声を聴き合う対話の場
トットローグ×さんいんダイアローグの会「言葉の持つ力」

トットによる対話のためのプラットフォームづくり、トットローグ。2024年9月8日には一般社団法人コミュニティウェルビーイング研究所の「さんいんダイアローグの会」とコラボレーションしての開催となりました。さんいんダイアローグの会のメンバーでもあるナカヤマサオリさんが当日の様子を届けます。


2024年9月8日(日)にトットローグ×さんいんダイアローグの会をちいさいおうちにて開催しました。この会は、鳥取で暮らす人たちが、話したいことを双方向で話し、個々の考えを共有の財産として可視化しようとの思いから生まれた「トットローグ」と、フィンランド発祥のオープンダイアローグを参考にお互いの〈声〉を聴き合い、語り合う会である「さんいんダイアローグの会」とのコラボレーション企画です。どちらも2021年に始まった鳥取における対話の場と共通点も多く、この度対面の場でのコラボレーションが実現しました。

今回のテーマは「言葉の持つ力」。9月とはいえまだ暑い午後の時間、鳥取や島根、岡山から集まった15人で大きなテーブルを囲み、トット編集部の水田美世さんと、濱井丈栄さん、そしてさんいんダイアローグの孫大輔さんと、原敬さんの4人で、テーマである「言葉の持つ力」についての対話が始まりました。今日のファシリテーターを務める家庭医の孫さんは、この場では「そんそん」。さんいんダイアローグの会では対話の経験の有無など関係なく皆さん対等な立場で、呼ばれたい名前でその場に居ることができます。今回はその方式を採用しました。

そんそんの問いかけをきっかけに、まずは、水田さんの「実は今ラップに興味を持っている」という話が語られます。水田さんは調査の一環で県内各地の様々な立場の方々へ「労働」にまつわる聞き取りをしてきたそう。ラップは弱い立場から突き上げる表現でもあり、集まった皆さんの声をラップという形で昇華できないか模索しているとのことでした。それを聞き、医師であるそんそんは、町で屋台を引きながら出会った人とする話は、診察室でする会話と全く違うという、ストリートでの健康コミュニケーションの話を。精神保健福祉士の原さんは、ラップは依存症の自助グループでの対話と似ていると感じたと話します。今感じたことを言葉にしていく言いっぱなし聞きっぱなしの対話は、一見対話的でないけど自分との内的な対話なのだそう。アナウンサーである濱井さんは、聞いていて感じた、話し言葉と聞き言葉の違いについて語ります。

次に、今度は「リフレクティング」という形式で、今まで聞き役だった参加者の皆さんが、今の話を聞いていて感じたこと、テーマについて思うことなどを自由に話していきます。文化によって言葉の使われ方に違いを感じるという方。外国語の方が日本語よりも自分を表現しやすいと感じる方。同じ日本語でも、標準語よりもその土地の方言を真似て使う方がしっくりくるという移住者の方。その中で、「自分の言葉ってなんだろう」という呟きが、その場にそっと置かれます。表現方法だけでなく、言葉を拾って感情に名前をつけるツールとしての言葉の話、身体がゆるむと言葉が変わるといった感覚的な話。子どもの言葉は、発せられた言葉の奥に「思い」が隠れているという実感など。水に波紋が広がっていくように、話を聞いていて感じたこと、思い出したことをみなさん自由に話していきました。

その後、また最初の4名に戻り、感じたことを話し、最後に参加者一人一人からも一言話してもらい、クロージング。「なにか表現したいものがあって、それを纏うものが言葉では」「受け取り方や重みは、同じ言葉でも変わってくる」「言葉は形にした途端にそれ以外を排除する危険性がある、という随筆家の若松英輔さんの言葉を思い出した」「今の話にこう返ってくるのかと、スリリングな時間だった」などみなさんの新鮮な感想が語られました。また、「テーマトークであるトットローグと、他の人の声を聞いてその場で考えて言葉にしていくさんいんダイアローグの会との違いを感じた」「さんいんダイアローグの会の人たちが積極的に意見を話す姿が印象的だった」といった、それぞれの対話の場の違いを聞けたことも面白かったです。

「言葉のキャッチボール」とよく言いますが、キャッチボールのように相手めがけて投げるのではなく、今日の対話は、自分から湧いてきたものを目の前の水たまりにぽたりと垂らす作業のように感じました。誰かに投げるわけではなく、誰に向けたものでもない。でもその場に自分の言葉や思いを置くことで、波紋は静かにその場にいる人に届く。届く形はそれぞれで、それを受けて何かしなければいけないこともない。

そんそんが最後に話したコップの話が印象的でした。治療的ダイアローグは、普段なかなか言葉にならない思いを言葉として出していくそうです。結論を出すことが目的ではなくて、対話してそれぞれの声を聴き合う(=ポリフォニー)こと自体が目的。それぞれ自分の形のコップをぽんと目の前に置くだけで良い。今日会の最初に、不揃いのカップに入った麦茶が無造作に出された、あんな風に。無理に話をまとめず、そんなバラバラしたそれぞれがそのままそこにあることを感じること自体がダイアローグ・対話なのだと知りました。

また、私が参加していたさんいんダイアローグの会には医療者が多く、無意識下でも対話の治療的側面を考える機会が多かったのですが、今回トットローグとコラボすることで、フラットに「対話」やテーマである「言葉」と向き合えたのも新鮮でした。オンラインではなく、こぢんまりした空間で、同じ皿の梨をつつきながらリアルに人の息づかいを感じることで、自分自身がほぐれていく感覚も味わいました。終わった後の雑談も活発で、これもリアルの良さだなと感じます。

コラボレーション企画の予定は今のところありませんが、トットローグは不定期開催、さんいんダイアローグの会は1~2ヶ月おきに開催予定。さんいんダイアローグの会への参加希望・お問い合わせはinfo@cwellbeinglab.com(孫)まで。

※最後の写真は著者提供


トットローグvol.22「言葉の持つ力」

日時|2024年9月8日(日)14:00-16:00

場所|ちいさいおうち(鳥取県米子市皆生温泉2丁目9-36)

主催|鳥取藝住実行委員会
共催
|一般社団法人コミュニティウェルビーイング研究所
協力|子どもの人権広場
助成|中国5県休眠預金等活用事業2021


 

ライター

ナカヤマサオリ

東京から1年間の国内留学のつもりで鳥取へ来たが、海も山もあって人が少ない鳥取での生活が気に入り、10年以上居ついている。助産師・コミュニティナース。本とことばと民藝と刺繍が好き。現在子育て真っ只中。 photo:波田野州平