レポート:「なんだこれ?!サークル」とっとり版・なんだこれ?!ハンドブックをつくる
ワークショップ&プロジェクト #3

「トットの美術館プロジェクト」の主要な活動のひとつとして展開している「なんだこれ?!サークル」。2020年度はオンライン開催で、鳥取の人たちがアイディアを持ち寄って新しいハンドブックづくりに挑戦しました。新設される鳥取県立美術館に興味津々のトットライター蔵多が今回のプロジェクトの様子をレポートします。


お披露目発表会(2021年2月13日開催)
最終日となるこの日は、前半:とっとり版・なんだこれ?!ハンドブックのお披露目、後半:参加者が実践した「なんだこれ?!」のお披露目の2本立てで開催しました。

前半ではまず、対話式ワークショップを振り返り「ハンドブック制作のために精度が必要だったが、参加者の皆さんのアイデアを元に対話して考えていくプロセスが面白くて意味があった。掲載するために変にアイデアや言葉を歪めるのでは、対話の中で作り出せてよかった」とブッチーぶちょう。今回制作されたとっとり版・ハンドブックには、ワークショップで生まれた「絶対に終わらせない(でもいつか終わる)」(井澤ゆうかさん発案)と「◯◯になりきってみる」(青江由希さん発案)、さらに「自分で決めない、と決める」(竹本夏樹さん発案)の3つが追加掲載されたと発表していただきました。ワークショップの中で出てきたアイデアの中で残念ながら採用されなかったものについては、「なんだこれ?!のたねをみつけよう」というページの中で掲載されることに。


「なんだこれ?!」になる前のワンステップとして、参加者それぞれが課題に取り組んで生み出された言葉がそこに詰まっていました。これまでサークル活動を数多く開催してきたブッチーぶちょうも参加者と共にハンドブックを作ったのは初めてだったようで「新たに5、6ページ追加され、皆さんが関わってくれたことで本が立体的になったような気がする。いろんな人に使ってもらいたいものが出来ました!」と今回参加された皆さんに対して改めてお礼を伝えておられました。


後半では、参加者の井澤ゆうかさんと大久保つくしさん、森本みち子(すだっち)さんから、それぞれ実践してみた「なんだこれ?!」のお披露目。井澤さんはワークショップ時にお話しされていた“ご自宅の壁にお子さんたちが自由に絵を描けるように真っ白に塗りつぶした場所を用意している”ことを取り上げ、家族の恒例行事としてただひたすら絵を重ねていく行為が今回見つけた「絶対に終わらせない(でもいつか終わる)」ということかもしれない。日常的にやっていたことが「なんだこれ?!」だったんだ、と発表。大久保さんは開いた傘を球体にした立体物をご自宅の庭で発表され、森本さんはお子さんたちと一緒にご自宅の木にビニール手袋を飾りつけたりしたものを発表したり。それぞれの発表をみて、オンライン上で「なんだこれ?!」「なんだこれ?!」と飛び交う不思議な時間となりました。




最後に、今回の取り組みについて参加者の皆さんから感想を伝え合う時間を取りました。全体的に「楽しかった」「面白かった」というポジティブな感情を枕詞に、

「作品を観る時、物の鑑賞の仕方?について考えさせられた」「アートは観る側は観る側、やる側はやる側と、分断されているように思う。「なんだこれ?!」はボーダレスになるのではないか」「ハンドブック(本)にすることでそこにいなかった人に伝わる。少し輪が広がるということになり、面白いね、と通じる人に繋がっていくのでは。コロナ禍というこのご時世だからこそ、いろんな形で出来ることを」「自分自身が面白いと感じていたことの正体を言語化してもらったことが純粋に嬉しかった」「「なんだこれ?!」は日常の一部。日々のとるに足らないことの解像度を上げているような、日々を振り返るような感覚だった。いろんな人の「なんだこれ?!」を早くみたい」「一人で「なんだこれ?!」をやっていても意味がなくて、仲間がいて認めてくれることに勇気をもらえる。サークル活動という場がありがたい」「アイデアを生み出すのに苦労し、好奇心の感受性が弱くなってるのかもと感じた。子ども達といて気づかされること、楽しめることをもっと作りたい」

といったような取り組みの中で考えたこと、悩んだこと、気づいたことなどをそれぞれの言葉で伝え合います。飛び交う感想を聞きながら『対話という過程(プロセス)を経て、参加者それぞれのモヤモヤが言語化されて「なんだこれ?!」が生まれていく。これは、元アーティストで編集者のブッチーぶちょうとトット編集長で鑑賞教育に携わってきた水田さんが引っ張ってきたからこそ言語化していく、伝えていく、ということに特化したような場となっているのではないだろうか。さらに、オンラインという性質上では感覚的な共有をするのが難しいので、参加者それぞれが自分の気持ちや「なんだこれ?!」を言葉にして伝え合っているのだな』と筆者は考えました。「なんだこれ?!サークル」とっとりが目指す、鳥取で表現のことを考える場がここに出来上がっているのだなと感じたのでした。



出来上がったハンドブックを読んで&2021年度のオープンぶしつ
後日、「なんだこれ?!サークル 公式ハンドブック2021」が手元に届き、お披露目発表会で発表された「つくりかた」や「たね」を改めて見直していたところ、「なんだこれ?!」という言葉について、ブッチーぶちょうがハンドブック内の「解説(特に大人のみなさんへ)」で下記のように綴っていました。

“なんだこれ?!サークルにおける“なんだこれ?!”は、広い意味での“アート”と同義語として用いられます。ただ、“アート”という言葉が表現と批評という二項対立の関係を無意味に生み出してしまう一方、“なんだこれ?!”は未知なるものに抱く感情や感覚を包括的に表す言葉であり、結果的には表現と批評を地続きに扱えることを可能にしています。これは、少なくとも日本のアートラーニングにおけるひとつの発明であり、子どもたちだけではなく私たち大人にとっても、アートとの出会いを根底から変える可能性があると考えています。”

改めてこの言葉を受け、今回の取り組みを通じて筆者は『「なんだこれ?!」はアートを作るだけではなく、鑑賞するためのヒントがたくさん詰まっている。サークル活動はそのことを考えたり体験出来る場となっている。とっとりでこの活動に取り組むということは、表現すること(創作・つくること)と表現を味わうこと(鑑賞・批評すること)を分け隔てなく、地続きに考えることが出来る人たちを増やしていく一つのきっかけになるのではないか』と考えています。

優れた美術作品が生み出される過程には、歴史的に振り返っても、表現(創作)と鑑賞(批評)が、絶えず繰り返され何度もせめぎ合い呼応することで成立してきたと言っても過言ではありません。つまり、表現(創作)と鑑賞(批評)のどちらかに偏るのではなく、表現をする「つくり手」が増えれば、鑑賞する「受け取り手」も同時に増えていく必要性があるのではないでしょうか。

また「アート」という分野において「現代アート」というものは、同時代を生きるアーティストが現代社会の情勢や問題を反映し、批評性をもって表現する作品です。絵画以外にも彫刻などの立体、映像、インスタレーションなど、と手法は多岐にわたりますが、表現された問いと鑑賞者が対話することで作品は完成するのだと言われています。そうした表現を味わうこと(鑑賞・批評すること)をするためには、表現すること(創作・つくること)も知っておいた方がより、作品を深く味わうことが出来るのではないでしょうか。

同時代を生きるアーティストというのは、そのような肩書きの人だけではなく、私たち自身や家族、友人などもそれに当たると考えています。「つくる」手段が増えた現代においては、誰もがアーティスト・芸術家と呼べる時代であると言えるのです。そうした時代の中で「表現すること(創作・つくること)と表現を味わうこと(鑑賞・批評すること)を分け隔てなく、地続きに考える。そして、それを出来る人たちを増やしていく」ということがとても大切なことなのではないかと筆者は考えるのです。

2025年春(令和6年度中)に開館する鳥取県立美術館では教育に注力する「ラーニングセンター」の設置も重要な観点として挙げられていますが、今回動き出した「なんだこれ?!サークル」とっとりの活動は、鳥取という地で表現や学びの可能性を一緒に考えるひとつの機会になっていくことでしょう。また、ハンドブックを読んで、表現(創作)と鑑賞(批評)において大切にしていきたいことがたくさん詰まっており、お守りにしたい1冊だな、と改めて感じています。

今回のレポートだけでは「なんだこれ?!サークル」や「なんだこれ?!ハンドブック」については語りきることが出来ていませんし、読者の皆さんにとってはさらに「なんだこれ?!」の謎が深まったのかもしれません。そんなサークル活動やハンドブックは、百聞は一見にしかず、だと考えています。2021年度の取り組みでは、こうかいかつどうやハンドブックづくりが現地開催される予定ですので、ぜひ現地で体験したり、手にとって読んで見て欲しいのです。読者の皆さん、それぞれが感じる「なんだこれ?!」がそこにあるはずです。ぜひ「オープンぶしつ」で「なんだこれ?!」と言い合ってみましょう。自分1人では気づけなかった世界がそこにあるはずです。

2021年2月14日にちいさいおうちで行われた表紙づくりの様子。未就学児から70代まで27名が参加
後日、他の人がつくった表紙のハンドブックがそれぞれに届けられた

《おわり》


開催予告
「なんだこれ?!サークル」とっとり 2022 オープンぶしつ

【よなご】https://fb.me/e/1cbXlg1oK
日 時
|2021年2月23日(水・祝)
場 所|ちいさいおうち(鳥取県米子市皆生温泉2-9-36)
タイムテーブル
10:00-14:00 こうかいかつどう
14:00-16:00 ハンドブックづくり
16:30-18:00 なんだこれ?!もちより上映&発表会

【とっとり】https://fb.me/e/35iGkrlzS
日 時|2021年2月27日(日)
場 所|トりんく まんまる(鳥取県鳥取市元町275)
タイムテーブル
13:00-16:00 こうかいかつどう&ハンドブックづくり
17:00-18:30 なんだこれ?!もちより上映&発表会

参加費
|300円(ハンドブックのざいりょう代、ほけん代)

※いつ来ても、いつ帰っても、ずっといてもOK!
※「なんだこれ?!サークル」とっとり版ハンドブックがほしい人は、”オープンぶしつ”に参加するか、ちいさいおうちにお問合せください。

申込・問合せ|ちいさいおうち
683-0001 鳥取県米子市皆生温泉2-9-36
090-2409-7984(水田)
chisaiouchi@gmail.com

主催|子どもの人権広場
共催|鳥取藝住実行委員会(トット編集部)、鳥取県
助成|令和3年度 鳥取県 アートによる地域活性化促進事業補助金、令和3年度 文化庁 文化芸術創造拠点形成事業、2021年度ごうぎん鳥取文化振興財団

ライター

蔵多優美

1989年鳥取市生まれ。京都精華大学デザイン学部卒業。IT・Web企業数社、鳥取大学地域学部附属芸術文化センター勤務を経て、デザイン制作やイベント企画運営、アートマネージメントなどを修得。「ことばの再発明」共同企画者。2021年5月より屋号「ノカヌチ」として活動開始。「デザインを軸とした解決屋」を掲げ、企画運営PMやビジュアルデザイン制作を得意領域とし、教育や福祉、アート分野の様々なチームと関わり活動中。学校法人鶏鳴学園非常勤講師。現在は「鑑賞教育」と「対話」について考えるのが主な日々。吉田璋也プロデュースの民藝品を制作していた鍛冶屋の末裔。