
「まちの本屋をめぐる旅 in 鳥取」
座談会「いつかまちの本屋をやりたかった人と、思いがけずまちの本屋をはじめた人」
「NPO法人 本の学校」主催の座談会、「いつかまちの本屋をやりたかった人と、思いがけずまちの本屋をはじめた人」が鳥取市のマーチング・ビルで開かれました。登壇したのは「NPO法人 本の学校」顧問の永井伸和さんと、書店「SHEEPSHEEP BOOKS」を営む髙木善祥さんです。コーディネーターの鳥取県立図書館、高橋真太郎さんの進行で、まちの本屋と本のある暮らしについて考えました。
座談会のタイトルにある「いつかまちの本屋をやりたかった人」とは、鳥取で本とまちづくりの活動をライフワークとしてきた「NPO法人 本の学校」顧問の永井伸和さんのこと。そして「思いがけずまちの本屋をはじめた人」とは、2024年5月、旧定有堂書店の2階に「SHEEPSHEEP BOOKS」をオープンした髙木善祥さんのことです。会場には、鳥取県内外から定員を超える40名ほどが参加。座談会の前半は、永井さん、高木さんの思いの本質をコーディネーターの高橋真太郎さんが引き出し、後半は「まちの本屋」について参加者と意見を交わしました。

最初に登壇したのは、鳥取でまちづくりと本に関する活動を続けている永井伸和さんです。1972年に「麦垣児童文庫」を開き、1975年には「とっとり子ども図書館」をオープン。子ども文庫や本に関わる人たちとゆるやかなつながり築くことで、1987年に手作りの模擬図書館「本の国体」を開催。この取り組みに当時の県民の1割が参加し、公立図書館の設置へと展開していきました。1995年には後にNPO化する「本の学校」を米子市に開設するなど、現在も地域発の本の文化を形成することに尽力しています。
書店の建物やイベントは、時代とともに無くなっていくかもしれません。しかし、一人一人の内発的な動機を大事につながることで、精神は消えることなく時間をかけて形になっていくと永井さんは語ります。穏やかな口調から、やらねばならないという情念や行動を継続する強さ、そして本や地域づくりへの思いはこれからも受け継がれていくだろうという確信を感じました。

続いて登壇したのは2024年5月、鳥取市の旧定有堂書店2階に「SHEEPSHEEP BOOKS」をオープンした髙木善祥さんです。このまちで売れている本の特徴や、古書の買い取りで今まで見たことのないような出版物に出会う驚き、「短歌と落語の会」「お気に入りのTシャツを自慢する会」といったまちの人が集う場を提供していることなどを説明。本はひとりで読むものであるいう前提のもとで、人は本の中や本屋で誰かと出会うことがあるのだと考え活動していると話します。大型書店での勤務経験を通して得た本への造詣と人脈、暮らしの中で深めてきた音楽や韓国文化への興味が、「SHEEPSHEEP BOOKS」として結実していることが伝わってきました。
コーディネーターの高橋真太郎さんは、相反する存在だと思われがちな書店と図書館が、鳥取では協力体制を保ちながら本の文化を形成してきたことに言及しました。またご自身の高校生の息子さんが、読みたいと思い立った本を探すために「SHEEPSHEEP BOOKS」に足を運んだ際のお話からは、まちに書店があることの価値や温かさが伝わってきました。息子さんは目当ての本を購入し、同時に店内の「ペイフォワード文庫」の中に、関心を持つ本を見つけ喜んでいたと言います。
「ペイフォワード文庫」とは、大人が子どもに本を送る取り組みで、事前に大人が購入し店内に並べた本の中から、中学生、高校生は読みたい本を受け取ることができます。「想定していたよりも中高生の来店が少ないので工夫していきたい」と高木さん。まちの書店の次世代に果たす役割に、参加者が思いを馳せるきっかけになりました。

座談会の後半は、参加者を交え「まちの本屋」について考えを伝え合いました。会場には、鳥取市内の老舗書店で半世紀以上にわたり教科書販売を担う方の姿も。永井さんはその方の仕事を「本当に尊い」と表現し、高木さんなど本の文化を受け継ぐ人の存在をありがたく感じているとも話します。
そして、図書館司書の経験を活かし児童書のお店を開いた方、絵本を軽自動車に積み込んで移動販売する方、市街地に本のあるスペースを作った方、境港市に書店をオープンしようと計画している方、本とまちづくりについて取材を続ける方、図書館に関わる方なども次々と発言し思いとアイデアを共有。座談会が終わっても、すぐに会場を後にすることなく思い思いに情報を交換する時間がしばらく続きました。高木さんが会場に問いかけた「まちに本屋は必要か」というテーマへの答えは、この日会場に集まっている方々の姿によって、自ずと体現されているように思いました。
永井さんは言います。
゛この歳になっても道半ばです。社会は簡単に変わりませんが、ローカルの小さく弱いものの視点から、どういう選択をするかが重要になってきます。医療、福祉、経営者、図書館など各分野のたくさんのプレイヤーが、手をつなぐことで世界は変わっていきます。あなたと私は全く違う存在だと認識した上で、手間ひまをかけて理解し合うのです。現在も哲学を持って本屋を担う人や、まちづくりに関わる人が続いていることに希望を感じます “と。
「まちの本屋をめぐる旅 in 鳥取」
座談会「いつかまちの本屋をやりたかった人と、思いがけずまちの本屋をはじめた人」
日時|2025年1月12日(日)14:00‐17:00
会場|マーチング・ビル(鳥取市栄町627)
主催|NPO法人本の学校
協力|SHEEPSHEEP BOOKS
「まちの本屋をめぐる旅 in 鳥取」は、2025年2月9日に「はまのめPlus+ 本と人をつなぐ場を歩く」と題して、境港市でも開催されます。
「まちの本屋をめぐる旅 in 鳥取」
「はまのめPlus+ 本と人をつなぐ場を歩く」
日時|2025年2月9日(日)10:00-16:00
会場|境港市(まちあるき)
月と六月・canarya coffee・子己庵・caféマルマス ・小僧文庫 ・古と時
主催|NPO法人本の学校
協力|境港地域デザイン研究部「はまのめ」