トークセッション

「地域とアートとビジネスと、その先について」

ここにしかないアート&カルチャーの今を追うレビュー。鳥取で日々動き変化する場所や人々の姿を、丁寧に記録し蓄積していきます。つくるって何だろう、くらすって何だろう、について、少しだけ真面目にレポートします。1回目は、3月31日の夜、鳥取県倉吉市で開かれたアーティストとビジネスマンのトークセッションをリポートします。


アートが溶け込んだ空間

トークセッションの会場は、去年12月にオープンしたばかりの鉄板焼店「CHITOSE」(鳥取県倉吉市上井町2-4-6ホテルアーク21内)。黒と白を基調とした洗練された店内では、壁一面に大きく描かれた世界的なスターたちのイラストが際立っていました。

壁には、スターバックスコーヒーを飲むマリリン・モンローが(撮影:里田晴穂)

この作品を手がけたのは、現代美術家・永本冬森(ながもと・ともり)さん。ボールペン1本で描く独特な作風が話題となり、スターバックスや資生堂のほか、歌手の山崎まさよしさん、詩人の谷川俊太郎さんともコラボレーション作品を発表し、近年、注目を集めています。

永本冬森 プロフィール
北海道出身。神奈川県育ち。1999年よりカナダ・トロントを拠点にアーティスト活動を開始。2002年、2003年にはトロントの二大情報誌『NOW』『EYEマガジン』にて年間最優秀アーティスト賞を受賞するなど、これまで18年間に及びカナダ、アメリカを拠点に活躍。2015年より日本での活動をスタートさせ、現在、山陰地方(鳥取県・兵庫県)を拠点に制作活動を行っている。

 

アートプロジェクトとビジネスの共通点

この日は、倉吉市で保険代理店を経営し、『日本一になった田舎の保険営業マン』(カナリア書房、2014年)の著者である、株式会社リアルコーディネート代表取締役の林直樹さんの進行で、「地域とアートとビジネスと、その先について」と題してトークセッションが行われました。会場には40人ほどが集まり、アート好きの方はもちろん、起業家や営業担当者などスーツ姿の人たちの参加も目立ちました。

トークは主に永本さんがこれまで行ってきたプロジェクトについて。何をきっかけに、どう発想して、どうやって人や企業を動かしていったか、その裏側も包み隠さずお話いただきました。

海外で活動をはじめた頃の経験を語る永本冬森さん(撮影:里田晴穂)

2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件を受けて、2002年にカナダ・トロントで立ち上げた「Let’s have a dream!」は、10cm四方のキャンバスの中にさまざまなアーティストたちが夢を表現するというものでした。このプロジェクトには、最終的にTOYOTA、SONY、EPSON、アサヒビールなどの大手企業がスポンサーにつき、「Let’s have a dream!」という言葉の主であるオノ・ヨーコさんにも参加してもらいました。手紙を書き、電話をし、足を運び、断られても簡単にあきらめない不屈の精神がプロジェクトを成功に導きました。

また、2005年に行った「Manhattan Diary」は、現金もカードも持たずバスの往復チケットだけを持って友人のライターと二人でニューヨークに乗り込み、永本さんの絵の腕一本で何日暮らせるかという試みを記録するプロジェクト。ホテルで廊下の絵を描くから宿泊させてほしいと頼み込んだり、レストランで絵と交換でまかないを食べさせてほしいと交渉したり、永本さんの行動力・営業力が発揮されました。

「否定されて当たり前。断られてからがスタートだといつも思ってる」という超ポジティブ思考の永本さん。プロジェクトで支援をお願いする時に絵を見せたことは一度もなく、あくまでもコンセプトや思いを言葉で伝え、相手の頭の中にいかに想像させてあげられるかが重要と言います。

 

固定概念から離れ、新たな価値を創造する

2年前に日本に帰ってきてからは、地域に眠っている資源を外からの目線で発掘し、作品のテーマに据えてきました。鳥取県では、特産の因州和紙を使った作品づくりを続けているほか、2016年度は倉吉市内で行っているアーティスト・イン・レジデンス事業「明倫AIR」に招へいされ、地元では江戸時代からの歴史がある伝統工芸品「倉吉絣」のプロジェクトにも取り組み始めました。地域資源をどう取り上げて発信していったらいいか、今まで地元では触れて来なかった部分に、新たな発想を与えようとしています。

鳥取県にスターバックスが進出する時には、地域に受け入れの姿勢を問うプロジェクトを実施した(撮影:里田晴穂)

何かに取り組む時、まず大切なのは、固定概念から離れてみること。例えば、アーティストがビジネス的な発想をする、ビジネスシーンでアート的な発想をする、アーティストとビジネスマンが一緒にプロジェクトをする。今までと違った方向へ一歩足を進めることが “その先” をつくっていくのかもしれません。鳥取県立美術館の建設が決まり、今後新たなアートシーンが生まれていくであろう倉吉市で、アーティストとビジネスマンの出会いは、まちの風景を変えていく可能性を秘めているように感じました。

ライター

濱井丈栄

1979年広島市生まれ。フリーアナウンサー。元NHKキャスター・リポーター・ディレクター。広島・鳥取・東京に勤務し、自ら取材し自分の言葉で伝えることを生業にしてきた。2014年、夫の転勤で再び鳥取へ。同年立ち上がった「鳥取藝住祭」の事務局にたまたま声をかけられたことをきっかけに、アートをいかした地域づくりに関わるようになる。最近の趣味は、さまざまな作家さんのワークショップに行くこと。特にものづくり系が好き。photo:田中良子