トットツアーvol.8
鳥取:因州和紙で広がる写真の世界

2024年12月21日(土)、鳥取市にある五臓圓ビルを舞台にトットツアーを開催しました。因州和紙を用いて作品を作り出す写真家の水本俊也さんと、「五臓円茶房いとま」を営む中村 彩さんのガイドで、地域に受け継がれる伝統と写真の世界を味わいました。アーティスト・イン・レジデンスで鳥取を訪れていた現代美術家の八幡亜樹さんが、当日の様子をレポートします


水本さんと最初にお会いしたのは、2024年12月中頃、八頭町にある「あーとふる八頭」の展示室でした。私は八頭町主催で始まったアーティストインレジデンスのために八頭町に滞在中で、水本さんは、「鳥取R29フォトキャラバン2024展示会」の準備をされているところでした。鳥取R29フォトキャラバンは2024年で10年を迎えたとのことで、八頭町ご出身の水本さんの、地元へのコミットメントの強さを知りました。
実はお会いする数日前までは、同じ展示室で、「月刊たくさんのふしぎ」で水本さんが鳥取砂丘の風景を撮影した写真展が開催されていて、砂丘の向こうの漁り火や、夜の星空の写真が印象に残っていました。
とてもオープンマインドな水本さんなので、この対面時に本ツアーにお誘いくださり、会場の五臓圓ビルもとても素敵な場所だと力説されました。

八頭町のレジデンスの直前まで、青森にある国際芸術センター青森というところでもレジデンスをしていたのですが、ちょうど一緒に滞在していた浅野友理子さんというアーティストが、絵画の支持体として「因州和紙」を使用しているという話を聞いていて、作品の強度とともに、それを支える和紙の力強さも目の当たりにしていたところでした。水本さんや友人のアーティストが信頼をおく因州和紙の魅力を知れる機会にワクワクしながら、滞在期間中、最初で最後となった(!)鳥取市街地の訪問をしました。

浅野友理子《ひそやかな交易》(2024)、国際芸術センター青森

水本さんの和紙ワークショップは、先述の五臓圓ビルで開催されました。趣のある建物で、鳥取大火や地震の後にも焼け残り、復興の象徴となっていたという話を聞きました。ワークショップの冒頭は、水本さんによる参加者の方たちの紹介から始まりました。参加者の方には、能登の写真家の方や、八頭町でゲストハウスを営む方など、いろんな背景の方が参加されていて、その方々との出会いも非常に貴重なものとなりました。八頭町のゲストハウス「くるくる」には、水本さんの写真を印刷した和紙による、ふすま型の作品があるという話があり、写真×和紙の可能性に早くもハッとさせられました。

自己紹介のあとは、水本さんや参加者の方の写真を和紙に印刷した作品の紹介や、写真印刷が可能な和紙商品の紹介がありました。水本さんは、これまでにも和紙×写真のWSを何度も開催されているそうで、その中で、和紙に印刷することを目的に参加者から写真を募集すると、不思議と芸術作品からは程遠いような、家族写真など「身近で大切な存在の写真」が多く提出されることを話されました。その理由を、「和紙は“特別な紙”であり、工業的に量産されている紙媒体よりも、“特別なものとして残したい”という気持ちが働くからではないか」というような指摘をされており、写真の支持体の特性が人にもたらす心の動きのようなものに気付かされました。和紙がもつ、職人の手作業やその時間の厚みを感じさせる素材の「価値の重さ」が、それを使用する人にも伝わり、和紙との関わり方ができていくのだろうと思いました。

そういった気づきの中で、同じ写真を何種類かの和紙に印刷したサンプルをみんなで鑑賞しながら、「この写真は生成色のこの和紙が合うなあ」などと、感想を交換しながら、和紙×写真の相性に思いを馳せ、和紙に相応しい写真というものがあるということや、それが何によって決まるものなのかを考える興味深い時間を過ごしました。

参加者の写真を見た後は、水本さんの和紙×写真の大判の作品を鑑賞しました。実際に触れたり、透かしてみたり、風に揺らしてみたりと、さまざまな角度から和紙の写真作品を鑑賞しました。とくに印象に残ったのは、冬の鳥取砂丘を舞台に、ダンサーの方が踊る写真でした。和紙特有のざらついた質感と、雪の砂丘の、シンプルながらも、その中にある雪の粒の質感や微細な砂丘の隆起などが和紙にとてもマッチしていました。なぜ雪景色や砂丘が和紙に合うと感じるのかを考えてみると、被写体自体が非常にミニマルで素材還元的な風景であるという点だと思いました。おそらくそのことが、和紙の持つ、白い紙の微細な隆起やざらつきと重なっていて、写真上では白く潰れてしまう結晶や微細な粒子さえも再現可能にするのだろうと思いました。逆に、複雑な風景であるならば、どのような被写体・風景が和紙に馴染んでいくのか。和紙に重なる「必然性」がある被写体や風景について、引き続き考えてみたくなりました。

和紙×写真の世界に、いろんな角度から考えを巡らせた後は、五臓圓ビル内の「茶房いとま」さんで、茶菓子とお茶をいただきながらの小休憩。お茶は鳥取の地元のものを何種類か取り扱っておられ、それぞれのお茶について丁寧な説明を受けた後、銘々に気分に合ったお茶を選んでいただきました。お茶を飲みながら、能登から来ていた写真家の方と、能登の話から芸術の社会的な意義の話まで会話を弾ませ、また、共通の知人がいたことにつながりを感じました。素敵な縁を運んでくださった水本さんに感謝し、人と人が出会うことの豊かさにじんわりとする時間でした。

水本さんにお会いするといつも、因州和紙への情熱と鳥取への郷土愛が溢れているのを感じます。もっとこうしたら、和紙が多くの人の手に届く商品になるのではないか、など、もはや写真の話そっちのけで、因州和紙について熱弁する水本さんの姿に、こちらの和紙への関心や親近感は高まるばかりです。水本さんのご活動からは、写真表現を超えて、故郷のために何かできることを地道にでもしていきたいという粘り強い思いを感じます。このような郷土愛を持った人たちの存在が、その土地の文化を守り残していくのだという事実を目の当たりにした尊い時間でした。


水本俊也 / Mizumoto Shunya
写真家。鳥取県八頭町出身。神奈川県横浜市在住。公益社団法人日本写真家協会会員。キヤノンジュニアフォトグラファーズ講師。船旅や海をテーマに世界100近い国や地域を撮影。8回訪れた南極をはじめ、ツバル、北極圏などの僻地でも撮影を行っている。2013年からは鳥取の豊かな自然を舞台(背景)に、家族の肖像を撮影する「小鳥の家族」を主催。2015年からは「鳥取R29フォトキャラバン」講師を務める。作品制作に因州和紙を使用し、鳥取からの文化発信を積極的に行っている。

水本俊也公式サイト https://waterbook.net/
R29AIR 因州和紙×写真 https://washi-air.studio.site
和紙写真、アートの世界 https://washi-art.studio.site


トットツアーvol.8
鳥取:因州和紙で広がる写真の世界

日時|2024年12月21日(土)13:00-16:30

場所|五臓圓茶房いとま(鳥取市二階町2丁目207五臓圓ビル2階)

写真提供|八幡亜樹(2.3.4.5枚目)

主催|鳥取藝住実行委員会
協力|鳥取R29フォトキャラバン実行委員会
助成|中国5県休眠預金等活用事業2021

 

ライター

八幡亜樹

東京生まれ、北海道育ち。東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修士課程修了。同専攻博士後期課程中退後、滋賀医科大学医学部医学科卒業。フィールド調査や取材に基づく、領域横断的な美術作品の制作を行なう現代美術家。主なメディアは映像+インスタレーション。「(地理的/社会的/心身的な)辺境」の概念を追求し、近年は「手食」や「ロードムービー」に焦点を当てる。2022年より世界の手食文化をオンラインアーカイブするウェブサイト「手食 web」を立ち上げ、主宰・編集。 芸術により、人間の生命力を伸張する方法を思索・探究している。https://yahataaki.asia/