代は授業や人間関係などいろんなことがつらくて、そういうとき障がいのある子どもたちのところに行くと、彼らは「オールオッケー」で受け入れてくれました。なんて楽になれる世界があるんだろうと思い、でも生徒を上手に褒めることも出来ないし、すべての生活の世話まで行うのは無理だと思い、そのことを授業のレポートで書いたら、休みがちな授業だったのになぜか「良」をもらいました。その先生から鳥取の障がい児教育には音楽が必要だから、音楽をやめないでねと言われ、そこから自分や子どもたちにとっての音楽の在り方について考えるようになりました。きちんと尊厳をもって接すれば、たいてい受け入れてくれる。こんなシンプルな世界があるんだと思い、障がい児教育に携わるようになりました。卒業後、学校とは違う場所で、長いスパンで子どもの成長に携わりたいと、友人と二人でフロイデン音楽教室をはじめました。

当時、障がいのある子の音楽教室は全国的にも珍しく、ちょうど音楽療法が話題になっていたのですが、私たちは教育にこだわり、「教室」にしたいと思いました。現在、生徒の中には25年くらい通ってくれている子もいて、15〜20年ずっと同じ曲をやり続けている人もいます。同じ曲でも少しずつ変化はしていて、それは必ずしもよい方の変化ばかりとは言えないときもありますが、変化はその人が生きている証しであり、それ自体が大切な表現なのだと思っています。変化は成長です。ですから、教室では子どもたちの変化を見守り、音楽を通して子どもたちが成長していける場所であったらよいと思っています。

夏至祭のパフォーマンスについて

造形作品は残りやすいけれど、夏至祭の軸となっている即興パフォーマンスは、その場限りで、通常の舞台作品のように作り込まれておらず、自然の動きのようだから受け入れられにくい。でも、音楽そのものは消えるけれど、技術じゃないところを残したいと思っています。音楽教育で一番大事なのは、音楽に触れることによってその人の心が揺れること。怖い音楽を聴いたら、怖いと思うこと。きれいな音楽を聴いたら、「はぁっ」ていう気持ちになること。そうしてその気持ちを表現したいと思ってくれたらうれしいです。

夏至祭の最後のおととからだであそぼうWS(3)、木野さんは、(ファシリテーターは)「最後何もしなくてもいい、(この2日間を一緒に過ごした人たちだから)絶対うまくいくから」と言いました。前半いろいろやりつくした後、空気を変えたいと木野さんが言って、どうするかと思っていたら、マイアミさんの言葉から場面が変わりました。その後の赤田(晃一)さんのサックスに「こういうことかぁ」と思って、でも赤田さんの音から拍子を取ろうと思ったけど取れなくて、ニイ(ユミコ)さんのダンスはキュッ、キュッとしているから取れるかと思ったけれどうまくいかなくて、力技で行こうと思って楽器をジャンベからベースに変えました。後で赤田さんに尋ねたら「そんなのポリリズムだよ」と言われ目からうろこでした。拍子が合わないことは不安でしたが必死になれ、そこが妙に心地よかった。あんな即興セッション、なかなかできない。クラシック音楽のようにひとつにまとまったというわけじゃなかったけど、一つ一つの表現の絡まりが人間臭くてとてもかっこよかった。終了後、皆さんの顔がすっきりしていたのが印象的でした。

私は音楽家を育てたいのではなく、すべての人が表現者なのだから、その表現をまわりの人たちに美しいと思ってもらえるようにすることがしたい。それを自分の身体を通して気づいていけるようになっていってほしいと思っています。それを目指しながら表現者のステージを組んでいくこととかですかね。そうすると、ずいぶん社会は楽になるのではないか。フロイデン音楽教室の目標のひとつは、子どもたちの演奏の美に気づけるお客さんを増やすことです。夏至祭の目指すところも、そのようなところにあるのではないかと思っています。

表現の美しさに気づける人を増やすこと、演じる側ではなくそれを受け取る側の方に森本の視線が置かれていることが印象的だった。中心を担ってきた木野だけでなく、また筆者自身の印象や考えとも異なり、このような人と一緒に2022年の夏至祭に参加していたのだと、このような人によっても夏至祭は成り立っていたのだと、彼女の話を聞くことで感じた。2023年の夏至祭も、開催に向け準備が進んでいる。今後の夏至祭を、楽しみに思う。

夜のわらべ館でのパフォーマンス。赤丸急上昇(左・愛媛)と辻たくや(右・東京)
おととからだであそぼうW Sの様子。右は高橋智美(鳥取)

(おわり)

 

 

写真:bozzo(2、3、5枚目)
田中良子(上記以外)


(1) 共同ファシリテーターには、他に夏至祭の実行委員でもある荻野ちよや田中悦子らが参加している。
(2)鳥取県総合芸術文化祭(通称「とりアート」)メイン事業として鳥取県内全域を対象とし、2017〜19年の3年間にわたってリサーチとW Sを重ね行われたプロジェクトで、企画の中心を木野が担った。事業の過程は以下で辿ることができる。https://scrapbox.io/gingatetsudou-tottori/
(3)通常WSではファシリテーターが指示や方向づけをする場合が多いが、この夏至祭最後のWSはそのようなファシリテーションが何もないところが特徴で、参加者の多くがパフォーマーのため、互いがカバーしながら誰もが音や動きのきっかけをつくることが可能になっている。

今年も鳥取夏至祭が開催されます!

鳥取夏至祭2023「こどもの国探検ツアー(周遊型パフォーマンス)」
日時|2023年6月25日(日)13時から
会場|チュウブ鳥取砂丘こどもの国(鳥取市浜坂1157-1)
集合場所|(入場ゲートを通過後)こども広場
料金|無料(ただしこどもの国入館料【大人(高校生以上)500円、中学生200円、小学生以下無料】は必要です)
定員|40名程度(現在はキャンセル待ち受付中)
参加アーティスト|赤田晃一、大脇家(大脇理智、イフクキョウコ、大脇凡)、クロミツ、たまがわとしお、辻たくや、トーマ、ニイユミコ、ヒジカタハルミ、富士栄秀也、bozzo、三浦あさ子、moon sisters(鈴村咲月、鈴村美月)、Yasusi、吉福敦子、井上梓、イワミノフ・アナミール・アゾースキー、荻野ちよ、カエデトイツキ(森本楓、森本斎生)、岸本みゆう、きのさいこ、櫻井重久、nashinoki、田中悦子、田中哲哉、信清栄月、中村友紀、Puppis、machi、森本みち子、ヤオジャオドン、イケウチリリー、ゲバラ、菊川朝子と泰然、つん、李林海、きょん
詳細・予約|https://tottori-geshisai.jimdosite.com

お問い合わせ先|鳥取夏至祭実行委員会


ライター

nashinoki

1983年、鳥取市河原町出身。鳥取、京都、水俣といった複数の土地を行き来しながら、他者や風景とのかかわりの中で、時にその表面の奥にのぞく哲学的なモチーフに惹かれ、言葉にすることで考えている。