「あなたもファシリテーターに!」
鳥取県立美術館開館に向けた対話型鑑賞実践 #1

2025年春(令和6年度中)に開館が迫る鳥取県立美術館。開館時に来館する小学生に対して作品鑑賞のファシリテーション(案内役)を行うボランティアスタッフを養成するために、「対話型鑑賞」のファシリテーションスキルを学ぶ場づくりや実践を進めています。昨年9月より「対話型鑑賞」を実践しているトットライター蔵多がその様子をお届けします。


年が明け「3年後に鳥取県立美術館が開館するんだ」と考えると時が経つのは早いなと感じてしまう。WEBサイトも出来上がり、県民との対話も進められ、開館に向けて着々と準備が進められているように思う。その中でも、美術を通じた学びを支援する「美術ラーニングセンター機能」を持たせることとし、そこでの鑑賞法の1つとなる「対話型鑑賞」を館内外で実践していることをトット読者の皆さんは、ご存知だろうか。

本レポートでは、昨年9月より「対話型鑑賞」ファシリテーションを実践しているトットライター蔵多(以下、筆者)が鳥取県立博物館美術部門教育普及事業にて昨年実施された活動に参加した様子や考えたことを記していきたいと思う。

「対話型鑑賞」ってなんですか?
まず、本レポートを読んでいただくためには「対話型鑑賞」という言葉について理解していただく必要がある。
「対話型鑑賞」とは、コミュニケーションを通じて鑑賞を深める作品の鑑賞方法。作品を見ながらグループで発見や感想、疑問などを話し合うことで参加者の思考能力、対話能力の向上を目的に実践されているものだ。
現在、日本で普及している「対話型鑑賞」の主な源流は、1980年代にニューヨーク近代美術館(MoMA)で開発された鑑賞教育プログラム「VTC(Visual Thinking Curriculum)」及び、後にVTCの開発者らがさらに研究・発展させた教育プログラム「VTS(Visual Thinking Strategies)」。「VTC/VTS」という言葉や「対話型鑑賞」の第一人者とされる「アメリア・アレナス」も合わせて知っていただけると良いだろう。
この手法は、美術館の教育プログラムとして全国各地の美術館・博物館で実践されていたり、学校教育の授業法などとして活用されている。美術館と学校が連携して実践する「対話型鑑賞」もあり、それぞれの現場で実践されているものだ。また、近年は、美術以外の分野でも能力開発や教育の手法として広まっており、企業の人材育成や医療従事者の教育などにも活用されている。
筆者は、数年前から「対話型鑑賞」に関して興味を持っており鑑賞会に参加した経験や書籍を読んでいた。「ファシリテーターを勉強してみたい」と考え、2021年8月に山口情報芸術センター[YCAM]で開催された「鑑賞ナビゲーターキャンプ2021」に参加し2日間の教育プログラムを通して「対話型鑑賞」の奥深さや難しさを知った。(ちなみに筆者はACOP[ 京都芸術大学アート・コミュニケーション研究センター ]によるレクチャーを受けている)
というのは、「対話型鑑賞」という場が鑑賞者が作品を観た時の感想を重視し、想像力を喚起しながら他者とのコミュニケーションがなされるように進行しなければならないからだ。進行役となるファシリテーターは、作品の解釈や知識を鑑賞者に一方的に提供するような解説を行うことをせず、作品と鑑賞者を繋ぐ役割として、鑑賞者に対して問いかけをし、対話を促進させていくということが主な役目なのだ。ファシリテーションというよりも、作品をガイドするナビゲーターという方が実践している身としては合っているように考えている。
上記の「対話型鑑賞」の知識を持ち合わせた上で、これから綴っていく昨年2021年10〜12月に鳥取県立博物館美術部門教育普及事業にて実施された活動を読んでいただけると幸いだ。

10/30開催|あなたもファシリテーターに!(その1)初めての対話型鑑賞
2021年10月30日(土)に開催されたこのイベントには筆者を含め7名が参加した。講師は鳥取県岩美町で
アートスタジオなたねを開く藤田妙子さん。「+◯++◯な人」でもインタビューが掲載されているのでご存知の方も多いだろう。藤田さんはNPO法人芸術資源開発機構[ARDA(アルダ)]で「対話型鑑賞」の研修を受講しファシリテーションスキルを修得。ご自身が開く教室や非常勤講師先での授業などの教育現場での実践や鳥取県立博物館美術振興課のアウトリーチ活動「コレクション宅配便」とコラボレーションしての実践など、「対話型鑑賞」ファシリテーターとして活動されている。
この日は『初めての対話型鑑賞』と題していることもあり、「対話型鑑賞」についてあまり知らない方を前提とした時間だった。「対話型鑑賞」という言葉はなんとなく知っているが実際に体験をしたことが無いという参加者が大半だ。「対話型鑑賞」に関する簡単な説明を受けた後で、鳥取県立博物館蔵の油彩画2点を「対話型鑑賞」することとなった。

山枡行雄《窓辺》(1943年) の「対話型鑑賞」を進行する藤田さん(撮影:鳥取県立博物館スタッフ)

作品を目の前に、「絵の中でどんなことが起きている?」に始まる藤田さんからの問いかけに誘われて、筆者を始めとする参加者たちは思い思いの言葉を口にしていく。参加者の中には、小中学校の美術教員も多く、作品の色彩や構図に触れるような言葉もあったが、過去に「対話型鑑賞」を体験したことがあるという参加者は作品の印象について触れていく。油彩画2点をそれぞれ30分間「対話型鑑賞」していったのだが、普段の作品鑑賞で1点について、30分も見たり考える機会はあるだろうか。作品数が多い展覧会に行った時は、1分もその作品の前にいないのではないだろうか。「対話型鑑賞」では鑑賞者同士の対話を通して、自分自身の『鑑賞』を見直すような場でもあるのだと考えている。鑑賞者同士の発言を通して、多様な視点を知ることが出来、自分1人では辿り着けなかった深い作品鑑賞がその場に生み出されていく。自分には無かった視点を、発言を通して知ることも楽しいのだ。「対話型鑑賞」の楽しさ・奥深さというのは、そういったところにあるのだと筆者は捉えている。

振り返りシートを見て回る参加者たち(撮影:鳥取県立博物館スタッフ)

「対話型鑑賞」後は、鑑賞した作品に関して振り返りをシートに記述していく。そのシートを見せ合うことで、さらに自分とは違う視点で各自がまとめている=1人では知り得なかった作品の見方がそこにあるのだ、ということを知るきっかけとなった。

《つづく》


次回開催
《スペシャルアートレクチャー》「対話型鑑賞による学びの可能性 -本当に役に立つの?」
https://www.pref.tottori.lg.jp/item/1244660.htm#itemid1244660

アートエデュケーター・アートプランナーとしてご活躍されている 三ツ木 紀英(みつき・のりえ)氏を講師として、美術作品をよく見て、見つけたものや感じたことを対話しながら鑑賞を深めていく「対話型鑑賞」の良さや、その中で発揮される能力などについてお話を伺います。

日 時2022年3月26日(土)14:00-16:00 
    ※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、延期となっていた日程が改めて決定しました。
場 所|鳥取県立博物館 講堂
講 師|三ツ木 紀英 氏(NPO法人 芸術資源開発機構 代表理事・アートエデュケーター・アートプランナー)
対 象|高校生-一般
定 員|250名
参加費|無料
申込み|不要

ライター

蔵多優美

1989年鳥取市生まれ。京都精華大学デザイン学部卒業。IT・Web企業数社、鳥取大学地域学部附属芸術文化センター勤務を経て、デザイン制作やイベント企画運営、アートマネージメントなどを修得。「ことばの再発明」共同企画者。2021年5月より屋号「ノカヌチ」として活動開始。「デザインを軸とした解決屋」を掲げ、企画運営PMやビジュアルデザイン制作を得意領域とし、教育や福祉、アート分野の様々なチームと関わり活動中。学校法人鶏鳴学園非常勤講師。現在は「鑑賞教育」と「対話」について考えるのが主な日々。吉田璋也プロデュースの民藝品を制作していた鍛冶屋の末裔。