レポート:鳥取夏至祭2021 #2

6月19日から20日にかけて、今年で5回目となる鳥取夏至祭が、鳥取市のわらべ館で行われました。昨年と同じく県外パフォーマーの来鳥が難しい中、今年もオンラインの特性を活かし県外の参加者とつながりつつ、鳥取県内のパフォーマーやスタッフとじっくり時間をかけて作り込まれた2日間となっていました。レポート後編です。


県内外のアーティストによる即興セッション-「お鳥よせとRe:鳥よせ」
夏至祭2日目となる20日午前中には、わらべ館イベントホールで鳥取のアーティストと県外アーティストが出会い、鳥取をテーマに即興でセッションを行う「お鳥よせとRe:鳥よせ」(以下、「お鳥よせ」)が行われた。県内外から27人のアーティストが参加し、県内参加者は基本的にホールでパフォーマンスを行い、県外からの参加者はオンラインで中継。即興の組み合わせは観客によるくじ引きで決められた(2)。このプログラムには、今年も県外からアーティストが来鳥できないため、新型コロナウイルスの流行が収束し、将来的に以前のようなスタイルでの開催が可能となったときのための準備という意味合いもあったという。3人1組となってまずは1人ずつ即興でパフォーマンスを行い、演者が互いについて知った上で、最後に3人での即興のパフォーマンスを行なう。

その中でいくつか印象に残っている場面を紹介しよう。まず鳥取のトーマさん、京都のニイユミコさん、鳥取の森本みち子さんによるセッション。最初の2人はダンス、森本さんはパーカッションで参加した。3人の即興の時間にはニイさんのバランスボールに乗った下半身の映像が映り、何だろうと思っていると、森本さんが砂の流れるような音を出す楽器からアフリカの太鼓のような楽器に変え、小気味よい賑やかな音を出し始める。するとトーマさんが四つ足で獣のようになって、映像に向かって吠え、噛みつこうとする。ニイさんとトーマさんは頭を振り合って、まるで動物を模したアフリカンダンスのようなセッションになった。ニイさんは夏至祭への参加は今年が初めてだったが、小さい時に鳥取砂丘を訪れ、そこで馬に乗った記憶があり、パフォーマンスではその馬の脚と立髪を表現したという。また最後の横浜にいるIvan Timbrellさん、鳥取の村瀬謙介さん、荻野ちよさんのセッションでは、ホールの外から始まった荻野さんのパフォーマンスが、大きな叫び声のような音から始まったことに驚いた。本人に聞いたところ、数年前に鳥取に移住した彼女が初めて鳥取にやってきたとき聞いた風の音だったという。その音は単に心地よいとはいえない、激しさや恐ろしさも感じられるものだった。

ニイさんのパフォーマンスに幼い頃の砂丘の記憶が含まれていたことで、県外で暮らす人にも、「鳥取」が切実なものとして含まれることがあるのだということに気づかされ、荻野さんの風の音には、既存のイメージによらないアーティスト個人の生から発する「鳥取」が描かれ、鳥取という土地を表現することの可能性を感じた。両者の表現には、それぞれの鳥取との「距離」が折り込まれているようにも感じた。それに対し、スクリーンに向かって吠えるというトーマさんの反応には、身体とテクノロジーの境界、あるいは人と人が距離を隔てて会わざるをえない現在の状況を超えていく力や、方向性を示唆されるように感じ、励まされる思いがした。他の組では照明を担当していた田中哲哉さんが演者として参加したり、県内からの参加だが鳥取の街並みや商店街を撮影し、その映像に解説をするパフォーマンスを行なったリアンさんなど、パフォーマンスの枠組み自体を拡張するようなスタイルの多様性も、プログラムの魅力を増し、今後の夏至祭の可能性を感じさせた。

しかしこの「お鳥よせ」で筆者にとって最も印象的だったのは、最後にアーティスト全員がステージに出て観客も誘い、緩やかな即興が始まった時間だった。筆者はセッションに参加することなく客席で見続けたが、それほど広いわけでもないステージに全員が出て、誰かが特に目立つわけでもなく、全員がそこで泳いでいるような印象を受けた。

このとき受けた印象は、ナイトミュージアムの最後のからくり時計の場面で感じたものと似ていた。大階段の上にいるアーティストたちは作り込まれた動きをしているわけではなく、決まったメロディーを奏でているわけでもない。即興のパフォーマンスで、雑多といえば雑多なのだが、それらがうまく共在しているような感じ。通常の舞台公演のように演出家によって綿密に構成された一つの筋書きがあるわけでもなく、舞台と客席もはっきり分けられてもいない。「観客」というアイデンティティすら揺らぎながらも、心地よさを感じる筆者にとって初めての感覚で、これは一体何なのだろうと思っていた。

考えていて気づいたのは、演者たちがそれぞれ踊ったり音を奏でたりする光景が、こちらからは一つの風景のように見えていたことだった。観客と演者は緩やかな区分はありながらも微妙に混在していて、同じ地平に立ちながら、観客は向こうにあるわらべ館のからくり時計と人々を見ていた。ナイトミュージアムでは演者とわらべ館の建物の二つが光景を成り立たせていたが、「お鳥よせ」の最後の場面は、どちらかといえば「ただそこに人がいる」という感覚に近かった。しかし何らかの構築された物語やメッセージを介さず、ただそこに「ある」ものによって心を動かされるという意味では、風景を見たときの感覚と似ているかもしれない。目の前の、こんなにもたくさんの人が、一緒にいられるのだという感覚。それは物理的に同じ空間にいるだけでなく、動きながらもある種の調和を保ち同じ場所にいるということで、各々が目の前の他者の身体に真摯に反応しながら、自身の身体で応じ、そのことの連続によってある種の「輪」が生まれていた。その「風景」に、筆者はなぜかとても幸せな気持ちになっていた。風景は、見る者と距離がありながらも、その者もどこかでその一部になっている。筆者自身も、目の前の人々の輪に、どこかで連なっていると感じられていた。

即興音楽とダンスのワークショップ
実行委員の木野彩子さんによれば、今年の夏至祭は、県外との行き来が難しい分、県内の参加者とのコミュニケーションが厚みを増し、鳥取のパフォーマーやスタッフで継続的に参加してくれる人や、知人に声をかけ誘ったりと自身で動き始める人が増えるものになったという。鳥取夏至祭は、鳥取で暮らす様々な表現者の自由に集える舞台となりつつあるのかもしれない。また今後県外アーティストの来鳥が可能となったとき、県内外のパフォーマーがどのような反応を起こすのかも楽しみに思う。

わらべ館との継続的な関係も大きい。全館あげての夜間開館など、公共施設がこれだけ全面的に、夏至祭のような実験的試みに協力するのは全国的に見ても珍しい事例という。「おととからだであそぼう!即興音楽とダンスのワークショプ」(以下「おとからWS」)において年間を通してわらべ館で実践を行い関係性を作ってきたことや、照明についても研究してきた成果が、今年のナイトミュージアムでは存分に発揮されてきたことがうかがえる。継続的な活動と関係づくりが、街に大きなものを生み出していく(3)

午前中の即興セッションを終え、最後のプログラムは、上述の「おとからWS」が行われた。このワークショップは夏至祭の中心メンバーでもある4人によって開催されており、通常の回はなんらか進行上の指示が組み込まれているのだが、夏至祭の回はアーティストが多く参加し、ファシリテーションがなくても場が進んでいくため、ただ参加者が集まって即興で体を動かす形をとる。

夏至祭のステイトメントには、即興(improvisation)についてこのように記されている。「即興は今、この瞬間を共有する作業です。相手の反応を受けて何かを返す、コミュニケーションの原型でもあります。言葉ではなく身体や音を通じて、何が起こるかわからない環境に身を委ね、信頼する感覚を味わいます」(4)。「お鳥よせ」などでパフォーマーたちが経験し、街に提示してきたこのような作業を、より広く人々と共有しようというのが、この最後のプログラムだ。

筆者もこのワークショップには参加し、周囲で動いている人の動き、近くや遠くで聞こえる音、そういうものに耳を澄ませながら、自分の体が本当に動きたいと感じている方に気持ちを任せた。時には楽器を持ち、音を出し、手を叩く。踊りの輪は、誰かの一つのきっかけを別の誰かが受け取り、それが少しずつ広がって、いつの間にか輪の局面が変わる。この回では一人の男の子とあるダンサーによるきっかけから、踊りの輪がいきなり「だるまさんが転んだ」に変わったことに驚いた。

ナイトミュージアムから即興セッション、そして最後はワークショップと、夏至祭は徐々に構築された枠組みが取り払われ、人と人がただ同じ場所にいるだけの、シンプルな場に戻っていくようだった。そこには手作りで行われる鳥取夏至祭のあり方、夏至祭が価値をおく「人と人との出会いによる即興」という原点があらわれているようにも思えた。「おとからWS」を終え、2日間続いた夏至祭は、眩しい日差しの中、鳥取の空に解けていった気がした。夏至祭のかけらたちは、来年はどんな形に結晶するだろう。そんな余韻が残った。

 <おわり>

写真:田中良子
協力:木野彩子、高橋智美


1.2019年までの夏至祭では、このセッションは参加する県内外のアーティストが本番前夜に出会い、街中でパフォーマンスを作るための準備として行われていた。ここでアーティストは互いの特質を知り、翌日の街中でのパフォーマンスへ向かっていく。くじ引きで相手を決めて即興セッションを行うこの手法は「オービタルリンク」と呼ばれ、三重在住のダンサー、中沢レイさん発案によるものをアレンジして仕様している。
2.ナイトミュージアムの各所で上映された一部映像については、上記の鳥取夏至祭2021のHPで7月末まで視聴することができる。
3. ワークショップは今年度も継続しており、次回は9月12日13時半より行われる(新型コロナウィルスの感染対策のため、わらべ夢広場にて月一回程度開催。雨天時はイベントホールにて)。昨年度の様子については、「おとからWS」のウェブページ(http://www.rs.tottori-u.ac.jp/artculturecenter/artmanagement2020/d/index.html)を参照。
4.このようあり方は、自己を前に押し出していくような「自己表現」とは異なり、周りの人の空気を感じながらそれを受け止め、別の人に受け渡していくもので、個を保ちながら穏やかにつながる現代の人と人とのあり方としても、必要なものではないかと木野さんは考えている。


鳥取夏至祭2021
https://tottori-geshisai.jimdo.com/

お問い合わせ先
鳥取夏至祭実行委員会
geshisai2020@tottori-u.ac.jp


おととからだであそぼう 即興音楽とダンスのワークショプ

日時
|2021年4月25日(日)、5月6日(日)、6月13日(日)、6月20日(日)、7月11日(日)、9月12日(日)、10月3日(日)、11月7日(日)、12月12日(日)※各回単発の内容です。

場所|わらべ夢ひろばまたはわらべ館内(鳥取市西町3-202)

対象|年長児以上(大人も一緒に参加OK)※小学3年生以下は保護者同伴

参加費|無料

定員|各回20名(要予約、受付中)

一緒にあそぶ人|荻野ちよ、田中悦子、森本みち子、きのさいこ

参加方法|わらべ館電話0857-22-7070


ライター

nashinoki

1983年、鳥取市河原町出身。鳥取、京都、水俣といった複数の土地を行き来しながら、他者や風景とのかかわりの中で、時にその表面の奥にのぞく哲学的なモチーフに惹かれ、言葉にすることで考えている。