西野達(現代アーティスト)#3
アートへの寛容性、育てて欲しい。

鳥取県立博物館のシリーズ企画展〈ミュージアムとの創造的対話01 Monument / Document 誰が記憶を所有するのか?〉(※)が2017年2月25日~3月20日に行われました。県立美術館設立問題でゆれる鳥取で、現場からのひとつのアプローチとして示された本展。アートへの寛容性をいかに育むかがこの場所にいま必要であることを語る西野達さんのインタビュー最終回です。(※会期は終了しました。)


― 県立博物館の中での展示もされるのですよね。どのような作品ですか? 

西野:いわゆる彫刻をつくっているよ。久しぶりなんですごく楽しく、はしゃぎすぎで昨日は刀で手を切ったくらい()
屋外の大掛かりな作品の制作についてはその道のプロに任せることがほとんどだけど、自分の手を動かして何かを作り出す行為って純粋に面白いね。人間の根源的な欲求ってことなんだろうね。こちらの作品も出来上がりをお楽しみに。

〈前田寛治の椅子〉(2017年、鳥取県立博物館)鳥取を代表する近代画家、前田寛治の作品4点を大胆に素材とした。
〈田中寒楼〉(2017年、鳥取県立博物館)鳥取の彫刻家山本兼文作「T氏頭像(田中寒楼翁)」に発泡スチロールの体を付け加え全身像に作り変える。

― 鳥取をとても気に入ってくださって嬉しいのですが、もっとこうなったらいいなと感じる点はありますか?

 西野:鳥取には名物料理が欲しいな。カニも梨もネギもみんな美味しいけど料理ではない。素材が美味しいから名物料理ができなかったと言えるけど、旅行者にとってはその土地の郷土料理が食べられないのは大きいよ。そこで、無理にご当地ラーメンを作ろうと企画したのが、34日のトークセッション「西野達はいかにしてキュレーターを白髪にするか?」なんだ。料理家の井口和泉さんが作ってくれる、鳥取の食材をふんだんに使った「鳥取ラーメン」を出すよ。
東京へ出るのはちょっと不便だけど、さっきも言ったようにベルリンのように安い家賃が魅力でアーティストが集まる可能性も十分あると思う。「まんが王国」というなら、とりあえず新人漫画家30人ぐらいにレジデンスやらせればいいと思うんだけど。
県庁所在地の鳥取市は無理にしても、米子はとにかくこのままの姿で留まって欲しいね。人口や交通の便を考えると鳥取は都会になることは無理。見栄を張って高層ビルや現代的な建物を建てたって、今から東京にかなうはずはない。経済的に再開発するだけの力がないのをポジティブに捉えて、古い建物を残す方向で考えたほうが鳥取の魅力が増すはず。それを壊さずあと10年放置すれば、知らないうちに鳥取は世界中から注目されると思うよ。お金もかからないし。皮肉ではなくて「日本に残された最後の秘境」っていう感じかな。そうなった時、今回の展覧会のタイトル「誰が記憶を所有するのか」を使わせてもらえれば、「鳥取市民が日本の記憶を所有する」ということになるね。

〈そこへ行って夢を見な〉(2017年、米子)の長屋の玄関入ってすぐの居間。くつろげる。

* * *

県立美術館設立は今まさに鳥取で一番ホットな話題。鳥取県立博物館のシリーズ企画展〈ミュージアムとの創造的対話01 Monument / Document 誰が記憶を所有するのか?〉は、そうした議論へのひとつのアプローチとして、キュレーターの赤井あずみさん(鳥取県立博物館学芸員)が企画されました。時事的話題性に加えて、博物館で初の館外作品展開ということもあり、鳥取の感度の高いひと達の話題をさらった展覧会でした。
西野さんの米子での屋外作品で、生木に施した彫刻作品〈達仏〉(2017年)は、会期後も麹町の空き地にそのまま残るとのこと。米子を訪れる際にはぜひチェックを!

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西野 達
1960年愛媛県生まれ。日本とドイツで美術を学び、現在はベルリンと東京に拠点を置きながら、世界各地の舞台を都市を舞台に、公共空間に介入し人々の慣習や常識を打ち破る挑戦的なプロジェクトを数多く手がける。
tatzunishi.net


ライター

水田美世

千葉県我孫子市生まれ、鳥取県米子市育ち。東京の出版社勤務を経て2008年から8年間川口市立アートギャラリー・アトリア(埼玉県)の学芸員として勤務。主な担当企画展は〈建畠覚造展〉(2012年)、〈フィールド・リフレクション〉(2014年)など。在職中は、聞こえない人と聞こえる人、見えない人と見える人との作品鑑賞にも力を入れた。出産を機に家族を伴い帰郷。2016年夏から、子どもや子どもに目を向ける人たちのためのスペース「ちいさいおうち」を自宅となりに開く。