鳥取夏至祭2023 レポート#1
自然発生的に生まれるセッション

2023年6月25日、チュウブ鳥取砂丘こどもの国を舞台に鳥取夏至祭2023が行われました。今年度夏至祭の開催は予定されていませんが、現在これまでの全体を振り返るドキュメントを有志で制作中です。その刊行を前に、7度目の開催となった昨年の夏至祭の様子を、パフォーマーとして参加したnashinokiが振り返ります。


2023年の鳥取夏至祭(以下、夏至祭)は、covid-19の流行の収束が見えかけた2022年よりもさらに県内外の往来が自由になり、パフォーマーや観客が開放的に交流を行えるようになる中で開催された。会場は今回夏至祭で初めての舞台「チュウブ 鳥取砂丘こどもの国」(以下、こどもの国)。6月25日、県外から14組のダンサー、音楽家らが来鳥し、県内パフォーマーとともに即興セッションを行った。来場した観客は周遊型パフォーマンスを目撃し、最後は一緒に踊り、音楽を奏で楽しんだ(出演者の詳細については鳥取夏至祭HPを参照 https://tottori-geshisai.jimdosite.com)。

夏至祭は2017年より、県内外からパフォーマーを募り、参加者に実費のみを支給し同一条件のもとで「一緒にあそぶ」即興ダンスと音楽のお祭りとして、鳥取市内各地で開催されてきた。筆者は2020年にコロナ禍でオンライン開催された際に初めて観客として参加したが、2022年からはパフォーマーとしても参加している。前半のパフォーマー同士の即興セッション(後述の「オービタルリンク」)に加わり、2023年はさらに観客に向けて事前に緩やかな組み立てをする後半のパフォーマンスセッションにも参加した。客観的な目線が必要なレポーター/レヴュアーという立場で夏至祭を作る側にまわったのは、パフォーマーとして一緒に踊り、音を出してその場を体験することが、観客でいるより夏至祭で起こっていることをよりよく知ることができると気づいたからだった。当日の様子とともに前日のパフォーマーによる下見や打ち合わせの場面も含め、そのような視点から見えたことを書いてみたい。

リハーサルで使用したツアー各地点のマップ

前日のセッションと打ち合わせ

2023年の夏至祭は、6月25日が開催日として告知されていたが、パフォーマーは前日にこどもの国に集まり、下見を兼ねた即興セッションを行った。実行委員のメンバーが事前に選んでいた園内の6つの地点を全員で周り、毎回くじを引いて選ばれた5組がそれぞれ短いパフォーマンスを行った。その上で5組の全員が即興でセッションを行うパートは「オービタルリンク」と呼ばれる方法をアレンジしたもので、夏至祭では毎年行われている(1)

各パフォーマーはまずそれぞれがどのような人でどんなスタイルをもつのか知り、後半でその認識をもとにセッションに入っていく。パフォーマー同士の「出会い」を一つのテーマに掲げる夏至祭にとって、これは重要なプロセスでもある。リハーサル終了後、パフォーマーは鳥取大学のアートプラザホールに集まって、それぞれ周った地点のどこでパフォーマンスを行いたいかボードに書き込み、話し合って全体のパフォーマンスの組み立てを行なった。途中ケータリングの「せかいのまんなか」のカレーを食べ、あるメンバーからは「こんなに早く決まる打ち合わせはない」という声が聞かれた。

当日のパフォーマンスの様子

左から、呼び込みを行う赤田晃一(岡山)とヒジカタハルミ(京都)

25日朝、パフォーマーは朝9時半にこどもの国に集合。市内に宿泊した県外メンバーは県内参加者らの車に分乗して移動した。午前中出演者は前日打ち合わせた各地点に分かれてリハーサルを行い、終わった組から集合場所の多目的ホールに戻ってきて「Tottoriカルマ」のお弁当の昼食をとった。公演本番は12時半に開場し、ヒジカタハルミ、赤田晃一が入口ゲート付近で来場者の呼び込みを行い、パフォーマーらは来園した観客の受付を行った。そこにはボランティアとして参加した高校生の姿もあった。

たまがわとしお(中央・兵庫)と入場する観客たち

こどもの国の様々な場所で行われる即興セッションを巡る周遊型パフォーマンス、まずは多目的ホール前の「こども広場」での音楽と踊りからスタート(2)。照明の三浦あさ子と田中哲哉が、昼間の光のもとで工夫した照明を舞台に向ける。通常は裏方の照明も夏至祭ではパフォーマーの1人となる。櫻井重久のピアノが鳴り、鍵盤にクロミツも片手を合わせて伴奏をする。

荻野ちよ(左)、イフクキョウコ(右・山口)
鈴村咲月(左・滋賀)、井上柊(右・鳥取)

様々な楽器や声が響き、こども広場の中心にあるポールの周りをパフォーマーらがぐるぐる回って走り踊る。入場した来場者は、階段席からそれを取り囲み様子を見ている。時に観客席にパフォーマーが混ざって座ったり。

実行委員の吉福敦子(中央・東京)による説明

主催側から開始の発声がなされ、パフォーマーと観客は園内の各地点を周るツアーに出発していく。ガイド役(誘導係)は、たまがわとしおと、きのさいこ。

①花壇

誘導係を先頭に、園内を移動するパフォーマーと観客たち

最初の地点はこども広場すぐ上の「花壇」でのセッション。大脇理智、荻野ちよ、ゲバラ、トーマ、冨士栄秀也、李林海らによるパフォーマンス。

中段左から大脇理智(山口)、トーマ(東京)、李林海(鳥取)
園内各地に出没していたヒジカタハルミ(手前左)、 冨士栄秀也(東京・中段左)、荻野ちよ(鳥取・中段中央右)、ゲバラ(鳥取・上段左)

不穏な雰囲気を感じさせるゲバラのサックスや冨士栄のボイスパフォーマンスが響く。その中で大脇や荻野、トーマらダンサーの芝生の斜面を使った動きは、周囲で起こっている出来事にユーモアや面白さを見出そうとする広がりも感じさせた。

一つ目のセッションが終わると全員が次の地点へ移動する。赤田のサックスが一行の気持ちを駆動するようなメロディーを発し、次の舞台に向かう途中のパラボラアンテナの上ではYasusiが踊る。先にある林の木立では、樹上に田中悦子や吉福敦子、井上柊らダンサーの姿があり、田中悦子は鳥の鳴くような声を出して観客を迎えた。6地点以外にもパフォーマーがそれぞれ気に入った場所を探し出し、移動中にもパフォーマンスを行っていた。

田中悦子(鳥取)

②アスレチック

2つ目は「アスレチック」。イフクキョウコ、クロミツ、田中悦子、ニイユミコ、森本みち子らが参加した。

森本みち子(鳥取)
クロミツ(左)、ニイユミコ(京都・右)

森本が空間の奥にドラムを構えてリズムの基調をつくり、クロミツがヴァイオリンだけでなく岡山弁で子どものようなユーモラスだがインパクトのある言葉を放つ。女性ダンサーらは慌てるようにそこへ駆けつけ、身体の動きでクロミツの言葉を起点にセッションをした(この記事扉写真も参照)。

③林の中

3地点目の「林の中」では、辻たくや、トーマ、Puppis、bozzo、ヤオジャオドン、吉福敦子らがセッション。林の中の道を挟んでパフォーマーと観客らが向き合い、緩やかに演者と観客席が分かれている。パフォーマーらは落ち葉をもちさわさわと揺らし、まるで森の住人たちのよう。観客側にも葉が落ちていて踏むと音がして、こちらも不思議な世界に入っている。

左から辻たくや、トーマ、吉福敦子(以上、東京)
左からヒジカタハルミ、puppis(鳥取)

ヤオのアコーディオンのメロディが全体に鳴り、そこにPuppisの鐘や木管楽器の音が挟まれる。トーマは「弔い」が自分のテーマとしてあると前日話していたが、見る人によってはそのような雰囲気を感じさせるパフォーマンスだったかもしれない。後半は吉福と辻による踊りが軸になっていき、パフォーマーとして参加したカメラマンのbozzoはシャッターを切ることでセッションをした。

④三角の狭い道

「三角の狭い道」では、イワミノフ・アナミール・アゾースキー、岸本みゆう、nashinoki 、Yasusiがセッションをした。前日のリハーサルでは園内スピーカーから流れる音が気になったため、少し奥まった場所にパフォーマンスの舞台を変更し、Yasusiが身振りで観客を道から奥のスペースへ誘導した。

Yasusi(中央・兵庫)、右から岸本みゆう、nashinoki、アゾースキー(以上、鳥取)
左からアゾースキー、nashinoki

一行が中に入るとnashinokiが拡声器で詩の短いフレーズを読み上げ、その言葉に合わせるように岸本がオカリナ、アゾウスキーが「とうふるーと」(鳥取の名産、豆腐ちくわで作ったフルート)を吹いた。Yasusiもダンスにより身体の動きを合わせた。

奥まったスペースの外では、中に入りきれなかったパフォーマーの3人が園内スピーカーから流れる曲に合わせてひっそりと踊っていた。その瞬間を撮影したbozzoの写真が、後日参加したパフォーマーのあいだで共有され話題となった。bozzoをはじめ、夏至祭には複数のカメラマンや映像作家等が、パフォーマーとして、あるいは純粋な記録者として参加している。

左より吉福敦子、イフクキョウコ、田中悦子

この写真では、夏至祭のプログラムにあるパフォーマンスとは外れたところで3人によるセッションが発生していて、筆者はまさにこの時パフォーマンス中でこの場におらず、これは自身が体験したのとは別の夏至祭だった。それでもこの3人のあいだで起こっていたことは、同じ祭りの一部と思える。それはこの3人が、まったくの自発性からこの振る舞いをしており、そしてその姿勢こそが、夏至祭を根底で支えるものだったからかもしれない(この点については、後で触れる)。

プログラムされたもの以外にも、様々なパフォーマーによって自然発生的にセッションが生まれる夏至祭では、必然的に単独の視点には収まりきらない面が存在する。複数の記録者による記録はそのような祭りの全体像の広がりを示し、とはいえ個々の記録の視点は包括的なものではなく、全体は参加した一人一人の経験と記録のあいだで編み合わされるように「共有」、もっといえば分有されるしかない。複数の視点による記録があることで、私たちはそのことに改めて気づくことができる。

写真:田中良子(2-4,8,9,11,14,16枚目)、bozzo(左記以外)

1. オービタルリンクは2017年の夏至祭に参加した三重の中沢レイが考案した手法で、くじ引きで3人がソロを踊った後セッションを行うパターンを繰り返すもの。夏至祭ではこの方法をアレンジして使ってきた。オービタルリンクのパートは以前の夏至祭では公開されてきたが、2023年は会場の特性やパフォーマーによって即興パフォーマンスの経験にちがいがあることを考慮し、一般には公開しない形での実施となった。
2.こどもの国の各施設の名称については、以下のマップを参照。https://kodomonokuni.tottori.jp/map/


鳥取夏至祭2023
https://tottori-geshisai.jimdosite.com

問合せ
鳥取夏至祭実行委員会
geshisai2023@gmail.com

ライター

nashinoki

1983年、鳥取市河原町出身。鳥取、京都、水俣といった複数の土地を行き来しながら、他者や風景とのかかわりの中で、時にその表面の奥にのぞく哲学的なモチーフに惹かれ、言葉にすることで考えている。