レポート:トットツアーvol.3
「美術家・久保田沙耶と倉吉の民藝に触れる」

普段なかなか一人では行くことが出来ない場所にみんなで出かけ、あれこれと話も聞いてみようというトットのツアー。2月15日(土)に第3回目を開催し、美術家の久保田沙耶さんのご案内で倉吉のまちを巡りました。その様子をお伝えします。


アーティストインレジデンス(1)「明倫AIR」の招聘アーティストとして2017年から倉吉市に繰り返し訪れ滞在制作をしておられる久保田沙耶さん。倉吉博物館にて、2019年度の成果を、「物と祈り -明倫AIR成果発表 倉吉の作家を巡る-」(以下、「物と祈り」展)として展示されました(会期は2月27日(木)まで)。
この初日となった2月15日(土)、totto主催の「トットツアーvol.3美術家・久保田沙耶と倉吉の民藝に触れる」に参加しました。久保田さんご自身が案内役となる贅沢な企画で、参加者は10名。今回巡ったのは、倉吉博物館、土蔵蕎麦、コレデ堂、翠香園 津田茶舗、山陰民具の5か所です。なかでも、倉吉博物館の第3展示室で展開されていた「物と祈り」展をメインにレポートします。

久保田沙耶さん(左)と、「物と祈り」展の企画者でもあり、今回のツアーに参加された鳥取短期大学教授・渡邊太さん(右)

「物と祈り」展は、山陰の地で民藝運動を展開していた先人たちが、宗教的な観点と作品づくりを強く結びつけていたことに着目した内容。
版画家の長谷川富三郎さん(1910-2004年)(2)は、鳥取師範学校を経て地元倉吉市の明倫小学校に務める傍ら、「物と心の相関関係」について鳥取市の吉田璋也を介して柳宗悦ら民藝の創始者たちに教えを乞うていました。また、写真家の高木啓太郎さん(1916-1997)(3)は、シベリア抑留の経験から、現地で亡くなった仲間たちを追悼する作品などをのこしています。
現代を生きる久保田さん自身、社会的な関係性を重視しながらも、一方では物質や物をつくることに強いこだわりを持つアーティスト。「物と心の相関関係」を探ることは、久保田さんにとっても重要なテーマで、倉吉でのレジデンスを重ねることで深く掘り下げたいと考えているそうです。

倉吉博物館の第3展示室で展開された「物と祈り」展

会場に並ぶ作品のおよそ半数は、高木啓太郎さんの作品。ライフワークともいえる地元・倉吉市や鳥取県中部の人々の生活や習俗を捉えた写真作品のみならず、「雨山雨後」をはじめとする絵画作品、先述のシベリア抑留体験から生まれた泥仏「シベリア達磨」のシリーズが目をひきます。

高木啓太郎の「シベリア達磨」シリーズ。作品の背には文字が刻まれたものもある

久保田さんいわく、民藝運動の盛んだった当時、芸術家たちの専門性やジャンルの垣根は今よりもおそらく低く、倉吉のまちの各所に存在するサロン的な場所に集っては「どんな表現が良いか」を絶えず対話していたのではないかと想像できるとのこと。久保田さんはその先人たちの描き方や表現技法を調べて真似てみては、自身の作品でも繰り返し試みています。今回発表した「いのりのあそび」という3点の組み作品では、徳吉英雄さんや高木啓太郎さんが描いた線を何度も模写したことで、いまや自分の手癖の中にその時の模写の記憶が混じっていると感じているそうです。

自身の新作「いのりのあそび」の前で語る久保田さん

久保田さんは、これまで3年間の明倫AIRの活動を振り返り、まずは「イメージ」が先に現れ(2017年)、次に「言葉」が出てくる(2018年)。そして2019年は「文脈」立ったことが言えるようになってきたと表現。
倉吉のまちでリサーチをしながら制作する久保田さん自身、時代を超えて先人たちの身体感覚に近づいていくところがあるのだと感じました。

同人誌『意匠』第1号から第4号

今回の調査の中で再発見されることとなった同人誌『意匠』は、昭和22(1947)年から翌年にかけて、写真家の徳吉英雄さんにより4号まで刊行されたもの。長谷川富三郎さんや後に染織家として知られる吉田たすくさんの協力を得ながら、棟方志功といった著名な作家の作品が掲載(版画作品そのものが貼付)されています。
当時の作家相互の関係性が垣間見えるだけでなく、それらの作家に共感した現代の作家である久保田さんの作品が同じ空間に展示されていることに、感慨を覚えました。

博物館を後にした一行は、高木啓太郎さんのお孫さんが経営する「土蔵蕎麦」で昼食タイム。かつて民藝作家たちが集い談義を重ねた場所には、民藝の精神を宿した様々な「物」に触れることができます。

その後、久保田さんが店主となるアートのお店「コレデ堂」(参考:アートの作品をあなたの言い値でお譲りします 美術家・久保田沙耶さんの「コレデ堂」)では、滞在制作で生まれた久保田さんの作品を鑑賞したほか、それぞれ参加者が自己紹介をして交流を深めました。

最終目的地として訪れたのは、丁寧に復元された町家の風情が心地良い「翠香園 津田茶舗」。前身となる「津原屋」の初代から数えて、創業以来200年以上を数えるとのこと。かつて民藝作家たちもよく訪れていた場所で、店内には関連する書物なども置かれていました。
煎茶と緑茶それぞれ数種類をテイスティングできる内容で、香りの良いおいしいお茶と、手づくりのスコーンや和菓子とセットでいただきました。お腹を満たしながら今回のツアーを全員で振り返り、いちおうの解散となりました。

半発酵茶や紅茶のファーストフラッシュ(春摘み)、オータムナルフラッシュ(秋摘み)などをテイスティング

さらに希望者(とは言ってもほとんどの参加者)がオプションとして設定されていた「山陰民具」へ。
「山陰民具」は、国の登録有形文化財にも指定されている築200年以上を数える古民家。長谷川富三郎さんや高木啓太郎さんらも足しげく通ったお店で、民藝品が充実しています。蕎麦ちょこやお皿などお買い上げの参加者もちらほらおられました。

祈るということは、具体的な対象に祈りをささげるという宗教的なことだけではなく、自分や自分の大切な人との日常を豊かに過ごしたいという気持ちそのもののようにも思えました。今回、久保田さんのご案内で、そうしたささやかだけれども誰にも共通する「祈り」の尊さを、改めて実感しそれぞれに持ち帰るツアーでした。
協力:久保田沙耶、渡邊太(鳥取短期大学 教授)、中山晶雄(翠香園 津田茶舗 店主)
写真:田中良子、里田晴穂
取材:カエル、水田美世


1.各種の芸術制作を行う人物を一定期間ある土地に招聘し、その土地に滞在させ作品制作を行わせる事業のこと。
2.兵庫県姫路市生まれ。棟方志功とともに民芸運動を支えた版画家。号は無弟。1929年(昭和4年)に鳥取県師範学校を卒業し、倉吉市の明倫小学校に勤務する傍、1934年に倉吉の文化団体「砂丘社」同人になり油絵を描くようになる。そのころに吉田璋也と出会い民芸運動に参加。柳宗悦、河井寛次郎らに師事するようになり、1940年(昭和15年)より棟方志功との交友が始まる。戦後、棟方のすすめで板画に取り組む。全国的に活動しながらも終生倉吉を本拠にし、鳥取県の芸術の振興に寄与した。
3.鳥取県東伯郡小鴨村(現・倉吉市)生まれ。美術家。主に写真表現を行ったことが知られるが、陶芸、書画にも秀でていた。日本のみならず、欧米でも数多くの個展を開催するなど幅広く活躍した。


倉吉博物館/倉吉歴史民俗資料館
場所|鳥取県倉吉市仲ノ町3445-8
開館時間|9:00-17:00 ※入館は16:30まで
休館日|月曜日(月曜日が祝日の場合は開館し、その翌日休館)、祝日の翌日、年末年始
https://www1.city.kurayoshi.lg.jp/hakubutsu/

土蔵蕎麦
場所|鳥取県倉吉市新町1丁目2429-5
TEL|0858-23-1821
営業時間|11:00-17:00 ※売切れ次第終了
定休日|木曜(祝日の場合は営業)

コレデ堂
開店日等活動の詳細はホームページ等で要確認
https://www.facebook.com/コレデ堂-114834393294041/

翠香園 津田茶舗
場所|鳥取県倉吉市西町2697
TEL|0858-22-2550
※不定休。カフェ利用は完全予約制
https://www.facebook.com/tsudachaho/

山陰民具
場所|鳥取県倉吉市西岩倉町2196
TEL/FAX|0858-22-2317
営業時間|9:00-19:00
定休日|無し

ライター
トット編集部

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