鳥取で「鳥」の視点を取り入れた展覧会がはじまります
狩野哲郎「既知の地、未知の道」

鳥取市中心市街地にある円形の病院跡・旧横田医院を拠点に、アートに関するさまざまなプログラムを実施しているアートプロジェクト「HOSPITALE」。7月10日(月)~30日(日)まで、アーティストの狩野哲郎さんが滞在制作を行っています。7月29日(土)からはじまる展覧会を前に、展示作業中の会場に伺って、鳥取でのリサーチや今回の作品について聞きました。


旧横田医院(撮影 藤木美里)

鳥取駅からまっすぐに伸びる鳥取市のメインストリート・若桜街道から1本入った通りに、旧横田医院はあります。ひときわ異彩を放つその建物は、知る人ぞ知る鳥取の文化発信拠点。鉄の門をくぐって中に入り、建物の階段を上がっていくと、アーティスト・狩野哲郎さんが展示作業の最後の仕上げに入っていました。「毎日暑いので日中の作業が大変ですが、制作は順調です」と、汗をぬぐいながら話してくれました。山陰・鳥取に来るのは今回の企画が初めてとのこと。今年3月に2週間リサーチで滞在し、7月はその成果発表展のために3週間ほど滞在しています。

小さく区切られた部屋で作品をつくる狩野哲郎さん(撮影 藤木美里)

人間以外の視点をもつ生物として「鳥」に興味がある

美術大学で都市デザインを専攻していた狩野さん。在学中から、老朽化するなどして使われなくなった空間に雑草の種を撒いて成長を見守る作品をつくるなど、もともと与えられていた機能を失いつつある建築の空間の可能性を探るようなインスタレーション作品を発表してきました。近年は植物に影響を与える存在としての「鳥」に着目し、「鳥」の視点を取り入れた作品を数多く制作しています。「考え方はリノベーション。空き家活用を、人だけを対象に考えるのではなく、その他の生物の視点で場所の可能性を探る感じです」と狩野さん。自分ひとりの感性や考え方に拠るのではなく、それ以外の視点を持つ存在として、「鳥」など人間以外の生物に興味があるといいます。

地名の由来「鳥取部」からリサーチをスタート

鳥取でのリサーチの取っ掛かりになったのは、鳥取の地名の由来ともいわれる「鳥取部(ととりべ・とりとりべ)」でした。古事記や日本書紀に登場する、鳥を取る(捕る)ことを仕事にしていたといわれる人たちで、神話に出てくる鳥「鵠(くぐい)」は、白鳥ではないかと考えられています。伝承があったのはどんな場所なのか?現代の白鳥はどうしているのか?という興味を起点に、リサーチが始まりました。

鳥取県鳥獣保護区等位置図(撮影 藤木美里)

鳥取県の鳥獣保護区などが色分けされた地図を入手し、県内をくまなく車で走りまわり、全19市町村をめぐったとか。さらには、長距離移動をやってのける渡り鳥のように、県境を越えて、兵庫・岡山・広島・島根にも足をのばしたというから、驚きです。

鳥取で印象に残った場所を尋ねてみると、「水辺がおもしろかった。多様な地形を有する海岸線や、湖山池や東郷池といった汽水湖など豊かな水辺があり、鳥たちの生態をいろいろ想像できた」と話してくれました。

展示作業はパズルや知恵の輪をやっている感じ

リサーチの成果発表となる展覧会は、旧横田医院の全館を使って行われます。展示は鳥取で得たこととこれまで扱ってきたアイデアや作品をどうやってこの空間にはめ込んでいくかの作業。まるい円形の建物内をぐるぐるまわりながら、各部屋の形状や位置を見て内容を練ってきました。「一つの部屋に取り掛かっては次の部屋に行き、ここでこれをやるから同じものを他の部屋でやってもつまらないと思ってやめたりまた戻してみたりの繰り返し。知恵の輪やパズルをやっている感じでおもしろいです」と、円形の建物内にたくさんの部屋がある旧横田医院のユニークな空間を遊び倒すかのようです。

制作中のオブジェ(撮影 藤木美里)

一番大きな展示室には、旧横田医院の建物内にあったベンチや端材、庭にあった木の切り株などを組んだ台の上に、ガラス・陶器・木材などを組み合わせたオブジェが並びます。コップやドアノブといった既製品と自然の素材が入り混じって作られた小さな「彫刻の森」のようでもあり、鳥たちが遊び、羽を休める環境のようでもあります。

切り株や端材、シカの角などでつくった作品(撮影 藤木美里)

今回の展覧会は、各展示室の窓を開けて作品を公開します。旧横田医院の庭には、イチジク・キンカン・ハーブなど食べられるものを植えているほか、もともと鳥たちが好みそうな草木が植わっていることもあって、キジバトやヒヨドリなどの野鳥が飛んでくるのをよく見かけるそう。窓をすり抜けて建物内に鳥たちが遊びに来てくれたら、どんなに楽しいでしょうか。

その他にも、鳥よりも小さな生物がとまれそうなモビール、鳥たちの知覚に働きかけるキラキラした素材を使ったコラージュの平面作品なども展示されます。展示室をまわっていると、不思議と鳥の目を持ったような感覚になりました。

展覧会初日には、狩野哲郎さんによるギャラリートークもあります。会期中、アーティスト本人から話が聞けるのは、この日だけ。作品と空間をより深く楽しめる貴重な機会を、どうぞお見逃しなく。


HOSPITALE ギャラリープログラム2017
狩野哲郎「既知の地、未知の道 / Known Heimat, Unkown Routes」
日時:2017年7月29日(土)-9月11日(月) 13:00-18:00 ※火・水・木は休館
会場:旧横田医院(鳥取市栄町403)
入場無料

オープニングレセプション
日時:7月29日(土) 16:00-18:00
17:00よりアーティストによるギャラリートーク

<問い合わせ> ホスピテイル事務局(鳥取市瓦町527 ことめや内)
電話:090-9546-9894
メール:hospitale.project@gmail.com
公式ホームページ:http://hospitale-tottori.org/

ライター

濱井丈栄

1979年広島市生まれ。フリーアナウンサー。元NHKキャスター・リポーター・ディレクター。広島・鳥取・東京に勤務し、自ら取材し自分の言葉で伝えることを生業にしてきた。2014年、夫の転勤で再び鳥取へ。同年立ち上がった「鳥取藝住祭」の事務局にたまたま声をかけられたことをきっかけに、アートをいかした地域づくりに関わるようになる。最近の趣味は、さまざまな作家さんのワークショップに行くこと。特にものづくり系が好き。photo:田中良子