レポート:上映会「映画愛の現在」第Ⅲ部/星を蒐める

映像作家、佐々木友輔さんが監督をした3部作「映画愛の現在」。第2部/旅の道づれ、第3部/星を蒐めるがそれぞれ11月7日に倉吉、28日に米子で上映されました。ここでは米子のガイナックスシアターで行われた上映会の様子を、田口あゆみさんがレポートします。


11月28日、映像作家・佐々木友輔監督の作品上映会が開催された。上映された作品は『映画愛の現在 第3部/星を集める』、鳥取県西部編。3月に鳥取で上映された『第1部/壁の向こうで』(東部編)、11月初めに倉吉で上映された『第2部/旅の道づれ』(中部編)に続く完結編になる。
『映画愛の現在』は映画館が3館しかない鳥取に来た佐々木さんが、未来の映画愛を探るドキュメンタリー。「映画はどこにあるのか」、「どこに映画を見に行くのか」という問いを抱き、鳥取県内で映画に関わる様々な人たちを訪ねて話を聞く。
会場となったガイナックスシアターは、2012年に閉館した米子駅前SATY東宝の跡地。過去と現在が少しリンクする。

大下志穂/大山アニメーションプロジェクト アートディレクター
赤井孝美/米子映画事変実行委員会 顧問
吉田明広/米子シネマクラブ 会長

作品の中では「映画への愛の形を考えたときに、自分の定義で排除したくない」と思ったという佐々木さんの言葉どおり、多くの人の様々な映画への思いが語られる。第3部には14人。私も少し出ているけれど、佐々木さんはその1人1人に丁寧に話を聞いていく。友人によると、インタビュー内でかつていくつもあった米子の映画館が出てくる場面では、カメラはきちんと調べられた跡地を巡っているらしい。映像の向こうに透けるたくさんの時間。
「7、8割ぐらいインタビューできたところでようやく3カ所の地域の色みたいなものが見えてきて、そこで最終的な形が定まってきた」と話されていたけれど、フラットに、とにかくたくさんの人から話を聞く中で地域性が浮かび上がってきたということに感動した。
自主上映が盛んな東部、作り手が多い中部、そして当日上映された西部編には「場所を作るというか、共同体とかコミュニティのあり方を考えている人」が何人も登場する。映画の見方を限定せず、地域の人が楽しみに出かける、集まる場所を作りたいという人、地域の人も巻き込んで、皆で作る作品のプロデューサーの役割が楽しいと語る人、「文化祭みたいな」イベントを通じて、表現する人と米子とのつながりを作りたいという人…。高校生から何十年も活動を続ける人まで思いの形は様々で、それぞれが楽しそうに語っている。別々の形が聞き手の視点の中に消化されていく。

水野耕一/よなご映像フェスティバル実行委員会 代表
田口あゆみ/映像作家
升田乃愛、島崎寛己、河本幸樹/米子高専放送部

映像のイメージを尋ねると、皆が「ロードムービーみたい」と言っていたけれど、見えない私も同じように感じた。佐々木さんが旅をしている。語られる話に途中から重なる街の音や車の音は、インタビューに向かう道中の景色らしい。話は次々に過ぎていくけれど、語り手のまわりの街や、移動していく佐々木さんの中にまだ響いているみたいに、ゆるやかに繋がっていく。
第2部のアニメーション制作にも生徒たちが参加している。編集も担当する井田遥さん、佐々木ゼミの仲間だという音泉寧々さん、品岡トトリさん、山崎七重さん、盛田実優さん、渡邉乃愛さん。「撮影とか編集はある意味、一番大事にしてきた部分なので、人にその役割を渡すのは今回が初めて」と佐々木さんは言う。大変だったのではないかと思うけれど、当日のトークで、制作について話す学生たちは本当に楽しそうで、聞いている私まで嬉しくなった。

編集に携わった大学生たちが会場で感想を述べた

佐々木さんは第3部に寄せて、「鑑賞体験を構成する、記憶に残らない諸々を、忘れないうちに書き記しておきたいと思った。」と書いている。この映画は、鳥取で映像文化に関わる2020年前後の活動の記録であり、同時に少しずつ変化していく佐々木さんの姿が見える。友人は丁寧に作られた作品に「佐々木さんの律儀さ、必死さを感じた」と言っていたけれど、確かに切実さがある。それはこの映画の魅力のひとつだと思う。

壇上でトークする佐々木さん。左は司会進行役の蛇谷りえさん

当日の会場には多くの出演者や関係者が集まり、映画の完成と上映を喜んでいた。トークの司会は第1部と第2部にも登場する蛇谷りえさん。蛇谷さんが制作に参加した学生たちに話を聞いていく。作る人の姿が浮かびあがり、作品の空気が当日の会場にも広がっていくようだった。主題歌を歌う大久保藍さんは「鳥取で関わってきた人と作りたいから」とオファーされたと言っていたけれど、この映画自体が1つの場として機能し、鳥取で人をつなげ、広がっていると感じた。

写真:水田美世


「映画愛の現在」上映会 第3部/星を蒐める

日時|2020年11月28日(土)14時30分-17時
会場|ガイナックスシアターホール Ann(米子市末広町311イオン米子駅前店3階)
主催|鳥取大学地域学部附属芸術文化センター 佐々木研究室
令和2年度 鳥取県文化芸術活動支援補助金助成事業
令和2年度 鳥取大学地域学部長経費事業

ライター

田口あゆみ

米子生まれの米子育ち。東京で編集の仕事をしていたが目を病んだことをきっかけに帰郷。人と機会に恵まれて自分で映像を作り新しい喜びに気付く。障害を得たせいか米子というコミュニティの特徴なのか、人との関わり方が以前と全然変わって面白い。出会いに感謝しつつ新しい視点の楽しさを伝えられたら、と模索中。