CONNEXIONS展関連イベント:mamoru「声を挙げ、絶やさない」リスニングと想像力のワークショップ及び公開セッション レポート

2026年3月1日、鳥取県立美術館の企画展〈CONNEXIONS〉の関連イベントとして、出展作家の一人mamoruさんによるワークショップ及び公開セッションが開催されました。「どうすれば、ひとつの声を長く響かせられるだろう?」という問いに様々な方法で向き合った当日の様子をトットライターの綾仁千鶴子がお届けします。


《NEVER BE NO VOICE/声を挙げ、絶やさない》は、2021年、新型コロナウイルスまん延期の終わりごろに始まった「寄り合うこと(コレクティビティ)」と「声」をめぐるリサーチ・プロジェクトである。プロジェクト名には、「声がない状態は存在しない」という意味も含まれている。「声を出すこと」「集まること」が制限された状況において、mamoruさんに生まれた「声がない状態はこれまでもないし、これからもない」という信念が表れているようだ。この状況を超える手立てになるのでは、という想いから生まれたプロジェクトの中心には、「長く響く人の声を聴いてみたい」という彼の長年の願いがあるという(1)

自らの作品について語るmamoruさん

CONNEXIONS展の展示作品《声を挙げ、絶やさない ― 声(々)にまつわる思索、2021ー2025》では、プロジェクトの映像や声(々)に続いて、台湾の原住民の一族(プユマ族)の歌のリサーチ、エストニアの歌の祝祭のリサーチ映像が映し出される。言語の違いを超えて、人々の重ねる声の響きに圧倒された。そして、それぞれの民族が辿った歴史を垣間見る。声をめぐるmamoruさんの思索の旅を追体験することで、彼の中で温めていた「長く響く人の声」のイメージが伝わってきた。……とはいえ、この日がmamoruさんのワークショップ初体験の私にとって、プロジェクトの映像におけるハミングの連なりから何が生まれているのか、それが何なのか、まだピンとこない。mamoruさんの「声を出せば何なのか分かると思う」という言葉に期待しつつ、ワークショップに参加した。

mamoru〈日常のための練習曲/etude for everyday life〉no.12 variation in the bottle、2009年(提供:mamoru)

mamoruさんは、ピアニストとして活動していたが、腱鞘炎でピアノが弾けなくなったことから、「リスニング/聴くこと」を基本的態度とするリサーチと実践に移行し、得た発見をもとにしたパフォーマンスやインスタレーションを行っている(2)
これまでの活動として、「日常のための練習曲第12番サランラップ」(『日常のための練習曲』(3)所収)を紹介された。これは、サランラップを丸めてガラス瓶に入れ、ほどける時の音を聴くというのもの。配られた冊子には、日常における音についての発見を、みんなで体験するいくつかのプログラムが収められている。用いられるのは氷やハンガー、プラスチックストロー、インスタント麺などありふれたもので、そこから生まれる音――聞いたことはあっても、聴き入ることはなかったもの――が、mamoruさんのアイデアによってetude(練習曲)となり、参加する人たちに笑顔が生まれている。小さな音に耳を澄ます行為は、ちょっとした祈りのように見えた。

ワークショップでは、自分たちがいる場所との「チューニング」を行ったうえで声を出す。呼吸する、聴く、想像する、声を出すという流れで行う。まずは呼吸。胸・腹・丹田を意識して、鼻から吸い鼻から吐く。普段は意識しない、舌の位置にも意識を向ける。次に、聴く。30秒の中で何が聴こえるか。空調、カメラのシャッター音、時計の針の音、呼吸の音、調光器の音、人の声など、参加者で気づきを共有する。誰かの話を聴いて、その音を想像することもリスニングといえる。そして、想像するエクササイズ。「鳥のさえずり」「雨」「風」「強い風」「あ~あ~、聞こえますか」などのテキストを見て、どんな景色が見えるか?どんな状況か?それぞれが音を想像する、それも音だとmamoruさんは考えている。そこから30分間、部屋を出て、それぞれが気になる音を美術館館内で探す「search(調査)」の作業。屋内と屋外での音の聴こえ方の違い(混ざっている音/独立して跳ねる音)、二重扉の間で生じる強い風の音、駐車場に車が入ってくるときのカタンカタンという金属音。こどもの声に癒しを感じたという人もいた。それぞれが見つけた音の風景を想像する。

いよいよ声を出す。公開セッションに参加する人も続々と加わり、総勢40人ほどに。カウントとともに鼻で呼吸を行うと、いつもより声が長く続くようだ。自分が感じている音でまずハミングを行い、次に周りの人の声を聴いて音程を合わせる。ハミングを使って、色んなやり方で声を重ねていく。例えば、前の人からの声を受け取り、音程を合わせ、(声を絶やさないように)次の人に託したり、5人ずつのグループで音程を合わせ、グループごとに異なる音程を重ね合わせたり。

途中からは部屋を出て、美術館の館内を巡りながらハミングを続けた。生まれた音を聴くため、列になった参加者はmamoruさんが名付けた「キャタピラ方式」で進む。最後尾の人からハミングをやめて他の人の出す音を聴きながら列の前方に進み、後続の人は前の人に付いていく流れ。列に戻るとまたハミングを続ける。1階から2階、3階へ、そして1階に設置された《風と太陽の美術館/Museo Aero Solar》の作品内部や、二重になった自動ドアの間のスペースなど、館内の展示室以外のスペースを移動しながらハミングは続く。音が複雑に重なり合い、これまで聞いたことのない響きが生まれている。階段の吹き抜けでは、人々の声(々)が渦巻くように混ざり合い、中世ヨーロッパのグレゴリオ聖歌を彷彿とさせるような響き。声と声が重なり合い、うごめいて波打つ中に存在する、なんともいえない不思議な感覚を覚えた。mamoruさんが「声を出せば分かる」と言っていたのはこういうことか! 声の波に包まれる心地よさ、ちょっとした浮遊感を感じる。「長く響く人の声」がここに実現し、参加者はそれを共有している。「外に開いた耳は内側に返ってくる」というmamoruさんの言葉を思い出す。聴くことは、ただ外に向けた行為ではない。同時に、自分の中の何かに気付き立ち止まること――そこから生まれる何か。個々の内に生じる「声」を聴くことをひっくるめた行為なのだ。

個人的に印象深かったのは、ハミングの次に、それぞれが思いついた言葉の一文字目(ハミングのンー以外の音)を自由な音程で発声したときの感覚だ。舌の位置も意識しながら、即興的に「あ――――」とか高めに「は~~~!」と発声しているうちに開放感に満たされ、ひたすら声を挙げ続けていた。こんな風に無心で声を挙げたのはいつぶりだろう。古の人々が雄たけびを挙げたときもこんな風だったのだろうか。歌以前、言葉以前、人類の原初の記憶につながる感覚に襲われた。

公開セッションには、2025年に鳥取県内8か所で行われたワークショップの参加者も集まり、声を掛け合う和やかな雰囲気に包まれた。1年間、プロジェクトを通じて声を重ねた人々のつながりがあってこそ、今日の素晴らしい声の響きが生まれたのかもしれない。

さて、ハミングを重ねるというこの密やかなムーブメントがもたらしたものは何だろう。一人ひとりの声が違うように、プロジェクトの参加者によって思いは色々あるだろう。私はこのワークショップを通じて、自身の声と人の声に耳を澄ませ、その重なりが生み出す力に新鮮な驚きを覚えた。声を発することへの警戒心が自身の中にあったことにも気付いた。声を通じて連帯する人々の営みからは、未来に向けた大切なヒントが隠されているように思えた。参加者それぞれが心に抱いた思いを、自身のハミングとして響かせることで、静かな波紋のように鳥取県に広がっていく景色を想像した。

▶mamoruさんによる当日のフィールドノートもぜひご覧ください。声(々)の録音も聴くことができます。

トップ写真および4枚目以降提供:鳥取県立美術館 photo: Ryoko Tanaka


(1)インタビュー +○++○な人「mamoruさん(サウンド・アーティスト)♯2 歴史的な状況としての自分を生きる」を参照。https://totto-ri.net/interview_mamoru002/
(2)インタビュー +○++○な人「mamoruさん(サウンド・アーティスト)♯3 人の声が持つ、音楽以前の生まれたての響き」を参照。https://totto-ri.net/interview_mamoru003/
(3)mamoru『日常のための練習曲』、YUKA CONTEMPORARY、2011年。


mamoru「声を挙げ、絶やさない」
リスニングと想像力のワークショップ及び公開セッション

[日時]2026年3日1日(日) 13:00ー16:00
[講師]mamoru
[会場]鳥取県立美術館 館内
※2月8日(日)の「公開セッション/体験ワークショップ」は悪天候のため中止となった。本ワークショップの最終パート(15:30~16:00)を公開セッションとして実施。

企画展〈CONNEXIONS コネクションズー接続するアーティストたち〉
会期|
2026 年2月7日(土)~3月22日(日)※終了しました
会場|
鳥取県立美術館 3F企画展示室、1Fひろま
主催
| CONNEXIONS 展実行委員会(鳥取県、鳥取県立美術館パートナーズ、日本海テレビ、TPlat)
公式サイトhttps://tottori-moa.jp/exhibition/view/exhibition-04-2/

 

ライター

綾仁千鶴子

関西を転々としたのち、進学のため1993年島根(松江市)へ。アートプロジェクトや仕事を通じて文化・芸術に携わる。母の出身地である鳥取(若桜町)は毎年夏休みを過ごした、大切な心のふるさと。鳥取~島根でヒト・コト・情報の往来が活発化することを願い、トットの活動にライターとして参加。 本を通じて人と出会う場「BookValley」主宰者。2025年3月、京都芸術大学通信教育部 芸術学部芸術学科(アートライティングコース)を卒業。 例えば、映画館を出た瞬間、眼が捉える日常風景がまったく姿を変えてしまうことがある。そんなことを、文章で試みたい。