レポート:トットローグvol.6「戦争について、思っていることを、話してみる」

昨年5月30日、トットローグ2年目の初回として、2月に始まったウクライナとロシアの戦争が続く中、戦争について思っていることを話す会を開催しました。ゲストスピーカーに汽水空港のモリテツヤさんをお迎えしてオンラインで開催した当日の様子を、企画者でもあるライターのnashinokiさんに振り返っていただきました。


2021年度から、鳥取でこのテーマについて話したいと思ったとき、誰もがそれを使って話したり、自ら対話の場を開けるプラットフォームの試みとしてスタートしたトットローグ。2022年度は実際にトット関係者がプラットフォームを使って様々な対話の場を開くことを目指しました。昨年度開設に関わったnashinokiは、今年度は鳥取の書店・汽水空港のモリテツヤさんと現代の社会について考える3回連続の対話の場を開き、vol.6はその初回となりました。モリさんを誘ったのはウクライナの戦争が始まって少し経った頃、戦争に当惑し、どう捉えたらよいかわからなくなっていたときに、たまたまモリさんの営む汽水空港を訪れ、彼から今の戦争をどう思うか聞かれたとき、自分はこの戦争について誰かと話したかったことに気づいたことがきっかけでした。モリさんと対話の場をつくることで、他にも同じように誰かと話したいと考えている人と、戦争という出来事をめぐって意見を交わすことができるのではないかと考えました。

 

議論よりも、まずは気持ちを言葉にする

当日のテーマとしては、ウクライナの戦争が念頭にあったものの、実際僕たちはウクライナから遠く離れた場所にいて、この戦争そのものに関わっているわけではなく、日本にいる自分たちが現在の戦争をどう捉えるのかという立ち位置から、ウクライナという文言を入れない「戦争」をテーマとしました。オンラインだったこともあり県内外から5名の参加があり、第二次世界大戦(アジア・太平洋戦争)の敗戦国である日本という共通の土台に立ちながら、それぞれの経験に基づくコメントがありました。自らも経験した苦しい状況を考え、議論よりもまず気持ちを言葉にしてもらうことを重視し、岡山に住む男性からはnashinokiやモリさんの戦争への戸惑いと共通して、今回の戦争は9.11や湾岸戦争よりも、東日本大震災など災害の感じと似ていて「戦争そのものより情報にやられている感じ」という発言がありました。世界を旅行した経験のある別の参加者からは、ドイツと異なり日本は加害責任への向き合い方が足りないという発言がありました。

 

「戦争」を多角的に捉えることで、見えてくるものがある

ウクライナの戦争に際して、モリさんからは特に「祈り」という所作が取り上げられました。参加者からは現実に人が死んでいるときに祈るという行為でよいのかという疑問が呈され、それに対しモリさんは、「祈るとは自らの声を聞くこと」という哲学者キルケゴールの言葉を紹介し、「祈るとは自分のクリアな欲望に気づき、それによって行動が変わること」と述べました。それを受けて先ほどの発言をした参加者からは、「ここ二ヶ月ほど自分はたくさん歩いていて、そのような行動にも祈りは伴うと気づいた」と応答がありました。さらにモリさんは『戦中・戦後の暮らしの記録』(暮しの手帖社)の内容を紹介し、人殺しの行為に巻き込まれないため自分は戦争になったら山に逃げようと思っていたが、戦争中に村で自殺した青年や、逃げ回っていた青年が殺された話などが載っていて、圧倒的な逃れえなさを感じたと述べ、また戦争への加害意識を忘れやすい日本にも、国家が成立する前は様々な民族がいて、迫害した人もそうでない人もいたはずで、それぞれがルーツをたどればみんなその歴史をもっているのだから、それを人類の特徴として自分に学ばせることが、自分にできることという発言がありました。戦争を戦う国同士という単純な「正義」の構図に収まらない境界部分や両義性に目を向け、書物による知識と想像力を使うことで戦争という出来事をより複雑に、厚みをもって捉え返そうとする姿勢をそこに感じました。

 

誰かと言葉を交わすことで、思考の土台に立てる 

モリさんの話を聞いて、戦争をなるべく複雑なものとして理解すること自体が、敵味方どちらかに関与しないための抵抗の行為となるように思いました。またトットローグvol.6全体を終えて感じたのは、誰かと話をする前には、ウクライナの戦争について考えるための足場がないという印象があったのですが、終了後には、そのための場、土台に立てたという感覚が生まれていました。同時代に直面する問題を人々が思考するためには、そのための共通の場が必要で、それにはまず誰かと言葉を交わすことが必要なのではないか、それによってはじめて人は、問題を自らのものとして受け止めることができるようになるのではないかと思いました。そのような対話の意味について考えることができた、今年度の初回の場となりました。


トットローグ vol.6「戦争について、思っていることを、話してみる」

日時|2022年5月30日(月) 19:30ー21:00
場所|オンライン会議システムzoom

企画・参加者|nashinoki(ライター)
ゲスト|モリテツヤ(汽水空港店主)

主催|トット編集部助成|ごうぎん文化振興財団助成事業

ライター

nashinoki

1983年、鳥取市河原町出身。鳥取、京都、水俣といった複数の土地を行き来しながら、他者や風景とのかかわりの中で、時にその表面の奥にのぞく哲学的なモチーフに惹かれ、言葉にすることで考えている。