レポート:
「鳥取県立美術館ができるまで」を伝えるフリーペーパーづくり
写真撮影編/ライティング編

2024年度に開館が迫る鳥取県立美術館。2020年1月には、建築・設計を含め、建物の管理・運営を担うPFI事業者が決定し、今後より具体的な美術館のかたちが議論されていくことが期待されます。
この美術館の開館までの動きを伝えつつ、機運を高めるためのフリーペーパーづくりが県立博物館主催で継続実施されています。記事作成のための講座として開かれた写真撮影編と、ライティング編の様子を合わせてお伝えします。


写真撮影編

鳥取県立博物館が主催する『「鳥取県立美術館ができるまで」を伝えるフリーペーパーづくり』も4回目。今回から実際に記事を作成するための具体的な技術講座として10月19日(土)に「写真撮影編」が行われた。
講師は(株)MUESUM代表/編集者の多田智美さんと、フリーランスのフォトグラファー兼ライターとして県内で活躍する藤田和俊さん。藤田さんは県内で広く読まれている地方紙「日本海新聞」の記者として長く勤務した経験から、「伝える写真」をテーマに進められた。参加者は13名。

講師の藤田和俊さん。丸いフレームのメガネがトレードマーク

まずはとにかく撮ってみて、その上でレクチャーを行うという流れで進められた。モチーフとなったのは講座内に特別に設定された「県博カップ 紙ひこうき飛ばし選手権」。参加者の楽しそうな様子、臨場感をどうやって伝えるかを意識しながら撮影を実践することに。それぞれ使い慣れたスマートフォンやデジタルカメラを用いて、紙飛行機を折るところから選手インタビューを経て飛ばすまでの様子や、出場選手のポートレートを各々カメラに収めた。

意気込みを語ってから勢いよく紙飛行機を飛ばす選手(講座の参加者)たち。全員が交代でカメラマン役と選手役を務めた

選手権での撮影後は、各参加者が撮影した写真をモニターに映しながら共有し、それぞれの写真の良いところ、もう少し工夫できる点などを藤田さんが解説。
「遠慮せず一歩前へ出てポジショニングする意識が大事」「下からや斜めからの角度で撮影すると、迫力や奥行きを生む」「コミュニケーションを図りながらの撮影は良い表情を引き出す」など、実際やってみたからこそ納得できるポイントが説明され、多くの気づきがあった。今回得られたことが、実際のフリーペーパーづくりのなかで今後どんなふうに生きていくのか、期待が膨らむ。

ライティング編

1月18日には、米子市立図書館にて、『「鳥取県立美術館ができるまで」を伝えるフリーペーパーづくり』の記事作成のための講座ライティング編が開催された。講師は(株)MUESUM代表/編集者の多田智美さんと当ウェブマガジン「totto」編集長の水田美世さん。ライティング編である今回の講座には、私含め文章や記事を書くことに興味のある人たち10名が参加した。
ライティングの講座というと、文章の書き方のコツや取材の方法のレクチャーをイメージしてしまいそうだが、今回の講座で行ったのは、なんと“壁新聞づくり”だった。小学校の頃、みんなでわいわい言いながら模造紙に手書きした経験がある人も多いと思う。まさにそれだ。

今回の壁新聞は7つのコーナーで構成されていた。3人で担当する“覆面座談会”以外は、各コーナーを1人で担当する。担当はコーナーの番号が書かれたゴムボールを使ったくじ引きで決定された

新聞にはいろいろなコーナーがある。ベーシックに出来事を載せる記事やインタビュー記事、座談会や4コママンガ。その役割や表現方法の違いによって、同じひとつの出来事を見ても、それぞれ視点が異なってくる。ひとつの出来事を違う視点から見て、取材する。その視点を体感するための壁新聞だった。
取材したのは、同日、米子市美術館で開催された「秋山さやか展 米子をほどく2009-2019」(1)のガイドトーク。芸術作家である秋山さやかさんは、実際に自分が歩いた足跡を、さまざまな素材を使って立体的な地図に起こす。使われる素材は現地調達が基本とのことで、歩く中で見つけた“ピンとくる手芸店”で買ったボタンや刺しゅう糸、移動に使った飛行機のチケット、歩きすぎてかかとが破れてしまった靴下など幅広い。それらを用いて表現された作品には、細部まで物語があり、ガイドトークでは各作品やそこに使われている素材の歴史、秋山さんの思いなど、多くの話を聞くことができた。

取材を目的として参加している私たちは、ガイドトークを楽しむだけではなく、事前に割り振りを決めていた自分の担当記事を作れるよう、ネタを探しをしながら、作品を見て、話を聞いた。
そして終了後は、それぞれ取材で得た情報や自分が感じたことを整理し、記事を作っていった。執筆にとりかかってから清書するまで、 約2時間という短時間で完成した壁新聞は、同じトークを聞いたにも関わらず、コーナーごとに注目するモノや人、話の内容、そしてその表現方法が異なっていて、「自分はここは意識しなかったな」という部分が、他の人の手によってしっかりと記事になっているのが印象的だった。

展示の概要を伝える記事(写真右側の右上)から始まり、秋山さんのインタビュー、参加者の声、4コママンガと続く。2枚目(写真左側)はスクープ記事、作品を見てそれぞれが思い出したこと、取材者による覆面座談会、ギャラリートーク中の写真。インタビューや4コママンガは作品制作中の秋山さんのエピソードを伝えており、参加者の声や覆面座談会は作品を観る側の視点でギャラリートークの様子を伝えている

担当するコーナーが違う、ということは、求める情報が違うということで、ガイドトークの序盤から、すでに取材するひとりひとりの行動が違っていたように思う。ある人は話のメモを多くとり、ある人はカメラのシャッターを多く切り、ある人はトーク後の秋山さんにしっかりインタビューをしていた。“書く”ためには取材や情報が必要だが、自分の立ち位置や自分が伝えようとする内容によって視点が変わること、そして視点により、得る情報もそのための行動も自然と変わることが実感できた講座だった。

取材:水田美世(写真撮影編)、miyuki(ライティング編)


1.2013年より米子市内でアーティスト・イン・レジデンスの取組みを行っている団体・AIR475(エアヨナゴ)と、米子市美術館との共同企画展。会期:2020年1月12日(日)-2月2日(日)

ライター

miyuki

鳥取出身、鳥取市在住。1年間ほど広島に住んだ時期あり。気になったイベントや短期間の講座などに参加するのが好きで、今までに受けた講座は、写真、茶道、太極拳など他分野。以前からリフレクソロジーに興味を持っていて、日々、自分や家族の足裏をマッサージしています。