mamoruさん(サウンド・アーティスト)♯1
聴くことは、他者性を認めるための態度

鳥取県立美術館の企画展〈CONNEXIONS | コネクションズ ー接続するアーティストたちー〉(会期:2026年2月7日(土)ー3月22日(日))は、音楽や演劇、パフォーマンスなど異なる領域を横断し多様な文化的背景をもつアーティスト7組を紹介する展覧会です。
参加アーティストのひとりmamoruさんはこれまで〈声を挙げ、絶やさない/NEVER BE NO VOICE〉というプロジェクトにて2025年5-6月、10月に県内8か所でワークショップを展開してきました。インタビュー1回目ではこれまでmamoruさんがどのように作品づくりを行ってきたのかを伺います。


ー mamoruさんは鳥取での活動も長くされています。2014年のホスピテイル・プロジェクト(1)では〈mamoru Performance & Exhibition | ”風を知るための/幾つかのパフォーマンスとそのスコア”〉を発表され、2017年からは〈知るのつくりかた〉というトークプログラムも継続されています。「サウンド/音」を媒介としつつ、探求の痕跡が見えてくるような作品から、上演的というか、時間性を含んでいるという観点で、今回参加アーティストに選ばれたと伺いました。

mamoru:自らサウンド・アーティストと呼んではいるんですが、音は音でも、自分の興味の中心は聴くことというか、正直なことを言えばそれも結果でしかないんです。物事を知ろうとする時、そういうアプローチ、態度を覚えたと表現するのがいいのかな。ホスピテイル・プロジェクトでやってきたトークは〈知るのつくりかた〉っていうタイトルですけど、本当にそういう感じなんですよね。

オルタナティヴな知の方法について考えるためのパブリック・トーク〈知るのつくりかた〉の様子(旧横田医院)

mamoru:僕のモチベーションの中心はただ「知りたい」というところだと思います。知ろうとしている対象、あるいはその周辺に対して、僕がどういう態度なのかを説明すると「リスニング/聴く」なんです。だから自己表現をしているっていう感覚は僕の中には無くて、ただ知りたいことがあって、知ろうとしている僕のプロセスだったり、知ったこと、あるいは知ったと自分が感じたことを共有するために活動しています。
すごいことを発見してしまった、世界にはこんなことがあるんだっていう驚きや発見を、自分だけが知っているのはもったいない。あと、自分が一生懸命追及して知ったことって、他の人は多分そんなに簡単にはたどり着かないから。でも興味のある人がいるかもしれないって思うと、それを開示することが自分の責任だと思っている面はあると思います。

ー これまでの作品は、mamoruさんの驚きや発見を開示する方法のひとつでもあるのですね。「責任」という言葉に重みを感じます。

mamoru:今のプロジェクト〈声を挙げ、絶やさない/NEVER BE NO VOICE〉に取り掛かる以前は、ほとんど誰にも知られていないような歴史を深く掘り下げていくことから生まれる作品が多いんです。この10年ぐらいですかね。
それはもうまさに僕にとっては「声」なんだけど、大部分から忘れられた、あるいは声を奪われた状態の、小さな振動しかもう発していないものなんです。だから、一般的な歴史では大きなこととして扱われない。でも僕にとってはすごく重要だと思う。そういう何かを知った時に、ある意味その歴史の中に垣間見える世界の姿、それは多分普遍的なものを持っているし、僕だけが知っていていいものではなくて、たまたまその声を僕が聞き取っただけだから、おそらくその声を届ける使命というか、責任が発生する。聞いた以上は。作品にするっていうのは、半分以上は責任感でやっているんです。

mamoru《私たちはそれらを溶かし地に注ぐ/WE MELT THEM AND POUR IT ON THE GROUND》2020年(シングルチャンネル・ビデオエッセイ、HD、ステレオ、20’29″)※リンクは予告編

mamoru:あとの半分は、作品化する時にもう一段階知ることができるっていうのを、経験上知ってるからやっています。パフォーマンスで他の人に見てもらって、その声を自分が転送する立場になった時にしか分からないことがあって、大げさに言えば憑依っていうか、自分を完全に空っぽにして、その声を届ける立場になる。僕を貫通するっていうのかな。
向き合ってる時に知れることと、発見して伝える相手を向いて、自分を通して逆に流れていった時に、そうだったんだみたいな。そういう感覚を持つことがあるので、本番、僕は本番って呼んでるんですけど、その本番でしか知れないことがあるから、僕にとっても本番はもう一段階知るギアが深く入る。そんな気がしますね。

ー さきほど、声ですらなく「小さな振動」と表現されましたが、そういった振動を、意識的にキャッチするようになった転機があったのか、それとももうずっとそういうのが自然と気になってきたのか。その最初のきっかけみたいなものはありますか。

mamoru:そういう音を…音そのものの探求をやっていったときからでしょうか。日常の中の小さい音とかが気になり出して、この間のワークショップの時もやったサランラップの音とか(2)。例えばサランラップとかペーパータオルとかって、基本的に日常では捨てられちゃうものです。その音を聴くとか聴いてもらうとかっていう行為が入るだけで、その人にとってサランラップの意味が広がるというか音源になると発見される。そうなってくると価値が変わる。
今後バイオグレード的な製品が作られていくと思うと、サランラップって元々プラスチックの石油精製品だから、非常に二十世紀的なもので、いつか必ず博物館に入るんですよ。歴史的な存在としてのサランラップで音を出しているっていう認識もあるんです。それをかなり最初から意識して〈日常のための練習曲/etude for everyday life〉というプロジェクトをやっていました。コンビニでもらったストローが、そういう博物館級の価値をいずれ持つことになるっていうことは考えない、普通は。だけど長い目で見たら歴史ってそんなもんですよね。そういう考えの癖や傾向はずっとあるんです。実際に本当に歴史の狭間みたいな声が聞こえたような気がしたのは、そういう日常の音を気になって色々サンプリングしてた時にも、その前からもあったと思います。

mamoru〈日常のための練習曲/etude for everyday life〉no.12 variation in the bottle、2009年

mamoru:あとは、ワークショップの時も紹介したけど、2011年にベトナムに滞在制作していた時、ハノイの音風景/サウンドスケープをノートにメモし続けてたんですけど、バイクの音がハノイの音だねっていう話を友人にしたら、「確かには今はバイクだけど、10年、15年前は全部自転車の音だったんだよ」って教えてくれたんですね。その言葉を聞いた瞬間、本当にその自転車の音が目の前の音風景に重なって聞こえてくるという経験をしました。リスニングを通じて歴史的な時間のスライドを感じる瞬間で、新しいドアを開いたきっかけではありますね。

ー 5月のワークショップでは、他の人が経験した音のシチュエーションを書いたメモを受け取り想像の中で音を響かせることをしました。他者が聞いたものを改めて私が「聴く」というアプローチがとても新鮮でした。

mamoru環境音として実際に聞いている音に、過去の音を重ねて伝えることができるっていう、その自分の体験をもうちょっと深く知りたいと思っていた時に、府中市美術館から公開制作の依頼が来たんです(3)
実はこういう体験をして、この自分が感じたものをもっと深く知りたいからと、グループでのリサーチを提案しました。武蔵野美術大学の学生何人かと、サウンドアートを勉強した知り合いと、僕自身と。今回の鳥取でやっていることと似ているかも。

センサーを働かせて街を歩いていると、ただの交差点なんだけれど、他と違って一か所だけ斜めに交差してる。何かあるなと。そういうのがきっかけで、その地域の古い地図を集めれるだけ集めて並べてみると、どっかの時点でその斜めが発生していて、実は石炭を運ぶための蒸気機関車がそこに走っていたことが分かる。
結局、今、府中市美術館があるところが、以前は米軍基地の一部で、今も自衛隊の施設が隣にあったりして、そうか、そうなんだって分かる。で、もっと時代を遡っていくと、旧日本軍の、今で言うバイオディーゼルを研究していた施設がそこにあったんですよね。

僕はここに蒸気機関車が走ってたんだって思うと、やっぱりその音を重ねて想像する。現在の府中のいろんな音をみんなで採取して、録音して。いろんな時代の書き残されたもの等をたどっていき、その陸軍の研究施設があったときの資料やそこで働いてた人たちの手記みたいなものを突き合わせていったんです。そうすると、だんだん今の美術館で自分が使ってる公開制作室からこっちの方向を見たら、あの辺に工場があって、あの辺にはこういう建物があってっていうのが、僕は見えるようになってきて、これを音に起こしていってみようと思ったんです(4)。資料にはサウンドスケープとしての記述は一切ないけど、更衣室があったとか、何月何日に空襲警報が鳴ってとか、その日のその場面っていうのがもう想像できるっていうのかな。
最終的にはレクチャーパフォーマンスみたいな形で、そのリサーチした内容を一つの流れに落としました。自分がいる公開制作室で時代がホロホロ変わって、ここにはそんな歴史の地層があるんだと感じられるように、言葉と身振り手振りで表現しましたね(5)

府中市美術館でのパフォーマンス 2013年2月16日 photo: Motoyuki Shitamchi

mamoru:それまで音は消えていくものだと思っていたけど、それは聴き方次第なんだっていうのが、僕にとっては大発見だったっていうことです。そもそも聴くっていうのが不確定的というか、目をつぶって音だけで、これは誰々の足音だと思ってもそれって「想像」でしかないじゃないですか。だからリスニングには答えがない。無くて良いし、想像してこそ、聴こうとしてこそ、聴こえる。きっかけはいつも自分の外にある。だから聴くっていうのは、他者性を認める態度なんだろうなと。そこにすごくこだわっていると思います。
他者性って言うと大げさにかもしれないけど、そもそもみんな違う他者がたまたま今ここに集まっているだけで、こんだけ人がいるなら知らない話も出る。僕の物事に対しての「知りたい」という態度は、自分が正しいかどうかを知りたいのではなく、知らないことを知りたいから。自分が知らないことがあると100パーセント認めてないと、感じ取れないことが世界にはたくさんある。知らないことを知った時、自分もその一部である世界に接した気になる、っていうか。それは、この世界に生きてるっていう実感になる。
僕は昨日も僕だったけど、今日も僕だよねって、それだけで毎日が終わらないためにね。

〈#2へ〉


(1)鳥取市中心市街地にある円筒形3階建ての建物「旧横田医院」を拠点に、年間を通じてアートに関する多彩なプログラムを実施するオルタナティブなアートプロジェクト http://hospitale-tottori.org/
(2)2025年5月24日(土)- 6月22日(日)に県内8か所で実施された「ワークショップ/声を挙げ、絶やさない– NEVER BE NO VOICE in 鳥取 2025 –」を指す。筆者は5月25日(日)と6月14日(土)にちいさいおうち(米子)で実施されたワークショップに参加 https://tottori-moa.jp/event/19002/
(3)THE WAY I HEAR, Fuchu 2012-2013 / 府中市美術館 公開制作57 https://www.afewnotes.com/TWIH_Fuchu201213_jp.html
(4)「1941.10.23/浅間町付近のサウンドスケープを再構成したメモ」 https://www.afewnotes.com/TWIH_Fuchu201213_rs_jp.html
(5)府中市美術館 2013年2月16日 テキスト、パフォーマンス録音より書きおこし https://www.afewnotes.com/TWIH_Fuchu201213_pf02_jp.html


mamoru(まもる)
サウンド・アーティスト。2016 年ハーグ王立芸術アカデミー/王立音楽院(オランダ)アーティスティック・リサーチ修了。聴くこと・リスニングとそのコンセプトの拡張から生まれる独自のリサーチ手法をもとに「あり得た(る)かもしれない」歴史や複数的な世界の姿を紡ぎ出し、遠回りに、迷い込みながら、跳躍的に想像し、パフォーマンス、レクチャー、ビデオエッセイ、音楽などを用いた「語り」によって作品を制作。国内外の美術館、ギャラリー、フェスティバルなどで発表。近年は呼吸法、リスニング、想像すること、声のエクササイズを含むグループワークを元にしたプロジェクト「NEVER BE NO VOICE/声を挙げ、絶やさない」(2021-)展開しており、関連するフィールドワーク(台湾、エストニア)も行いつつ、「コレクティビティー/寄り集ること」と「声」の在り方と可能性の探求を続けている。そして、というか、ちなみにサーフィン&コーヒー&猫Loverである。
www.afewnotes.com
@afewnotes


鳥取県立美術館 企画展〈CONNEXIONS コネクションズー接続するアーティストたち〉

会期|2026年2月7日(土)ー3月22日(日)
会場|鳥取県立美術館 3F企画展示室、1Fひろま
開館時間|9:00-17:00(最終入館16:30)
休館日|月曜日(2/23は開館)、2/24(火)

観覧料|一般:1200 円(950 円)、学生:750 円(600 円)、高校生:500 円(400 円)、小中学生:300 円(240 円)
*( )内は前売料金・20 名以上の団体料金
※未就学児、障がいのある方・難病患者の方・要介護者等及びその介護者は無料
※企画展のチケットでコレクション展もご覧いただけます。
※前売券はオンラインチケットのみの販売です。
※2026 年 2 月 6 日(金)までは前売料金、2 月 7 日(土)から会期中は通常料金です。

主催|CONNEXIONS展実行委員会(鳥取県、鳥取県立美術館パートナーズ、日本海テレビ、TPlat)
公式サイト|https://tottori-moa.jp/exhibition/view/exhibition-04-2/
展覧会チラシ|https://tottori-moa.jp/wp-content/uploads/2025/11/CONNEXIONS_Flyer_web_s.pdf

主な関連イベント
アーティストによるギャラリー・トーク
本展出品作家と展覧会場を巡りながら、展示作品についての制作過程やコンセプトについてお話いただきます。
[日時]2026年2月7日(土)14:00~15:30
[講師]マリアンナ・クリストフィデス、遠藤薫、mamoru、SIDE CORE、刷音、高嶺格
[会場]3F 企画展示室
[料金]要観覧料(予約不要)

mamoru「声を挙げ、絶やさない」
[日時]2026年2月8日(日)、3月1日(日)
     ワークショップ 13:00~14:00
     公開セッション 15:00~15:30
[会場]ひろま、ほか美術館内
[料金]無料

学芸員によるギャラリー・トーク
[日時]2026年2月14日(土)、2月28日(土)、3月7日(土)
    各回とも14:00~15:00
[会場]3F 企画展示室
[料金]要観覧料

 

ライター

水田美世

千葉県我孫子市生まれ、鳥取県米子市育ち。東京の出版社勤務を経て2008年から8年間川口市立アートギャラリー・アトリア(埼玉県)の学芸員として勤務。主な担当企画展は〈建畠覚造展〉(2012年)、〈フィールド・リフレクション〉(2014年)など。在職中は、聞こえない人と聞こえる人、見えない人と見える人との作品鑑賞にも力を入れた。出産を機に家族を伴い帰郷。2016年夏から、子どもや子どもに目を向ける人たちのためのスペース「ちいさいおうち」を自宅となりに開く。