トットローグ2021 アーカイヴレポート #2

昨年7月10日、対話のためのプラットフォームづくり、トットローグがスタートしました。トットローグでは対話の内容をアーカイブし、鳥取で暮らす人たちのコモンズ(共有物)とすることを目的の一つとしています。Vol.5まで開催する中で今年度の各回の内容をふり返りながら、アーカイブとしてレポートを公開していきます。2回目はvol.3とvol.4、vol.5のレポートです。


トットローグvol.3「わからなさ、わかりあえなさを考える」2021年10月22日
会場は鳥取市内の「ことめや」とオンラインの併用。レジデンス・アーティストとして協力をお願いしていた企画者の1人であるサトウアヤコさんは、この回でやっと来鳥が実現し、対面での場を開くことができました。 当日はカード・ダイアローグというサトウさんの考案した対話の方法を使い、参加者でテーマについて話しました(1)。Vol.2ではゲストに話題提供をお願いしましたが、今回はそれぞれの参加者の考えが対話の主軸となることを意識し、参加者のみで対話を行いました。会場で話したのは参加者3名と企画者を含めた6人。参加者は関連する書籍からの引用や、自身の経験からくる考えをカードに記入し、1枚ずつ順番に提出していきます。出されるカードが相互に影響し合い、参加者間の発言がいくつかの共有された概念に収斂していくこともあるのがカード・ダイアローグの特徴です。ただこの方法には参加者が少数に限られる面もあり、カード・ダイアローグの基礎にある対話の場での安全性の確保とそれによる対話の質の保障という面と、公共性あるいはコモンズの観点から対話の場を公開していくという側面をどう両立させるか、企画者間で何度も議論がありました。その中で少人数参加を基本としつつも一定程度外に開いていく方法として、話には参加せずに対話のやりとりを聞くだけの「リスナー参加」という枠を設けることを考えました。リスナー参加者は主にオンラインでの参加が多かったですが、会場でのリスナー参加も若干名ありました。参加者同士の関係性を水平的なものにするため、当日会場で話す参加者には、リスナー参加者にどのような人がいるか名簿で知らせるようにしました(2)

Vol.2が終わった時点で、企画者間ではプラットフォーム化を目指し、これまでトットローグに参加した人で場を開くことに関心のある人が数人いたので、vol.3はその人たちを対象に話したいテーマを募り、対話の場を開くサポートをする回にすることも話し合いましたが、nashinokiは、もう少しトットローグがどういう場かのイメージを提示したいと考えたため、vol.3は一つのテーマについて話す回になりました。「わからなさ、わかりあえなさ」というテーマは、vol.1以前に配信した「公開会議」の中で浮かび上がった「わからなさ」が、対話のプラットフォームを考える上で重要であり、またサトウさん自身の経験においても切実なものであったことから選ばれたテーマでした。Vol.1など以前の回では対話の中で「わからなさ」が問題となる事例や場面が示されていましたが、vol.3ではわからないと相手に言われた人が怒ってしまうことがある理由、そのような関係を成立させる構造や、そのような事態になっても対話を中断しないための方法、あるいは態度について、それぞれの経験や本の引用を参照し考えを展開しました。当日は参加者相互でテーマについて考えが深まり、リスナー参加者も最後まで集中して会に同席してくれていた印象がありました。

この回が終わった辺りから、今後の方向性についてnashinokiには迷いが生じました。プラットフォームをつくるという目的と、自身の関心あるテーマを他の人と話したいという欲求は、必ずしも一致しないと考えるようになったからです。他の企画者からは、前者に向けてトットローグを方向づける提案がありましたが、nashinokiには自身がトットローグの中で取り上げたいと思っていたテーマや話を聞きたいと思っていた人への関心を、その流れの中でどう扱ったらよいかわからず、すぐにそちらの方向に進んでいくことができませんでした。そのため折衷案として、対話のプラットフォームについて考える場を開きつつ、トットローグの実践事例を提示する方向性がvol.3(と後のvol.5)で出てきたとも言えます。サトウさんからは、nashinokiは「対話のプラットフォームについて思考したい」という印象を受けるという指摘があり、トットローグ当初から話題の中心になっていた「わからなさ」について、サトウさんが場を主催してくれました。上記の指摘は、この後の展開にも影響していったように思います。 「プラットフォーム」とは何かという点についても、考えが変わってきました。当初は何らかの有効な対話方法の仕組みを構築するなど、充実した対話を行うための方法をプラットフォームと強く結びつけて考えていたのですが、そもそも人と人とが言葉を交わすことを対話と考えれば、そのあり方を特定の方法に限定するのは、誰でも利用できるプラットフォームという趣旨には適さないのではないかと考えるようになりました。それぞれの対話のための方法とプラットフォーム自体の仕組みとは分けて考え、後者は複数の人が集まるための「機会」のように捉えた方がよいのではないかと今筆者は考えています。とはいえ今年度はvol.3の後もvol.5まで、具体的な対話のための方法や考えについて深めていく時間になり、プラットフォーム化については来年度の課題として考え、実践していく予定です。

トットローグvol.4 企画展「東郷青児と前田寛治、ふたつの道」を観て、話そう 2021年12月4日
もともと対話のプラットフォームのアイデアの発端には、鳥取県立博物館で開かれた企画展がありました。そのことを博物館の学芸員さんに話したところ、秋から冬にかけて博物館で予定されている展示でトットローグを開いてみてはどうかという提案があり、トット編集部主催で実験的に会を開いてみることにしました。Vol.2では既に会期が終了した展示について話す点に、参加者の対話の前提を揃える難しさがありましたが、開催中の展覧会を見てそれについて話すのは、対話の前提も揃えやすく、無理なく会を開催しやすいのではないかと想定しました。

Vol.4でも当日はサトウさんが来鳥し、博物館学芸員によるギャラリートークを参加者全員で聞いた後、会議室でカード・ダイアローグによる対話を行いました。今回は学芸員としての経験もある水田さんが進行役として、参加者3名と企画者2名を含む5名でカードを使って対話を行いました。以前から企画側で議論していた対話の場の公開性に関して、この回では前回、前々回と同じくリスナー参加枠を設けると同時に(リスナー参加には会場とオンライン合わせて8名の申し込みがありました)、実験的にアーカイブ映像を販売することも行いました。当日の参加者だけでなくアーカイブ映像購入者も、視聴者というよりコメントなどを通して対話に参加する参加者と捉え、展覧会を観た方で関心ある方がトットローグの対話を見られるようにするための試みでした。事後の映像視聴者についても「参加者」としたのは、当日の対話参加者との関係が、どちらかが見られるだけの一方的な関係ではなく、双方が参加者として一つの場をつくることが、対話の場のあり方として望ましいと考えたからでした。とはいえその際、カードによる対話参加者は実験的な会の協力者として、鑑賞チケットを2枚進呈する形で参加をお願いしました。

当日話した内容としては、最初は一つ一つの作品について取り上げ、そこから徐々に複数の作品に通じる傾向や時代背景、絵画の潮流や技法など、参加者が考えを交わす中で視点が発展し、対話者間の共通の思考が深まっていきました。対話の参加者からは、思っていたより自分の考えを話せてよかったという感想があり、またあるリスナー参加者からは、学芸員など専門家による解説があれば「答え」(知識)を与えてもらって終わりとなるかもしれない認識を、参加者それぞれが実際に作品を見て考えた経験から話し立ち上がらせていたという指摘がありました。サトウさんからは、わからなさや問いをそのまま皆で抱えられた感覚があったとの感想があり、このようなプロセスは、必ずしも専門家ではない鑑賞者が、率直に意見を交換することで生まれるものだったと思います。

今回nashinokiは、カード・ダイアローグのテーブルの外側に設置されたリスナー参加者のための席で様子を見ていたのですが、対話者間では充実したやりとりが行われている一方、輪の中心でどういう相互の対話が起こっているのか感じづらい部分がありました。今回は会場の空間が対話者とリスナー参加者で分かれてしまったこと、オンラインの視聴環境にも配慮する必要があったことなど、会の構造が複雑になった面があり、対話に集中するためにも、また誰でも使えるプラットフォームという面でも、構造的な簡潔さは重要と考えられました。他方、vol.4で水田さんが進行役としてカード・ダイアローグを実践できたこと、またサトウさんの提案による、対話参加者が当日のギャラリートーク以外に事前、事後と計3回展示を鑑賞することで自身の鑑賞体験を深めていく方法を実験的に提案できたことは、トットローグの対話の方法論を追求するための重要な機会となりました。また県立博物館の展覧会と同時期に連動する企画を行えたこと、学芸員さんに対話の場を助けてもらいながら様子を見てもらえたことも、トットローグの地域へのかかわりを広げるきっかけとして貴重な機会となったように思います。Vol.4は、vol.2に続いて具体的なテーマについて取り上げる場となると同時に、県内の施設による企画と連動して行なった、新たな実践事例となりました。

トットローグvol.5 「個と共同性」について、話し考えよう 2021年12月6日
この回はvol.3に続いて、トットローグ開始前にツイキャス配信した「公開会議」で出た対話のプラットフォームを考える上での重要な話題のうち、これまで扱えなかった「個と共同性」について取り上げることにしました。nashinokiは当初トットローグを「コモンズ=地域共通の財産」としたいと考えていましたが、別の企画者から「地域」や「財産」という言葉には、かかわる人が限定的だったり、所有のニュアンスを感じさせるという指摘があり、個と複数の個によって成り立つ共同性との関係を、深めておく必要を感じました。企画者間でも対話のプラットフォームの基盤である「鳥取」の位置づけについて共通了解をつくっておく必要があると考え、それをvol.5の対話によって深める課題としました。

当日はvol.3と同じ形でリスナー参加枠を設け、対話も同じく対話者がテーマについて協働的に思考を組み上げるのに適したカード・ダイアローグで行いました。会場の対話参加者は企画者含む4名、オンラインのリスナー参加者は2名で、当日話した内容としては、サトウさんの鳥取をコミュニティが複層的に存在する大阪からのネットワークの延長上に位置付けているという指摘や、企画者以外の参加者から出た、鳥取という場所の共同性は人口の少なさ、資源の少なさを前提としていることにあるのではという指摘があり、コモンズ概念を考える上で「個と共同性」に関する互いの考えを全て話せたわけではないとしても、関連するいくつかの要素を展開し、互いの理解が進んだように思えました。またこの回では、トットローグの枠組み自体に関する発見もありました。会場にいる人だけで話していれば、その集まりは共同体という印象を感じさせますが、それをオンラインのリスナー参加者に見られていると感じると、共同体が少し外に向かって開き、そこに公共が生じているような感覚がありました。公共性は内側から外に向かって開こうとしているときに生じ、そこには「位置」や「方向性」が関係しているのではないかという発見がありました。

会の後半には、リスナー参加者からの発言もあり、参加者の考えに相互作用が起こる、充実した対話の時間となったように思います。とはいえ話せなかった要素も多く、また同じテーマで続編を開催したいと話し会を終えました。Vol.4に続きこの回でもアーカイブ参加枠を設けましたが、現在まで申し込みがなく、事後的に映像を見て当日の参加者と同じように意見やコメントをもらうという方法は、再考が必要かもしれません。このレポートを含め、対話のアーカイブの方法については、引き続き考えていきたいと思います。Vol.5はvol.1、vol.3に続いて、コモンズとしての対話のプラットフォームそのものについて考える機会となりました。

《おわり》


1. https://dialogue.mogubook.net
2. リスナー参加は、話しはせずにやりとりを聞いてみたい人もいるのではないかという想定からvol.2で取り入れた方法でしたが、対面とオンラインの併用が可能になったvol.3から、その特性がはっきりと出てきたように思います。

ライター

nashinoki

1983年、鳥取市河原町出身。鳥取、京都、水俣といった複数の土地を行き来しながら、他者や風景とのかかわりの中で、時にその表面の奥にのぞく哲学的なモチーフに惹かれ、言葉にすることで考えている。