鳥取クリエイティブ・プラットフォーム ×トットローグ
「創造的な活動を持続的に運営できるしくみづくりについてのオープンミーティング」レポート

当ウェブサイト+○++○の運営母体である鳥取藝住実行委員会では、2022 年度から「鳥取クリエイティブ・プラットフォーム構築事業」に着手しています。2023年3月26日には県中部の北栄町にて、そのスタートアップも兼ね、持続可能な活動のあり方を考える公開型ミーティングを実施しました。


緩やかなネットワークを繋いでいきたい

鳥取クリエイティブ・プラットフォームでは、多くの団体・個人が相互に知見を共有し、多くの住民が創造的な活動に触れたり関わったりすることで、人口減少で社会的資源が減少する状況においても創造性・革新性にあふれた活動が継続的・連続的に展開され、その恩恵を地域住民が持続的に享受し、他の地域と同等かそれ以上に豊かな暮らしのある地域となることを目指しています。

しかし、鳥取県はもともと人口最小県であり少子高齢化や人口減少は進展しやすく、他県に比較して社会的資源の不足や地域活力が低下しがちという地域性や、支援を行う組織基盤の脆弱性の問題等により、革新的で創造的な取り組みについて適切に評価し、知見の共有をはかる等の、団体間での連携・協同が難しいのが現状です。鳥取藝住実行委員会は、そうした状況をなるべく正確に捉えながら、県内で活動する各団体の代表や参加者の方々が自由な対話を行う場を目指して「創造的な活動を持続的に運営できるしくみづくりについてのオープンミーティング」を開催しました。鳥取県内各地でアーティスト・イン・レジデンスなどを中心としたアートプロジェクトを企画・実践してきた8団体からの参加者を中心に、2025年春に開館予定の鳥取県立美術館の整備局職員や、京都、東京、インドネシアからの参加者も含めた計35名が参加しました。


プラットフォームに求められる役割とは

この事業の概要についてはまず、鳥取藝住実行委員会の委員長であり鳥取大学地域学部准教授の竹内潔さんから説明があり、それを受けて、前半では2022年の9月から鳥取県内でのリサーチを開始した「さっぽろ天神山アートスタジオ」のアート・ディレクターである小田井真美さんを中心に、小田井さんのヒアリングに同行した上海出身、東京在住アーティストの張小船 Boat ZHANG(ボート・チャン)さん、北栄町在住のインディペンデント・キュレーター岡田有美子さんより、2022年度のリサーチの報告と、それを踏まえての2023年度からの動き方の提言がありました。

小田井さんは「鳥取クリエイティブ・プラットフォーム」に関して、「同様のプラットフォームづくりは各地で行われているが、続かないところも多い」と指摘した上で、「2年後に鳥取県立美術館ができるというのは、普段アートに興味のない人も引っ張れるチャンス」「開館により広報が大きく動くときに、地域団体がどれだけ乗っかれるかがポイントになるのでは」とお話しされました。

発表の様子。前方左側のスクリーンではボート・チャンさんの作品を投影

また、美術館におけるプログラムやそれ以外の文化政策に関わる事項については、「行政のみで計画が立てられて実行だけを民間が担うという形ではなく、計画段階から行政へ提言をしていくような機能を持てると良い」「そのためには、組織としてチーム・事務局を設置したり、既存の機能や団体をバージョンアップすることが必要」という提言もありました。

小田井真美 / Mami Odai|1966年広島県生まれ。AIR 事業とその背景など文化芸術活動の営みを支えるインフラ【機能/しくみ/状況】の開発と整備、調査研究に取り組みながら、AIR 事業設計、プログラムディレクターとして運営現場に携わる。現在は「さっぽろ天神山アートスタジオ」のAIRディレクターとして、アーティスト・イン・レジデンス(=AIR)の運営を行う。


「リサーチ活動をするとき、アーティストが一緒だと心強い」という小田井さん。
今回の滞在時には上海出身で東京を拠点とするアーティストのボート・チャンさんが同行されました。

ボート・チャン / Boat ZHANG|1983年中国生まれ、ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジ(Goldsmiths, University of London)卒業。2016年から、主に上海と日本を拠点として活動。2020年、上海から東京に移住。アートが日々の習慣をどう扱えるか、また、慣れてしまっている物事をほんの少し変えることで、既存のアイデア、ルール、マナーを再考し、問い直すことに興味がある。


ボートさんは「鳥取にはクリエイティブな人がすごく多い。写真家の人がドーナツハウスをやっていたり、複数のアイデンティティを持つ人が多い」「小田井さんとものすごくおいしいピザに出会って、思わずシェフを呼んだ」とお話しされ、リサーチに対する課題だけでなく、”食のみやこ鳥取県”もしっかり満喫されたようでした。

暮らしとアートを両立するために

キュレーターの岡田有美子さんからはアートマネジメントの持続可能性について提言がありました。

岡田 有美子 / Yumiko Okada|フリーランスのキュレーター。2018年より北栄町在住。沖縄のアートNPO勤務の後、キューバや、グアテマラにてリサーチを行う。主な企画に「近くへの遠回りー日本・キューバ現代美術展」(2018)など。現在、明治大学理工学研究科建築・都市学専攻総合芸術系博士後期課程在籍。子育てと研究の両立を模索中。


岡田さんは小田井さんの聞き取りを受けて、「プラットフォームには懐疑的な意見もあったが、人材関連のお助けに対する要望は目立つ」とした上で、「モノ・技術の共有」「記録・アーカイブチームの構築」「人材育成・派遣システム、ユニオンづくり」を提案し、使いたい時に都合よく使えるシステムがあれば支えにもなりうるのでは、とお話しされました。

また、アートの分野における不安定な雇用形態や助成金申請の労務負担など構造的な問題点を指摘し、副業的に活動するアーティストへの負担軽減を第一に考えて、社会的な環境改善を図りつつ、助成金の制度など、まずは行政の理解を得ることが必要では、と提言されました。


それぞれの団体が抱える「困りごと」

後半では、リサーチ対象となった団体等を4つのグループに分け、一般参加者の皆さんがそれぞれ好きなテーブルに座って意見交換をし、グループごとで全体共有する場が設けられました。なお、団体のミーティング参加者とグループ分けは以下の通り。

ミーティング参加者
赤井あずみ / Azumi Akai(ホスピテイル実行委員会)
荒尾極 / Kiwamu Arao(ことるり舎)
荻野ちよ / Chiyo Ogino(ダンサー/元・八橋土俵会館)
北村恭一 / Kyoichi Kitamura(一般社団法人いなば西郷工芸の郷あまんじゃく)
来間直樹 / Naoki Kuruma(AIR475)
仲倉はなえ / Hanae Nakakura(明倫AIR)
ひやまちさと / Chisato Hiyama(鹿野芸術祭)
水本俊也 / Shunya Mizumoto(鳥取R29フォトキャラバン) 
※大下志穂 / Shiho Ohshita(こっちの大山研究所)は欠席 

各団体のグループ分け
Aグループ……AIR475、一般社団法人いなば西郷工芸の郷あまんじゃく
Bグループ……明倫AIR、ことるり舎
Cグループ……鳥取R29フォトキャラバン、元・八橋土俵会館
Dグループ……鹿野芸術祭、ホスピテイル実行委員会

Aグループの意見交換では、「人材」が主な話題となりました。
すでにあるプラットフォームとして一般社団法人いなば西郷工芸の郷あまんじゃくが運営する「ギャラリー&カフェ okudan」を例にあげ、アーティストや地域おこし協力隊の招聘など、試行錯誤しながら地域でさまざまな取組を実践する中で「学生など団体に所属するメンバー以外の人にどのように協力してもらえるか」という意見が出る一方、「キュレーターとのコネクションが限られているため、その幅を広げていきたい」という意見もありました。

Bグループの発表では、「人材」に加えて「補助金」について触れられました。
2023年から西いなば工芸・アート村推進事業実行委員会が解散となり、補助金の枠組みが変更になって困っている、という声もあり、どの事業も補助金ありきで活動せざるを得ないが、使いきりで翌年に繰り越しができないのが問題である、との提言がありました。

Cグループでは「コーディネート」の話が主題となりました。
お互いを繋げる役割が必要であるとした上で「様々な地域でコーディネータの育成ができれば」という提案のほか、「予算の取り方にも限界があるため、自分たちの意図や目的に必ずしも一致する補助金・助成金を探すのではなく、アートの多面性を利用して広くアプローチしていくべきでは」という意見もありました。

Dグループからは、「アーティストに対しての労働対価をどのように払っていくべきか」という意見があがりました。
「補助金のジャンルがフィットしないため個人負担で活動している」という団体もあり、それに対して「活動のカテゴリーにとらわれず、たとえば商業振興や観光に関する補助金など、いろいろな方向から資金集めにチャレンジすることが大事」という提案もありました。


相互間での情報共有、共通認識を持つことが大切

各グループの報告を終えて、参加者より以下のような投げかけがありました。

自分自身はアートが専門ではないが、トットにライターとして関わっており、対話の場づくりへの関心もあり今日は参加した。トットは編集部が中心ではあるが、母体である鳥取藝住実行委員会をはじめ様々な団体や組織が関わっているため、ライターとして記事を書くとき、誰の意思が関係し、何の価値にコミットしているのかわからなくなることがある。今日の会も、冒頭のクリエイティブプラットフォームの説明が不十分で、ゲストによるプレゼンから始まったような印象があり、どのような主体の意思によって行う事業なのかがわかりにくかった。この点には、もしかすると鳥取藝住実行委員会の成り立ちやあり方が関係しているのかもしれず、それをうまく整理して説明するのは難しい面もあるが、外部の人に存在を理解してもらうことや、今後の活動のためにも必要だと思う。

それに対し、鳥取藝住実行委員会委員長の竹内さんは「今回の集まりは鳥取藝住実行委員会が主催で、代表は私(竹内)ということになる。ただ、休眠預金事業として助成元から求められている「評価」を行うこと、同事業におけるリサーチの「報告会」、それを元にした対話のための「トットローグ」という3つの趣旨を同時に行おうとしたことで、わかりにくくなってしまったことは否めない。おっしゃるとおり、イベントとしては、誰が何のために開催する者なのか、明示することが大切だと改めて実感した」とお話しされました。

また、参加者からの「鳥取県立美術館の運営側と地域芸術団体との接点が十分に持たれていないのでは」という指摘に対しては「そういった問題意識を持っている人は多いと思う。接点としては、様々な機会がこれまでもあったと思うし、これからもつくっていきたい。」とお話しされました。

終盤では「県の文化政策課に、AIR等の取り組みのよさが十分に理解してもらえていないように思う。」という声もあがり「創造的な活動を継続していくためには、何を目標にするのか県側と団体側で対話を重ねた上で、制度も一緒につくっていく必要がある。私たちも団体のネットワークを生かし、力を合わせて頑張りましょう。今日はそのための決起集会という意味合いもある。」と決意を新たにし、幕を閉じました。

なお、その後の6月10日(土)に開催された鳥取藝住実行委員会の総会および意見交換会では、小田井さんをはじめとするリサーチチームの継続調査、アーカイブづくり(記録係・記録チームの編成)、鳥取県内の団体の基本情報の収集・整理、団体の活動評価、「労働環境」に関する勉強会などについて、今年度取組むこととして話し合われたようです。+○++○でも活動の様子は追ってご案内したいと思います。ご期待ください。

〈おわり〉

構成・編集:水田美世
写真:蔵多優美


鳥取クリエイティブ・プラットフォーム×トットローグ
「創造的な活動を持続的に運営できるしくみづくりについてのオープンミーティング」

日時|2023年3月26日(日)14:00-17:00
場所|610キッチン(鳥取県東伯郡北栄町六尾282)
参加費|無料

主催・問合せ|鳥取藝住実行委員会・ info@totto-ri.net (トット編集部)
助成|中国5県休眠預金等活用事業2021、ごうぎん文化振興財団助成事業

ライター

木谷あかり

米子市生まれ、米子市在住のフリーライター。米子高専機械工学科卒。 「コミュニケーション」「情報保障」「ものづくり」に興味があり、聴覚のサポートとして要約筆記に取り組む傍ら、リモート組織のシステム構築をおこなったり、コピーライティングや記事作成をおこなったり、理系と文系のはざまで様々なアウトプットを試みている。「読めば都」な本の虫。育ての親はMicrosoft。座右の銘は「言行一致」。特技は「焼肉のレバーを上手に焼くこと」。好きな言葉は「コンセプト」。