レポート:「MeetuP vol.05+」—— 社会の一員として、等しく扱われるための挑戦

あいサポート・アートセンターの設立10周年を記念した展示として2025年9月13日からおよそ2週間にわたり鳥取県立美術館で開かれた「MeetuP vol.05+」。「鳥取県立バリアフリー美術館」収蔵作品展示だけでなく2025年大阪・関西万博関連作品もあわせて紹介された会場の様子を水田美世がレポートします。


鳥取県が設置する障がい者文化芸術活動拠点「あいサポート・アートセンター」は、2015年の設立から2025年で10周年を迎えた。7月に開催された記念企画「MeetuP vol.04+」に引き続き、9月には「MeetuP vol.05+」を開催し、障がいのある方のアート作品に出会える機会を積極的に増やしてきた。

鳥取県立美術館の2階に位置するコレクションギャラリー4が本展の会場となった

展示は二部構成となっており、まず来場者を出迎えたのは「鳥取県立バリアフリー美術館 リアル展示」のエリア。鳥取県の障がい者アートに特化したオンライン美術館として2023年にオープンした鳥取県立バリアフリー美術館(以下、バリアフリー美術館)内の常設展示室4・5に展示された作品を紹介するもので、県内の2つの施設で生まれた作品を鑑賞することができた(1)

濱田聡《顔、かお、顔》2024年 ※令和6年度鳥取県障がい者芸術・文化作品展 あいサポート・アートとっとり展 美術部門 最優秀賞
濱田聡《顔、かお、顔》2024年(部分)

 その中でまず目を引いたのが、十人十色(鳥取市用瀬町)に所属する濱田聡さんによる平面作品《顔、かお、顔》(2024年)だ。鉛筆で画用紙の一面にさまざまな人の顔を描き込んだもので、どの顔の表情も髪型も眼鏡や帽子等の装身具に至っても、何一つ同じものがなく、それぞれの口元からはおしゃべりする声も聞こえてきそう。ずっと眺めていても飽きない魅力ある作品だった。

梅田佳輝《バスターミナル》2016年

鹿野第二かちみ園(鳥取市鹿野町)に所属する梅田佳輝さんの《バスターミナル》(2016年)は、ご自身にとって身近な路線バスを描いたもので、白地に赤いストライプが映える車体の「日交バス」を十二分に味わえる。規則的な並びの中にサイズの異なるバスも配置し、作品に良いリズムを生んでいる。画面の上だけでは飽き足らず、額として付けられた縁の枠にも小さなバスが列を成し描かれていて、バスへの純粋な想いの表出を感じることができた。

さらに奥へ足を進めると、2025大阪・関西万博 文化芸術ユニバーサル・ツーリズムプロジェクト連携・協働プログラム「障害者の文化芸術国際フェスティバル」アール・ブリュット展 in 鳥取県立美術館の展示エリアになった。こちらは、大阪・関西万博で10月8日(水)~11日(土)に開催された「障害者の文化芸術国際フェスティバル」のプレイベントとして、全国から集まった障がいのある作家達の多様な作品が紹介されていた。

前田泰宏《石灰華の滝》2014年(右) 他

アクリル絵の具をたっぷりと用いて色彩豊かに描く前田泰宏さんは、2003年から西淡路希望の家(大阪市東淀川区)の美術部で絵画制作に取り組む作家で、自ら旅先で撮影した写真や購入したポストカードをモチーフに描くそう。大阪府内の障がいのあるアーティストの作品を現代美術のマーケットに紹介するプロジェクト「capacious(カペイシャス)」のサイト(2)には、前田さんの制作の様子が動画で紹介されており、断片化した色彩を画面に乗せ、絵の具の重なりで作品に厚みを獲得していく筆づかいには不思議と説得力がある。

上記二つの展示エリアを区切る壁面の両面には、MeetuP vol.05+内の特別企画として、大阪・関西万博 関西パビリオン・鳥取県ゾーンのスタッフ着用「スカーフ」のデザインに活用された作品(原画)6点のうち、4点が紹介された。デザインは一般社団法人COOD CREATORSが取組む「山陰ご当地フォントプロジェクト」により制作されたもので、障がいのある作家の絵や文字をもとに地元のデザイナーが制作したパターン(図柄)やフォント(字体)を、企業等の制作物への活用やグッズ販売、デジタルデータの販売などによって収益化し、利益の一部を障がいのある作家に分配する活動の一環として実現した。

川上敏郎《無題》2018年

このうち、もみの木福祉会(米子市)の川上敏郎さんの《無題》(2018年)は、ゲルインクボールペンを使用し細い線を塗り重ね数ヶ月を掛けて制作されたものだ。川上さんの制作活動は2012年頃に「木」をモチーフとして描いたことが原点となっているが、何枚にもわたって繰り返し画用紙に向き合い、色を載せていく過程でいつしか木としての形は薄れていったようだ。この作品は、まるで木の枝葉を揺らす風が、たなびく色彩の帯となって現れているように感じる。バリアフリー美術館には、この作品以前に描かれ、木の存在を明確に画面にとらえたと見受けられる作品も収蔵されている。ぜひご覧いただきたい。

門脇 悟《魚》2018年

あかり広場(米子市)の門脇悟さんの《魚》(2018年)に描かれた魚は、実は一様ではなく数十種類に渡るという。鮮やかな赤い絵の具にはほとばしる生命力を感じ、その上に重ねられた色鉛筆からは大小さまざまな魚の振動が伝わってくる。バリアフリー美術館には、門脇さんの他の作品も多数収蔵されており、この作品制作の頃と比較して近年の作品はさらに力強くダイナミックに変化している様子もうかがい知ることができる。
バリアフリー美術館で作品を収蔵する意義は、二次的な利用に資することだけでなく、作品の変遷を通じて作家自身の歴史が記録されていくことにもあると、川上さんや門脇さんの作品を通じて思っている。

障がいのある個人にとってのアート活動は、社会との重要な接点であるだけでなく、近年は余暇としての取組みを超え収益を得るための「仕事」としての認識も広がってきた。県外では障がいのある方のアート活動が一般就労と遜色ない賃金を得られるようになった事例も出ているが、そこには支援をする周囲の人間や関わる施設等が、個々の人の意思や趣向や一つ一つの選択を柔らかく受け止め、それぞれの人の表現活動として地道に後押しし支えてきた背景がある。さらに、福祉や支援という枠を超えて果敢に挑戦していく意識の有無で、おのずと結果が変わってくるようにも思う。
誰もが社会の一員として等しく扱われることへの挑戦は、まだまだ道半ばであり、どんな環境で誰に出会えるかで差異が生まれてしまう。そのような現状において、鳥取県が障がい者アートに並々ならぬ力を入れて取組む意義は大きいだろう。情報発信や意思伝達、移動等に限りある当事者にとって、世界と繋がることができるデジタル空間で個人としてのあり様を示すことのできる場が設けられたことは大変意味のあること。今後の活動により一層期待したいし、注視していきたい。


(1)鳥取県立バリアフリー美術館では、収蔵された作品のアーカイブ機能にも力を入れており、この記事に掲載した県内作家の作品画像や詳細な情報は全てこのサイトで参照可能。 https://tottori-bfm.jp/

(2)大阪府内の障がいのあるアーティストの作品を現代美術のマーケットに紹介するプロジェクト「capacious(カペイシャス)」参照 https://www.capacious.jp/artists/yasuhiro-maeda


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※この記事は、あいサポート・アートセンターからの依頼を受けて制作したPR記事です。

ライター

水田美世

千葉県我孫子市生まれ、鳥取県米子市育ち。東京の出版社勤務を経て2008年から8年間川口市立アートギャラリー・アトリア(埼玉県)の学芸員として勤務。主な担当企画展は〈建畠覚造展〉(2012年)、〈フィールド・リフレクション〉(2014年)など。在職中は、聞こえない人と聞こえる人、見えない人と見える人との作品鑑賞にも力を入れた。出産を機に家族を伴い帰郷。2016年夏から、子どもや子どもに目を向ける人たちのためのスペース「ちいさいおうち」を自宅となりに開く。


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