トリムジカ・プレイリスト #6
高橋 潤(be mellowメンバー)

例えば、夏の浦富海岸を車で走らせながらカーステから流れる◯◯◯◯とか、冬の大山スキー場で凍えた手をカイロで温めながらイヤホンで聴く◯◯◯◯とか……。ここにしかない時間と風景の中でこそ聴きたくなる音楽があります。毎回、鳥取屈指の音楽好きたちが登場し、鳥取のさまざまなシチュエーションにぴったりな音楽をセレクト、珠玉のプレイリストをお届けします。名付けてトリムジカ・プレイリスト。
大型連休を目前に控えた今回は、米子のアカペラグループで活動する高橋潤さんが選曲。春、米子の城下町を散策するのにぴったりな10曲をお届けします。


今月のプレイリスト:春の米子城下町・下町を歩きながら聴きたい音楽

普段車で何気なく走っている道も、のんびり歩いてみると思いがけない発見があっておもしろい。「こんな店あったっけ」とか「この道はここに繋がっていたんだ」とか。特に、米子市内には小路(しょうじ)と呼ばれる細い路地が点在していて、「この道の先には何があるんだろう」とワクワク。古い長屋に迷い込んだり、野良猫たちに遭遇したり、知られざるディープな地元を満喫出来る街歩きは密かなマイブームになっています。

1. 春の花束 / 藤山一郎
チャイコフスキーの名曲『アンダンテ・カンタービレ』をアレンジした作品。藤山一郎特有のソフトなテノールと美しい旋律が見事にマッチしていて、クラシックの品格と同時に日本の叙情歌のような懐かしさを感じさせてくれる一曲です。個人的には、この曲を聴くと青空の下に咲く菜の花畑を思い浮かべてしまいます。

2. On The Sunny Side Of The Street / Billiy Holiday
この人の歌声を説明しようとする時、「味わい深い」という表現しか思い浮かばず、その語彙力の乏しさに絶望しそうになりますが、そんな僕のライトな悩みとは比べ物にならないほど壮絶な人生を歩んだ彼女の歌声は、なんというか、うーん、やはり「味わい深い」です。そして、大恐慌時代に人々に希望を与えたとされるその歌詞には、時代を問わない普遍的な魅力を感じます。

3. Seven Samurai – ending theme / 坂本龍一
黒澤明の映画『七人の侍』を原案とするゲームのために書き下ろされた曲で、ここでも教授らしいオリエンタルな響きは健在です。途中、YMOの『テクノポリス』と酷似したフレーズが出て来たりして、思わずニヤリ。ピアノと和楽器で奏でられる静謐な音楽は、寺町辺りを散策する時にピッタリではないでしょうか。

4. 青い街 / tricolor
アイルランド音楽をベースとする3人組インストバンドが個性的な歌い手たちを迎えて制作したアルバムから。森ゆにをフィーチャーしたこの曲は、tricolorらしい幸福感溢れるアイリッシュサウンドと森ゆにのオーガニックな歌声が高い親和性を誇る一曲です。「春の空をこえて……」という明るいサビが印象的で、この季節にピッタリだと思い選曲しました。

5. 季節の風達 / 空気公団
この曲の歌詞はガロの『学生街の喫茶店』に通じるものがあると思うのですが、一方でサウンドは非常に爽やかで、仄暗いガロのそれとは対照的です。優しい春風を思わせる歌声が心地よく、それでいてどこか感傷的。「学生通りには冷めたコーヒーが似合うな」というフレーズが何故かとても好きです。米子に学生通りと呼べるような場所はないかもしれませんが、コーヒー片手に街中をのんびり歩きたくなる曲です。

6. 風景 / 秦基博
季節的には冬から春に移り変わる頃の歌でしょうか。まったりとした穏やかなサウンドに乗せて歌われるのは、身近にある何気ない風景、内なる自分との対話、そして大切な人への想い……。日常というものが如何に大切で、かけがえのないものであるかを再認識させられます。見慣れた街並みがいつもより愛おしく感じられる、そんな一曲です。

7. In The Court Of King Oriver / Wynton Marsalis
ジャズもクラシックも完璧に吹きこなす天才トランペッターがピアニストである父親と共演したアルバムから。古き良きニューオリンズジャズの香り漂うスタンダードナンバーです。終始鳴り響くパーカッションと小粋なトランペットの響きが、良い意味での芋っぽさというか下町感を演出していて、米子の街並みにもしっくり来る気がします。

8. 木の葉散る / Lantern Parade
個人的にこの曲には春霞のようなどこかぼんやりとした印象を持っています。例えるなら8mmフィルムで撮られた映像を観ているような感じ。淡い色調にノイズが入り交じった、肉眼で見る現実とは一味違う浮遊感に満ちたあの映像を、音楽で表現しているようなイメージです。ボーカルのピッチがハマり切っていないことも、絶妙なズレとして好意的に受け取れてしまう、そんな不思議な中毒性がある曲です。

 9. ニュー・シネマ・パラダイス  / エンニオ・モリコーネ
映画音楽界の巨匠モリコーネによる名曲で、映画の内容と相俟ってやたらとノスタルジーを感じさせてくれる曲です。同じサントラの中に『過去と現在』という曲がありますが、こちらも素晴らしい。これらを聴きながら米子の街歩きをした日には、ノスタルジーを刺激されまくって、僕は涙腺崩壊してしまうかも……と密かに妄想というか危惧しています。

10. アンダンテ / 浜田真理子
人の歌声に含まれる成分を測定出来るとしたら、この人の場合、最も高い数値を示すのはきっと「慈愛」だろう、と勝手に思っています。或いは「母性」の数値が高いのかも。この曲でも包容力を感じるその歌声にシンプルな詞を乗せて、スっと心に届けてくれます。ちなみに、アンダンテとは音楽の速度標語で「歩く速さで」という意味。まさに散歩にピッタリな一曲です。


高橋 潤(be mellowメンバー)
松江生まれ米子育ちの山陰人。中学・高校時代は恵まれた環境で音楽活動に没頭するが、卒業後は音大や専門学校に進学する訳でもなく、普通の社会人に。数年前にアカペラグループ「be mellow」を結成し、現在もゆるく活動中。以前から特定の風景やシチュエーションにマッチする音楽を妄想する癖があり、トリムジカ・プレイリストの存在を知って以来、一方的に想いを寄せていたが、この度ご縁あって奇跡的に大願成就。

ライター

トット編集部

当ウェブマガジン編集部。鳥取の今をアートやカルチャーの視点から切り取ってお届けします。不定期に集まり、運営方針や記事内容の検討などをする編集会議を開いています。随時メンバー募集中!