レポート:
「鳥取県立美術館ができるまで」を伝えるフリーペーパーづくり
記事作成のための講座3 デザイン編

2024年度に開館が迫る鳥取県立美術館。この美術館の開館までの動きを伝えつつ、機運を高めるためのフリーペーパーづくりが県立博物館主催で継続実施されています。コロナ禍のなかオンラインで実施された記事作成のための講座 デザイン編の様子をレポートします。


新しい美術館のためのワークショッププログラムである「アートの種まきプロジェクト」の一環として一昨年より開催されている「『鳥取県立美術館ができるまで』を伝えるフリーペーパーづくり:記事作成のための講座」。その第三回が2021年1月16日(土)に開催された。開催は一年ぶりであり、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、今回は初のオンライン開催となった。

編集者で株式会社MUESUMの多田智美さん

講師にフォトグラファーの藤田和俊さんを迎えた第一回の「写真撮影編」、totto編集長の水田美世さんを迎えた第二回の「ライティング編」に続き、第三回の今回は「デザイン編」。「鳥取県立美術館ができるまで」を伝えるフリーペーパー「Pass me!」のデザインを担当するデザイナーの三宅航太郎さんと、同じくディレクションを担当する編集者の多田智美さんが講師だ。

先に行われたのが、三宅さんの活動をデザインを中心に紹介するプレゼンテーション。

10年前から鳥取で活動し「たみ」「Y Pub&Hostel」などの宿の運営をはじめアートプロジェクト企画やデザイン業を行うチーム・うかぶLLCの共同代表である三宅さん。大学でデザインを学び、以降はアーティスト活動を経て鳥取へ移住して起業、その間も並行してデザイナーとしての仕事を続けてきた。

tottoのロゴやwebのデザインをはじめ、鳥取県立博物館の企画展や県内の店舗やイベントの広報物など、主にグラフィックデザインでのこれまでの取り組みの数々を、それぞれの意図とともに紹介。廃材を再活用するクリエイティブリユースの拠点として知られる「IDEA R LAB」での事例では、新たにショップカードを作る依頼に対して、あらゆる廃材に押して「ショップカード化」できるスタンプを提案したという。これは特に印象的で、グラフィックの制作というだけでないデザインの奥深さを感じさせる一例であった。

プレゼンテーションが終わると、次は参加者が取り組むワークへ。

ここで明かされた今回の内容は「頼まれていないのに勝手に鳥取県立美術館のロゴを作る」。「TPAM (Tottori Prefectural Art Museum)」という鳥取県立美術館の愛称があると仮定し、本講座運営を担当する鳥取県立博物館 美術振興課 専門員の山本亮さん扮する「山本館長」にヒアリング、ロゴを各参加者がデザインしてプレゼンテーションする、というもの。

山本館長が参加者らの質問に答える形でヒアリングがスタートすると、美術館としてどのような機能があるのか、コンセプト、新しい運営方法、建物の説明や、取り込みたいターゲット層などが語られた。

そしていざデザインという時になって、三宅さんからその方法について「身の回りにあるものからヒアリングで出てきたキーワードに合うものを3分以内に探して、それで『TPAM』を作る」というお題が与えられる。

これは困った。この日、私はたまたま帰省先の実家から参加しており、オンライン参加のために手頃な部屋を探した結果、祖母の寝室から接続していたためである。他の部屋を探しに行く時間もないので、結局あれこれ探し、自分が手元に持っていたメモ帳とボールペンと充電ケーブル、祖母の部屋にあった腕時計と洗濯バサミで構成して写真を撮影した。

どうだろう、「TPAM」に見えるだろうか?

私はこれを「Tは腕時計が刻んできた歴史、PはPenとPaperで描くこれからの未来、Aの洗濯バサミとMのケーブルは、地域や人々を繋ぎ止める・接続する役割のイメージ」というような形でプレゼンテーションした。内心こじつけばかりであったが、その割には文脈もよくできていて、山本館長の反応は悪くなかった…と思う。

他の参加者たちも、身の回りにあるものを使って作ったロゴについて、モノの選び方で色味を統一した、鳥取の要素を盛り込んだ、心地よい形状を意識した、などそれぞれのこだわりを披露した。各自がオンラインに接続している場所が異なることで、より次はどんなものが出てくるかを楽しみにさせた。

ここまでの流れを実際にやってみて、制約があることはデザインを作るのに良い作用をもたらすのではないか、という実感が得られた。それは3分間という時間的制約や、身の回りにあるものを使うという物理的制約だ。結果的に自分でも何らかのデザインを作れた、という気持ちに到達できるのである。これは嬉しい発見であった。

ワークの終了後、三宅さんは「モノを組み合わせて新しいイメージを作ることは他の物事でも使える。分解したり、抽象化したり、組み合わせたり。あるいは、溶けていく路上の雪の残り方の存在感を見てそれを俳優がやったらどうなるか考えるなど、ある感覚を違う物事に置き換えてみるのも楽しい」と言った。なるほど、私はこの言葉を「グラフィックなどはあくまで結果の表面部分で、デザインはそれ以前のイメージを立ち上げる取り組み」なのだと受け取った。

また、多くのイベントがオンライン実施に移行する中、今回の講座が無事終わったことに運営サイドが安堵する様子も印象的だった。多田さんは「オンラインでも集まれるのは新しい価値だと思った」という。実際、オンラインで繋ぐことによって県内各地や、多田さんのいる大阪と繋いで講座が実施でき、また今回の「身の回りにあるものを使う」という内容も各自の場所から繋ぐことで一層ワークショップを楽しくさせた好例になった。美術館を作るという動き自体が本来そうであるように、一人一人が何事も手探りで行っているのが見えるのはとても良いことだと思う。

「『鳥取県立美術館ができるまで』を伝えるフリーペーパーづくり:記事作成のための講座」は過去2回は都合が付かず今回が初参加であったが、終始アットホームな雰囲気で進む講座であると感じた。アートや美術館というのは時に敷居を高く感じることもあるかもしれないが、興味のある方はまた機会があれば参加をオススメする。少しでも関心がある、ということだけで歩み寄る理由は十分にあるし、県民のための美術館はすでにすべての人に開かれているはずだ。

ライター

野口明生

1985年鳥取県生まれ。場所や企画など作ったりやったりする人。鳥取県中部で活動する「現時点プロジェクト」メンバー。 過去に、とりいくぐる Guesthouse & Lounge、NAWATE、奉還町4丁目ラウンジ・カド、鳥取銀河鉄道祭など。