招魂祭前夜祭 倉吉・鎮霊神社

倉吉の中心部、打吹公園内に位置する鎮霊(しずみたま)神社にて4月6日(日)に「招魂祭前夜祭」が行われました。同神社例大祭「平和の祭典招魂祭(しょうこんさい)」の前夜祭として「現時点プロジェクト」が主催。当日の様子を紹介します。


「招魂祭」という存在を、鳥取市で生まれ育った私は全く知らなかった。大学進学を機に11年過ごした京都を離れ、2019年の3月にUターンしてきた。「せっかく戻ってきたんだから、県内で面白そうなイベントがあれば足を運んでみよう。」と思いながら日々過ごしている。そんな中で縁があり、今回の「招魂祭前夜祭」に参加することになった。

経緯はいろいろある。主催する現時点プロジェクトのメンバーと知り合いイベントを紹介されたこと、東京にいる友人がギタリストの中村好伸さんと旧知の仲で「鳥取にいるなら是非、中村さんの音楽を聴くべきだ」と言ってくれたこと。人との繋がりは大きい。また、私自身が映像・アニメーションが昔から好きで、学生時代に映像を少し勉強していたこともあり、プロジェクションマッピングを使ったライブは好んで参加していたから、このイベントに対して純粋に興味を持っていたのだ。

そんな思いを抱きながら、開催地である「鎮霊神社」を初めて訪れる。打吹公園の中にこんな建物があるなんて知らなかった。英霊を祀ったこの場所の雰囲気は、ドシッとした拝殿から、厳かというか、神秘的というか、見守られているというか。そういったことを感じてしまった。京都でたくさんの神社仏閣を見てきたが、それらとは違う、この場所でしか感じられない感覚がそこにあった。

宮司の吉田武章さんの挨拶の後、いよいよライブがスタート。今回のライブは2部構成。前半は、米子のインストゥメンタルバンド「HI-ENA」の2人だ。

「景色やシチュエーションが見えるような世界観の表現」をコンセプトとして活動されている2人が奏でる音色は、「鎮霊神社」の雰囲気と神社を取り囲む樹々や空の空気を巻き込みながら、幻想的な空間を作りあげていた。2本のギターから繰り出される弦を弾く音、鈴の音色に近しく純度の高い金属が響き合う音。3つの楽器が絡まり合い、境内に響き渡る。
演奏開始時から明るかった空は、曲に合わせて、ゆっくりゆっくりと日が暮れて。2人が作る世界に浸っていたら、辺りはすっかり真っ暗に。とても心地良い時間を過ごしていた。

休憩を挟み、後半がスタート。前述の倉吉のギタリスト・中村好伸さん、岡山の打楽器奏者・岩本象一さん、福岡のウクレレ奏者・zerokichiさんのお三方による一夜限りのセッション。この時間では、会場内で期待の声が高まっていたプロジェクションマッピングによる映像投影も行われた。映像は、アニメーターのPONZさんと映像作家の波田野州平さんによるものだ。

最初は、岩本さんがスロバキアのフトゥヤラという縦笛のような楽器とインドのシュルティボックスというオルガンに近い構造の楽器を使って演奏をする。鍵盤と笛の音が絡まるように境内に響き渡る。音の重なりにシンクロするように、映像もいくつかのレイヤーが重なっていく。社殿のファザードに合わせて水平に伸びる白い線が上下に移動しながら少しづつ増えていき、不規則な動きを生み出していく。PONZさんによる幾何学なアニメーションだ。
カホンのリズムも加わり、映像の直線は徐々に曲線になり弧へと変化する。幾本もの弧が交わり、音と絡みあっていく。より幻想的な空間に包まれた場内は、その変化に酔いしれていくようだった。

続いて、ギター・中村さんにバトンタッチ。映像も波田野さんのものへと変化。倉吉の風景で構成されたという映像は、ガラス越しに雨が降る中で撮られたものだろうか。たくさんの雫が垂れ行き、ぼんやりと風景を眺めているような気持ちになる。ギターの穏やかな音色と共に映像もゆったりと流れていった。

中村さんによる説明が入り、いよいよ3人によるセッション。ウクレレのzerokichiさんが加わったことで音色は今までよりもリズミカルだ。波田野さんによる映像は夜の車窓からの風景に変わっているようで、対向車とすれ違う度にそのライトが視界を白くさえぎるように、時折リズミカルに、映像が白地となり建物を照らす。映像と音楽による不思議で幻想的な時間がそこにはあった。

一般に、“プロジェクションマッピング(Projection Mapping)とは、コンピューターで作成したCGとプロジェクタ等の映写機を使い、建物や物体、あるいは空間などに対して映像を映し音と同期させた技術の総称”だという。映像は立体物を意識して作られていることが基本だ。
場内には、プロジェクションマッピングを初めて見る観客も多かったようで、静かにその様を享受する人もいれば、友人達と面白がりながら見ている人もいて、それぞれ反応はまちまちだったように思う。

映像分野を少し齧った私としても、あれはプロジェクションマッピングなのかと問われたら、すぐには返事ができなかったと思う。それでも投影する神社にどんな意識を向けて作った映像なのかを想像すると、自分なりの答えが見えてくる気がした。
「招魂祭」というのは、第2次世界大戦で亡くなった兵士の魂を静めるためのお祭りであり、そのために作られた神社が会場となった「鎮霊神社」だ。そこに対し、PONZさんと波田野さんが照らす映像は、幾何学模様で作られた祈りであり、現代の日常風景が生み出す平和さを感じさせる。個人的に、今回のプロジェクションマッピングは、そうした英霊たちや英霊を生んでしまった社会へのメッセージが強くあると思っている。あの厳かで雰囲気のある古き建物に、鳥取に関わる映像作家の感性が加わることで、新たなセッションというか、ハーモニーを奏でてるように見えたのだ。「綺麗」という一言では片付けられない何かがそこにあった。

中盤、映像を止め、ウクレレがメロディーラインとなった「見上げてごらん夜の星を」「ムーン・リバー」の演奏中には、満天の星空を見上げたり、目を閉じて音に浸る観客の姿も。その場所が持つ静謐な心地よさに満たされるようだった。

映像が再度流れ始め、3人のセッションに戻っていく。波田野さんの倉吉の街並みの映像にPONZさんの幾何学模様のアニメーションが重なり混ざり合っていく。渦がうねる様に世界が作り上げられていく。3人のセッションの盛り上がりに合わせて映像も呼応し、見事な映像と音楽のコラボレーションの時間が生み出されていた。私も思わず「スゴい…」と呟いてしまったが、周りをみるとチラホラと聞こえていた会話が途切れ、会場全体がパフォーマンスに魅入っていたのが分かった。演奏終了後の鳴り止まない拍手がその満足度を表していた。

アンコールは「星に願いを」。手描きの星が瞬くような映像が投影され、場内を和やかに包み込んでいた。

桜満開の打吹公園の中での開催ということもあり、常時100〜150人ほどが入れ替わり立ち替わりしていたように思う。客層も老若男女問わず、幅広かったのが印象的だ。フードの出店もあり、酒のたなかでアルコールを買い求める人もいれば、ヒビコレコーヒーロースタリーで温かいコーヒーを飲んで暖をとる人、ジューシーボールで焼き鳥を買って仲間とワイワイ食べる人達など、皆それぞれにその空間を楽しんでいた。

今回の「招魂祭前夜祭」を観客はどのように感じたのだろう。「招魂祭」自体を知らなかった私としては、ずっと続いているイベントに「前夜祭」という新しい魅せ方が加わったことで知るきっかけになり、倉吉というまちの文化をもっと知ってみたいな、と思った。来年以降も是非続いて欲しいと個人的には望んでいる。また、鎮霊神社にも足を運びたい。

写真:河原朝子


招魂祭前夜祭
日時:2019年4月6日(日)18:00-20:30
会場:鎮霊神社(倉吉市仲ノ町)
主催:現時点プロジェクト

現時点プロジェクト
2017年1月にスタートした、生活習慣や生活用品、伝統行事や人々の記憶、自然環境などを映像と写真で記録保存し、アーカイブ資料を一般公開することをメインの事業とするプロジェクト。日常の中にある小さな驚きや、忘れられていた大切なことを発見していくことを目的とする。2017年は、バス停に置かれた椅子を通して地域コミュニティーのあり方を考える展覧会『バス停や椅子』を倉吉市内で開催。2018年より、鳥取に暮らす方々へのインタビューを行い、その方の半生とそれに結びつく土地の記憶を映像で記録・公開していく映像シリーズ『私はおぼえている』を展開している。また、当ウェブマガジン「totto(トット)」では波田野州平の映像レポート『映像みんぞく採集』を連載中。

ライター

蔵多優美

1989年鳥取市生まれ。京都精華大学デザイン学部卒業。IT・Web企業数社、鳥取大学地域学部附属芸術文化センター勤務を経て、デザイン制作やイベント企画運営、アートマネージメントなどを修得。「ことばの再発明」共同企画者。2021年5月より屋号「ノカヌチ」として鳥取市を拠点に活動開始。「デザインを軸とした解決屋」を掲げ、企画運営PMやビジュアルデザイン制作を得意領域とし、教育や福祉、アート分野の様々なチームと関わりながら活動中。対話型鑑賞ナビゲーターとして県内で実践やボランティア活動をする中で「美術鑑賞教育×対話」に関する調査研究に取り組む。2023年度は母校である鳥取城北高等学校で非常勤講師として美術を担当している。吉田璋也プロデュースの民藝品を制作していた鍛冶屋の末裔。