レポート:即興と間合いが生み出す面白さ。蛇谷さんとラジオを作る

鳥取大学地域学部とトット編集部が新たに立ち上げたWEBサイト「わたし|ワンダーWONDER」。自分だけの不思議・驚き・感動(=WONDER)を掘り下げて、本当の「学び」を深めることを目指しています。オープニングイベントとして、即興でラジオ番組を作るワークショップを企画しました。自分らしいWONDERが生まれる手前には、もやもやした気持ちが存在しているのかもしれません。今回は「もやもや」をテーマにラジオ番組を作ってみます。声のメディアの楽しさにあふれたワークショップの様子を彩戸 えりかさんがレポートします。


2024年3月16日、Y Pub&Hostelを会場に「WONDER WORKSHOP 〜即興!ラジオ番組をつくろう〜」を開催しました。講師は、「うかぶLLC」の蛇谷りえさんです。多くのアートプロジェクトの企画・マネジメントを手掛けている蛇谷さんは、学生時代ビジュアルデザインを学び、ビデオや音声メディアを扱うのも好きだったといいます。

当日は、ラジオに出演する鳥取大学の学生2名とリスナーの社会人4名が参加。4月13日「WONDER MARKET @みふくや」での番組の公開に向けて、収録に挑戦しました。

まずは音でお互いを知る。名前を伝えるより先に

今回のワークショップのスタートは、お互いの名前を知らないまま、ラジオに流す短い音楽、ジングルを即興で作ることからスタート。Y Pub&Hostelの2階の床に座って、それぞれが好きな楽器を選び、音で遊びます。

楽器は、ウクレレ、リコーダー、タンバリン、カリンバ。すぐそばでは洗濯機の音が響いていました。「その音もありかも、いいアクセントになる」と、あえて洗濯機は止めないことに。

ジングル作り

最初に音を出す人を決め、その人に合わせてみんなが好きなタイミングで入っていきます。自分でリズムを刻んでリードしても、周りの人のリズムに合わせてもいい。自分なりに感じたように楽器を鳴らします。そして、ジングルの終わりを担当する人が、タイミングを図って終わらせていきます。

「いいね、いい感じ、自信を持って、とりあえずやってみよう」と励ます蛇谷さんの声に、出会いの緊張感も徐々にほぐれ、全員が安心して音を鳴らします。

最後に残った楽器の音の余韻が消えると、洗濯機の水の音だけが響いていました。参加者からは「水の囁きがやさしい」「綺麗に終わったね」、「思ったよりハードな展開にならなかったね」という感想や、「お互いの音を聞いていると、何となく終わりの感じがわかった」という声も。

相手の名前を知る以前に、言葉では表現できない相手の音や雰囲気を感じることもできました。お互いの音を丁寧に聞いたことで、相手の話を受け止めて自分の言葉を伝える意識が根付き、今回のラジオ番組の方向性を大きく決める要素になりました。

もやもやって何?みんなで考えてラジオの構成を決めよう

ジングルを録音した後は、Y pubのカフェスペースに移動しました。ラジオ番組に出演するのは、今回の講師J(ジェイ)と、大学生のもえちゃん、やまちゃんの3人。まずは最近モヤモヤしたことを共有しました。はじめは、考え込んでいたもえちゃんと、やまちゃんも、「花粉症にもやもやする」「コーヒーをアイスにするかホットにするかにもやもやする」「バイトの面接にもやもやする」など、どんどん言葉にしていきました。

見えてきたのは、もやもやとは「理由がわからないから心に引っかかるもの」だということ。このもやもやをラジオ番組の大きなテーマとして設定し、コーナーを決めていきます。「自分たちを放送作家だと思って、どういうコーナーを作ったら面白くなるかを考えてみよう」とJ(ジェイ)。

もえちゃんと、やまちゃんが出したコーナーのアイデアは、「校則もやもやトーク」鳥取もやもやトーク」「リスナーからお悩みを募集して、3人で答える」「リスナーの周りにいるもやもや人を募集する」など身近にあるWONDERを感じさせるものばかり。

ラジオ構成

J(ジェイ)の「アイデアを全部盛り込んでもいいし、新たなものを入れてもいい。みんなでディスカッションしてコーナーの並びを考えてみよう」という提案で、番組の構成作りに取り掛かりました。

決まった構成は、
 1. オープニング、花粉トーク
 2.最近もやもやしたことについてのトーク
 3.リスナーの投稿「最近もやもやしていること」を読んで、3人で解決法を考える
 4.校則についてのもやもやトーク
 5.リスナーの投稿「あなたの周りにいる、もやもやする人」「教えて!◯◯な理由」を読んでトーク
 6.エンディングトーク、感想やリアルタイムな気持ちを話す

そして番組のタイトルは、出演者3人のイニシャル「JMY」と、収録場所の「Y Pub&Hostel」の店名を入れて「JMYパブラジオ」に決定しました。やまちゃんは、「パブラジと呼んでください」と力を込めます。

番組の大枠が決まると拍手が起こり、「こんな感じのラジオを聞いたことある!」とやまちゃん。「みんなで話し合って決めていくことが、参加型メディアワークショップの醍醐味です」とJ(ジェイ)。これから収録するラジオへの期待と笑顔が広がっていきました。

同時に、リスナーの4人がラジオへの投稿に挑戦しました。お題は、「最近もやもやしていること」「あなたの周りにいる、もやもやする人」「教えて!◯◯な理由。もやもやする理由はわからないけど、こうなんじゃないかなという解釈」の3つです。リスナーは、「即興で書くのは難しい」「瞬発力が求められるな」と呟きながらペンを走らせていました。

「JMYパブラジオ」、スタート

ラジオ番組大学生

もえちゃんの「タイトルコールをお願いします」という一言で、「JMYパブラジオ」の収録がスタート。オープニングで声の自己紹介をした後に「花粉症もやもや」、続いて3人の「最近のもやもや」を話して解決法をお互いにアドバイスしました。

J(ジェイ)のもやもやの一つは、「20歳から30歳までの10年は、長く感じていたけれど、この頃は時間が短くなったように感じる」こと。「コロナの影響で、20代の私たちも、時間がワープしたような感じがある」と、もえちゃん。マスクにもやもやを感じるやまちゃんにも、もえちゃんが冷静に回答しました。そして、もえちゃんの「リュックの中に物が溜まって、どんどん増えていく」というもやもやには、J(ジェイ)が20代だった頃の経験を伝えました。

そしてリスナーからの投稿「最近もやもやしていること」にも、対処法を考え回答します。ラジオネーム、赤色のたまごちゃんは、まち中で盛大に転んでしまった時のリアクションに悩んでもやもやしているそうです。やまちゃんの出した解決策は、「痛い!」とオーバーにリアクションすると誰かが助けに来てくれるというもの。

ほかにもリスナーが投稿した全てのもやもやを取り上げています。即興で解決法を考え出すまでの話の展開や、間合い、個性的な体験談などを、実際にラジオを聞いて味わってみてください。

ラジオMC大学生

続いては「校則についてのもやもや」についてのトーク。

やまちゃん:高校の校則が厳しくて、耳や襟にかからないよう髪を切っていたら、モンチッチみたいになってしまって、もやもやしたな。

J(ジェイ):校則には、前髪が眉毛にかからないようにというルールが。でも私は逆にとても短い前髪にこだわっていて。「これはありなんか?」と悩む先生にもやもやしてた。

もやもやトークを聞いたリスナーもうなずいたり、思わず笑顔になったりしていました。

次は、リスナーから募集した投稿の2つ目「あなたの周りにいる、もやもやする人」を紹介するコーナーです。ラジオネーム、はまぐりさんは、車道の真ん中を歩く人にもやもやしているそう。J(ジェイ)は、車道を歩く人の気持ちが少しわかると話し、やまちゃんともえちゃんを驚かせます。

共感したり、思いもよらない人生観を垣間見たりしながら、投稿を丁寧に読み解く3人。「おもしろい!」「確かに」「素晴らしい」と、声を交わしながらお互いの話を受け止め、温かい場の雰囲気を作り出していました。

リスナーからの投稿コーナー、最後のテーマは「教えて!◯◯な理由」です。ラジオネーム、陳 健二さんの投稿は、炒飯がぱらぱらにならないのは、その人の心が湿っているからというものでした。

「すごい名言!」とやまちゃん。ぱらぱらの炒飯を作れるというもえちゃんは、ラジオを通してからっとした冷静な意見を発信していました。なので、「この名言は正しいかも」とJ(ジェイ)。ポジティブな心をイメージさせる投稿でコーナーを締めくくりました。

出演者とリスナーの経験値が合わさって、想像を超えるラジオ番組に

エンディングトークでの、それぞれの感想を紹介します。

やまちゃん:今日参加したのは、大学の講義でワークショップがあると聞いたことがきっかけ。やってみて感じたのは、今までとは違う視点からラジオの面白さに気づいたということ。もともと、MCやラジオをやりたかったので、みなさんが僕の夢を叶えてくれました。

もえちゃん:ラジオに興味があったので参加してみました。構成を考えるのは大変でしたが、形になっていくのは面白いですね。話すことが苦手だったけど、リスナーの意見を聞いて、話が広がっていくのを感じました。

J(ジェイ):出演者とリスナーの経験値が合わさることで、想像を超えてダイナミックな番組になったと感じていて。やっぱり、ラジオって面白いメディアだなと。制作を体験したみんなのラジオの聞き方も、これまでとは変わると思う。

今回の収録時間は、1時間15分。これを編集することで、ラジオ番組として完成します。録音を担当した野口 明生さんは、「おもしろい、衝撃のデビューだった」と評価。やまちゃん、もえちゃんも継続してラジオを作りたいと意欲的でした。

今回のワークショップでは、参加者が言葉ではなく音で知り合い、エンディングトークで初めてそれぞれの動機を共有しました。即興でのラジオ作りは、最後まで驚きにあふれる時間になりました。

鳥取で暮らす私たちは、周りと特段変わった存在ではないけれど、誰もがきっと特別な何かを持っている。少しの勇気を出して思いを声にしてみたら、隣にいる人たちの声と共鳴して、WONDERなラジオが出来上がりました。

「JMYパブラジオ」を聞いてみると、自分だけの不思議や感動を大切にしていいと感じ、日々見ている景色の中に新たな驚きを発見するきっかけになるはず。番組の公開は2024年4月13日、「WONDER MARKET @みふくや」でみなさんにお届けします!


「WONDER WORKSHOP 〜即興!ラジオ番組をつくろう〜」

日 時|2024年3月16日(土) 10:00-12:30
会 場|Y Pub&Hostel(鳥取市今町2丁目201)

ラジオ番組 公開予定
「WONDER MARKET @みふくや」
日 時|2024年4月13日(土) 11:00-16:00
会 場|みふくや(鳥取市瓦町525)
参加費|入場無料

ライター

彩戸えりか

「ちいさいおうち」での白井明大さんのお話をきっかけに詩の世界に。詩が隣にあることで寂しさが少し和らいだ気がします。トットの記事が誰かにとってささやかな光になることを願いながら。