「あなたもファシリテーターに!」
鳥取県立美術館開館に向けた対話型鑑賞実践 #2

2025年春(令和6年度中)に開館が迫る鳥取県立美術館。開館時に来館する小学生に対して作品鑑賞のファシリテーション(案内役)を行うボランティアスタッフを養成するために、「対話型鑑賞」のファシリテーションスキルを学ぶ場づくりや実践を進めています。昨年9月より「対話型鑑賞」を実践しているトットライター蔵多がその様子をお届けします。


11/6開催|あなたもファシリテーターに!(その2)対話型鑑賞勉強会
2021年11月6日(土)に開催されたこのイベントは、前回「あなたもファシリテーターに!(その1)」同様に講師は藤田妙子さん。この日は「対話型鑑賞」について学んだことがある人を対象とし、鑑賞法について語り合うことでその方法や考え方についての理解を深めるという内容だった。そのため参加者6名は、筆者と同じく前回に連続して参加している人たちもいれば、新規参加者も何らかの形で学んだり実践している人たちなど。「対話型鑑賞」のファシリテーションについてしっかり理解を深められる意欲を持った体制で進行することとなった。
「対話型鑑賞」の主な源流となる教育プログラム「VTS(Visual Thinking Strategies)」を実践形式で理解するために、ペーパーや付箋を用いた個人ワークや数人のグループに分かれファシリテーションを行う。さらにファシリテーションと「コーチング」を組み合わせて「対話型鑑賞」を実践し、ファシリテーター役が目標達成や成長するために何が必要であるかを参加者同士が伝えあい、ファシリテーションを自分でより良く出来るようになるために行った。
「コーチング」と組み合わせたワークでは、僭越ながら筆者がファシリテーター役を務め、10/30のイベントでも鑑賞した『山枡行雄《窓辺》(1943年)』を用いて「対話型鑑賞」を実施した。

「対話型鑑賞」イメージ図(イラスト:筆者)

筆者はこのイベントに参加する前から「対話型鑑賞」ファシリテーションを実践しており、終了後にメンターも含めた振り返りを行い、進行におけるフィードバック・アドバイスをオンライン上でもらっていた。だが、このように対面での実施や視覚化された形で自身のファシリテーションに関してフィードバックをもらう経験は今回が初めてであった。
鑑賞者役の参加者やスタッフから「ファシリテーションで良かったところ、気になったところ」を伝えていただき、自分自身も振り返りを行い「次のファシリテーションの課題」について発言をしていく。自分自身の考えをしっかり言葉にして伝えたり参加者からフィードバックをいただくことは、とても貴重で、この場にいる全員で「対話型鑑賞」を考えて鍛え上げていこう、という意気込みを感じられるものとなった。
イベント終了後には、講師の藤田さんや鳥取県立博物館美術振興課教育普及担当の皆さん、参加者同士が「対話型鑑賞」の楽しさ、難しさについて意見を交わし合い、それぞれの次に向けての動きを考えていく場となった。


11月下旬〜12月上旬開催|小学生のバス招待事業
鳥取県立博物館では数年前から小学生をバス招待し館内を鑑賞するという事業を実施している。これは、鳥取県立美術館開館後に、県内小学4年生(または3年生)が一度は美術館を訪れ、学び、楽しむことができるようなバス招待事業を予定しており、そのプレ事業として、鳥取県立博物館の企画展を中心に年間数校のバス招待事業を試行しているのだ。
4年目となる今年度からは、鳥取県立博物館が授業連携している大学生ファシリテーターや、一般ファシリテーターが参加し、小学生に対して「対話型鑑賞」を鳥取県立博物館美術振興課教育普及担当&学芸員と共に実施していくという試みが行われた。
一般ファシリテーターは、先述した「あなたもファシリテーターに!」に参加し学んだ方などを指し、筆者を含め4名がボランティアとしてファシリテーターを務めた。

ネームカードに名前を書いて参戦。進行中も子どもたちに「名前を教えて!」と投げかけをした。(撮影:筆者)

筆者は、小学4,5,6年生・計4校を担当。小学生に対しての実施は初めてで自分自身緊張していたし、それぞれの学校で人数のバラつき(5〜12名)や小学校高学年の彼らから意見を引き出すのに苦労し、反省と学びの多い時間となった。「上手くいったかな?」と思うのは1回だけだったので、まだまだだなと感じている。
また、今回の事業は鳥取県立博物館で開催していた企画展『東郷青児と前田寛治、ふたつの道(11/20〜12/26)』を子どもたちに鑑賞してもらうことが前提だったので、10分程度の「対話型鑑賞」を4回繰り返す、というやり方で実践。これまで筆者は、個人での実践などで大人を対象に1つの作品について語り合う「対話型鑑賞」のみを実施していたということもあり、自分がこれまで実践していなかったスタイルでの「対話型鑑賞」を経験し、子どもと大人の発言量の違いや、子どもたちに有効な問いかけ・進行を考えていかないと「対話型鑑賞」ファシリテーターとしてはまだまだだな、と感じ、課題が多い実践となった。
けれども、自分以外のファシリテーターの進行に立ち会う事が出来たことは、とても勉強になった。(大学生達の進行も見たかったのだが、その日は筆者もファシリテーターとして実施しなければならなかったので進行を見ることが出来なかった。また何かの機会で…)教育普及担当&学芸員の皆さんや、一般ファシリテーターとして参加されていた小学校・中学校の先生方による進行のやり方など、様々な実践方法を見ることで、自分のスタイルや今後について考える良い時間だったと言えることは間違いない。

おわりに
筆者は、鳥取県立博物館での勉強会参加や実践以外にも自主練習会、鳥取大学医学部地域医療学講座での医療従事者のアートを用いた教育研究にて「対話型鑑賞」ファシリテーターに挑戦。さらに鑑賞者としてオンライン開催参加を重ねることで「対話型鑑賞」について様々な観点から取り組み、理解を深めている。
取り組む中で感じていることをこの場に綴るとすると『「対話型鑑賞」は一度にして成らず。「対話型鑑賞」=VTC/VTSは「連続のレッスンからなる鑑賞教育プログラム」なので、たくさん取り組むことでさらに奥深さを知るものである』ということだろう。まず自分自身がファシリテーター経験を積み、鑑賞者として「対話型鑑賞」に参加することで鑑賞や対話、問いかけの能力は以前よりも向上していると実感しており、日常生活や仕事面でも活かされているように感じている。また、鳥大医学部地域医療学講座や自主練習会の参加者からは「言語化や観察力が向上した」と振り返りの中でコメントをいただくことが多く、鳥取県立博物館でのバス招待事業では、昨年度に引き続き連続して参加した子どもたちに対して実施した際、「対話型鑑賞」経験の無い子どもたちと比べて、作品をみる時間や意見の出し方が圧倒的に慣れているように感じた。「対話型鑑賞」という手法を知ってもらうには単発実施でも良いのだが、研究や教育において「対話型鑑賞」の真髄や効果を感じるためには、ある程度の連続レッスンを実施していくのが良いであろうと実践を通して身を持って考えているのだ。また、積極的に「対話型鑑賞」に挑戦している理由としては、純粋に楽しいからだ。進行の難しさはもちろんあるのだが、鑑賞者同士の発言を通して、多様な視点を知ることが出来、自分1人では辿り着けなかった深い作品鑑賞がその場に生み出されていく。自分には無かった視点を、発言を通して知ることが何よりも楽しく、それが進行役に積極的に挑戦している一つの理由かもしれない。この他にもいろいろ考えていることがあるのだが、より詳しく知りたい方がいれば、対話型鑑賞ファシリテーター Advent Calendar 2021に寄稿した「地方で実践する対話型鑑賞ー鳥取県在住・ナビゲーター4ヶ月目の覚書ー」というまとめ記事をご覧いただけると幸いだ。
本レポートを読んで「対話型鑑賞」に興味を抱いた人は、2022年3月26日(土)に開催されるスペシャルレクチャーに是非ご参加いただいてはいかがだろうか。NPO法人芸術資源開発機構[ARDA(アルダ)]三ツ木さんが来鳥され、「対話型鑑賞」の良さや、その中で発揮される能力などについてお話いただけるものだという。筆者はACOP[ 京都芸術大学アート・コミュニケーション研究センター ]によるレクチャーを受け、今回の藤田さんによるレクチャーでARDAのやり方を体験している。それぞれの良さを取り入れて、鳥取県で実践する「対話型鑑賞」というものを考えていけると良いなと思うのであった。

《おわり》


次回開催
《スペシャルアートレクチャー》「対話型鑑賞による学びの可能性 -本当に役に立つの?」
https://www.pref.tottori.lg.jp/item/1244660.htm#itemid1244660

アートエデュケーター・アートプランナーとしてご活躍されている 三ツ木 紀英(みつき・のりえ)氏を講師として、美術作品をよく見て、見つけたものや感じたことを対話しながら鑑賞を深めていく「対話型鑑賞」の良さや、その中で発揮される能力などについてお話を伺います。

日 時2022年3月26日(土)14:00-16:00 
    ※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、延期となっていた日程が改めて決定しました。
場 所|鳥取県立博物館 講堂
講 師|三ツ木 紀英 氏(NPO法人 芸術資源開発機構 代表理事・アートエデュケーター・アートプランナー)
対 象|高校生-一般
定 員|250名
参加費|無料
申込み|不要

ライター

蔵多優美

1989年鳥取市生まれ。京都精華大学デザイン学部卒業。IT・Web企業数社、鳥取大学地域学部附属芸術文化センター勤務を経て、デザイン制作やイベント企画運営、アートマネージメントなどを修得。「ことばの再発明」共同企画者。2021年5月より屋号「ノカヌチ」として活動開始。「デザインを軸とした解決屋」を掲げ、企画運営PMやビジュアルデザイン制作を得意領域とし、教育や福祉、アート分野の様々なチームと関わり活動中。学校法人鶏鳴学園非常勤講師。現在は「鑑賞教育」と「対話」について考えるのが主な日々。吉田璋也プロデュースの民藝品を制作していた鍛冶屋の末裔。