〈鳥取銀河鉄道祭〉に向けて
パフォーマンスユニット「門限ズ」メンバー
野村誠と吉野さつきの鳥取旅

鳥取県総合芸術文化祭・とりアート2019 のメイン事業となる〈鳥取銀河鉄道祭〉。2017年から3年をかけてプロジェクトを進めており、「銀河鉄道の夜」の物語をベースに鳥取県内の魅力的な人々や動きなどを集め、最終的に舞台公演を構成していく試みです。一緒に作品を組み立てていくパフォーマンスユニット「門限ズ」のメンバーふたりの鳥取滞在記を、鳥取銀河鉄道祭実行委員会の木野彩子さんがお届けします。


門限ズ」とは、遠田誠(ダンス)+倉品淳子(演劇)+野村誠(音楽)+吉野さつき(マネジメント)によるパフォーマンスユニット。普段は個別のフィールドで活動を展開していますが、ひとたび集まればそれぞれの専門分野を生かして一般の方を巧みに巻き込み、楽しく新しい形態のパフォーマンスを全国各地で生んできました。

メンバーのうち、作曲家・ピアニストの野村誠さんとマネジメントが専門の吉野さつきさんが、先月鳥取に滞在しました。滞在中は複数のイベントをこなしながら、2019年に本番を迎える〈鳥取銀河鉄道祭〉に向けて場所や人をリサーチし、内容の方向付けや課題の洗い出しを行いました。3日間という限られた時間ながらも、様々な鳥取の人と出会ってもらい、話す機会を得たことは大変良かったと思います。

私が〈鳥取銀河鉄道祭〉を発案した理由は、鳥取で行なわれている様々な活動が実は宮沢賢治の思想にぴったりくると思ったから。小さくてもキラリと輝く星のような人たちや彼らが生み出すものをつなぎ星座を作っていくプロセスが〈鳥取銀河鉄道祭〉の重要な要素なんだと、今回改めて思いました。2019年11月まで約1年。みんなで走りましょう。

12月8日(土)1日目 鳥取市
10:00-
この週末はとりアート2018東部地区イベントが開催されており、我々もそのプログラムの一部を任されていました。この朝は前日から滞在している野村さんとともに、同じくイベントに出演予定のコーラスグループ「うたうははごころ」さんの練習を見学。
私が同じく主催する「鳥取夏至祭(注1)のメンバーにもおなじみの、鳥取産オーガニックフードなどを扱う「水越屋」さん。2階はカフェ、5階は貸しスペースになっていて、今回の練習会場として使われていました。「うたうははごころ」は、11月に倉吉で私たちが行った「銀河への旅立ち ~演劇からダンス?ダンスから演劇?~ 門限ズ・エンちゃん&じょほんこワークショップ」に参加してくださった、鳥取出身・東京在住の菊川朝子さん率いるグループ。今回は東京方面から子守役の父親や子供も一緒に、ツアーで鳥取を訪れています。グループには鳥取支部ももちろんいて、大活躍していました。演劇とコーラスの中間どころをどこまでがリアルか脚色かわからないような感じで攻めています。メンバーは全員が母親で、子供達も大暴れ。子育てあるあるがリアルにあらわれるステージになっています。笑わせつつ、ほろりとさせるそんなママさんたち。キャラクターの濃さも只者ではない感じです。

12:00-
鳥取市内のパン屋「森の生活者」さんでベーグルを買い、移動したとりぎん文化会館ではとりアート東部地区イベントがすでに開催中。門限ズのお二人には「インクルーシブダンスグループ・星のいり口」さんのステージを見ていただき、鳥取銀河鉄道祭実行委員長佐分利育代先生にご挨拶。10年以上もインクルーシブダンスの活動を続けており、この地道にコツコツ続けている姿が鳥取らしいと木野は改めて思いました。吉野さんは特に障害者アートなどの調査も行っていて様々な資料をいただきました(吉野さんは前日も、星のいり口と昔から交流があり、一緒に作品も作っている南村千里さんとトークを行っていました。資料は木野が預かっています。興味のある方お声掛けください)。

「インクルーシブダンスグループ・星のいり口」さんのステージ

13:00-
午後からは門限ズも東部地区イベントへの出番。ステージで野村さんのワークショップ「音とリズムで遊ぼう!」。
鍵盤ハーモニカイントロダクション(野村さんの曲。様々な吹き方!があり、鍵盤ハーモニカに詳しくなれます)や音作りの後、みんなで楽器を持って演奏してみました。先述の倉吉のワークショップに参加してくれたキーボードと歌のアーティスト「応援団長」さんが来てくれて、終了後もいろいろお話しました。

15:00-
とりアート通信用の取材を受けた後、鳥取県内の作曲家のコンサート「鳥取産創曲」を鑑賞。木野が籍を置く鳥取大学地域学部附属芸術文化センターの卒業生たちの活動を垣間見ました。

19:40-
同会場にて、吉野さんによる「つなげる、つくる、アートマネジメント講座」。愛知大学教授でもある吉野さんにとりアートのある意味や、自分たちの殻にこもらないで少し打ち破ることで様々な人に出会い、新しい可能性を広げていくことができるというような話を聞きました。どこの地域でも団体の高齢化や、観客が集められないなどの問題を抱えており、それを少し壊してみるきっかけとしてこの鳥取銀河鉄道祭はあるのではないかと私は考えています。
普段結びつかないはずのものを出会わせてみることで得られる発見の例として野村さん、吉野さん、愛知大学学生が関わった「うたう図書館」(愛知県田原市図書館)や遠田誠さんが行っていた「オオタドン」(群馬県太田市美術館・図書館)が挙げられ、田原市図書館の例では中学生、福祉施設、地域の参加者が館内を自由自在に遊び尽くす様子が映像で紹介されていました。
両方とも図書館の事例ということもあり、鳥取県立図書館とも何かできないかなと想像(妄想)してしまいます。

 


12月9日(日)2日目 鳥取
10:00-
朝、HOSPITALE蛇谷りえさんに「8mmフィルム アーカイヴ・プロジェクト(注2)の進捗を報告してもらいました。もともとこのプロジェクトは2016年より東部地区で行っていたものですが、今回は西部地区(大山、米子地区)での収集活動と、東部地区資料の再展示、精査を行い、作品内に取り込んだりしていきます。
昨年の鳥取市立遷喬地区公民館での上映会や、今年の米子市立図書館での上映会を拝見していますが、撮影者の思い出だけではなく、その時代を知る人の思い出や記憶が走馬灯のように蘇るらしく、貴重な証言を聞くことができます。また若い世代にとっても自分の住んでいる町の歴史を改めて知ることができる機会になります。特に昭和40年から50年頃の変化は非常に大きく、門限ズ世代と私の間でもまたさらに若い蛇谷さんやや野口さんらの世代との間にもかなりギャップがあり、驚かされます。
これらの資料は貴重ですが、そのままだと誰も気がつきません。日の目に上げていく作業が必要で(これは私が関わっているダンスアーカイブでも言えることです)全く異なる切り取られ方やつなげ方ができないか、というのが今後の課題です。
この8ミリフィルムの映像を使って門限ズとのワークショップを行いましょうという企画が上がってきているので、2月に是非という話になりました。

12:30-
午後、とりぎん文化会館にてうたうははごころのステージを見学。その後ギャラリー鳥たちのいえで行われていた「スペース・プラン記録展−鳥取の前衛芸術家集団1968-1977−」へ。
スペースプランは1960年代、70年代に活動していた鳥取の前衛芸術集団。当日は当時の中心メンバーを集めての座談会がありました。中学の時の美術の先生とその学生の関係性がつながって砂丘で大規模な展示(!)を行うなどしていたのですが、その後「家族ですら知らない」という状態になっていたものを、私の鳥取大学の同僚である筒井宏樹先生の調査により明らかにしていくというものでした。
鳥取銀河鉄道祭事務局の野口明生さんの義父さんが関わっていることもあり、いろいろ聞いてみると、鳥取の普通に仕事をしている人たちが、かなり自由な芸術活動を行っていた様子が見えてきます。そしてその人たちが様々な縁でつながっている。『スペース』(鳥取のミニコミ誌)もそうですし、先日お会いした松本龍郎さん(メガネのマツモト店主、双眼の天体望遠鏡を開発し天文台も作ってしまう)もそうなのですが、現在70代くらいの世代の人たちは皆「なにもないところからなんでも作ってきた」ある意味文化の最先端を行く人たちだったと思うのです。
東京を中心とした現代美術の主流の流れからは見えていなかったかもしれない、でもその真摯な姿勢がこの鳥取の文化を作ってきたんだろうと思うのでした。
実は準備のため途中で退席してしまいましたが、このタイミングで少しでも聞くことができてよかったと思っています。

16:00-
その鳥たちのいえの隣、遷喬公民館にて野村さんと吉野さんのトークセッション「“みんな”が関わるアートの現場」を開催。スペースプランの2時間のトークの後にはしごでもう2時間お付き合いいただいた方もおり、ありがとうございました。この会では、野村さんが香港のi-dArtと行ったプロジェクトや、野村さん・吉野さんが一緒に行った「うたう図書館」などの企画を紹介。i-dArtのプロジェクトは居住者だけで1000人を超える巨大介護福祉施設での3ヶ月間のレジデンス中に様々なワークショップ、施設内周遊型のパフォーマンスやトラム(路面電車)でのアウトリーチを行った様子をお話していただきました。障害を持つ人を一箇所に集めることでバリアフリーなどに対応できるなど便利とも言えますが、排除していくことにもつながります。いかに施設を開いていくか、またこのような活動を知ってもらうかということを短い期間で考え実行していった様子がわかりました。今回滞在期間中に鳥取の障害者アートに関わる方々に多くお会いしました。このジャンルについては今後も様々な形で紹介していく必要を感じます。



12月10日(月)3日目 鳥取→米子→鳥取
10:00-
あまりに盛りだくさんすぎるこの旅、最終日は米子へ大移動。4月に公演を行う予定の米子市児童文化センターでプラネタリウムを見て、解説員である笹尾庸嵩さんと様々な相談を行いました。このプラネタリウムには4人の解説員がおり、人によって説明の仕方や内容が変わるというのもまた面白かったです。
倉吉ワークショップに来てくれていたとりアート西部地区委員の中村由利子さんや、totto編集長で鳥取銀河鉄道祭実行委員の水田美世さんにもお越しいただき、物語の中に登場する蠍にまつわる実験をちょこっとしました。


16:00-
その後鳥取へと向かう車中で、虹に遭遇。しかも様々な太さ長さだけれど、順番に4本も。こんなに大きく、完全な半円の虹はなかなか見ることはできません。くっきり、はっきり。何か縁起が良さそうな予感がします。

18:00-
吉野さんは翌日授業があるということで鳥取駅へ向かわれ、我々は今回の滞在最後のイベント・野村さんの演奏会「月曜の夜の音楽会」のために会場であるtottoriカルマへ向かいました。
先日コールおもかげ(鳥取の女声合唱団)さんから頂いたお菓子と銀河鉄道ブレンドハーブティをご用意しました。銀河鉄道ブレンドは津山の香草工房さんが今回のために用意してくださった作品で、美味しいです。ほんのりピンクっぽい色(蠍にちなんだハイビスカスのせいです)で可愛いのです。
UFOに始まり、サザエさんのテーマや鍵盤ハーモニカイントロダクションなどのつかみのほか、カフェにあったアルミホイルの音(!)や動物と作った音楽まで。野村さんの音楽の幅広さを知る会でした。今回お店が小さかったこともあって超満員。みんな入れてよかったです。野口さんの息子さんが超ノリノリで踊り続けていたのが印象的でした。飛ぶし転がるし。きっと私もこんな感じだったのでしょう。彼もきっと作品に出演することになるに違いない。そんな出会いもありました。野村さんにはいつかピアノのコンサートもお願いしたいですね。



そんなこんなで、あまりにも怒涛すぎた3日間。この1ヶ月くらいあまり寝れてなかったのですが、次の日はたっぷり眠れました。関係者の皆さんはもちろん、事務局の野口さんもありがとうございました。


1.県内外から30名以上の音楽家やダンサーが集い、鳥取市のまちなかを舞台に即興のパフォーマンスで共演していくプロジェクト。2017年から毎年夏至の時期に開催している。https://tottori-geshisai.jimdo.com/
2.鳥取市内にあるかつて病院として使われていた円形の建物を使用し、アートに関わる様々なプログラムを実施している「ホスピテイル・プロジェクト」の一環。「すみおれアーカイヴス」として、市民の方々が撮影した8ミリフィルムの映像を収集・保存・活用している。2016年から継続してるプロジェクト。http://hospitale-tottori.org/


鳥取銀河鉄道祭
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ライター

木野彩子

札幌、東京、パリ、ロンドン、神奈川で落ち着くかと思いきや、鳥取に流れ着いて早一年。鳥取ビギナーとして学びつつ、踊りつつ、輪を広げることを志す。元体育教師・カンパニーダンサーという異色の経歴を持ちつつ、2016年より鳥取大学地域学部附属芸術文化センター講師。最近は踊るのも生きるのもあまり境目がなくなってきました。 photo:西岡千秋