しらふを楽しむ、‟ソバーキュリアス”という実験-飲酒文化の新たな扉 トットローグvol.9 レポート

2023年最初のトットローグは「ソバーキュリアス」ってナンダ?-「あえて飲まない」コミュニケーションのかたち-と題し、これからの飲酒文化について考える場としました。前年にノンアル・ローアルコールビールブランドを発表した古田琢也さん(株式会社トリクミ代表)をゲストに迎え、参加者とさまざまに対話した内容から感じたことなどを、企画者の綾仁千鶴子さんに伝えていただきました。


できれば楽しくやめたい、減酒したい!

今回このテーマを取り上げたきっかけは、断酒という私自身の生活習慣の変化でした。病気治療のために好きなお酒を断つには葛藤がありました。「飲めない」不自由さ(選択肢の少なさ!)を感じる生活から、工夫で乗り越える方向にシフトした経験があり、ルビー・ウォリントンの著書『飲まない生き方 ソバーキュリアス』(方丈社、2021年)を通じて「ソバーキュリアス」(=sobar curious、‟しらふ”と‟好奇心が強い”をあわせた造語。好奇心を満たすための断酒)という新しい言葉に出会ったとき、私の感覚や行為が言語化された!と共感を覚えました。あわせて、これまで何らかの理由(体質・疾病・妊娠・思想など)で断酒経験のある方は、どう感じていたのか?できれば(楽しく)やめたい、減酒したいと考えている人も潜在的にいるのでは、との考えも浮かんできました。若い人たちが飲酒について感じていることも聞いてみたいと思いました。

トットローグ当日はゲスト・スタッフをあわせて14人が参加。山陰(鳥取・島根)とその他の在住者がだいたい半数で、世代や飲酒のスタンス(飲む・飲まない・飲めない)にも偏りがなく、どんな対話が生まれるか楽しみに臨みました。

「最高にワクワクするイケてるノンアルカルチャー」の創造を

まず、ゲストの古田さんが、日本初(*古田さん調べ)のローアルコールビール専門醸造所を鳥取県(八頭郡八頭町)で立ち上げ、ブランド「CIRAFFITI(シラフィティ)」をリリースするまでの経緯と今後について述べられました。

古田さんはお酒に弱い体質でしたが、飲食業に従事していることもあり、「飲めないと格好悪い」と無理して飲んでいたといいます。ノンアルビールには選択肢が少なく「飲みたくない人に優しくない世の中」だと感じていたそうで、それならばと、味や種類などのバリエーションが豊富で、カッコいいノンアル・ローアルビールの製造へと発想を膨らませます。海外における減・脱アルコールへの流れは、日本市場に波及すると予測したことや、実際に20代の44%が日常的にお酒を飲まないというデータもあることから、「飲まなくても楽しい、後ろめたくない世の中にならないか」という思いでブランドを立ち上げたとのこと。今後は、自然素材にこだわった個性豊かなラインナップを強みに、多様なシーンでの楽しみ方を提案し、「最高にワクワクするイケてるノンアルカルチャー」の創造を目指したいと熱く語っておられる姿が印象的でした。

古田さんのお話を受けて、みなさんがお酒との付き合い方について語り、古田さんへの質疑応答や相互の対話を通じて、お酒や酒席の文化、ノンアル・ローアルカルチャーについて理解を深め、考える時間となりました。お酒にまつわるそれぞれのモヤモヤした感情が話されたり、飲酒スタイルが時代を反映していることが垣間見えたり、ノンアル・ローアル飲料によって新しい味覚が開かれていく楽しさや自分なりの飲み方のこだわりを披露したりと、さまざまなトピックで溢れていきました。

ブランド「CIRAFFITI(シラフィティ)」のミッション

飲む・飲めない・飲まない、どのスタンスの人も心地よく

対話を通じて感じたのは 、お酒に求めること、やめた理由、一時的な断酒に耐えられるか、飲み物の好き嫌い、アルコール耐性などについて、結局は「人それぞれ」なのだということ。従来の酒席では、同じものを飲み、一体感を得ることが重要視されていましたが、これからは、嗜好が違っても「あの人はそれを楽しんでいるらしい」と、多様性を認め排除しない方向へ変わりつつあるようです。

古田さんによると、「発酵をコントロールして、アルコール度数を1%以内に収める」技術が「CIRAFFITI」の製造に用いられているとのこと。人々の嗜好や飲酒スタイル、お酒の役割は時代と共に変化してきました。今日ではさらにヴァラエティ豊かな色合いを呈しており、それはノンアル・ローアル飲料の分野にも広がりつつあると実感しました。地域におけるブリューワリーの存在は、第1次産業(地域の農家と連携)、第2次産業(製造したビールを全国に流通)、第3次産業(新しい飲料の提供とコミュニケーションの創造)にインパクトを与え、未来に続く可能性を感じさせます。鳥取におけるイノベーションという意味では、ジャンルは異なりますが、このウェブサイト+〇++〇のルーツである「鳥取藝住祭」が、AIR(アート・イン・レジデンス)の手法で地域に大きなインパクトを与え、終了後も影響力を持ち続けていることと重なりました。

これから、飲む・飲めない・飲まない、どのスタンスの人も心地よく過ごすことができれば、お酒を伴う場が、これまで以上に創造的でオープンな場所となると思います。先述のルビー・ウォリントンによれば、酒に関してひとつでも疑問に感じたら「ソバキュリアン」とのこと。今回対話を行った参加者のみなさんは、立派な「ソバキュリアン」と言えるでしょう。

筆者が断酒期間に試した飲み物(ローアルコール飲料も含む)の一部。ノンアルサングリアや発酵ドリンク、梅シロップなどは手作り

今後の関心事はアルコール依存のこと

今回のトットローグでは触れることができませんでしたが、飲酒について考えるとき、アルコール依存は避けられないテーマだと感じています。アメリカのテレビドラマで、アルコール依存を克服すべく断酒会に通う主人公の姿が描かれているのを見て、誰にでも起こりうる身近な問題と感じましたが、日本では、アルコールがコンビニエンスストアで気軽に買える環境にありながら、依存の危険性について知らされる機会はあまりありません。また、依存症の治療法や生活支援策は十分に周知されているのかも気になるところ。私やルビーさんが体験したような「ソバーキュリアス」な思考、行動による断酒スタイルからの「適正飲酒」についても今後考えていきたいです。

構成:水田美世

※対話の記録(詳細版)、筆者の体験談はzine「sobar bar(仮)」(2023年5月頃発行)に掲載予定。


トットローグ vol.9
「ソバーキュリアス」ってナンダ?―「あえて飲まない」コミュニケーションのかたち―

日時|2023年1月13日(金)19:00ー21:00
場所|オンライン会議システムzoom

ゲスト|古田 琢也(株式会社トリクミ 代表取締役 CEO / 株式会社シーセブンハヤブサ 代表取締役CEO)
進行|濱井丈栄(トット副編集長/フリーアナウンサー)

主催|トット編集部
助成|ごうぎん文化振興財団助成事業

ライター

綾仁千鶴子

関西を転々としたのち、進学のため1993年島根(松江市)へ。アートプロジェクトや仕事を通じて文化・芸術に携わる。母の出身地である鳥取(若桜町)は毎年夏休みを過ごした、大切な心のふるさと。鳥取~島根でヒト・コト・情報の往来が活発化することを願い、トットの活動にライターとして参加。 本を通じて人と出会う場「BookValley」主宰者。「アートライティング」を学ぶ芸大生でもある。例えば、映画館を出た瞬間、眼が捉える日常風景がまったく姿を変えてしまうことがある。そんなことを、文章で試みたい。