〈鳥取銀河鉄道祭〉のために
宮沢賢治作「銀河鉄道の夜」
#2 活版所

鳥取県総合芸術文化祭・とりアート2019 のメイン事業〈鳥取銀河鉄道祭〉。宮沢賢治作「銀河鉄道の夜」の物語をベースにしながらも、鳥取県内の魅力的な人々や動きなどを集め最終的に舞台公演を構成していく試みです。ここでは原作「銀河鉄道の夜」の最終稿(1)を13回にわたって紹介していきます。今回のイラストでは今井書店「本の学校」(2)でかつて使われていた活版印刷機が登場。


二、活版所

ジョバンニが学校の門を出るとき、同じ組の七八人は家へ帰らずカムパネルラをまん中にして校庭の隅の桜の木のところに集まっていました。それはこんやの星祭に青いあかりをこしらえて川へ流す烏瓜を取りに行く相談らしかったのです。
けれどもジョバンニは手を大きく振ってどしどし学校の門を出て来ました。すると町の家々ではこんやの銀河の祭りにいちいの葉の玉をつるしたりひのきの枝にあかりをつけたりいろいろ仕度をしているのでした。
家へは帰らずジョバンニが町を三つ曲ってある大きな活版処にはいってすぐ入口の計算台に居ただぶだぶの白いシャツを着た人におじぎをしてジョバンニは靴をぬいで上りますと、突き当りの大きな扉をあけました。中にはまだ昼なのに電燈がついてたくさんの輪転器がばたりばたりとまわり、きれで頭をしばったりラムプシェードをかけたりした人たちが、何か歌うように読んだり数えたりしながらたくさん働いて居りました。
ジョバンニはすぐ入口から三番目の高い卓子に座った人の所へ行っておじぎをしました。その人はしばらく棚をさがしてから、
「これだけ拾って行けるかね。」と云いながら、一枚の紙切れを渡しました。ジョバンニはその人の卓子の足もとから一つの小さな平たい函をとりだして向うの電燈のたくさんついた、たてかけてある壁の隅の所へしゃがみ込むと小さなピンセットでまるで粟粒ぐらいの活字を次から次と拾いはじめました。青い胸あてをした人がジョバンニのうしろを通りながら、
「よう、虫めがね君、お早う。」と云いますと、近くの四五人の人たちが声もたてずこっちも向かずに冷くわらいました。
ジョバンニは何べんも眼を拭いながら活字をだんだんひろいました。

六時がうってしばらくたったころ、ジョバンニは拾った活字をいっぱいに入れた平たい箱をもういちど手にもった紙きれと引き合せてから、さっきの卓子の人へ持って来ました。その人は黙ってそれを受け取って微かにうなずきました。
ジョバンニはおじぎをすると扉をあけてさっきの計算台のところに来ました。するとさっきの白服を着た人がやっぱりだまって小さな銀貨を一つジョバンニに渡しました。ジョバンニは俄かに顔いろがよくなって威勢よくおじぎをすると台の下に置いた鞄をもっておもてへ飛びだしました。それから元気よく口笛を吹きながらパン屋へ寄ってパンの塊を一つと角砂糖を一袋買いますと一目散に走りだしました。

〈#3家 へつづく〉

1:「銀河鉄道の夜」は宮沢賢治が1933年に亡くなるまで繰り返し推敲されています。ここでは最終稿と呼ばれる第四次稿を順に紹介していきます。
2:山陰地方最大規模の書店「今井書店グループ」による米子市新開の店舗。ドイツの書籍業学校(現メディアキャンパス)に習い、1995年に設立した本の学校の実習店舗でもあります。本の学校の活動は2012年から特定非営利活動法人となり、更に2015年県内初の認定特定非営利活動法人本の学校となりました。
永井伸和さん(株式会社今井書店グループ 相談役)#1「逃げた米子で花が咲く」~米子を支える精神の背景
永井伸和さん(株式会社今井書店グループ 相談役)#2 一隅を照らす知の育成


イラスト:鳴海 梓
今回描いた活版印刷機や活字棚は、鳥取県米子市にて今井書店さんが管理・所有されています。世界で初めて活版の機械を自動化し販売したドイツのハイデルベルグ社製の活版自動印刷機プラテンは、昭和30〜40年頃まで実際に使われていたそうです。また、リトグラフの一種である石版の資料も多数。石の表面に脂肪性インクで文字や絵などをかき、水と脂肪の反発性を利用した印刷技術で、二十世紀梨などの果物を1つ1つ包んでいた紙などを印刷していたとのこと。イラストに描いた活版所の壁にはその包み紙も掲示してみました。


鳥取銀河鉄道祭
〈鳥取銀河鉄道祭〉は鳥取県総合芸術文化祭・とりアート2019のメイン事業です。宮沢賢治の名作「銀河鉄道の夜」を題材にした音楽劇を県内全域で展開しています。また「すべての人が芸術家である」という賢治の思想に基づき、県内様々な地域での活動や人々の暮らしを星座に見立てた88のトピックスで紹介していきます。これらは終着点である2019年11月2日3日にとりぎん文化会館で開催される鳥取公演 “ゲキジョウ実験!!!「銀河鉄道の夜→」”へと繋がっていきます。
公式HP https://scrapbox.io/gingatetsudou-tottori/
Facebook https://www.facebook.com/Gingatetsudou.Tottori/

演劇・音楽・ダンス出演者募集中!!!
”ゲキジョウ実験!!!「銀河鉄道の夜→」” は、演劇・音楽・ダンスのジャンルを横断してワークショップをしながら、参加者の人たちとともに作り上げる鳥取発の新しい舞台作品です。みんなで一緒にアイディアを出しながら、既存の“劇場”の枠を超えて誰も見たことのない音楽劇を作っていきます。今回、この公演への演劇・音楽・ダンスの出演者を公募しています。詳細は公式HP内の出演者募集ページでご確認ください。また、5月に行われたダンスワークショップのレポートもサイトにアップしています。
レポート|5月18日、ダンスワークショップその1
レポート|5月19日、ダンスワークショップその2

問い合わせ:鳥取銀河鉄道祭実行委員会(担当:木野、野口)
E-mail. gingatetsudou.tottori@gmail.com

ライター

トット編集部

当ウェブマガジン編集部。鳥取の今をアートやカルチャーの視点から切り取ってお届けします。不定期に集まり、運営方針や記事内容の検討などをする編集会議を開いています。随時メンバー募集中!

Array ( [0] => 152 )