レポート:トットローグvol.7「政治と社会について、話したいこと」

2022年9月26日、トットライターのnashinokiさんが汽水空港のモリテツヤさんと開催するトットローグ、2回目が行われました。7月の安倍元首相銃撃事件をきっかけとして社会で様々な出来事が起こるなかで、政治や社会についてそれぞれが思っていることを話そうと企画された回、当日の様子をお届けします。


Vol.6終了後も、引き続きモリさんと現在の社会について考える機会があればと思い、3回ほど連続して対話の会を開くことを考えました。ウクライナとロシアの戦争が続くなか、7月には安倍晋三元首相が選挙の応援演説中に銃撃され死亡する事件が起き、犯人が旧統一教会への恨みによる犯行と自白したことから、自民党を中心とした政治家と旧統一教会との関係、さらに元首相の国葬への賛否が大きな問題となりました。世論の反対が過半数を占めるなか国葬は強行され、当初の銃撃事件が孕んでいた政治と暴力、また政治と宗教の関係など様々な重要な問題が議論されずに事態は進んでいった印象があります。このような取りこぼされた論点について話す場が必要なのではないか、話したい人がいるのではないかと思い、政府による国葬が強行される前にこの会を企画しました。

 

文化の土台自体を問い、編み直す 

オンラインで行った当日の参加者は7名で、モリさんの連載「スピらずにスピる」の読者など、県外からの参加が半数を超えました。交わされた対話の内容としては、具体的な政治状況にかかわるものというよりも、モリさんの連載でも論じられたような、これからの社会のための原理に関わる話が主だったように思います。モリさんは、最近自身の政治的な主張をするより周囲の環境や歴史について調べ、身体と土地との結びつきを強くし自分の生き方を編んでいると言い、具体的な社会問題への賛否よりも文化の土台自体(モリさんの言葉でいう「ラグ」)を編み直す必要があると考えているようです。このような視点は、とはいえ具体的な状況への応答から出てきたもので、例えば関東で子どもに関わる仕事をしているという参加者から、都市部で保育所のための駐車場が足りないといった生活の中で切実な要求をもつ人は、現実に政治力をもつ自民党に頼らざるを得ないという発言があるなかで、モリさんはそこで言われている実際性(切実さ)のタイムスパンは短すぎ、そのような「切実さ」そのものを問い直すことが文化を作り直すことだと応じました。発言をした参加者からも、そもそも駐車場以前に、現代の大都市には次世代を育てるために適した環境がないと感じるという意見が、モリさんの発言に対して返されました。

 

内側にある光

今回は前回よりも、女性参加者を中心に一人一人が少しずつ自らの考えを内側から開示するように、新たに何かを作ろうとするように話が進められたのが印象的で、神戸から参加した女性は、コロナ禍の一連の出来事をみているとプロレスの八百長のようで、マスメディアも信用できず、誰かに依存しないで「自分の内側にだけある神様をしっかり立たせることが重要」と発言しました。別の女性は社会に出た30年前から日本社会は変わっておらず、お金と同じくらい日常の生活は大事なのにそれがずっとないがしろにされていると述べました。かつてコミューン[1]へ参加していたという別の参加者からは、ある種の地獄をみたようなコロナ禍の三年の後で光を見たいと思い、以前過ごしていたコミューンに参加したことで確かにそれを見た。そのような経験をすると、政治的な議論に情熱が湧かず、それよりも光を見る経験を積み重ねたい、コミューンに参加することで元気が出てきているという発言がありました。その共同体には、都会から移住してきた直感で動く若者が多く、これこそ生活だと感じる、懐かしい居心地のよさがあったということです。

 

深い精神性と外的世界との往還

最後の女性の発言の呼び水となったのは、モリさんが社会学者の見田宗介による『気流の鳴る音』や、詩人の山尾三省が『狭い道』に記した詩を紹介しながら、コミューン運動の紹介をしたことでした。両者は学生運動を経験した後コミューンに傾倒し、その後それぞれの道を歩みましたが、『気流の鳴る音』で描かれているのは、この世でもあの世でもない「その世」、ある種のシャーマンの呪術のような技術を使って、自らが生きる世界に対する見方を変えることで全く別様な世界を獲得し、それを再び現実世界に活かしていく方法で、山尾三省の詩に描かれているのも、自己と共同体と世界、そして宇宙を調和する原理に関するもので、深い精神性と外的世界とのあいだの往還でした。

 

今回は、政治と社会について語るというテーマでありながら、特に女性の参加者からの発言を中心に、具体的な出来事から離れてそれぞれの内的な部分、あるいは「生活」に焦点が当たり、外的な社会や制度に頼るのではなく、内部から何かを生み出していこうとする力が語られる場になったように思います。政党やYes/Noを表明して議論することに関する意見など、社会的な制度をめぐる発言もありましたが、振り返ってみると、内的な部分や生活への沈潜、それが今後どのようにより広い社会とつながっていくかというその往還について示唆するような回だったように思います。鳥取のウェブ・マガジンの企画でありながら県外からの参加が多かったことも新鮮で、ローカルに軸がありながらも他の地域とつながる、一つの道筋が見えるような回ともなりました。

 

[1] 1960年代以降、産業化社会から脱落、離脱したヒッピーや、先進諸国の学生運動にかかわった人々によって、共通の思想・文化をもつ、自主管理的な生活共同体を創設しようとする運動によって創られた共同体。理想社会の追求と、相互扶助のための団結を特徴とする。(『ブリタニカ国際大百科事典』参照)。


トットローグ vol.7「政治と社会について、話したいこと」

日時|2022年9月26日(月) 19:30ー21:00
場所|オンライン会議システムzoom

企画・参加者|nashinoki(ライター)
ゲスト|モリテツヤ(汽水空港店主)

主催|トット編集部
助成|ごうぎん文化振興財団助成事業

ライター

nashinoki

1983年、鳥取市河原町出身。鳥取、京都、水俣といった複数の土地を行き来しながら、他者や風景とのかかわりの中で、時にその表面の奥にのぞく哲学的なモチーフに惹かれ、言葉にすることで考えている。