〈鳥取銀河鉄道祭〉のために
宮沢賢治作「銀河鉄道の夜」
#5 天気輪の柱
鳥取県総合芸術文化祭・とりアート2019 のメイン事業〈鳥取銀河鉄道祭〉。宮沢賢治作「銀河鉄道の夜」の物語をベースにしながらも、鳥取県内の魅力的な人々や動きなどを集め最終的に舞台公演を構成していく試みです。ここでは原作「銀河鉄道の夜」の最終稿(1)を13回にわたって紹介していきます。
今回のイラストでは鳥取市内を流れる千代川(せんだいがわ)(2)がイメージされています。
五、天気輪の柱
牧場のうしろはゆるい丘になって、その黒い平らな頂上は、北の大熊星の下に、ぼんやりふだんよりも低く連って見えました。
ジョバンニは、もう露の降りかかった小さな林のこみちを、どんどんのぼって行きました。まっくらな草や、いろいろな形に見えるやぶのしげみの間を、その小さなみちが、一すじ白く星あかりに照らしだされてあったのです。草の中には、ぴかぴか青びかりを出す小さな虫もいて、ある葉は青くすかし出され、ジョバンニは、さっきみんなの持って行った烏瓜のあかりのようだとも思いました。
そのまっ黒な、松や楢の林を越えると、俄かにがらんと空がひらけて、天の川がしらしらと南から北へ亘っているのが見え、また頂の、天気輪の柱も見わけられたのでした。つりがねそうか野ぎくかの花が、そこらいちめんに、夢の中からでも薫りだしたというように咲き、鳥が一疋、丘の上を鳴き続けながら通って行きました。
ジョバンニは、頂の天気輪の柱の下に来て、どかどかするからだを、つめたい草に投げました。
町の灯は、暗の中をまるで海の底のお宮のけしきのようにともり、子供らの歌う声や口笛、きれぎれの叫び声もかすかに聞えて来るのでした。風が遠くで鳴り、丘の草もしずかにそよぎ、ジョバンニの汗でぬれたシャツもつめたく冷されました。ジョバンニは町のはずれから遠く黒くひろがった野原を見わたしました。
そこから汽車の音が聞えてきました。その小さな列車の窓は一列小さく赤く見え、その中にはたくさんの旅人が、苹果を剥いたり、わらったり、いろいろな風にしていると考えますと、ジョバンニは、もう何とも云えずかなしくなって、また眼をそらに挙げました。
あああの白いそらの帯がみんな星だというぞ。
ところがいくら見ていても、そのそらはひる先生の云ったような、がらんとした冷いとこだとは思われませんでした。それどころでなく、見れば見るほど、そこは小さな林や牧場やらある野原のように考えられて仕方なかったのです。そしてジョバンニは青い琴の星が、三つにも四つにもなって、ちらちら瞬き、脚が何べんも出たり引っ込んだりして、とうとう蕈のように長く延びるのを見ました。またすぐ眼の下のまちまでがやっぱりぼんやりしたたくさんの星の集りか一つの大きなけむりかのように見えるように思いました。
〈#6銀河ステーション へつづく〉
1:「銀河鉄道の夜」は宮沢賢治が1933年に亡くなるまで繰り返し推敲されています。ここでは最終稿と呼ばれる第四次稿を順に紹介していきます。
2:鳥取県東部の八頭郡智頭町の沖の山に源を発して北流し、鳥取市で日本海に注ぐ川。河口一帯には鳥取砂丘が広がり、中流の鳥取市用瀬は流し雛で有名。
イラスト:鳴海 梓
天気輪の柱は宮沢賢治の造語だそうで、ここから始まる世界の展開を象徴するよう、光を感じる不思議な三角柱を描きました。この原っぱのイメージは鳥取県の東部、八頭郡智頭町および鳥取市を流れる千代川(せんだいがわ)の、かつて職人が傘を作っていた河川敷をイメージしました。鳥取市内の河川敷は今はもう大きな道路になっています。
鳥取銀河鉄道祭
演劇・音楽・ダンスの異ジャンルバンド「門限ズ」と一緒に、宮沢賢治『銀河鉄道の夜』を題材にした音楽劇を鳥取県内の皆さんで作ります。公演は2019年11月2日・3日にとりぎん文化会館で開催される〈ゲキジョウ実験!!!「銀河鉄道の夜→」〉。また「すべての人が芸術家である」という賢治の思想に基づき、県内様々な地域での活動や人々の暮らしをリサーチ、紹介しています。〈鳥取銀河鉄道祭〉は鳥取県総合芸術文化祭・とりアート2019のメイン事業です。
公式HP https://scrapbox.io/gingatetsudou-tottori/
Facebook https://www.facebook.com/Gingatetsudou.Tottori/
11月鳥取公演の美術制作メンバーを募集中!!!
〈ゲキジョウ実験!!!「銀河鉄道の夜→」〉では、舞台美術・衣装などを制作する「銀鉄美術部」のメンバーを募集しています。応募詳細やこれまでの活動の様子など、詳しくはホームページをご覧ください。
問い合わせ
鳥取銀河鉄道祭実行委員会
E-mail. gingatetsudou.tottori@gmail.com
Tel. 080-3890-0371(野口)