「ミュージアム研究者が鳥取で開館したばかりの美術館で現代美術キュレーターに話を聴く」レポート

日本における最後発の県立美術館として知られる鳥取県立美術館。その開館記念の一角を担った企画展〈CONNEXIONS | コネクションズ ー接続するアーティストたちー〉が、どのように発案され実施に至ったかを知ることで、これからの公立美術館の姿勢やあり方を考えるトークが開かれました。


2026年2月21日、鳥取県立美術館にてトークイベント「ミュージアム研究者が鳥取で開館したばかりの美術館で現代美術キュレーターに話を聴く」が開催された。登壇したのは、CONNEXIONS展のキュレーションを担当した鳥取県立美術館学芸員の赤井あずみさん、ミュージアム研究者で武蔵大学教授の小森真樹さん、美術史を専門とする鳥取大学地域学部准教授の筒井宏樹さんの三名。開館から一年を迎えようとする美術館を舞台に行われた今回の鼎談では、展覧会をいかに作るかという実践的な話題にとどまらず、ミュージアムという場を誰に、どのように開いていくのかという、今日の美術館にとって根本的な問いが多角的に論じられた。

トークの前半では、CONNEXIONS展そのものが議論の出発点となった。今回の展覧会で新作が多くなった理由について、赤井さんは、作家たちに「いま何に関心があるか」を問い、その感覚を作品として示してほしいと依頼したためだと語る。震災以後、社会に大きな変化をもたらす出来事が続き、「現在」を長い時間の幅で安定的に捉えることが難しくなっている。だからこそ、そのつど切実に立ち上がる感覚を、展覧会というかたちで提示する必要があったのだという。

[上]CONNEXIONS展のセレモニーに集った出品作家たち [下]作品解説をする赤井さん(2026年2月6日)

そこで印象的だったのが、赤井さんから語られた作品選定の基準だった。現在を表現することが不可避的に引き受けなければならない政治性をどのように扱うか、という問いが筒井さんと小森さんから投げかけられると、赤井さんは次のように答えた。同時代における社会性を直接的な政治表現として示すことよりも、今回の企画展ではもっとミクロな実践にフォーカスを向けたかったという。生活や個人の振る舞いに近いところにある活動が、別の活動へとつながり、他者とともに行われることで、結果的に大きなものを動かしていくかもしれない。そうした感覚を基準に作品を選んでいったというのである。

ここで特筆すべきは、理念や主張を先に掲げるのではなく、まず現実の生活のなかにある具体的な実践に目を向けようとする姿勢である。社会を抽象的な言葉で捉え、その輪郭を概念として整えることはもちろん必要だろう。しかし、アートやミュージアムが実際に社会と関わろうとするならば、それだけでは十分ではない。日々の生活に根ざした小さな実践や、個人のレベルでのふるまいに足場を持つこと。赤井さんの発言からは、制度化されたアートの内部だけでは完結しない、その外部に開かれた実践感覚がうかがえた。

人災や災害で困難な状況にある女性たちとの対話や共同作業から作品を生み出したマリアンナ・クリストフィデスさん(左)
 一般の方々による参加型で〈脱皮的彫刻〉を制作し、 鳥取県立美術館の完成記念式典の様子を再現した高嶺格さん

こうした感覚を補うように、筒井さんからは赤井さんのキュレーションの特質について興味深い指摘がなされた。赤井さんの方法は、短期的に企画のためだけに関係を取り結ぶのではなく、長い時間をかけてアーティストたちとの関係を築いてきたからこそ可能になるものだという。いわば制度の内部にある美術館の仕事でありながら、その基盤には制度の外で培われた人間関係や実践の蓄積がある(1)。今回の展覧会は、その意味で、美術館という制度の内部と、その外部に広がる活動の場とを往還することで成立していたと言えるだろう。

小森さんは、この制度の内と外との往還という論点を、より大きく鳥取という地域性へと繋げて論じる。小森さんは、美術館や大学のような制度の内部に身を置きつつ、その外側でも活動することで、かえって制度そのものをより深く理解できるようになると語る。そのうえで鳥取という土地に目を向けると、ここにはすでに、制度の外側から文化的な関係を育んできた場が存在しているという。小森さんは人類学者マルク・オジェの「非場所」という概念を参照しつつ、鳥取では、たとえば湯梨浜町のゲストハウス「たみ」(2)のように、流動的あるいはノマド的な生き方をする人びとを受け入れながら、関係を生み出す場がボトムアップに作られてきたと指摘する。そうした営みを小森さんは、単なるスペース(空間)を有機的な「場」に変える営みとして捉えている。

この指摘が示唆しているのは、新しい県立美術館が単独で地域文化を担うのではなく、すでに鳥取に存在してきた実践の蓄積をどのように引き受け、接続していくのかという問題である。アートや政治は、制度の内部にだけ存在するものではない。むしろ三名の議論の交点には、それらの活動が制度の外にある私たちの日常にも深く根ざしているという認識があった。鳥取には、制度の外部で続けられてきたさまざまな芸術実践や関係づくりの文脈がある。新たな県立美術館の誕生は、そうした地域の歴史や土壌とどのように結びついていくのか。この問いは、美術館を既存の価値を保存・展示する「テンプル」として捉えるのか、それとも対話のための公共空間である「フォーラム」として捉えるのかという、小森さんが著書『歴史修正ミュージアム』(太田出版、2025年)で論じた問題にも連なっている。

イベントの終盤では、こうした問題系を引き受けながら、鳥取県立美術館という新たな公的ミュージアムをこれからどのような場所にしていきたいのかが、赤井さん自身の言葉で語られた。赤井さんは、「目的を先に設定して、そのために設計されてしまうと失敗することもある」と述べたうえで、「常に有機的で可塑性があるような感覚で、美術館にたずさわる皆で粘土をペタペタと形を変えながら作られていくような感覚」を持っていると語った。そこから見えてくるのは、テンプル型かフォーラム型かといった枠を先に固定するのではなく、実際の関係性のなかで少しずつ姿を変えながら、美術館のあり方自体を育てていこうとする態度である。

あらかじめ設定したゴールに縛られるのではなく、目の前の人との関係や具体的な実践を大切にすること。制度の内部にあるミュージアムでありながら、その外部にある地域の営みや個人の活動に学び、それらと結びつきながら少しずつ形を変えていくこと。今回の鼎談からは、鳥取県立美術館をそのような開かれた場として育てていこうとする構想が、たしかな手触りとともに伝わってきた。これからこの場所がどのように変化し、地域のなかでどのような関係を結んでいくのか、今後の展開が楽しみである。


(1)赤井さんは鳥取市の中心市街地に位置する円形の建物・旧横田医院を拠点としたアート・プロジェクト「HOSPITALE PROJECT」を2012年から実践してきた。本展出品作家のひとりであるサウンド・アーティストのmamoruさんは2014年に個展を開催した後、2017年からは〈知るのつくりかた〉というトークプログラムをHOSPITALE PROJECTの一環として継続している。 http://hospitale-tottori.org/
(2)小森さんは2010年の瀬戸内国際芸術祭に合わせて岡山で実施されたプロジェクト「かじこ」の運営メンバーの一人として、三宅航太郎さん、蛇谷りえさんとともに活動した過去を持つ。「かじこ」はゲストハウス「たみ」誕生のきっかけとなった。インタビュー +○++○な人 「蛇谷りえ(うかぶLLC 共同代表)♯1 10年スペースを運営したら、どんなことが起きるんだろう」参照。https://totto-ri.net/interview_ukabullc001/


CONNEXIONS展関連イベント
「ミュージアム研究者が鳥取で開館したばかりの美術館で現代美術キュレーターに話を聴く」

[開催日時]2026年2月21日(土) 14:00~16:00
[出演]聞き手:小森真樹(武蔵大学人文学部教授/ミュージアム研究)
    司会:筒井宏樹(鳥取大学准教授/美術史家)
    話者:赤井あずみ(鳥取県立美術館主任学芸員)
[共催]武蔵大学人文学会、鳥取大学地域学部附属芸術文化センター

企画展〈CONNEXIONS コネクションズー接続するアーティストたち〉
会期|
2026 年2月7日(土)~3月22日(日)※終了しました
会場|
鳥取県立美術館 3F企画展示室、1Fひろま
主催
| CONNEXIONS 展実行委員会(鳥取県、鳥取県立美術館パートナーズ、日本海テレビ、TPlat)
公式サイトhttps://tottori-moa.jp/exhibition/view/exhibition-04-2/

 

ライター

新松寛明

東京工業大学博士課程単位取得満期退学。哲学・思想研究者。ユクスキュルを中心とする生命記号論やメディア論、記号に関心がある。都市と感性、記号・意味・メディアの問題を横断的に考察。現在は鳥取県で生活しながら、翻訳、批評などを通じて思索を社会に開く試みを行っている。