遠藤薫さん(美術家)♯2
時間や空間の歪から本当のことが印として立ち現れるよう
鳥取県立美術館の企画展〈CONNEXIONS | コネクションズ ー接続するアーティストたちー〉(会期:2026年2月7日(土)ー3月22日(日))は、音楽や演劇、パフォーマンスなど異なる領域を横断し多様な文化的背景をもつアーティスト7組を紹介する展覧会です。今回の鳥取での展示では、自らの制作方法について詳らかに示す試みとしたいと語る遠藤薫さん。インタビュー2回目では遠藤さんの「夢」あるいは強く働く「勘」のようなもの、工芸への深い関心を紐解きます。
ー これまでの制作ではあまり見せることの無かった部分を、あえて表に出す試みを鳥取で行おうとされています。「大事なことのように思う」と前回お話されましたが、もう少し詳しく聞かせてください(1)。
遠藤:私の制作方法はかなり変わっていると思うんですが、でも多かれ少なかれ、そういう勘みたいなものが強く働くことで作家たちは何かを生み出しているはずだと思うんです。「不二」の関係で役割が変わったり、水流で砂が侵食されてまた陸から流れて来てぐるぐる巡る感じとか。そこにコネクトしていくことが私には合っていると感じています。


遠藤:このスタンプは数年前に小林さんが作られたものですが、ここで出会う兆しというか印みたいなものを受け取ったのだと思います。これ自体に大きな意味はないと思うんです。このお話を聞いてどんなふうに感じますか?
ー 私は地元の米子市でAIR475(エアヨナゴ)というプロジェクトに10年ほど関わっていて、2014年からコロナ前まで断続的に米子でレジデンスした女性アーティストが遠藤さんと同じような力を持っていました。彼女の作品の為のリサーチをしていると、本当に絶妙なタイミングで探している人が見つかり、制作のヒントになるようなものが出てくるなど、不思議な体験でした。ですので、私自身は大きな違和感はありません。これまで言わなかった明確な理由があるのでしょうか。

遠藤:困ってしまう人がいるかもしれないと思ったからです。信用しすぎて依存心が生まれ、偽りを信じる人、嘘をついて詐欺をする人もいる。だから”目に見えないもの”はタブー視される事象なんだと思っています。また、信じない人たちに、私の全てを否定されてしまうかもしれないと思ったからです。今は気にしていません。
特に、山陰地方は、漫画家の水木しげるさんや文学家の小泉八雲さんを輩出した地域ですし、小説家の尾崎翠さんや俳人の尾崎放哉さんの作品も、私の琴線に触れる素晴らしいものばかりです。何より私自身に、鳥取に来てからそういう現象があまりにも多く起こっています。長くいた沖縄でもありましたが、沖縄とはまた少しニュアンスが違う。人口が少ないということは逆に、人以外の有象無象の何かがうごめく余白に満ちているのかもしれません。良いタイミングだったので、この展示で私の制作方法を公にしようと考えたんです。
ー これは私の限られた想像の範囲からですが、自らの意思とは異なるもっと大きな集合知のような存在はあるとして、そういった存在に一方的に導かれていると一見されるかもしれませんが、でもやはり遠藤さんの興味関心がまずベースとなっていて、遠藤さんがご自身に引き寄せて選んでいる気がしながらここまでのお話を聞いています。同じように不思議な力を持って作家活動をされている方は遠藤さん以外にもおられると思うのですが、遠藤さんには遠藤さんの見え方があって、その方たちもその方たちの見え方があるのではないかなと思いました。


遠藤:そうですね、たぶん同時に、私のルーツとか境遇などからの”持ち合わせの知識”でしかその集合知を翻訳できないってこともあると思うんですよね。本当はすべて翻訳できるはずなんですけど、どうしても言語が偏ってしまうというか。例えば、日常でもこの目の前の”コップ”という言葉を知らないとコップかどうか分からず、単なる風景の一部だと思って流してしまう可能性もあると思うんですよね。
沖縄で最初に工芸を学んだという経験は、私がキャッチしていく情報に大きく影響していると思います。民芸運動の根幹には、反帝国主義の運動体として、植民地的な場に追いやられた人たちの手仕事をどう伝えるか、という考え方があると思いますが、そうした隠されていたものというか、無視されてしまう弱さ(転じて強さ)にに反応しちゃうのも、沖縄に身を置いたからだと考えています。
また、自分のルーツが半分は樺太、半分は滋賀のヤマトの人間であることも影響しているのかもしれない。そこから世界を認識していくと、今の翻訳になっちゃうというか。体も時間も足りないから、現実に発露できる質量が限られる。それがおそらく、私の興味関心として出力されているのだと思います。

ー 沖縄の話が出ましたが、沖縄県立芸術大学で沖縄の紅型染(びんがたぞめ)に代表されるような型絵染めをまずは勉強されたと伺いました。そこからどんどん扱う素材やジャンルが広がっていき、かなり大きな視点から工芸全体を捉えようとされているように感じました。
遠藤:そもそも工芸は素材を触ったことがないと、それがどのように作られているか分からないことが多くないですか。だから、作品だけ見ても成り立ちなんてほとんど伝わらない。最初に取り組んだ型絵染めは、ものづくりの工程としては実は最後の方の仕事なんですね。染めるための画材を買っている時点で違和感を持ちました。天然染料が良いとか化学染料が悪いとか、そういうことではなくて、買わないと手に入らないこのプラスチックみたいな顔料は一体何なんだろう?ってただただ気になって、古典紅型では天然顔料を使うわけですから。そして染める布にも疑問が湧くわけです。いいものは高いし、安いものは色もいい加減なものになってしまいます。沖縄で古来から衣服として使われてきた芭蕉布(ばしょうふ)はバナナの木が原材料ですが、じゃあその素材をどうやって手に入れることができるのか。その方法を学ぶにはどうしたらいいのかと、次々に問いが立つのです。

遠藤:芭蕉布は本島のやり方と八重山のやり方では違いがあります。八重山の方が源流だとしたら、さらにその西の台湾や南諸島ではどう作っているのかと、少数民族の村に出掛けては習ってを繰り返してきました。ベトナムには3年ぐらい住んで麻の織物を教わりました。麻の織物は世界基準で規制が入っていて、日本でもGHQ以降は作られていません。大麻布を織る機会はなかなかないので、ベトナムのサパっていう中国国境の村を拠点とする「黒モン族」と一緒に生活しながら織らせてもらいました。 諸説あるようですが「ニライカナイ」は「安南」のことという記述が残っていて、つまりベトナムのことを指します。だから西が表で。それは神様がやってくる方角です。そういう関係性も紐解いていくと一つ一つが重要だと感じます。実は沖縄では芭蕉布の繊維を作るバナナ畑が米軍基地の中に残っているんです。
ー 基地の中だけは時が止まったように戦前の沖縄の姿が残っているのですね。複雑な気持ちになります。
いわゆる資本主義やヤマト化によって沖縄の人でも守り切れない現状があるのですが、そういうところから私はバナナの木を切ってきて、舟(サバニ)の帆を織るなどしてきました。 ガラス作品も作ります。沖縄戦の時に米兵が捨てた1945年製のコーラ瓶などを溶かし整形し直してコップにするんですが、ガラスは何度でも再生できて、ブリコラージュできるのはすごいと感じて作品をつくりました。でもこれが工芸だとはなかなか伝わりにくくて。どうしようかなと思っていたら、美術の方が興味を持ってくださいました。美術に拾われたと思っています。

ー 遠藤さんが鳥取でのリサーチを始めたころから配信をスタートさせたというオンラインラジオ番組「人類出現計画」を、とても興味深く拝聴したのですが、どこかの回で遠藤さんがアコースティックギターで奏でるオープニングの曲の話をされていて、下手なままがいいと話されていたのがとても印象に残っています。整わないこと、不完全さ、破壊…みたいなものをご自身の表現の中ですごく大事にされているのかなと感じます。
遠藤:鳥取に来たことでさらに興味が湧いた大国主神(オオクニノヌシ)は、神話「因幡の白うさぎ」に登場する大黒様ですが、破壊と創造の神としても伝わっている側面があります。つまり「シバ神」ですよね。もともと私はインドで破壊と創造の神とされているシバ神がたびたび夢に現れたりするので、鳥取でも形を変えて大国主として出会えたことが嬉しかったです。
それに「上手い」とは、いったい誰にとっての「上手い」なのかも実際には分からないですよね。私はこういう時間や空間の歪のようなところから本当のことを教えてもらってる気持ちになるので、歪の方が大事だというか。時空が歪んでるところに印みたいなものが見えるので、鳥取はそういう隙間がたぶんすごく多いと思ってます。ギターは下手なだけなんですけど(笑)、書(2)も器もそんなに上手くはなりたくないです。
私の鳥取でのリサーチは今回の展示で終わりではなく、これからも続くと思います。そしてここで発見されたことは鳥取のみで完結するわけではなく、時空を超えていろんな場所やものや人物とも確実に繋がっていくはずです。いつか全てをお見せできるようになればいいなと思っています。目で見れなくても大丈夫、そんな気もします。

〈おわり〉
(1)この記事は2025年11月2日に行ったインタビューに加え、2026年2月14日に企画展〈CONNECTIONS〉の関連イベントとして行われたオンラインラジオ番組「人類出現計画」の公開収録を踏まえて構成しています。
(2)ご実家は書道を家業としており、遠藤さん自身、書家としての活動もされています。
遠藤 薫 / Endo Kaori
1989年大阪府生まれ。2013年沖縄県立芸術大学工芸専攻染織科卒業。2016年志村ふくみ(紬織, 重要無形文化財保持者)主宰アルスシムラ卒業。沖縄や東北をはじめ国内外で、その地に根ざした工芸と歴史、生活と密接な関係にある政治の関係性を紐解き、主に染織技法を用いて、制作発表を続けている。主に雑巾や落下傘、船の帆などを制作し、「使う」ことで布の生と人々の生を自身の身体を用いてパフォーマティブにトレースし、工芸の本質を拡張することを制作の核とする。2025年7月から美術批評家の沢山遼と画家の久木田大地とともに、過去と現在の作品制作で遭遇した超常現象についての記録を残すポッドキャスト番組「人類出現計画 Human Appearance Project」を開始。
https://www.kaori-endo.com/
牛ノ戸焼窯元 / Ushinoto-yaki pottery
牛ノ戸焼は、江戸末期、天保年間に島根県江津市から移り住んだ小林梅五郎が開窯。二代目に引き継がれた明治期に隆盛を極めた。堅牢できめ細かく、緑、黒、白、梅の文様などに特徴を持ち、食卓用品や花瓶など多彩な焼き物が作られている。昭和初期、四代目の頃には鳥取出身の医師、吉田璋也が「民藝」の思想に共鳴し、牛ノ戸焼に伝わる優れた技術と材料を生かした新しい暮らしのスタイルに沿った日用品として、緑と黒の釉薬を半分ずつかけた緑釉黒釉染分皿をデザインした。90年以上経た現在もこの皿の生産は続き、今では鳥取を代表するデザインとして親しまれている。
鳥取市河原町牛戸185
0858-85-0655
鳥取県立美術館 企画展〈CONNEXIONS コネクションズー接続するアーティストたち〉
会期|2026年2月7日(土)ー3月22日(日)
会場|鳥取県立美術館 3F企画展示室、1Fひろま(鳥取県倉吉市駄経寺町2-3-12)
開館時間|9:00-17:00(最終入館16:30)
休館日|月曜日(2/23は開館)、2/24(火)
観覧料|一般:1200 円(950 円)、学生:750 円(600 円)、高校生:500 円(400 円)、小中学生:300 円(240 円)
*( )内は前売料金・20 名以上の団体料金
※未就学児、障がいのある方・難病患者の方・要介護者等及びその介護者は無料
※企画展のチケットでコレクション展もご覧いただけます。
※前売券はオンラインチケットのみの販売です。
主催|CONNEXIONS展実行委員会(鳥取県、鳥取県立美術館パートナーズ、日本海テレビ、TPlat)
公式サイト|https://tottori-moa.jp/exhibition/view/exhibition-04-2/
展覧会チラシ|https://tottori-moa.jp/wp-content/uploads/2025/11/CONNEXIONS_Flyer_web_s.pdf
主な関連イベント|
mamoru「声を挙げ、絶やさない」リスニングと想像力のワークショップ
[日時]3日1日(日) 13:00~16:00
[会場]ホール
[参加方法]事前申込制(空きがある場合は当日受付あり)
学芸員によるギャラリー・トーク
[日時]2026年2月14日(土)、2月28日(土)、3月7日(土)
各回とも14:00~15:00
[会場]3F 企画展示室
[料金]要観覧料
