レポート:
「鳥取県立美術館ができるまで」を伝えるための
フリーペーパーを、一緒につくってみませんか?

2024年度に開館が迫る鳥取県立美術館。この美術館ができるまでの動きを伝えつつ、機運を高めるためのフリーペーパーづくりが昨年度から始まっています。アーティストの淀川テクニック(柴田英昭)さんを交えて開催される3回目のワークショップは9月7日(土)に決定! ここでは、3月30日(日)に倉吉未来中心で実施された2回目の様子を紹介します。


こんにちは、小島と申します。僕は大阪から岡山を経て2018年4月に倉吉に移住してきました。偶然にも移住のタイミングで倉吉に県立美術館が出来ることが決まり、今回のオープンミーティングも面白そうだなとすぐに申し込みました。
参加者は高校生から年配の方まで総勢15名。島根や岡山など県外からの参加もあり、関心の高さが伺えました。

2時間以上をともにするメンバーとして、参加者全員が自己紹介。

長いタイトルにある通り、今回の企画は「鳥取県立美術館ができるまで」を情報発信するためのフリーペーパー(無料で配布される印刷物)を作ろうというもの。
講師である(株)MUESUM代表/編集者の多田智美さんは、大阪を拠点に全国で活動され、地域の魅力などを発信する定期刊行物や展覧会の図録作成、一般書籍や写真集の作成、障害者施設の情報発信、建築プロジェクト、Webサイト作成など様々なプロジェクトに携わる編集のスペシャリストです。

多田さん曰く、プロジェクトの最終成果物は、例えるなら野原に咲く花や木や蝶々、山などの日常に見えている世界。しかし、地面より下にもたくさんの世界が紛れもなく存在していて、それらは成果物になる前の「伝えたいこと」や「色々な人の想い」「個人的な背景」「社会的な背景」「地理的な条件」であり、さらには「まだ可視化言語化できていない価値」として考えることができる。それらの目に見えていない世界と目に見える世界とを繋いでいくことが編集の役割ではないか、と仰っていました。

今回の「鳥取県立美術館ができるまで」を情報発信するためにも「何を」「誰に」伝えることで、「どういう状況が生まれたらいいのか?」を予め考えておく必要があり、加えて、掘り起こした様々な「まだ可視化言語化できていない価値」を「色々な視点」から捉えることが重要だといいます。それらを踏まえて「デザインの骨格」を作るために必要なのが「編集的思考」だと考えているそうです。
言葉で捉えると難しく聞こえますが、TPOに合わせて服を選ぶ場合などに僕たちはすでに日常的に「編集的思考」を使っているとのことでした。

前回のオープンミーティング(2019年3月30日実施)の振り返りとして僕は聞いたのですが、改めて「編集的思考」はメディアづくりに限ったものではなく、「何かしたい事」がある時に「どうするのか?」を考えて行動する時に大事なプロセスなのかなと捉えました。

メディア作りのための具体的な流れも図を元に紹介されました。
メディア作りは編集する人とデザインする人がやり取りを繰り返しながら最終的にメディアに落とし込む作業。様々な工程があるのですが、まずは何が必要なのかという企画の部分が大切で、その企画の中でもさらに最初の企画立案や編集方針を立てるためのアイデアを今日は広げていこうとのことでした。

そのための手法として今回用意されたのは、“「見る力」を鍛えるワークショップ” 2種類と、“「伝える」について考えるインタビュー形式のディスカッション” でした。

前半の“「見る力」を鍛えるワークショップ” では、まず2人1組に対面し、一方の人しか見ることのできない絵の内容を、8分間で言葉のみでディスクリプションして相手に伝え、それを聞いた人が紙に描き再現するというもの。固有名詞や作品名は言わないというルールもありました。

背後に映し出された絵画をパートナーの説明を聞いて描こうとする参加者。言葉のみでイメージを捉えることの難しさを体感しました。

僕はまず絵を見て説明する立場だったのですが、言葉のみで資格情報を伝える難しさを心底実感しました。その後、役割を交代し、今度は話を聞いて絵を再現するという作業の心もとなさも体感しました。
初回はゴッホの「アルルの跳ね橋」で、次はスタジオジブリの「トトロ」の絵でした。終わった後に周りを見回すと、思った以上に再現性が高い組もあったのですが、それは話を聞く中で、すでに記憶しているイメージが徐々に結びついた場合のようでした。

パートナーの説明を聞きながら絵のイメージを再現した参加者それぞれのドローイング。

このワークショップの意図の説明として、多田さんからはNHKの朝ドラの「とと姉ちゃん」のワンシーンを紹介いただきました。今回と同様に言葉のみでイメージを紙に再現させる場面で、挿絵を使うことの重要性を説く内容でした。「言葉で伝えることの難しさ」と「ビジュアルの持つ情報量の多さ」に参加者のほとんどが見事にそれを体感できたように思えたので、素晴らしいワークショップだと僕は感じました。

その次に行ったのが無地のコピー用紙を用いたワークショップ。15分間いっぱい使って様々に手を動かし、そこから分かることを考える内容でした。最初は恐る恐る周りの様子を窺いながら作業を始める人が多かったのですが、徐々に没頭していき、あっという間に15分が過ぎていきました。
捻ったり、折ったり、バネのようにしたり、くるくると丸めて固い棒のようにしたり、子供の時に作ったものを思い出して色々な形を作ったり、本当に十人十色で様々なものを作っていてとても面白かったです。

その後、作業をしてみて感じたことを発表していきました。「鋭い角も緩やかな曲線も作れる」「白い紙だと最初は思ったけど、実際は白くないかも」「半分に折っていく作業は6回までが限度」など、本当に色々な感じ方があり、とても興味深かったです。人によっては紙自体の特徴だけでなく、自己表現に繋げている人もいて、素材自体の可能性や奥深さを感じました。
また、何気なく日常使っている素材であってもよくよく考えて見つめ直したり視点を変えてみたりすることで、色々な発見があることを感じました。固定観念や先入観を取り払うのは大変ですが、そこからの解放というのは非常に気持ちのいいものです。

この紙を用いたワークショップは、多田さんが3年前にイタリアを訪れた際、ブルーノ・ムナーリさん(1907-1998年/美術家、デザイナー、絵本作家)の弟子であるシルヴァーナ・スペラーティさんにやっていただいたワークショップの短縮形とのこと。その時は丸1日掛けて「行為を残す」ということを学び、紙が記録媒体としてマッチしている素材と捉えることができるようになったそうです。
このワークショップを通じて、参加者にもフリーペーパーを作るための紙という素材がどういうものなのか、改めて感じて欲しいという想いがあるとのことでした。

ブルーノ・ムナーリさんは「子供の心を 一生のあいだ 自分の中に持ち続けるということは 知りたいという好奇心や わかる喜び 伝えたいという気持ちを 持ち続けるということ」という言葉を残されているそうです。何かを伝えたいという気持ちや面白いなぁと思う気持ちがないと伝えるためのものは作れないと、多田さんはこの言葉から実感しているとのことでした。今回のワークショップ自体がその考え方を体現していて、ブルーノ・ムナーリさんの考えの深さを感じました。

休憩をはさみ、後半は“「伝える」について考えるインタビュー形式のディスカッション”。3人1組になり、「話す人」「聞く人」「書く人」に役割を分担して、5分間の交代制で「新しい美術館で生み出したい状況 さてどんなもの?」というテーマに沿って話し合い、記録していきました。
多田さんは「どのような状況を生みたいか?」ということから逆算して「どういうものを作るか」を考えていくことが多いそうです。今回のテーマも作るもののその先にイメージを繋げていきたいとのことでした。

どの組も役割を一巡したところで「書く人」が全員の前で「話す人」が話した内容を発表しました。全体的に「行きたいと思えるもの」「芸術の楽しさを伝えるもの」「子供にとって必要と思えるもの」になっていったらいいなぁという意見が多かったです。
僕は発表する際、緊張はありましたが、要点をまとめながら発表することによって、内容が整理されていくなと感じました。ただやはり役割やテーマが決まっているにも関わらず、人が話した内容を短時間で記録し、まとめて発表するのは容易ではないと体感しました。

最後に、多田さんは今回はメディアを作るための最初の段階で、これから「届ける相手は誰なのか?」「美術館ができるまでの何を伝えるのか?」「どういう立場で語りかけるのか?」を考える必要があると仰っていました。そして、そのメディアを届けることで「どういう状況を生み出したいのか?」を考えていきたいそうです。

僕にとっての生み出したい状況は、美術館に来てみたい、学びたいという人が増えていくこと。自分達の作るメディアで、そういう状況を作っていけたらと思うと、とても ワクワクします。次回の9月7日(土)も参加予定です。


次回開催
『淀川テクニック(アーティスト)と多田智美(編集者)による、「鳥取県立美術館ができるまで」を伝えるフリーペーパーの制作にむけて、一緒に「編集のちから」にふれてみませんか、というワークショップ』

日時|2019年9月7日(土)14:00-17:00
会場|倉吉交流プラザ 第1研修室(倉吉市駄経寺町187-1 倉吉市図書館 2階)
主催|鳥取県立博物館・倉吉市立図書館
対象|高校生~一般
参加費|無料
定員|30名程度(フリーペーパーづくりに継続参加されている方は、申し込み時にその旨をお伝えください)
申込先|0857-26-8045 鳥取県立博物館美術振興課

ライター

小島慎司

1984年大阪生まれ。大阪と東京育ち。大阪のWeb制作会社で10年程、馬車馬のように働いていたが、2017年に妻の体調不良をきっかけに環境のいいところへと考え岡山へ移住。その後、もっといい環境を求めて妻の実家がある鳥取に移住。現在はフリーランスになり、倉吉の山の中で細々と活動中。色々な人やモノ、コト、イベントとの出会いを通じて、住んでる地域でも移住者視点で何かできないかと模索中。卓球好き。