レポート:障がい者アートの可能性と「ミラクルアート」〜フクシ×アートフォーラム「アートが叶える世界」

障がいのある方のアートは、私たちの社会にどんな示唆や可能性をもたらすのだろうか。2024年11月3日(日)に、鳥取市内でセイン・カミュさんを迎えて行われた、あいサポート・アートセンター主催のフクシ×アートフォーラム「アートが叶える世界」の様子をレポートする。


2024年11月3日(日)、鳥取市役所 鳥取市民交流センター2階多目的室1にて、あいサポート・アートセンター主催のフクシ×アートフォーラム「アートが叶える世界」が開催された。本フォーラムの講師として登壇したのは、タレントとして活躍しながら一般社団法人障がい者自立推進機構の理事を務めるセイン・カミュさんである。

講演は、セインさんが自らの生い立ちを紹介するところから始まった。アメリカ・ニューヨーク州に生まれ、バハマやレバノン、エジプト、ギリシャ、シンガポールなどで幼少期を過ごし、1977年に日本へやって来たという国際色豊かなバックグラウンドを持つ。筆者も子供の頃にセインさんをタレントとしていつも見ており、そのようなイメージは当時も持っていた。ただ、今回まで知らなかったのは、彼は幼少期より知的障がいと自閉症を持つ妹さんと過ごしてきた生活があったことだ。

当時10代の妹さんがこれからの社会で生きていくための可能性を探る中、ある日、父親の友人から紹介されたアート活動を行う施設との出会いが大きな転機になったという。以来アート活動を続ける妹さんは、その作風を変えながら創作を続けており、現在では自由な色使いや緻密な塗り込み、英語と日本語を画面に差し込む彼女の作風は、さまざまな商品のデザインに採用されるまでに至った。すでに36年近く活動を続けるその歩みは、セインさんにとっても「アートの可能性」を見つめ直す大きなきっかけになっているのだ。

妹さんを通じて障がいとアートを身近に感じてきたセインさん。「障がい者アート」という呼称が作品への注目を集める一方で、「障がい」という言葉を前面に出さなければ彼らのアートは見てもらえなかったのかと考えると「ちょっと寂しいな」と感じると述べ、言葉の持つ二面性に言及する。そして、「障がい」という言葉を使わずに障がいを持つ人のアートをプロモーションするために自ら考案した「ミラクルアート」という言葉を紹介した。これは、一人ひとりが奇跡的な存在であり、それぞれの個性が奇跡的な表現を生み出しているという考えに基づくものだという。アートが言葉を超え、感情をダイレクトに伝えるコミュニケーションツールとして重要だと考えるセインさんは、学校教育で美術や音楽などが軽視されがちな現状に疑問を投げかけ、作品制作を通じて豊かな感性や個性を育む機会を大切にしてほしいとも呼びかけた。

また、講演内では、セインさんが理事を務める一般社団法人障がい者自立推進機構の「パラリンアート」も紹介された。障がいのある人のアート作品を企業や個人に提供し、アーティストに報酬を支払うこの活動では、約500名のアーティストが登録し、企業や個人への作品提供によって年間1500万~2000万円規模の報酬を創出しているという。彼は、このような活動でも障がいのある人々の社会参加と経済的自立を後押ししている。

講演後の座談会は、セインさんに加え、鳥取県立美術館長の尾﨑信一郎さん、あいサポート・アートセンター長・アートスペースからふる理事長の妹尾恵依子さんが登壇した。尾﨑さんは、2025年3月に開館する鳥取県立美術館が「開かれた」美術館を目指すとし、障がいのある人や子どもなど多様な人々を積極的に迎え入れるための具体的な取り組みや、社会的な障壁を障がいのある方にとって減らしていく「合理的配慮」の重要性を紹介した。

続いて妹尾さんは、障がいのある人の文化活動を支援するあいサポート・アートセンターと、アートを仕事につなげる活動を行うアートスペースからふるの取り組みを紹介した。いずれもノーマライゼーション社会の実現を目指し、作品発表の機会や就労支援を通じて障がいのあるアーティストの可能性を広げているという。

座談会で特に印象的だったのは、講演でセインさんも触れた「障がい者アート」という言葉の二面性についてである。妹尾さんも仕事柄「障がい者アート」という言葉を扱っており、なるべく使わないようにしたいと考えつつも、現状では多くの人に理解してもらうために通じやすいというリアルがあると語った。同時に「障がい者アート」という言葉には学術的な定義がまだ確立されていないという課題があると指摘する。尾﨑さんは、障がいのある人の作品には共同制作が多いなど、既存の作家像とは異なる魅力に注目していると述べ、一方で障がいの有無によるアートの線引き自体に本質的な意味はないと強調した。


座談会の終盤では、将来的に「障がい者アート」という特別なカテゴリーが不要になり、純粋に「アートはアート」として作品が評価される社会こそ理想だという点で意見が一致した。障がいの有無を超えて多様な作品が心を打ち、人々の暮らしを豊かに彩っていく。そのような未来を実現するために、それぞれの立場から取り組みを続けていく姿勢が共有され、今回のフォーラムは幕を閉じた。


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※この記事は、あいサポート・アートセンターからの依頼を受けて制作したPR記事です。

ライター

野口明生

1985年鳥取県生まれ。場所や企画など作ったりやったりする人。鳥取県中部で活動する「現時点プロジェクト」メンバー。 過去に、とりいくぐる Guesthouse & Lounge、NAWATE、奉還町4丁目ラウンジ・カド、鳥取銀河鉄道祭など。