レポート:トットローグvol.12「私が祭りに行く理由」

今年3月、トットライターのnashinokiさんが汽水空港のモリテツヤさんと開催するトットローグ3回目として、「祭り」をテーマに対話する場を汽水空港で開きました。対面で開催した当日の様子を、準備会の様子と合わせレポートします。


トットローグvol.6とvol.7では、ウクライナの戦争や元首相殺害といった大きな事件をきっかけに対話の場を開きましたが、ネガティブな事態への反応としてではなく、何かを作り上げるような場を開きたいと、「祭り」をテーマに選びました。とはいえなかなかこのテーマのための切り口を見つけられず、予定を変更し1月にまず汽水空港で準備のための機会をもつことにし、この会とある盆踊り愛好家の知人へのインタビューも踏まえ、3月25日にトットローグvol. 12を対面で開催しました。

 

歴史や習俗を客観視する場所

1月の会では、nashinokiが個人的にSNSで告知をし、汽水空港のカウンターに閉店時間まで座り、カウンターの後ろにはモリさんがいて、来店者で祭りに関心のある方と話をしました。一度に対話者が集まり車座になって話すことはできないのですが、店に居合わせた人同士で対話が生まれ、企画者を軸に話は継続していき、このようなやりとりは汽水空港のような個人店では通常店主と客の間で行われていると思うのですが、一つの対話の場(形式)なのだと気づきました。この日は俳優、踊り子(ダンサー)、ドキュメンタリー映画監督など表現活動に携わる方の参加が多く、映画制作や鳥取夏至祭などそれぞれの活動を、祭りやスピリチュアリティの観点から語る対話が行われました。偶然帰省中に立ち寄った湯梨浜町出身の俳優さんは、「汽水空港やジグシアター(松崎に2017年に開館した映画館)など、地元に流れる歴史や習俗を客観視する場ができた。流れに乗って習慣としてやってきたことを意識化させる視点が、今必要」と述べ、印象に残りました。

 

移住の経験から

これらを踏まえ3月25日に開催したトットローグでは、祭りについて話すこともあり身体性を重視したかったことから対面で、汽水空港で開催しました。2名の参加者と企画側の3名で話し、1名が東京から島根へ移住した方だったことから、まず首都圏と山陰といった地域コミュニティの違いについて話が交わされました。移住した参加者から、地元の人の移住者に期待する言葉にプレッシャーを感じることがあると述べられると、汽水空港の近隣在住の地元出身者からは、「住んでほしいよ」という素直な気持ちの表明で悪気はないのだとの応答があり、鳥取に移住して10年以上経つモリさんからは、移住者としての苦労とともに近くに住む仲間と一緒に年をとっていきたいと思うと、「ずっと住んでいてほしい」と言う側の気持ちもわかるようになったと述べられました。

 

それぞれの背景から見る祭り

筆者と先述の近隣在住の参加者は、それぞれの地元である河原町の麒麟獅子舞と湯梨浜町松崎の神輿について紹介し、他の移住者の参加者からは、転勤族でそのような特定の祭りとの強い結びつきが幼い頃になく、二人のように地域と深く結びついた祭りがあることがうらやましいとの声がありました。自身も参加者となれる祭りは鳥取に来て初めて体験したというモリさんは、祭りではサカキを担ぎ各家が納めた酒をすすめられ、「普段の自我がとろけ町の生態系に組み込まれる感じ」と述べ、「狭い町で誰と誰が仲が悪いみたいな関係性の膠着をとろけさせ」、自他の境界を「わけがわからなくする装置が祭りかも」と述べました。他方島根からの参加者からは、以前は祭りのように騒ぐことに罪悪感があったが、移住して松江の「鼕(どう)行列」(毎年秋に行われる松江神社の例大祭)を見たら、哀愁を帯び寂しい感じがして祭りの捉え方が変わったと述べられるなど、祭りの中で個が失われることや、コミュニティのもつ両義性に注意することといった、個としての自律性という視点から祭りに目が向けられました。

またモリさんからは、最近神社の境内にあるような大木に関心をもっていて、樹齢の高い木に触ると日常を離れて数百年という時間スケールに自分が滲み出していく感じがし、それも一人で行う祭りかもしれないと、日常の中で「小さな祭り」を見出す視点が語られました。この会では、企画側にモリさんがいて、筆者にも話を振ってくれたことで、先述のように進行役を務めながらも自身の背景にある祭りについて話すことができ、通常進行役は自身の意見を発言することが難しいのですが、企画進行側に複数名いることで、進行をしながら参加者となるあり方が可能となるように思いました。

 

コミュニティと祭りの現在

今回のトットローグでは、松江や松崎、東京や鳥取など、いくつかの参加者の背景とするコミュニティが、汽水空港という場で混ざり合い交差する時間となりました。準備の過程で、通常は表面にあらわれにくい祭りのようなそれぞれの背景について語ることで、互いの世界観を深く理解し、今後の社会の土台を探ることができるのではないかと思い至ったのですが(そしてそれを祭りについて語る切り口にしようと考えたのですが)、実際に会を開いてみてわかったのは、地域と結びついた祭りとのつながりをもつ人は現代において必ずしも多数派ではなく、山陰に移住して初めてそのような祭りを体験している人や、(盆踊り愛好家の知人から聞いたことですが)所属コミュニティとは別に祭りを求めて様々な場所に出入りする人がいることでした。現代においてはモリさんの言う「小さな祭り」や、コミュニティから離れて一時的に参加するお祭りなど、持続した場所や集団から解放された「祭り」への参加という新たな形を求めている人が増えてきているのかもしれません。こうした新たな「祭り」への参加の仕方と、従来の伝統的なお祭りが今後どのように続き、変化していくのか、そのことを考えるための始まりとなるような、トットローグをめぐる一連の機会になりました。

 


トットローグ vol.12「私が祭りに行く理由」

日時|2023年3月25日(土) 10:00ー12:00
場所|汽水空港(鳥取県東伯郡湯梨浜町松崎434-18)

企画・参加者|nashinoki(ライター)
ゲスト|モリテツヤ(汽水空港店主)

主催|トット編集部
助成|ごうぎん文化振興財団助成事業

ライター

nashinoki

1983年、鳥取市河原町出身。鳥取、京都、水俣といった複数の土地を行き来しながら、他者や風景とのかかわりの中で、時にその表面の奥にのぞく哲学的なモチーフに惹かれ、言葉にすることで考えている。