ひやまちさととレンレンの
あっちーこっちー
#3 鳥取R29フォトキャラバン
10周年記念特別展示会
『ぼくの、わたしの、みんなの国道29号』
コラム「あっちーこっちー」は、鳥取県若桜町でギャラリーカフェふくを運営する、ひやまちさととその家族「レンレン」が鳥取県内で行われるアートプログラムや企画展、イベントなどに文字通りあっちこっち行ってみる様子をお伝えするものです。つい頭で考えてしまう大人と違い、こどもの感じ方は素直で遠慮がない。ふたりで見つけた発見を、ドキドキしながらお送りします。
第3回目は、2024年11月8日〜11月10日にかけて、まるもビル1F壁面・空きテナントを活用し行われた、鳥取R29フォトキャラバンの10周年記念特別展示会『ぼくの、わたしの、みんなの国道29号』 のレポートをお届けします。
レンレンに、今日は鳥取シネマで公開されたばかりの映画「ルート29」を見に行くよ、と告げるとギョッとされた。「ぼく、映画館はちょっと」と苦い顔をする。そう、私は初めての彼の映画体験でやらかしてしまったのだ。日頃より慣れない場所へ滞在するのが苦手なレンレンを、私が見たいからという理由で連れて行った宮崎駿のアニメ映画「君たちはどう生きるか」。初めての映画館で、暗い、音が大きい、鳥が怖い、など彼の苦手な要素が満載でほぼ最初から最後まで、私にしがみついて「帰りたい」を連呼していた。その映画館へまた僕を連れ行くなんて、お母ちゃん、、、。そんな視線を感じつつ、
「でもレンレン、今回の映画には学校のお友達のMちゃんたちも映ってる。せっかくだし、見ようよ」「うーん」「それじゃあ、行く前にピザを食べて、百貨店の回るお菓子屋さんでお菓子を買って行くのはどう?」「まあ、それなら」「それに水本さんも展示しているのよ」「あっ、わかった!あっちーこっちーのやつやるんだろ!」「ばれた〜」というわけで、今回もスムーズに?「あっちーこっちー」の取材のためにレンレンを車に乗せて、久しぶりに山間の若桜町から鳥取の街中へお出かけすることになった。
映画「ルート29」とは若桜町出身の詩人 中尾太一さんの詩「ルート29、解放」を原作として脚本が書かれた作品で、若桜町や鳥取県内でもロケがあり、話題の作品だ。その同じ建物の1階の空き店舗を活用して鳥取R29フォトキャラバンの10周年記念の展示をするんだよ!と、写真家の水本俊也さんからお知らせをいただき、作品の意図も、作っている人たちも、生まれた経緯も全然違うけれど、共通する「R29 / ルート29(国道29号)」テーマの2本を同時に見られることを楽しみにやってきました。
会場のまるもビル1Fには、10年の活動の様子をポスターにデザインした、カラフルなパネルがたくさん並んでいました。会場外の大きな壁面には、撮影地をイラストマップにしたものが展示され、映画館帰りの方もたくさん見ておられました。
そもそも鳥取R29フォトキャラバンとは、どのような活動なのでしょうか。主催するのは、写真家の水本俊也さん。鳥取県八頭町の出身で横浜に在住の写真家です。お仕事では度々クルーズ船に乗船し、南極や世界各地での撮影を行っています。
鳥取R29フォトキャラバンは2015年より始まった「日本風景街道」に認定された国道29号沿線の自然と風景を子どもたちがカメラで切り取ってきたプロジェクトです。子どもたちはキャノン株式会社の協力でデジタル一眼レフカメラを使用して撮影。鳥取県内だけでなく都市部からの参加者も可能な、夏の恒例イベントとなっています。
鳥取R29フォトキャラバンは小さな子どもにはコンパクトデジカメを、少し大きくなったら一眼レフを貸し出して、撮影会を行っています。私が運営するギャラリーカフェふくがある若桜町が撮影の舞台となることも度々あります。水本さんは毎回、カメラの機能についてのシンプルな説明を行い、子どもたちは、すぐ撮影場所に出かけていきます。そして撮影後にみんなでその場でプリントし、それぞれの写真を鑑賞する時間が始まります。そこに写されたものは、大人の目には写りにくい気づきが満載です。それは写真的に芸術的な価値があるかという尺度では決してなく、君の目に映ったものを、ほかの人にも見せてあげようね、という楽しい時間になります。夏の暑い日に、カメラを下げた子どもたちの日焼けした顔や光る汗を見ると、私は宝物のようだなと、その時間を胸にそっとしまってきました。また水本さんはいつも子どもたちと同じような様子で、ああ、大きな男の子がここにもいるんだな、なんて思ったり。
鳥取R29フォトキャラバンにとって、子どもたちの保護者や、地域のボランティアの他にも、鳥取市でデザイナーをされている小谷真之介さんのサポートも大きな存在です。10周年記念特別展示会『ぼくの、わたしの、みんなの国道29号』 では、小谷さんが活動の様子をデザインしたパネルが並んでいました。このプロジェクトを通して、小谷さんは次のように感じているそうです。
「まず、子どもを対象に写真のワークショップを定期的に開催する事業は、鳥取県内では他にないのではと思います。鳥取R29フォトキャラバンは、この活動が地域の再発見につながる、という理念に基づいていて、愛郷心を育てるという目的があり、そこに共感した保護者が子どもを参加させている。または写真に興味がある子が必然的に集まる。偶然ぶらっと行ってみたら楽しかった、そこからカメラや写真に興味を持っていったという子もいると思う。10年の活動の中で、10歳だった子が20歳になり写真に関わる進路を選んだ人もいると聞くし、鳥取県のジュニア県展で特別賞を受賞している子もいる。撮影地では、地域おこし協力隊員や地元の写真家など、ローカルの人が導く役になっているし、子どもの写真を通して、大人にとっての気付きがたくさんある。このプロジェクトを通して【子どもは新発見・大人は再発見】というテーマが地域の魅力を未来へ残していくことにつながっていっている実感があります」
鳥取R29フォトキャラバンの告知物にはスタート時から「新発見!再発見!!大好きなマチの『未来』を切り撮ろう」というキャッチコピーがあります。それは、主催の水本さんの想いが込められていました。
「このプロジェクトの始めから『未来』という言葉を大切にしていました。子どもたちが切り撮る写真によって、大人たちはたくさんの気付きをもらいます。そして見過ごしてきた地域の魅力を再発見することができる。星空、虫、自然、鉄道、砂丘など多様な撮影スポットがあり、アクティビティがある、子どもも大人も楽しめる鳥取ならではのプログラムになってきている。実行委員会形式で続けてこられたのも、写真と子どもを通して関わることができた保護者との繋がりがあったからこそ。これからも、この活動を続けていきたい」
水本さんは、熱い熱い気持ちと行動力で周りを巻き込みながら、10年の活動を続けてこられました。そして、どうやらこれからも続けていくようです。その間に出会った子どもたちが、これからどんなふうに鳥取のアートシーンや地域での活動に関わるようになるか、楽しみな未来が見える気がします。大人が、子どもたちのために手足を動かしたその一つ一つの積み重ねが明るい未来へつながることを、このプロジェクトは示しているのだなあと思いました。
そういえば、初めて私と水本さんとが出会ったのは鳥取R29フォトキャラバンが主催する「写真の楽校」というプログラムで講師の一人として参加した時です。私のお腹には5か月になったレンレンがいて、絶賛つわりの真っ最中。すぐに横になる講師でした。その翌年、水本さんに招聘されAIR(アーティストインレジデンス)に参加し、1歳になったばかりのレンレンを背負って、真冬の若桜〜八頭で1か月の滞在制作を行いました。
その当時の記事はこちら→ https://totto-ri.net/news_r29air_exhibition/
その後の鳥取R29フォトキャラバンのMAPイラストを描かせてもらったりしているうちに、気がつけばレンレンはもうすぐ8歳です。おお、時間の流れの早いこと、早いこと!お腹の中にいた時から今日まで、節目ごとに水本さんに会っているということにちょっと涙がほろりとした母でした。『ぼくの、わたしの、みんなの国道29号』 の会場を後にして、近くにあるヲサカ文具店にあるジューススタンドめじろで水本さんとレンレンと3人でジュースを飲みました。プロジェクトを運営していくことの問題や、これからの課題について触れることもありながら、その先にある「未来」という灯台が見える限り、なんとなく私たちは続けてしまうよね、という同士にも似た感情を確認しながら。暮れるのが早い鳥取の冬の町に、このジューススタンドの灯があってよかったよね、ということで、7歳の君と水本さんがここにいる瞬間を、お母さんは心のカメラで切り撮ったのでした。
鳥取R29フォトキャラバン
写真家の水本俊也(鳥取県八頭町出身、神奈川県横浜市在住)を中心に、2015年より活動を開始。近年は小中学生だけでなく、高校生や大人などが参加し、国道29号沿線(鳥取市~八頭町~若桜町)の自然と風景をデジタル一眼レフカメラで切り撮り、地域の魅力を新発見、再発見している。撮影した写真でパネルやポスターを制作し、県内外で展示する。また写真と鳥取特産の因州和紙を組み合わせることで、地域特有の文化構築を目指し、アートとしての写真の可能性を広げることを目指している。
問い合わせ先|
鳥取R29フォトキャラバン
https://road29photocaravan.tottori.jp
鳥取R29フォトキャラバン
10周年記念特別展示会
『ぼくの、わたしの、みんなの国道29号』
会 期|2024年11月8日(金)〜11月10日(日)
会 場|まるもビル1F壁面・空きテナント