末次一茂(めがねのスエツグplus 店主) #3
人から人へとつながっていく、小さいけどいい循環

引き続き、米子のメガネセレクトショップ「めがねのスエツグ plus」店主、末次一茂さんのお話。
最終回は、あくまでもお店をベースに、無理なくできる範囲で、でも確実に広がっていく関係性の話。


― ところでお店の名前に「plus」がついてますが、これは今のかたちにリニューアルした際につけたんですか?

末次 ええ。以前は「アイジュエリー スエツグ」という名前でした。

― “町のメガネ屋”からデザイン重視のセレクトショップへ業態を変えて、店の雰囲気も品揃えも変えて、さらに名前も変えて、気持ち的には新しい店ですよね。

末次 そうですね。米子に戻ってきてから4〜5年経ってたんですけど、それまでは「家業を継いだ」っていう感覚だったし、そこに自分らしさを持ち込もうという考えませんでした。それが自分の代として、コンセプトから店を作り直すとなって、ようやく自分の店になったというか、これで堂々と名刺を出せるなって感じでした。

― 戦略的にあえてどこにないお店をということですが、お店を新しくする時にはこのスタイルでイケるっていう確信はありましたか。

末次 それはなかったです。というか、今でもこれでイケるなんて確信はありませんよ(笑)。ただ、私が作るならこういうメガネ屋しかできないというかね。やっぱりそれまでやってきたり考えてきたことの上にしか店なんてできない。だから確信があったというより、むしろ開き直ったという方が近いです。どうやって店を自分のカラーに変えていくかということしか考えてなかったですね。
今でもお店を褒めていただいた時によく言うんですが、私自身が一番長く過ごす場所なので、やっぱり私にとって居心地のいい空間にしておきたいというのはベースにあります。好きな音楽を流したりするのも、ちょっとした人形などを飾ったりするのも、そういう理由。だからお店なんですけど、感覚的にはプライベートな部屋を作るのに似てると思います。

― 音楽に関する活動もされていますよね。フリーペーパーを発行したり、ライブを企画したり。

末次 「Puerto de la Música(プエルトムジカ)」ですね。知り合いで音楽に詳しい方がいて、最初はお店のお客さんだったんですけど、音楽好きな者同士で呑み会でもしましょうということになってそこからスタートしました。“quiet music”という言い方をしてますけど、静かでゆったりとした音楽にスポットを当てたフリーペーパーと、ライブ招聘みたいな活動をやっています。

― フリーペーパーはどれくらいのペースで発行されてるんですか。

末次 不定期ですね。だいたい企画したライブの前に出すのが通例になっています。ライブで来てくれるアーティストを特集して、知っているライターさんやちょっと有名なお店の人とかにコラムを書いてもらって、後は地元でお店をしている人に店で流してる音楽のレビューを書いてくださいとかってやってます。プエルトムジカは3人でやってるんですが、それぞれいろんな人脈を持っていて、それがいい感じで活かされていて、いい循環で続けているなと思います。

― じゃあ配布も基本的にそれぞれの人脈を通して。

末次 そうですね。鳥取から出雲くらいまでで知り合いの店においてもらってます。全部で50箇所ぐらいかな。そのあたりはちゃんと管理してないんですけど、面白いもので人から人に、10枚ぐらいがさっと持っていって僕らが全然知らないお店に勝手に置いてくれる人なんかもいますね。

― お店にしても、茶散歩にしても、他のプロジェクトにしても、末次さんが手がけられているものって、力の入れ方がすごくいいなという印象を受けます。あくまでも無理せずできる範囲でやってるけど、確実に他の人に繋がっていくというか。

末次 いろいろやってますけど基本的にお店ありきなんで、やっぱり本業にしわ寄せがくるようなやり方はよくないなと思ってます。ついつい仕事以外のことに力を入れすぎてしまって、そのために時間がたくさんとられたり、もしくはお金をたくさん動かすようなことになってしまったりすると、別のストレスが生まれてますからね。それよりも、かける手間もお金も少なくていいから、きっちりと人を動かしたい。フリーペーパーにしても、こんなの作ったんですって興味ありそうな人に渡すと、また新しいつながりが生まれたりして、それがいい循環ということだと思っています。その結果としていろんな人にお店を認知してもらえるようにもなればなと。

― 最後に、今後新しくやってみようと考えていることはありますか?

末次 まずは本業をもっと頑張りたいですね。この山陰で眼鏡を楽しむ人、面白がる人を増やしたいです。その延長線で、例えばお店を使って小じんまりとした語らいの場なんかが作れたらいいなとは考えています。例えば、同世代の人のいろんな仕事の話を聞く会とかやりたいですね。それぞれの業界にいるからこそ見えるちょっと先の話とか。

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末次一茂
1977年米子市生まれ。米子市中心部で眼鏡のセレクトショップを運営。東京での大学生活&ちょっとの眼鏡店修行を経て帰郷。国内外の品質とデザインが優れた眼鏡を「楽しんで選び、楽しんでかける」ことをあちこち飛び回りながらも布教中。同時に「せっかく箱を持っているので」と眼鏡と無関係な商材を販売したり、WS、トークイベントなどを企画。何事も「浅く広く」が心情。本人はほぼ毎日違う眼鏡をかけている。

めがねのスエツグplus
米子市角盤町1-27-14
0859-33-4544
営業時間:10:00-19:00
定休日:水曜日、および毎月第3日曜
http://suetsugu-taiyodo.jp/

Puerto de la Música(プエルトムジカ)
facebook.com/puertomusica085/

米子茶散歩
yonago-chasampo.tumblr.com
facebook.com/events/536686526501730/

ライター

岩淵拓郎

1973年兵庫県宝塚市生まれ/在住。雑誌編集者を経て、2002年から2010年まで美術家として活動。現在はフリーの編集者として、主に文化・芸術などに関する書籍やプロジェクト、イベントなどの企画と編集を手掛ける。編著に『内子座~地域が支える町の劇場の100年』(学芸出版社、2016)ほか。2001~2015年、京都造形芸術大学教員。2012~2014年、宝塚映画祭総合ディレクター。一般批評学会主宰。「トット」ではスタートアップのお手伝いを少々。趣味は料理(キリッ