大谷 純さん(「OOTANI HOUSE」館長)
アートによる癒しと目を見開かせる体験をケアへ

八頭町に開館したOOTANI HOUSE(大谷医院記念交流館)は、現代アートを展示・公開する場であり、人が集い交流する場でもあります。館内には「ルーツホール」と名付けられた展示・制作や講演会に使用できる空間があり、故郷とのつながりを強く感じさせます。「ここに帰ってきたのは、八頭が好きだったからだと思うんです」、そう語る大谷さんのアートや人、地域への想いの源流に迫ります。


医師として、文化の担い手として

―大谷さんは東京にも生活の拠点をかまえて鳥取と行き来しながら幅広く現代アートを見つめておられます。八頭との関わりの原点をお聞かせください。

大谷さん:医師をしていた父の仕事にともなって各地で暮らし、四歳から高校生まで八頭で過ごしました。中学・高校は鳥取市内に通い、進学先に選んだのは岡山大学です。卒業してから内科医として六年ほど勤め、その後東邦大学の心療内科に移りました。大学の医局から出向する形で、三年あまり摂食障害病棟での医療に従事します。このときの経験を元にして執筆したのが、『摂食障害病棟』(作品社)です。

1992年に父は医師を引退し、私が大谷医院を引き継ぐことになります。医療に尽力しながら、毎日新聞に連載を持ち、文化的な活動も行っていました。エッセイ集『癒しの原点―心療内科医の覚書き』(日本評論社)にまとめると、「ものすごく癒されました」と患者さんからの評判も良かったんですよ。

2002年には東京に舞い戻り、大学院の教員と国際機関の顧問、病院の心療内科の内科部長としての診療を並行して行うようになります。想像していた以上に忙しく、身も心もボロボロになってしまって。大谷医院に帰ってきてほしいという話も舞い込み、「ちょっとゆっくりするか」と東京に家を残したまま、2011年に八頭町に帰ってきました。

入り口を入ると、明るい光の射し込む広間が迎えてくれる

―そのころ、鳥取市内にギャラリー「アートスペース ぼっくす」を開かれていたとお聞きしました。

大谷さん:川端通りと智頭街道の交差点に妻がオーナーとしてお店を構え、作家の作品をレンタルして売買する仕組みで運営していました。妻は作家さんから慕われて、うまく関係性を築いていたみたいです。のちにOOTANI HOUSEの設計に携わることになる彫刻家の藤原勇輝さんや、ここでアートのワークショップをしている日本画家の森脇史子さん、イラストレーターの伊吹春香さんなど、地元を拠点に活躍する作家たちとの出会いもありました。今でも親子みたいな関係を続けている藤原さんは、ギャラリースペースを見事に作り込んでくれましたよ。

ケアと地域の文化に現代アートの力をプラスする

―八頭郡の歴史を紐解き「薬草」との関わりを探求するなど、大谷さんの立てる仮説は興味深く、文化やアートへの幅広い好奇心がOOTANI HOUSEに注がれているようです。現在の施設のあり方を構想し始めたのは、いつ頃ですか?

大谷さん:2019年からは関東との行き来を再開し、2024年まで大谷医院の診療も継続しました。休院後も後継者を一生懸命探したんです。しかし法人の後始末をすることになり「ここをどうしようかな」と、よくよく考えました。ちょうどそのタイミングで、近隣の母子生活支援施設に活用いただき、2026年3月に八頭町全体の親子支援のための集会を開催しました。整えた展示スペースには私の現代アートのコレクションを並べ、それがOOTANI HOUSEのお披露目になりました。

以前から母子を対象にしたアートのワークショップを継続していることもあって、月に二回は親子のサポートにこの場所を使用する方向で決まっています。さらに八頭町社会福祉協議会との連携も始まり、最近はランチ会を開きました。今後は、母子生活支援施設と高齢者をケアする社協さんが一緒になって、全世代が集まれるスペースにできないか、定期的に開館できるように発展させていければと相談しています。

―八頭町からほど近い場所にある、乗馬や牧場体験を通して子どもたちを育む「空山ポニー牧場 ハーモニィカレッジ」の活動を、大谷さんは長年にわたって応援されていますね。また医療とアートの両方に造詣が深いため、ケアとアートに親和性が生まれているように感じます。

大谷さん:患者さんと同じ地平に立って診療にあたってきた経験は、大きな強みになっています。そして、八頭を「やさしくなければいられない」と表現したおもしろいフレーズを目にしたとき、シンパシーを覚えました。

町内では公民館や母子生活支援施設、社会福祉協議会などのコミュニティが、がんばって活動しておられます。そこにアートを使った癒しや、アートで世界の見え方を変えるきっかけをプラスすると、ケアや文化活動がレベルアップする可能性があります。例えば、公民館で高齢者向けの百歳体操を行う際に、アートの要素を加えてもらえたらと思っています。地域の文化的な拠点の把握や連携が促進されるように、行政にも働きかけていきたいですね。

加えてこれまで育んできた作家やキュレーター、全国のギャラリストたちとの関係を生かし、ケアにつながるアーティストインレジデンスにOOTANI HOUSEを活用するアイデアも湧いてきています。作家を招聘すれば、その制作や作家自身と出会うことで、地域の人は多くのことに気づかされます。現代アートの肝はやはり、深く考えたり、目を開かれたりすることですから。


大谷純 / OTANI Jun
1954年鳥取県生まれ。岡山大学医学部卒業。医学博士。内科医として勤務後、東邦大学大森病院心療内科で心身医学を学ぶ。武蔵野中央病院内科医長、同病院にて日本初の「摂食障害病棟」を開設する。横浜相原病院心療内科部長、JICA本部メンタル分野顧問医、人間総合科学大学大学院教授、社団大谷医院理事長を経て、現在はOOTANI HOUSE 館長を務める。著書に『摂食障害病棟』(作品社)、『癒しの原点―心療内科医の覚書き』(日本評論社)、『アスカロン、起源の海へ』(作品社)など多数。


大谷医院記念交流館

館長|大谷純
所在地|鳥取県八頭郡八頭町宮谷221-5
利用方法|事前予約制、駐車場あり
お問合せ先|facebook

ライター

トット編集部

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