因州和紙に描く、若桜鉄道沿線のいとなみ
ーひやまちさと作品展「あの梢の雪の」ー

2月上旬。山陰にまだ雪が降り続いていた頃、イラストレーターのひやまちさとさんは、鳥取県東部の山間のまち若桜町に約10日間滞在しました。バスや若桜鉄道に乗って若桜町や隣の八頭町を日々行き来する中で心を奪われた風景や印象的だった人々のやりとりを元に、因州和紙で作品を制作。今月21日(水)から展示がはじまります。


アーティストインレジデンス(AIR)(※)のプログラム「鳥取R29 AIR」は、鳥取県東部の若桜町、八頭町、鳥取市を通る国道29号線(R29)沿いの良さを再発見しようと、2016年度から県内外のアーティストを招いて滞在制作をおこなっています。2年目となる今回は、イラストレーターのひやまちさとさんを招へいしました。

ひやまさんは鳥取市鹿野町出身、大阪府在住。今も頻繁に帰省して個展を開くなど鳥取でも精力的に活動しています。しかし、同じ鳥取県内とはいえ、若桜町や八頭町にはこれまでほとんど訪れたことがありませんでした。2月上旬、10日間ほど若桜町に滞在し、バスや国道29号線とほぼ平走する若桜鉄道に乗って沿線をリサーチ。若桜駅や八頭町の隼(はやぶさ)駅ではまちなみもじっくりと散策しました。
「完全に旅人気分。はじめての旅のような気持ちで、すごく楽しいです。リサーチをはじめた頃は雪で路面が凍結して、なんとお風呂も凍っちゃったんです。そのくらい寒かったんですが、一面の雪景色や雪が降る様子が何よりもきれいで心を奪われました」と笑顔で話してくれました。

リサーチ中に描いたスケッチやメモを見せてもらう(撮影:水本俊也)

今回のアーティストインレジデンスに限らず、普段から2~3週間ほどの旅で訪れた都市での暮らしぶりなど拾い上げて描くのが主な制作スタイルというひやまさん。そのまちの代表的な風景ではなく、暮らしてみて見たものや感じたものを表現します。今回の滞在でも、若桜鉄道の車内での高校生の様子や年配の男性同士のやりとり、雪の中でバスを待つバス停でのひとときなど、描きたいと思える瞬間にたくさん出会うことができたといいます。
作品展のタイトル『あの梢の雪の』には、そんなひやまさんのこだわりが込められています。「このまちに来て何を見ようかと思ったときに、一面の銀世界と木々しかありませんでした。でも、枝の先に目をやると、鳥がとまっていたり、風が吹いて雪が落ちたりする。人の暮らしの端々に目を向けていきたいと思ったんです。」

隼Lab.で公開制作中のひやまちさとさん(右)(撮影:水本俊也)

作品の制作と展示は、若桜鉄道の隼駅から徒歩3分ほどのところにある隼Lab.で行います。旧隼小学校をリノベーションし、2017年12月にオープンしたシェアオフィス、コワーキングスペース、カフェなどが入る話題の総合施設です。
展示の1週間前、隼Lab.のワークショップルーム(元図工室)で公開制作がはじまりました。現場を訪ねてみると、画材を選ぶひやまさんの姿がありました。

墨汁、万年筆のインク、顔彩など、さまざまな画材を試みる(撮影:水本俊也)
因州和紙と向き合う。色の濃淡が美しい(撮影:水本俊也)

見たものや感じたものを描くという軸はあるものの、表現方法はさまざま。今回は初めて因州和紙を使った表現を試みます。鳥取市佐治町の特製和紙で、墨汁、万年筆のインク、顔彩などで試し描きを繰り返し、和紙と合う画材を探していました。水の含ませ方ひとつで濃淡が異なってきます。
「一般的にはなかなか手に入らない和紙で、いい出会いができた。新しい画材との出会いは自分の成長にもつながるので、どんな作品になるか自分でも楽しみです。」
作品は、2月21日(水)から、隼Lab.1階のエントランスギャラリーとカフェに展示されます。

(※)アーティストインレジデンス(AIR)・・・各種の芸術制作を行う人物を一定期間ある土地に招へいし、その土地に滞在しながらの作品制作を行わせる事業のこと。AIR(エアー)はAirtist-in-Residenceの頭文字をとった略称。

ひやまちさと作品展『あの梢の雪の』
会期:2018年2月21日(水)ー3月31日(土)
*会期は当初2月末まででしたが延長されました
時間:9:00ー18:00
会場:隼Lab.(鳥取県八頭郡八頭町見槻中154-2)
入場料:無料

<同時開催>
鳥取R29フォトキャラバン写真展』
国道29号沿線で子どもたちが切り撮った日常の風景を、手漉きの因州和紙にプリントした写真を展示。2017年8月に八頭町と若桜町で開催した1泊2日のプログラムに参加した小学3年生から中学2年生までの28人の作品を中心に紹介します。
会期:2018年2月22日(木)ー28日(水)
時間:9:00ー18:00
会場:隼Lab.(鳥取県八頭郡八頭町見槻中154-2)
入場料:無料

http://road29photocaravan.tottori.jp

ライター

濱井丈栄

1979年広島市生まれ。フリーアナウンサー。元NHKキャスター・リポーター・ディレクター。広島・鳥取・東京に勤務し、自ら取材し自分の言葉で伝えることを生業にしてきた。2014年、夫の転勤で再び鳥取へ。同年立ち上がった「鳥取藝住祭」の事務局にたまたま声をかけられたことをきっかけに、アートをいかした地域づくりに関わるようになる。最近の趣味は、さまざまな作家さんのワークショップに行くこと。特にものづくり系が好き。photo:田中良子