レポート:トットローグvol.17
詩人・白井 明大さんとの対話。季節と命への気づき

トットによる対話のためのプラットフォームづくり、トットローグ。2024年の初回は鳥取市在住の詩人・白井明大さんと開催しました。白井さんとの出会いから自身も詩を書くようになったという 彩戸えりかさんが当日の様子を届けます。


2024年1月14日 、トットローグvol.17「季節とことば ―鳥取暮らしをさらに豊かにするために―」を米子市にある「ちいさいおうち」で開催しました。集まったのは、米子市近郊の方に加えて、中部・東部地域在住の12名のメンバーです。

今回「季節とことば」についてお話ししてくださるのは、詩人の白井 明大さんです。『日本の七十二候を楽しむ ―旧暦のある暮らし―』『えほん七十二候 はるなつあきふゆ めぐるぐる』など、旧暦や季節に関する著作も多い白井さん。2021年に沖縄から鳥取に移住し、細やかに移り変わる鳥取の四季を感じながら暮らしているとのことです。

司会を務める濱井 丈栄さんの「緩やかに始めていきたいと思います」という言葉でスタートした今回のトットローグ。和やかな雰囲気に包まれた会場の様子をレポートします。

季節って、何だろう。時の移ろいに名前をつけると?

トットローグの前半は、白井さんによる「季節とことば」についてのお話です。

冒頭で「季節って、何だろう」と問いかけた白井さん。季節を、四季に「梅雨」と「秋の長雨」を加えて六季ととらえる説もあります。また、旧暦では二十四節気です。なぜ、時代や考え方によって季節が増えたり減ったりするのでしょう。

白井さん:もともとあるのは「自然」や「この世」です。時が移ろっていくと、暖かくなったり涼しくなったり、日が長くなったり短くなったりします。時の移ろいを受け取るために、人間がつけた名前が季節です。

たとえば、春の語源は「いのちが張る」「根が張る」ではないかといわれています。

そしてトットローグが開催された、1月14日は、旧暦・二十四節気では「小寒」です。季節をさらに細かく分けた七十二候では「水泉動(すいせんうごく)」。凍っていた泉がだんだん暖かくなって、泉が少しずつ動きはじめる時期を表しています。

この日の米子は天候に恵まれ、会場の窓からも遠くに雪の大山が際立って見える暖かな日。「水泉動(すいせんうごく)」を実感した参加者も多かったのではないでしょうか。

季節に名前があることの意味。今ここに自分が生きていることを手繰り寄せる

日にちを数字で表すと、順番がわかりやすいという利点があります。しかし、季節の兆しを感じ、名前を付けた季節とともに暮らしていくことにも意味はあるのです。

白井さん:今、目の前にある景色、自分自身が感じていることこそ大切なように思います。時がただ過ぎ去る数字ではなく、季節という名前を持つことで、どの一日もかけがえのない、いまこのときなんだと実感できます。

たとえば、朝起きて目に入ってくる光や、蛇口をひねったときの水の冷たさのような感覚を大切に、過ぎ去っていく今日を、ほかのどこにもない名前を持った一日として心に残してもいいのではないでしょうか。

つまり、今ここに自分が生きていることを、実感として手繰り寄せるすべが、時の移ろいに名前をつけることです。そのヒントとなるのが、二十四節気、七十二候です。

白井さん:自分の命を確かに感じるために、自分の感じ方を大事にする。そして自分を大事にすることが他者への思いに及んでいくといいと思います。私があり、この世があり、手を取り合える他者があることに気づき、満ち足りた関係になるといいですね。

参加者のお一人から「自然災害が起った際に、困っている人を離れたところから見ているしかない自分を冷たいと感じます。そのような時に、季節の力はどのように働くのですか」という質問がありました。

白井さんからは「季節とは、共同体が定め広めたものです。そして共同体というのは、人間と人間が支え合い、お互い暮らしやすくなるために人間が作ったものです。同じ季節を感じることが、共同体のメンバーとして助け合いたいという気持ちを呼び起こす印しになったらいいな、と思います」との答えが。

今、ここに集うメンバーが季節について対話することで、遠い地に住む方々へ思いをはせる場を生み出すことができました。トットローグの醍醐味を感じたやり取りでした。

書く、話す、そして受け止める。季節をことばで表現してみると

前半の季節のお話で「鳥取に暮らしていると、旬を感じることが多い。ベランダで作る干し柿も美味しく、柿の種類もたくさんある。鳥取は隠れたグルメ王国で、美味しいものがぎっしり詰まっている」と白井さんが伝えると、暮らしの中に季節を感じることへの楽しさが会場に広がっていくようでした。

つづいて後半のワークショップでは、季節について思うことを、どんな形でもいいので書いてみることに挑戦しました。白井さんが用意してくださったのは地元鳥取の因州和紙や、現在では入手困難な神楽坂「山田紙店」の原稿用紙など。参加者はそこに自由に書き出していきます。

参加者のみなさんが感じた季節は「色・散歩」「梨農家の花見」「鹿野の冬の夜」「わが家の黒豆 2024」「入学式」「いちご農家の大みそか」「布を裂いて織る」「風の中を歩く」「月光の朝」「つぼみ」などの作品に。どの作品にも、その方の暮らしに隣り合う季節が、色濃く表現されていました。

それらの作品を、一人ひとりがリーディングし、隣の席に座る人が作者に感想を伝えることに。「梨農家の花見」を書いた男性に「農家の大変さを感じました」と感想を伝えたのは、小学4年生のSさん。男性はSさんの感想を大らかな態度で受け止めていました。

また、S さん自身は「春といえば入学式」とひらめいた様子で「入学式」という詩を制作。一枚目を早々に仕上げ、白井さんにアドバイスを受けることで、三枚に渡る作品を完成させていました。そしてSさんが朗読した詩の内容を受け取って「一枚ごとに異なるリズムを感じます」と感想を伝えたのは「月光の朝」という作品を紡いだ男性です。

「ことばとして表現する」「リーディングを聞き、感想を伝える」「相手の感想を受けとる」という丁寧さを必要とする行為を通して、初対面にも関わらず参加者の中に緩やかなつながりが生まれました。

最後に、全員で連詩に取り組みました。前の人が書いた文章に、後に続く人たちが一文ずつ足していきます。

出来上がったのは2編の連詩。原稿用紙の上には、文字を通しての対話の足跡が連詩として残されていました。全員で輪読し、鑑賞することに。前の方が書いたことばや季節への思いを受け取り、自らのことばで表現を加え、次へとつなぐ、その過程で驚くような飛躍や展開が生まれ、なおかつ途切れることなく季節をめぐる物語が続いていきました。

白井さんとともに、この日トットローグで作り出した季節の感触は、参加者の心にくっきりと刻まれたのではないでしょうか。

誰もが日々感じているはずの季節の移ろいに改めて目を向け、しっかりと味わい、新たな季節のことばを紡ぎ出したトットローグvol.17。年齢も、経験も、職業も異なる人たちが対話を深め、鳥取の暮らしと季節の豊かさへの気づきを深めました。

また、今回初めてトットローグをインスタライブでも配信。前半の白井さんのお話を当日会場参加が叶わなかった方々にもお届けすることができました。

自由で気軽に話し合える場所として、トットローグが今後、さらに多くの人たちに開かれていく可能性を強く感じる時間となりました。


トットローグvol.17
「季節とことば ―鳥取暮らしをさらに豊かにするために―」

日時|2024年1月14日(日) 13:30-16:30
場所|ちいさいおうち(鳥取県米子市皆生温泉2丁目9-36)

企画|白井明大(詩人)

進行|濱井丈栄(トット副編集長 / フリーアナウンサー)

主催|鳥取藝住実行委員会
協力|子どもの人権広場
助成|中国5県休眠預金等活用事業2021

ライター

彩戸えりか

「ちいさいおうち」での白井明大さんのお話をきっかけに詩の世界に。詩が隣にあることで寂しさが少し和らいだ気がします。トットの記事が誰かにとってささやかな光になることを願いながら。