八頭町アートケアリング ♯2
「馬と子ども達と実現したケアするアート」
現代アーティストの藤田クレアさんが、八頭町で制作した弱いロボットとは
八頭町アーティスト・イン・レジデンス事業「八頭町アートケアリング」が、2025年12月から2026年3月にかけて開催されました。参加アーティストへのインタビューをもとに、文筆家の谷口恵子さんがプログラムの模様をお届けします。レポート2回目に登場いただくのは、自然と機械を用いた作品を制作するアーティスト、藤田クレアさんです。
八頭町アートケアリング事業、今年度のアーティスト2名に選ばれた藤田クレアさん。幼少期には、日本の他に北京やニュージーランド、シンガポールと様々な国での生活を経験した。その後、アーティストとなった彼女の作品テーマは「他者との関係性」や「社会構造」への問いなど多岐にわたる。
学生時代の引っ越しや転校を経て、アーティストになってからも移動の日々は続いた。貸しスタジオと家、そして展示会場を行き来する毎日が日常となる。この変化の多い生活で、彼女は今、自分の「ホーム」を作り、そこを居場所がないと思っている子どもや大人達の場所にしたいと考えている。「私にとって居心地のいい場所は、他の人にとっても落ち着ける、自分らしくいられる場所になるはずだから」と藤田さんは話してくれた。その構想は、今回の八頭町での経験も、少し繋がりを持ちそうな予感がした。
レポート第1回目のアーティスト、松橋萌さんとバトンタッチする形で、昨年の年末から、八頭町での活動を開始した。ワークショップだから実現した、「思考し、手を動かす」ケアを通した作品制作や、今後の展望についてお話を伺った。
ー八頭町で一番驚いたことは何ですか?
藤田さん「私が初めて、ハーモニィカレッジ 空山ポニー牧場まで行った時のことです。当日は、郡家駅から歩いて行こうということになり、駅の事務員に行き方を聞いて、予想より急斜面の山道を歩いて進んでいました。30分ほど歩き進めた頃に、先ほどの駅で道を教えてくださった方が、車で様子を見に来てくれました。『思ったよりも進んでるねぇ、今ちょうど休憩時間だから送ってあげようと思ってね』と声をかけていただき、車で牧場まで送ってくださったんです。今日初めて会った他人でも、1回話した時に構築される人間関係が深いなと思いました。」
ー八頭町での生活はどうでしたか?
藤田さん「アーティストインレジデンスが始まる前から、どのようにしてケアという視点で、地元の人と積極的に交流を図り、且つ貢献できるか模索していました。自分の作品制作で培ってきた技術が使えるかもしれないと考え、塗装や簡単な修理などを申し出ましたが、そういった要望がすぐに出てくるわけではありませんでした。それよりも、地域の皆さんの集まりに何度もご招待いただいて、そこで皆さんのことや、地域のお話を聞くうちに、交流が自然と深くなっていったように思います。何かをギブしないとケアに繋がらなかったり、交流できないと考えていた自分が愚かでした。ただただ集まりに顔を出してお話ししたり聞いたりすること自体が互いにとってのケアだったように思います。」

ー馬とケア、子ども達との作品制作について教えてください。
藤田さん「以前、自分に休憩が必要かな、と感じた時期があり、子どもの頃に乗っていた馬のことを思い出し、また触れ合いたいな、と思いました。実際に馬のいる場所にいくと、その動きを見ているだけで癒されました。また馬はとても利口で繊細で、私が感じていることを、察知し、反応を示してくれたように思います。馬を通して自分が本当に思っていることに気がついたり、ただ一緒にいるだけで、ここに存在していいのだと感じることができます。
こういった馬とのコミュニケーションに救われた経験があるので、八頭町の子ども達にもそれを体験してもらい、そしてアートと掛け合わせたいと考えました。
実施した子ども達とのワークショップは、3部構成になっています。
1. 静観する(ピタッとタイム) ただ止まって、静観する。周りの音や様子に敏感になる
2. 馬とふれあう
3. 弱いロボットを自由に描く
子ども達は、馬とのふれあいから絵を描くことに行動に移すのもとても早く、絵を何枚も描いてくれました。弱いロボットは、時には自分のコンプレックスへ繋がっていることもあります。自分がコンプレックスだと思っている事でも、視点を変えると、簡単に長所になる。自分を見つめ、弱さを排除せず認める機会になると思いました。」

ー2週間で新たに藤田さんが得たもの、そして次回からの作品作りに生かせそうな学びはありましたか?
藤田さん「一人で何かを成し遂げようとする時、先ず人とのつながりが大切なことを学びました。滞在中に住んでいた家は、都会の居住スペースと比べてとても大きかったです。始めはそこで過ごすことを少し怖く感じていましたが、後半の滞在では、自然と安心して暮らせるようになりました。その理由を考えた時、つながりができたからではないかと思いました。ワークショップやプレゼンテーション、そして交流会を通して、人とのつながりが出来上がり、地域に関する知識がついた。作品のような成果物だけではなく、対話で生まれるものがあることを学びました。それからは、この地でもし何かが起こっても、対処できそうだという風に変わって、安心感を得ました。
今後、また新しい場所やプロジェクトを始める時は、まず繋がりを作ることを大切にしたいと考えるようになりました。」
藤田さんのワークショップは、形態を変えて大人向けにも実施された。2回のワークショップで描かれた弱いロボット達は、藤田さんの手で立体のロボットとなり、3月に終了した報告展示会でお披露目となった。聞くところによると、ほとんどの人が展示された自分の弱いロボットを、展示終了後に持ち帰ったそうだ。コンプレックスの分身だった弱いロボットが絵となり、そして立体になった時、もう既にネガティブな空気は払拭されていたようだ。そして、愛すべき存在となって、元いた場所へと戻っていった。

ケアという言葉を、最近目にする機会は多い。福祉や人材サービス、そしてヘルスケアなどの部門で使われる時には、サービスとして金銭との交換が条件となる。一方で、この度のアートケアリングでは、ケアを提供する側と受ける側の分け隔てなく、コミュニティを形成し、互いにケアし合うことが叶ったケースとなった。もちろん、ケアの実践方法は人それぞれで良い。馬や隣人を通すことがあれば、行政やサービスに頼ることもできる。でも、意外と知らなかったのは、自分の思考と手を動かすことで、自分をケアすることが叶うということだ。次回のアーティスト・イン・レジデンスでは、アートと「ケア」がどう変容していくのだろうか、今から楽しみにその日を待ちたい。
藤田クレア / FUJITA Claire
動力的な装置と有機物を組み合わせ、自身が生きる社会構造の中で、あるいは私的な人間関係の中で直面する問題や葛藤に根差した作品を制作する。主な個展に「ふとうめい な 繋がり([資生堂ギャラリー]、2020)」、グループ展に「SOUND&ART展([アーツ千代田3331]、2021)」、「TERRADA ART AWARD 2025」([倉田倉庫、2026」)がある。
八頭町アートケアリング
八頭町アーティスト・イン・レジデンス
滞在スケジュール|
藤田クレア:2025年12月28日– 30日、2026年1月5日– 14日、2月9日– 11日
松橋萌:2025年12月21日– 2026年1月3日
滞在場所|鳥取県八頭郡八頭町新興寺、日下部、丹比、鳥取市内ほか
報告展示
期間|2026年2月12日(木)– 3月8日(日)
会場|八頭町芸術文化交流プラザ あーとふる八頭
主催|⼋頭町教育委員会
企画|労働者協同組合Barrier House Project YAZU
お問合せ先|労働者協同組合法⼈ Barrier House Project YAZU
第⼀事業所 〒680-0521⿃取県⼋頭郡⼋頭町安井宿1174
Email|osaki@barrier-house.com