遠藤 薫さん(美術家)♯1
形だけの倫理や正しさよりも、創作においては重要で根幹とさえ思う
鳥取県立美術館の企画展〈CONNEXIONS | コネクションズ ー接続するアーティストたちー〉(会期:2026年2月7日(土)ー3月22日(日))は、音楽や演劇、パフォーマンスなど異なる領域を横断し多様な文化的背景をもつアーティスト7組を紹介する展覧会です。 参加アーティストのひとり遠藤薫さんは、今回の展覧会に向けて鳥取の土器や古墳、絣の工房などを訪ね、民藝運動に深く関わってきた「牛ノ戸窯」で滞在制作を行いました。インタビュー1回目は牛ノ戸焼六代目の小林孝男さんを交えて、牛ノ戸での制作の様子について伺いました。
ー 本展をきっかけにはじめて鳥取に訪れたと伺いました。鳥取県内各地に足を運び、鳥取市河原町にある「牛ノ戸窯」に至っては、滞在しながら焼き物の制作にも取り組んでいます。今回どのようにプロジェクトを進めているのか伺いたいです(1) 。
遠藤:美術の展覧会において、数年前までは、他者に作品を理解してもらうため理路整然と、”コンセプチュアル”に作品を組み立てないといけないという気持ちが強かったんですが、今は変化しています。というのも実際には私の作品の成り立ちは、対外的な論理が先行するというわけでもないんですね。恐らく、世界のほとんどの作品がそうだと思えるのですが、そして近年はそのことを中心に話し始めました。
2024年の春ごろに本展の担当学芸員である赤井あずみさんから、鳥取で作品を作ってはどうかと連絡をいただいたんですが、その時に既にもう決まっていたんですね、鳥取で私が何を作るべきかが。

ー それは鳥取に足を踏み入れる前にということでしょうか…?
遠藤:はい、鳥取に来る前です。まだなにも知らないのにキーワードが映像で浮かんだり、夢で見たり。今までもそれをなぞっていくように制作する形を取っていて、重要な出来事がどんどんと私の前に立ち現れてきます。あたかも”最初から決まってたように立ち現れる事象をもとに作品を作ってきた”というのが一番しっくりくる説明だなと思っています。
牛ノ戸焼で焼き物を作りたいというのは最初に赤井さんにお伝えしました。牛ノ戸焼について決して詳しく知っていたわけでは無いのですが、実際に訪問してみると、粘土はこの丘の土から採取していて、焼成前であれば何度も再利用ができ、釉薬も生活で出る薪の灰から出来ていました。無理の無い循環があり、これはすごいなと思って。ここで焼き物を制作することは最初から決まっていた感じがしています。 鳥取に来る前からここだ、と思って赤井さんに話していました。 どうして、と聞かれたけれど、理由はわかりません。
ー 牛ノ戸焼の歴史や場所が持つ環境、民芸運動との関わりなど、様々な側面から情報を得たり出会ったり体験した後で、ここでの滞在制作の必要性があると理由づけたくなるところですが、遠藤さんは全く違うということですよね。小林孝男さんは、この依頼をどのように受け止めましたか。

小林:今までうちに来たのは生活を豊かにする器を作りたいっていう人だけで、美術のインスタレーション作品を作りたいという人は初めてですよ。
歴史の話をすると、二百年前くらいにね、初代がいい土が出るというのを聞きつけて、島根県江津市からこの地に移り住んだことが牛ノ戸焼の始まりです。どこの地区でも粘土が出るわけではないんです。川の上流に粘土の元になる安山岩、玄武岩、花崗岩などがあり、それが年月を掛けて風化して川に流されるんです。川っていうのはね、上手にできてるもんで、土の粒子を選別するんですよ。水流によって、大きい粒は外側を通って川下に流れ、インコース側に小さい粒子が堆積していきます。堆積した粒子が焼き物を生み出す粘土になります。何千何万年前の地形はわからないけれども、この辺はそういう川が蛇行していて、粘土ができたってことです。条件が揃わないと粘土はできないんです。
その当時はみんな他(よそ)の土地でしたけど、だんだんだんだん買っていって、だいぶ、粘土層のところがうちのものになったってことです。一度、明治か昭和になってからか、小学校が建つということでこの辺りを強制的に没収されてしまって、百年近く粘土が取れなくなったんですが、小学校が移転したものですから、買い戻して今に至ります。

遠藤:今の土のことで面白いなと思っているのは、掘り出した土からさらに陶器にするための粘土を取り出す「水簸(すいひ)」作業も一つ一つこの場所でされている点です。そもそも分業の多い工芸の世界で、全部一から自分たちでっていうのはなかなか珍しいことなんですよね。
昔からの方法で単に手作りだからということではなく、もう少しメタ視点から私は惹かれています。例えば、鳥取砂丘の砂は海流にさらわれて毎年少しずつ減っていきます。つまり水の働きによって浸食されていく。さっきの小林さんのお話でいうと、川は逆の働きをしています。大きな砂粒が水流によって川下に流されていき、堆積した小さな粒子が粘土となり利用されている。
どっちも同じ水の力なんですが、プラスとマイナスの働きが違う。プラスとマイナスってあってないようなもので、その入れ子状態になっているのもとても面白い。そういう陰と陽が「不二(二つにあらず)」というか、一つにつながっているようにとても強く感じています。 私はこれまでも不二や陰陽に魅力を感じてたんですが、特に二色の、まるで陰陽の染め分けの牛ノ戸焼を見てると、その印象が自分の中で強くなっています。加えて吉田璋也さんの提唱されたこのデザインがすごくモダンに感じるのですが、モダンってなんだろう。
ー 今ここにあるのは、遠藤さんが轆轤で粘土を成形されたものですね。制作は順調ですか。
はい、予定していたよりも早く作業が進んでいます。でも大皿って作るのが難しいんですよ。こんな風に崩れてしまった作品もありまして。まず粘土の中の空気を抜く作業である菊練り(2)がうまくできていないと、気泡が入って後から崩れてしまうんです。(小林さんの菊練りを見ながら)すごく美しいですよね。簡単そうに見えるんですけど。

小林:常に一つ前の作業が大事なんです。一つ前ってことは、その一つ前も、その前も、もうずっと。全ての工程が大切だということです。私たちの仕事では割れたり水漏れしたりしたらだめですから。でも遠藤さんは、ああいう風に壊れた作品でも何か表現したいものがあるわけでしょう。
遠藤:小林さんが「僕が手を出したら遠藤さんの作品じゃなくなっちゃうでしょう」って励ましてくださって。そうじゃないよ、こうだよって横で言ってくださってつくった大皿が一番綺麗です。 表に出ている工芸は、本当にすごい技術で出来上がっている。だけど私は、”私の造形”ではなく、工芸の成り立ちやバックボーンを知ってほしいという気持ちが強いので、さっと出来上がったものだけ見てもらっても、伝えられないんじゃないかなって思っちゃうんです。私は何回やっても歪むし、ばきばきに壊れちゃう。これを全て展示で見せられたら、すごく伝わるものがあるんじゃないかと思っています。できないなりに、工芸の良さや私の好きな部分をどう伝えるかを考えています。
小林:僕は実際に毎日使ってもらって、一生寄り添って人の生活を豊かにするっていうのが良い工芸だと思うんですが、遠藤さんのはインスタレーションですから。それを見て心が豊かになるということですよね。工芸と芸術の違いです。
遠藤:最終的にはどちらも受け手が必要な世界だと思います。私は職人に憧れたけれど、上手く成れなかったなあ、という思いがあります。
なので、私は私の役割を全うしたいと思っています。

遠藤:この壺は手びねり(3) で作っています。モチーフとなっているのは、鳥取市の千代川の河口付近の鳥取城側の秋里という地域で出土した土器です。すみません、ここから変な話をします。
リサーチをしている最中に倉吉博物館で「鳥取県谷畑遺跡出土祭祀遺物」を見たんです。その時にバチバチバチって火花が瞬いたので、びっくりして。何でだろうと思って、目をつむって物を”見よう”としてみたら、「カラスが土器の首に嘴で何かを押し当てている像」が浮かびました。その後、別の場所でとあるお寺に行った時にもう一度同じ映像が出てきまして、目がぐるぐると渦になっているカラスが、やっぱり何かを土器に押し当ててるんです。カラスがいるのは金色の秋の野原のようなところで、山の間から日が昇っていました。その次の日に鳥取県立博物館に行ったら、この土器が本当にあったんです(スマートフォンの写真を見せながら)。土器の首には同心円のスタンプが押されていて、私の映像ではこんな風に見えてたんですよ(手でカラスの頭の形をつくりジェスチャーをしながら)。そのスタンプの同心円の模様は、私が夢で見たカラスの目と同じでした。
白昼夢の土器が、本当に博物館にあった。こういう予知夢は私の日常の3日に一度は起きています。

遠藤:それで今日、この土器を模倣して作れないですかね?って小林さんに相談したら、同じ模様のスタンプを持っているよ、と出してくださったのがこれです。
ー (スタンプを見て)全く同じ模様ですね!?
遠藤:小林さんが数年前に作ったスタンプなんですが、作った理由は特にないそうです。 この一連の話には特に理由や意味はないんです。おそらく、意味なんてない。ただそういうことが私の日常にはいつもあって、これをなぞることでほとんど今まで制作を進めてきました。これまではあまり言わなかったんですが、最近は大事なことのような気がするので最近は言うようにしています。形だけの倫理や正しさよりも、芸術創作においてはすごく重要でこれこそ根幹だ、という気さえしています。

〈#2へ〉
(1)この記事は2025年11月2日に行ったインタビューにもとづき構成しています。
(2)粘土の中に残る空気を抜くことを目的に行われる技法。練っているときに粘土に菊の花びらのような紋様が浮かび上がることから菊練りと呼ばれる。
(3)ろくろを使わず粘土と自分の手だけで形を生み出していく成形方法。
遠藤 薫 / Endo Kaori
1989年大阪府生まれ。2013年沖縄県立芸術大学工芸専攻染織科卒業。2016年志村ふくみ(紬織, 重要無形文化財保持者)主宰アルスシムラ卒業。沖縄や東北をはじめ国内外で、その地に根ざした工芸と歴史、生活と密接な関係にある政治の関係性を紐解き、主に染織技法を用いて、制作発表を続けている。主に雑巾や落下傘、船の帆などを制作し、「使う」ことで布の生と人々の生を自身の身体を用いてパフォーマティブにトレースし、工芸の本質を拡張することを制作の核とする。2025年7月から美術批評家の沢山遼と画家の久木田大地とともに、過去と現在の作品制作で遭遇した超常現象についての記録を残すポッドキャスト番組「人類出現計画 Human Appearance Project」を開始。
https://www.kaori-endo.com/
牛ノ戸焼窯元 / Ushinoto-yaki pottery
牛ノ戸焼は、江戸末期、天保年間に島根県江津市から移り住んだ小林梅五郎が開窯。二代目に引き継がれた明治期に隆盛を極めた。堅牢できめ細かく、緑、黒、白、梅の文様などに特徴を持ち、食卓用品や花瓶など多彩な焼き物が作られている。昭和初期、四代目の頃には鳥取出身の医師、吉田璋也が「民藝」の思想に共鳴し、牛ノ戸焼に伝わる優れた技術と材料を生かした新しい暮らしのスタイルに沿った日用品として、緑と黒の釉薬を半分ずつかけた緑釉黒釉染分皿をデザインした。90年以上経た現在もこの皿の生産は続き、今では鳥取を代表するデザインとして親しまれている。
680-1225 鳥取市河原町牛戸185
0858-85-0655
鳥取県立美術館 企画展〈CONNEXIONS コネクションズー接続するアーティストたち〉
会期|2026年2月7日(土)ー3月22日(日)
会場|鳥取県立美術館 3F企画展示室、1Fひろま(鳥取県倉吉市駄経寺町2-3-12)
開館時間|9:00-17:00(最終入館16:30)
休館日|月曜日(2/23は開館)、2/24(火)
観覧料|一般:1200 円(950 円)、学生:750 円(600 円)、高校生:500 円(400 円)、小中学生:300 円(240 円)
*( )内は前売料金・20 名以上の団体料金
※未就学児、障がいのある方・難病患者の方・要介護者等及びその介護者は無料
※企画展のチケットでコレクション展もご覧いただけます。
※前売券はオンラインチケットのみの販売です。
主催|CONNEXIONS展実行委員会(鳥取県、鳥取県立美術館パートナーズ、日本海テレビ、TPlat)
公式サイト|https://tottori-moa.jp/exhibition/view/exhibition-04-2/
展覧会チラシ|https://tottori-moa.jp/wp-content/uploads/2025/11/CONNEXIONS_Flyer_web_s.pdf
主な関連イベント|
mamoru「声を挙げ、絶やさない」リスニングと想像力のワークショップ
[日時]3日1日(日) 13:00~16:00
[会場]ホール
[参加方法]事前申込制(空きがある場合は当日受付あり)
学芸員によるギャラリー・トーク
[日時]2026年2月14日(土)、2月28日(土)、3月7日(土)
各回とも14:00~15:00
[会場]3F 企画展示室
[料金]要観覧料
