NEW YORK ART SCENE
ニューヨーク・アートシーン -ロスコ、ウォーホルから草間彌生、バスキアまで-
滋賀県立近代美術館コレクションを中心に

鳥取県立博物館にて5月19日(日)まで、企画展「NEW YORK ART SCENE ニューヨーク・アートシーン -ロスコ、ウォーホルから草間彌生、バスキアまで- 滋賀県立近代美術館コレクションを中心に」が開催中です。本展の企画担当学芸員であり鳥取県立博物館副館長兼美術振興課長の尾﨑信一郎さんに、展覧会の見どころを伺いました。


- 1点1点が非常に見ごたえのある作品がそろっています。展示構成もゆったりと感じられて、作品鑑賞を楽しませていただきました。

尾﨑:ちょうど建て替え時期の美術館が関西圏にいくつかあったことから今回の企画展が実現しました。なかでも滋賀県立近代美術館は戦後アメリカ美術の名品を数多く所蔵されていて、長期の改修工事の期間に合わせ、まとまった作品をお借りできたことは非常に良かったです。会場を入ってまず出迎えるマーク・ロスコの作品は、その滋賀県立近代美術館のもの。
また、京都国立近代美術館からは、マルセル・デュシャンのレディメイド(1)の作品3点をまとめてお借りできました。特に《泉》(1917/64年)は、1964年に再制作された8点のうちの1点。世界的にも大変貴重なもので、これを鳥取で見ていただけるのは嬉しいですね。
今回の展示では1000㎡の展示室を使っています。作品点数が100点余りと多いのですが、なるべくスペースに余裕が出るように展示構成を工夫しました。

Ⅰ. 新しいアメリカ絵画 -抽象表現主義 / ここではマーク・ロスコの《No.28》と《ボトルグリーンと深い赤》の吸い込まれそうな深い色にまず目を奪われるでしょう。また、ジャクソン・ポロックや、アド・ラインハート、バーネット・ニューマン等の抽象表現主義と呼ばれる作品では、強弱のついた美しく勢いのある線からは、制作時のアーティストたちの激しい動きに思いを馳せることができます。
Ⅱ. デュシャンとその末裔-ネオ・ダダとフルクサス / マルセル・デュシャンの男性用小便器を作品とした《泉》が展示されています。同じくデュシャンの描く《階段を下りる裸婦》は、ピカソなどの近代西欧美術のキュビスム以上にクレイジーなまでに細分化した多角的視点から裸婦が描かれています。またロバート・ラウシェンバーグの《アクシデント》では、左上から下方へ斜めに切り裂いたようなマチエールが、日常を切り裂くようなインパクトがあります。

- 本展は6つの章にテーマが分けられ構成されています。ヨーロッパ近代美術を時に継承し時に否定した新たな表現として、抽象表現主義(2)ネオ・ダダ(3)、ポップ・アート(4)、コンセプチュアル・アート(5)へと移行し、再び主題性のある表現が新たに現れていく、という変遷を、時代を追って非常に丁寧に追っています。

尾﨑:2つ目のデュシャンの章で1回遡るのですが、概ね時代に沿って作品を紹介しています。抽象表現主義のところは作品数がやや少ないですが、アメリカ美術とは何かについて実際に作品を前にして考えていただけると思います。
アメリカ現代美術は、それまで主流だったヨーロッパから、美術の流れを一気に引き寄せた圧倒的なパワーが魅力。ヨーロッパで展開した印象派(6)やキュビズム(7)といった流れを受けながらも、よりラジカルに、そして多様な表現でもって展開できたのがアメリカでした。当時のアーティスト達が「美術とは何か」を問いながら活動してきたことを、展示作品から読み解いていただけたらと思います。

Ⅲ. パクス・アメリカーナの夢-ポップ・アートとスーパー・リアリズム / アンディ・ウォーホルの《マリリン》や《キャンベル・スープ Ⅱ》、ロイ・リクテンスタイン《スイート・ドリームス・ベイビー!》などは、大量生産され消費されるものやイメージを使うことで、美術と私たちの日常との境界を軽やかに、時に嘲笑的に超えていくような作品です。
Ⅳ. 最後の絵画-ポスト・ペインタリ-アブストラクション / ケネス・ノーランドの鮮やかな発色のカドミウムを使用した作品《カドミウム・レディアンス》などが展示されています。これらは、物語性や空間性といった絵画の要素を切り詰めてそぎ落としていくなか、最後に残った絵画固有の特性である平面性を強く示したといいます。ストイックさを感じます。
Ⅴ. 限界における美術-ミニマル・アートとコンセプチュアル・アート / 作品が成立する最小限の条件を探求する実験ともいえるミニマル・アート作品が展示されています。カール・アンドレの亜鉛版を地面に敷きつめた作品《Zink- Zink-Plain》にはこれも作品なのかと驚くはず。誤って踏まないように注意。作品を作品と成り立たせるのは、もはや実体ではなく観念や思考そのものであることを示すコンセプチュアル・アートでは、ジョセフ・コース―スの作品《1つと3つのシャベル》が面白く、言葉と視覚的イメージと実体の関係性について考えさせられます。草間彌生の作品《Airmail Accumulation》と《アキュミレーション》もこの章で紹介されています。
Ⅵ. ポスト・モダン以後の表現-ニュー・ペインティングとアプロプリエーション・アート / ジョナサン・ポロフスキーの作品《ブリーフケースを持つ人》は、アルミニウム板をブリーフケースを持った人の形に切り抜いたもの。光が当たり浮かび上がる影は見る角度により表情が変わります。尾﨑さんによると、普遍的象徴として労働者を示しながらも、展示会場が変わるごとにその場所に沿った労働者を想起させるのだとか。また今、再評価が進むジャン=ミシェル・バスキアの1983年作の《無題》と1984年作の《無題》が展示されています。

- キャプション(作品名、作者名、制作年、素材などの作品に関する基本情報)とは別に付けられている解説が、作品を知り考える助けになりました。展示作品全てに解説を付けるというのは大変な作業だと想像します。

尾﨑:確かに大変ではありますが、解説は私一人で付けている訳ではありません。今回の展覧会は他県にも巡回するので、その巡回先となる和歌山県立近代美術館、徳島県立近代美術館、埼玉県立近代美術館の学芸員たちと分担して執筆しています。
今回巡回先に埼玉が入っていますね。関西圏の美術館にこれだけの価値ある作品が系統立てて収蔵されていることを、関東圏の方々に知っていただける機会となると思います。

- アメリカの現代美術をまとめて紹介する企画展は、鳥取県立博物館では今回が初めてとのことですね。

尾﨑:実はそうなんです。現代美術の「分からなさ」に苦手意識を持つ方もおられると思いますが、訳の分からないものに出会い、その分からなさを面白がりながら追求することでこそ、私たちは感性を深めていけると思います。ぜひ多くの方に足を運んでいただきたいですね。

入口で配布している「鑑賞ガイド」は、各章の特徴を作品1点を紹介することで分かり易く解説しています。鳥取県立博物館のオリジナルでぜひ手に取っていただきたいもの。また3名の学芸員が事務作業や展示構成などを分担し、準備を進めてきたそうです。

聞き手:田中希美


1:「既成品」の意味。実用のために作られた既成品に、その目的を離れて別個な意味を持たせたもの。マルセル・デュシャンが、1917年に男性用便器そのものを「泉」と題して作品として提示したことに端を発している。量産された機械文明の製品をそのまま用いることで、そこには一点制作の手仕事であった芸術への批判が込められていると同時に、物体に対する新しい認識への方向性が示され、その後の芸術に大きな影響を与えた。
2:第二次大戦後、アメリカを中心に展開した抽象絵画の総称。ジャクソン・ポロックなど身体の行為性を絵画に取り入れたアクション・ペインティングや、マーク・ロスコによるカラー・フィールド・ペインティング(色面絵画)などを指す。広くは欧州で興った同傾向のアンフォルメルなどを含む。
3:新しいダダイズムの意味。1960年前後にアメリカに現れた日常的なモチーフや卑近な物品を素材として作品をつくる傾向を、かつてのダダイズムになぞらえてジャーナリストがつけた名称。
4:ポピュラー・アート(大衆芸術)の略称。現代の大衆文化が生み出す図像や記号、既製品を絵画、彫刻の領域に取り入れたもので、1960年代初頭のニューヨークを中心に国際的に知られるようになった。
5:概念芸術の意味。作品の物質性よりも制作の契機となる観念に重きを置き、芸術の概念(コンセプト)そのものを問いかける傾向の美術を指す。1960年代後半から目立つようになった。
6:印象主義とも言う。 1870年代に興ったフランス近代絵画における、色彩の視覚的効果をそのままにとらえようとする運動。 モネの出品《印象・日の出》からこの名称が生れた。
7:立体主義。20世紀初頭、ルネサンス以来の伝統的な写実主義を、形態の面(一点透視法や肉付け、明暗などの諸原則)で覆す革新運動、およびその手法。


THE NEWYORK ART SCENE From Rothko and Warhol to Kusama and Basquiat
-From the Collection of The Museum of Modern Art, Shiga and More
ニューヨーク アート・シーン
ーロスコ、ウォーホルから草間彌生、バスキアまでー
滋賀県立近代美術館コレクションを中心に

会期|2019年4月13日(土)-5月19日(日) ※休館日5月7日(火)
開館時間|9:00-17:00
開館延長日| 会期中の毎週土曜日は午後7時まで開館(入館は閉館の30分前)
※前期展示4月13日(土)-5月6日(月・振休)/ 後期展示5月8日(水)-5月19日(日)
会場|鳥取県立博物館(鳥取市東町二丁目124) 第1・第2特別展示室
主催|鳥取県立博物館
特別協力|滋賀県立近代美術館
助成|一般財団法人地域創造
観覧料|一般800円 (前売り・20名以上の団体/600円)
※大学生以下、70歳以上、学校活動での引率者、障がいのある方・難病患者の方・要介護者等およびその介護者は減免(観覧無料)

関連プログラム|
アートセミナー「アメリカ美術の勝利」
5月11日(土)14:00-15:30 講師:尾﨑信一郎(鳥取県立博物館副館長兼美術振興課長)
学芸員によるギャラリートーク
5月18日(土)14:00-15:00

問合せ|鳥取県立博物館 美術振興課
〒680-0011鳥取市東町二丁目124
TEL.0857-26-8045 FAX.0857-26-8041
https://www.pref.tottori.lg.jp/museum/

ライター
トット編集部

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