レポート:
「鳥取県立美術館ができるまで」を伝えるフリーペーパーの制作にむけて、一緒に「編集のちから」にふれてみませんか、というワークショップ

2024年度に開館が迫る鳥取県立美術館。この美術館ができるまでを伝えていくフリーペーパーづくりが、編集者の多田智美さん監修のもと進められています。9月7日(土)には、美術家の淀川テクニック(柴田英昭)さんをゲストにWSが実施されました。


こんにちは、蔵多です。今年3月に鳥取にUターンしてきた私ですが「どうせ鳥取に戻るんだったら、新設予定の県立美術館に関われるといいな〜」と思っていたら、今回のレポートを書かせていただくことに。前回のワークショップにも参加させていただいたので、私としては2回目の参加になります。
参加者は、高校生から年配の方まで幅広い層が集い、総勢24名。前回と違う点は大学生の参加が増えたこと。鳥取市からは鳥取大学生が、倉吉市からは鳥取短期大学生がそれぞれに。「編集のちから」というキーワードに惹かれて、新たな参加者が加わり、関わる人の層が増えたように思います。

自己紹介の風景。これから開催されるワークショップに伴い、鳥取の東部・西部エリアの二手に分かれました

今回のワークショップは、これまでに引き続き(株)MUESUM代表/編集者の多田智美さんに加えて、「淀川テクニック」という名前でアーティスト活動を行う柴田英昭さんのお2人が講師。柴田さんは2013年に鳥取・智頭町に移住されたのですが、元々は関西を拠点に活動していたので多田さんとは長い付き合いとのこと。ワークショップ中の2人の掛け合いは、とてもテンポがよく、親しみある関係からもたらされる安定感があるような。参加している私達にもその空気が伝わり、終始楽しい時間を過ごすことが出来ました。

多田さん(右)と柴田さん(左)。テンポの良い2人のやりとりは、私が長年住んでいた関西の地を思い出します
ゴミや漂流物を使い、様々な造形物を制作されている「淀川テクニック」こと柴田英昭さん。こちらは「宇野のチヌ(2010)」という岡山県玉野市で作成した作品について説明中

まずは柴田さんのこれまでの活動について、写真や映像を交えてご本人にレクチャーをしていただきました。大阪・淀川の河川敷を拠点に活動を始めて(それが「淀川テクニック」の由来とも)以来、赴いた土地ならではのゴミを用いて人々との交流を楽しみながら行う滞在制作を得意とし、現在は鳥取を拠点としながら国内外の美術館や芸術祭で活躍する柴田さん。

「芸大出身では無いし、遊びながらアウトサイダーな作り方をしていたんです。それでも“アートをやりたい”という気持ちでやっていたら、やり方も分かり、いろんな人達と巡り合い、今に至ります。」

「ゴミって、“日常の中の断片”かつ“必ず誰かが使った跡がある”んです。それを使って作品制作を進めると思うように作れない。何故なら、欲しい素材は落ちてないし、組み合わせたい素材はあるけれど繋ぎ合わせれる物が無いから適当な紐で、といったことがたくさん。それを組み合わせていく内に、思っていたものと違う変な面白さが出来る、というのがゴミで作品を作るモチベーションになっています。今でもそうですね。そこがポイントかなと思って作り続けています。」

と、今まで制作した作品を振り返りながら、現在の作品へのモチベーションを語ってくださいました。作品は展示として常設されているだけでなく、テレビ番組の舞台美術として使用されたり、「月刊廃棄物」という雑誌の表紙を長年飾ったりと、多岐に渡る活動の広さに、参加者一同興味深く聴いていました。個人的に『「月刊廃棄物」という雑誌が世の中にはあるんだ…!』と初めての情報にビックリしてしまいました。

レクチャーを受ける参加者。柴田さんのスライドに釘付けに

レクチャー後は、編集ワークショップ版として「コラージュ川柳」の時間です。「コラージュ川柳」(通称:コラセン。以下、「コラセン」と表記)は、「新聞の文字を切り取り、それらを五七五に並べたものである。」という定義の柴田さんが発案した川柳です。twitterでハッシュタグがあったり、デイリーポータルにて取り上げられていたりと、知る人ぞ知るコンテンツ。今回は、鳥取県内で広く読まれている地方紙「日本海新聞」を使い、「コラセン」を行います。

「コラセン」をつくるためのルールは以下の通りです。

ルール1:新聞もしくは印刷物の五文字と七文字を切り抜いて、五・七・五と3つの切り抜きを別々に組み合わせることで、もとの記事の文脈とまったく違う内容の川柳として再編成します。
ルール2:「二文字+三文字」や「五文字+二文字」など、ひとつの行の中でふたつ以上の切り抜きを使うことは禁止です。
ルール3:「は」や「を」など助詞も切り抜いて使いたくなりますが、そこをジッと我慢。あくまで五文字のまとまった切り抜き3つで川柳を読むことがポイントです。字余りはOK。

まずは、ウォーミングアップとして新聞を読み込み、鳥取の気になる記事を見つけるところから始めることに。

開催当日は、日本海新聞の記者さんが取材に来られていたこともあり、新聞を読む際のコツを教えていただきました
膨大な情報の中からそれぞれの「気になる鳥取」を切り抜いていきます
参加者が選んだ記事は、柴田さんと多田さんが東軍と西軍に分けて紹介してくださいました。新聞から切り出すので時事ネタが多いのですが、それぞれの視点があり面白い記事が出揃っていました

続いて、「五文字」「七文字」をそれぞれ見つけてカット。こちらは先ほどの気になる記事とは関係なく、紙面上から見つけた言葉をできるだけたくさん出していきます。今回のワークショップは、鳥取の東部・西部エリアの2チームに分かれてそれぞれが「コラセン」をつくり、それを柴田さんが番付し東西で競っていくことに。

直感的に切り抜いたり、手で数を数えながら。それぞれの言葉を切り抜いていきます
素材が集まったら、チーム毎に「五文字」「七文字」に分けて置きます。両チーム共にたくさんの素材が出揃いました

素材が足りなくなってきたことに気づいて新たに切り出しを行ったり、チーム内で「これどう思います?」「この組み合わせの方が面白いんじゃないですか?」と相談したりして、初めて会った人同士でも楽しくコミュニケーションを取りながら、「コラセン」を作成していました。

東西、それぞれの番付はこちら。皆がクスッと笑ってしまうような個性豊かなコラセンがたくさん生まれました

東部は、チーム内で相談しつつ素材が足りないのを気にして、途中から「素材を作る部隊」「コラセンを作る部隊」と役割を分ける進め方。西部は、素材が最初から十分出揃っていたので、個人個人思い思いにどんどん「コラセン」を作る進め方。両チーム共に違ったやり方で作成していたのが印象的でした。

「僕の作品は、ゴミという“日常の中の断片”を組み合わせて、魚や猪など別の形状としてアート作品になって生まれ変わっています。「コラセン」も本来は新聞の一部であったものが切り離されて混ざることで違う意味を持つ。文字を読むことで全然違う意味になったり、文字からイメージが湧いたりストーリーが生まれたりするのが面白いかなと思って続けています。」

と「コラセン」は「淀川テクニック」として作品を作ることと一緒だと語る柴田さん。多田さんからは「元々は違う文脈や物語の中にあったものを一度バラバラにして、それを組み上げてみるという編集的な行為を体験出来たらと思って、今回は皆で「コラセン」をやってみました。」と振り返りの言葉をいただきました。

多田さんは「編集とは、夜空の星を結んで星座を名づける行為」と最初の導入としておっしゃっていました。今回の「コラセン」は、まさにそのような行為を体現していたような内容だったと改めて感じています。

「今回のワークショップを見ていて、一見結びつかないものが結びついて、なんとなく想像出来た瞬間に凄い力を持つ、ということが多々あったと思います。それは、これから美術館が新しく出来るということにも当てはまると思っていて。美術館で一見行われなさそうなことを企画してみるとか、違う視点で見ることが出来ると企画の面でも参考になる考え方なのかな、と感じました。また、作っただけでは面白くなくて、それを読み解きながら意味付けていく柴田さんの役割がこの会においても凄く重要なんだな、と。ある種、副音声なんですよね。本筋と副音声の違い、楽しさ、何層かに渡らせていくということも面白い伝え方のヒントを貰えたなと感じました。」

と今回のワークショップだけでなく、今後の美術館のヒントになる考えも交えながら、会をまとめていただきました。

今後のフリーペーパーづくりについては、初号を多田さんと県立博物館スタッフを中心とした編集チームで制作しており、私達県民が実際に関わることになるのは次号以降になるとのこと。「具体的にこうやって作っていきましょう」ということを今後やっていけたらと仰っていました。自分達の意見が反映されて、面白いフリーペーパーが出来上がっていくと思うとワクワクします。ご興味のある方は、是非この活動に参加してみませんか。次回、10月19日(土)は、記事作成のための写真撮影を学べる講座です。こちらの開催もとても楽しみです。


次回開催
「鳥取県立美術館ができるまで」を伝えるフリーペーパーづくり:記事作成のための講座1 写真撮影編

日時|2019年10月19日(土)14:00-17:00
会場|鳥取県立博物館 会議室(鳥取市東町二丁目124番地)
講師|多田智美さん(編集者)、 藤田和俊さん(フォトグラファー)
主催|鳥取県立博物館
対象|高校生~一般
参加費|無料
定員|20名程度(フリーペーパーづくりに継続参加されている方は、申し込み時にその旨をお伝えください)
申込先|0857-26-8045 鳥取県立博物館美術振興課

ライター

蔵多優美

1989年鳥取市生まれ。京都精華大学デザイン学部卒業。IT・Web企業数社、鳥取大学地域学部附属芸術文化センター勤務を経て、デザイン制作やイベント企画運営、アートマネージメントなどを修得。「ことばの再発明」共同企画者。2021年5月より屋号「ノカヌチ」として鳥取市を拠点に活動開始。「デザインを軸とした解決屋」を掲げ、企画運営PMやビジュアルデザイン制作を得意領域とし、教育や福祉、アート分野の様々なチームと関わりながら活動中。対話型鑑賞ナビゲーターとして県内で実践やボランティア活動をする中で「美術鑑賞教育×対話」に関する調査研究に取り組む。2023年度は母校である鳥取城北高等学校で非常勤講師として美術を担当している。吉田璋也プロデュースの民藝品を制作していた鍛冶屋の末裔。