レポート:鳥取夏至祭2021 #1

6月19日から20日にかけて、今年で5回目の開催となる鳥取夏至祭が、鳥取市のわらべ館で行われました。昨年と同じく県外パフォーマーの来鳥が難しい中、今年もオンラインの特性を活かし県外の参加者とつながりつつ、鳥取県内のパフォーマーやスタッフとじっくり時間をかけて作り込まれた夏至祭となっていました。その様子をレポートします。


今年で5回目の開催となる鳥取夏至祭。毎年鳥取県内外のアーティストを主体に、即興ダンスと音楽によるパフォーマンスを行なってきた。昨年は新型コロナウイルスの流行から一時開催自体が危ぶまれる中、そんな中でもできることをと、わらべ館会場とオンライン配信による同時開催となった(1)。今年も県外アーティストはオンラインで参加し、会場はわらべ館と配信という同様の形を取ることになったが、昨年からの経験と、年間を通じて即興音楽とダンスのワークショップもわらべ館を中心として開催されてきたことから、昨年よりも会場を活かしたパフォーマンスが繰り広げられた2日間となっていたように思う。

ナイトミュージアム
初日の19日は、まずわらべ館を舞台に「わらべ館ナイトミュージアム」が行われた。これは通常夜間は閉館しているわらべ館の各所で、夏至祭に参加するアーティストがパフォーマンスを行い、観客は各10名ほどのグループに分かれて、その館内をツアー形式で巡るというもの。鳥取大学の学生らによるガイドが、5つほどあるグループをそれぞれ案内していき、グループによって周るルートが異なり、案内する人により説明も異なっている。

筆者が入った青グループは、まず2階のギャラリーでダンサーが暗くなった展示ケースの上や横で踊ったり、影絵をしたり、音楽家が音を奏でる中に入っていき、次に2階の図書室へ案内された。そこには帽子を被った誰かが一人座っている。詩人が長机に座り、暗がりでライトに照らされる中、ギターや笛を吹きながら、自作の詩を朗読している(2)。窓と天井には、県外アーティストによる映像が映し出されている。ここで詩人の声を聞いたことで、筆者は一気にこれまでとは別の、物語世界の中に入り込んだような気がし、異なる他者としての、詩人の世界を訪れたような気がした。

図書室から出ると、長い廊下を通ってイベントホールへ。ここではボイスパーカッションとブレイクダンスを行うアーティストがパフォーマンスを行い、ホール上方では、円い壁面に来鳥することのできなかった県外アーティストによる映像作品が映し出され、照明の工夫によって、普段は気づいていなかったイベントホールの雰囲気も感じることができた。ホールでは空間の形とともに県外アーティストらの映像が映されたこともあって、先程の詩人の部屋やこれまで通ってきたツアールートの内省的な雰囲気から、別種の広がりが生まれる感じがした。

次は外に出て大階段を降り、半地下になっている駐輪場へ。がらんとした空間で、青や紫の照明に照らされトウフルート奏者(3)と打楽器奏者が音楽を奏で、先程のブレイクダンサーがやってきて踊り始める。

駐輪場の空間の一番奥にはこちらを向いて一台の軽自動車が止まっていて、不意にそのヘッドライトが灯り、ダンスに合わせて明滅した。

駐輪場を出ると、再び館内へ。3階の展示室では三味線奏者とDJが音楽を奏で、1階の展示室では暗闇の中、文楽のような人形使いが麒麟獅子舞を上演する。舞の型が見事に表現され、本物の獅子がそうするように、最後は子どもの頭を噛んでもいた。

展示室をさらに進むと、昔の学校の教室を再現した部屋で2人の踊り手が机と椅子の間を激しく舞い、ピアノのある唱歌の部屋では音楽家がピアノを奏で、ダンサーが踊った。その他、館内を自由に動き回り踊ったり音を奏でたりする「自由人」と呼ばれるパフォーマーもおり、その中には県外アーティストが来鳥できない中、京都から中のパフォーマーは不在のまま参加した、ヒジカタハルミさんの姿もあった(下の写真中央)。

これまで館内を周遊していた各グループ同士は、他のグループが同じ館内のどこかを巡っていることを感じつつも、互いの経験を知ることはできず、しかしそのことがまた、現実の世界にも似て、この夜この場所にナイトミュージアムという一つの宇宙が存在することを参加者に感じさせていたように思う。

一連の展示をくぐり抜けると、最後は屋外の大階段へすべてのグループが集まっていく。そこにはわらべ館のシンボルともいえるからくり時計があり、毎時ちょうどに裏に隠れている面が顔を出し音楽が鳴る。終演に合わせてアーティストたちも徐々にそのからくり時計の周りへ集まってきて、自然な動きで体を動かしたり、音や声を出したりしている。やがて上方の時計がぐるりと回転を始め、これまで見えなかった顔があらわれ、それに応じてダンサーたちも動き、音や声を発する(このときは夜間だったため、時計は音が鳴らない特別な仕様となっていた)。大階段の下にいる参加者は、なんとなくそれを少し上に見る位置から、まるで花火でも見るようにその光景を見つめている。

19日夜のわらべ館ナイトミュージアムのツアーをくぐり抜けて不思議に感じたのは、確かに自分は何らかの世界、時間をくぐり抜けたという感覚があったことだった。最後のからくり時計の場面まで、一本のはっきりと描かれたストーリーがあるわけではなかったが、そこにはやはり、何らかの緩やかな一貫性のようなものを感じた。演者もパフォーマンスもそれぞれに異なる中で、一貫しているのは会場であるわらべ館だが、以前から訪れていたこの場所で、この夜のような世界を感じることはなかった。館の建物はあくまで背景であり、展示されている内容を見るために訪れる場所だったが、しかしこのナイトミュージアムで体験していたのは、むしろ背景であったわらべ館そのものを、訪れる時間であったように思える。

それが可能であったのは、それぞれのアーティストが場の空間と対話しながら、身体を反応させ、音を発することによって、パフォーマンスが行われるわらべ館の空間そのものが、目の前に立ち上げられていたからではないだろうか。そしてその場所を、観客はグループのメンバーとともに移動の意思をガイドに預け、自らの身体ごと移動しながら新たなパフォーマンスの世界に入っていく。遭遇していく状況に対してほとんど説明はないので、観客はただ目の前、身の回りで起こることを、他者による見方に頼ることなく全身で感じ、経験するしかない。このように自身の時間感覚を一度括弧に入れ、全身の感覚を開き体験するプロセスが、単に空間だけでなく時間をも含んだ世界をくぐり抜けるという、稀有な感覚を生み出していたのではないだろうか(4)

 <つづく>

写真:田中良子
協力:木野彩子、高橋智美


1.「レポート:鳥取夏至祭2020」(https://totto-ri.net/report_tottorigeshisai20200621/
2.参加したアーティストの名称について、観客と同じ感覚を伝えたかったため本文中では明記していないが、鳥取夏至祭2021のホームページ(https://geshisai2021.jimdosite.com)でプロフィールを含め見ることができる。
3.鳥取の名物とうふちくわに穴を開け、笛のように演奏する楽器。
4.グループによっては、ガイドによる詳細な説明もあったと聞く。その場合ナイトミュージアムがどのように体験されたかについても興味深い。また少人数のグループごとに別々に移動するツアー型スタイルの原型は、夏至祭の実行委員である木野彩子さんが中心となって2019年に企画した、「鳥取銀河鉄道祭」に由来している。今回はコロナ感染対策という面で少人数グループによるツアーという形が採られたようだが、単にそれだけにとどまらないパフォーマンスとしての可能性が、この形式には含まれているように思えた。今回の夏至祭には県内アーティストの参加者の顔ぶれなど様々な点で、銀河鉄道祭からの連続性が感じられた。


鳥取夏至祭2021
https://tottori-geshisai.jimdo.com/

お問い合わせ先
鳥取夏至祭実行委員会
geshisai2020@tottori-u.ac.jp


ライター

nashinoki

1983年、鳥取市河原町出身。鳥取、京都、水俣といった複数の土地を行き来しながら、他者や風景とのかかわりの中で、時にその表面の奥にのぞく哲学的なモチーフに惹かれ、言葉にすることで考えている。