〈鳥取銀河鉄道祭〉のために
宮沢賢治作「銀河鉄道の夜」
#3 家

鳥取県総合芸術文化祭・とりアート2019 のメイン事業〈鳥取銀河鉄道祭〉。宮沢賢治作「銀河鉄道の夜」の物語をベースにしながらも、鳥取県内の魅力的な人々や動きなどを集め最終的に舞台公演を構成していく試みです。ここでは原作「銀河鉄道の夜」の最終稿(1)を13回にわたって紹介していきます。今回、主人公ジョバンニの家の窓辺は、鳥取市にあるプロジェクトスペース「ことめや」(2)がモチーフです。


三、家

ジョバンニが勢よく帰って来たのは、ある裏町の小さな家でした。その三つならんだ入口の一番左側には空箱に紫いろのケールやアスパラガスが植えてあって小さな二つの窓には日覆いが下りたままになっていました。
「お母さん。いま帰ったよ。工合悪くなかったの。」ジョバンニは靴をぬぎながら云いました。
「ああ、ジョバンニ、お仕事がひどかったろう。今日は涼しくてね。わたしはずうっと工合がいいよ。」
ジョバンニは玄関を上って行きますとジョバンニのお母さんがすぐ入口の室に白い巾を被って寝んでいたのでした。ジョバンニは窓をあけました。
「お母さん。今日は角砂糖を買ってきたよ。牛乳に入れてあげようと思って。」
「ああ、お前さきにおあがり。あたしはまだほしくないんだから。」
「お母さん。姉さんはいつ帰ったの。」
「ああ三時ころ帰ったよ。みんなそこらをしてくれてね。」
「お母さんの牛乳は来ていないんだろうか。」
「来なかったろうかねえ。」
「ぼく行ってとって来よう。」
「あああたしはゆっくりでいいんだからお前さきにおあがり、姉さんがね、トマトで何かこしらえてそこへ置いて行ったよ。」
「ではぼくたべよう。」
ジョバンニは窓のところからトマトの皿をとってパンといっしょにしばらくむしゃむしゃたべました。

「ねえお母さん。ぼくお父さんはきっと間もなく帰ってくると思うよ。」
「あああたしもそう思う。けれどもおまえはどうしてそう思うの。」
「だって今朝の新聞に今年は北の方の漁は大へんよかったと書いてあったよ。」
「ああだけどねえ、お父さんは漁へ出ていないかもしれない。」
「きっと出ているよ。お父さんが監獄へ入るようなそんな悪いことをした筈がないんだ。この前お父さんが持ってきて学校へ寄贈した巨きな蟹の甲らだのとなかいの角だの今だってみんな標本室にあるんだ。六年生なんか授業のとき先生がかわるがわる教室へ持って行くよ。一昨年修学旅行で〔以下数文字分空白〕
「お父さんはこの次はおまえにラッコの上着をもってくるといったねえ。」
「みんながぼくにあうとそれを云うよ。ひやかすように云うんだ。」
「おまえに悪口を云うの。」
「うん、けれどもカムパネルラなんか決して云わない。カムパネルラはみんながそんなことを云うときは気の毒そうにしているよ。」
「あの人はうちのお父さんとはちょうどおまえたちのように小さいときからのお友達だったそうだよ。」
「ああだからお父さんはぼくをつれてカムパネルラのうちへもつれて行ったよ。あのころはよかったなあ。ぼくは学校から帰る途中たびたびカムパネルラのうちに寄った。カムパネルラのうちにはアルコールラムプで走る汽車があったんだ。レールを七つ組み合せると円くなってそれに電柱や信号標もついていて信号標のあかりは汽車が通るときだけ青くなるようになっていたんだ。いつかアルコールがなくなったとき石油をつかったら、罐がすっかり煤けたよ。」
「そうかねえ。」
「いまも毎朝新聞をまわしに行くよ。けれどもいつでも家中まだしぃんとしているからな。」
「早いからねえ。」
「ザウエルという犬がいるよ。しっぽがまるで箒のようだ。ぼくが行くと鼻を鳴らしてついてくるよ。ずうっと町の角までついてくる。もっとついてくることもあるよ。今夜はみんなで烏瓜のあかりを川へながしに行くんだって。きっと犬もついて行くよ。」
「そうだ。今晩は銀河のお祭だねえ。」
「うん。ぼく牛乳をとりながら見てくるよ。」
「ああ行っておいで。川へははいらないでね。」
「ああぼく岸から見るだけなんだ。一時間で行ってくるよ。」
「もっと遊んでおいで。カムパネルラさんと一緒なら心配はないから。」
「ああきっと一緒だよ。お母さん、窓をしめて置こうか。」
「ああ、どうか。もう涼しいからね」
ジョバンニは立って窓をしめお皿やパンの袋を片附けると勢よく靴をはいて
「では一時間半で帰ってくるよ。」と云いながら暗い戸口を出ました。

〈#4ケンタウル祭の夜 へつづく〉

1:「銀河鉄道の夜」は宮沢賢治が1933年に亡くなるまで繰り返し推敲されています。ここでは最終稿と呼ばれる第四次稿を順に紹介していきます。
2:JR鳥取駅から徒歩5分の場所にある旧とめや旅館をつかったオルタナティヴなスペース+活動。鳥取銀河鉄道祭実行委員会が毎週火曜日に開くおしゃべり会「カフェ・ミルキーウェイ」の会場としても使っています。ウェブマガジンtottoにも縁ある場所です。http://cotomeya.weebly.com/


イラスト:鳴海 梓
まだ幼いジョバンニが「あのころはよかったなぁ」とつぶやく姿は読むこちらも切なくなりますね。このシーンの挿絵は鳥取駅徒歩5分の場所に実際にある旧とめや旅館、『ことめや』の窓辺をモデルにしました。元遊郭という風情が今に残る不思議な場所で、本文の窓辺の風景とはちょっと違うかもしれませんが、駅近の割にはあまり知られていない貴重な建物なので、あえて描いてみました。


鳥取銀河鉄道祭
〈鳥取銀河鉄道祭〉は鳥取県総合芸術文化祭・とりアート2019のメイン事業です。宮沢賢治の名作「銀河鉄道の夜」を題材にした音楽劇を県内全域で展開しています。また「すべての人が芸術家である」という賢治の思想に基づき、県内様々な地域での活動や人々の暮らしを星座に見立てた88のトピックスで紹介していきます。これらは終着点である2019年11月2日3日にとりぎん文化会館で開催される鳥取公演 “ゲキジョウ実験!!!「銀河鉄道の夜→」”へと繋がっていきます。
公式HP https://scrapbox.io/gingatetsudou-tottori/
Facebook https://www.facebook.com/Gingatetsudou.Tottori/

門限ズと遊ぼう!〜鳥取銀河鉄道祭スペシャルワークショップ〜
演劇と音楽とダンスの”異ジャンルコラボバンド”・門限ズ(もんげんず)の4人が倉吉で1日限りのワークショップを行います。子どもも大人もみんなで遊べる!はじめてでも一緒にできる!宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』のお話を題材にしながら、みんなで音やからだを使って遊んだり、お芝居をやってみたりします。
日 時|2019年7月20日(土)13:00-16:30
会 場|倉吉未来中心リハーサル室(鳥取県倉吉市駄経寺町212-5)
講 師|門限ズ(遠田誠、倉品淳子、野村誠、吉野さつき)
参加費|無料
タイムテーブル|
13:00-13:45 門限ズと音あそび
14:00-14:45 門限ズとボディワーク
15:00-15:45 門限ズとお芝居
16:00-16:30 門限ズとミニミニ発表会
※プログラムのうち、一部のみの参加も可能です。動きやすい服装でお越しください。

演劇・音楽・ダンス出演者募集中!!!
”ゲキジョウ実験!!!「銀河鉄道の夜→」” は、演劇・音楽・ダンスのジャンルを横断してワークショップをしながら、参加者の人たちとともに作り上げる鳥取発の新しい舞台作品です。みんなで一緒にアイディアを出しながら、既存の“劇場”の枠を超えて誰も見たことのない音楽劇を作っていきます。今回、この公演への演劇・音楽・ダンスの出演者を公募しています。詳細は公式HP内の出演者募集ページでご確認ください。また、5月に行われたダンスワークショップのレポートもサイトにアップしています。
レポート|5月18日、ダンスワークショップその1
レポート|5月19日、ダンスワークショップその2

ワークショップ参加申込・問い合わせ
鳥取銀河鉄道祭実行委員会(担当:木野、野口)
E-mail. gingatetsudou.tottori@gmail.com
Tel. 080-3890-0371(野口)

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