フィメール・ラップ SAN-IN 2025 ラップライブ「My Rhyme, My Rights」レポート

2023-2024年度に掛けてTPlatが取り組んだ「労働」にまつわる調査研究がベースとなり、2025年度からは女性による女性のためのラップ・サークル「フィメール・ラップ SAN-IN」を本格的にスタートさせています。ガイドラインとなるラップリリックをお披露目したライブ当日の様子を、サークルメンバーの福間久美子がレポートします。


2026年3月20日、米子市の「ちいさいおうち」にてフィメール・ラップSAN-INのライブが開催された。フィメール・ラップSAN-INとは、鳥取藝住実行委員会(2024年11月にTPlatとして法人化)が2022年度から「鳥取クリエイティブ・プラットフォーム構築事業」の一環として行ってきた労働にまつわるヒアリングを元に、特に女性たちが様々な抑圧を抱え、孤立し、語るべきことを内に抱えているものをリリックにまとめ、ビートに乗せてラップすることを目的に結成されたサークルである(1)

筆者がフィメール・ラップSAN-INと出会ったのは、2024年10月29日に開催されたイベント「トットローグvol.23 持続可能なアートと暮らしのためのラップ 鳥取からフィメール・ラップについて考える」だった。フィメール・ラップというジャンルについてよく知らないまま参加したが、今回のライブ当日にも行われたキュレーターの岡田有美子さんによるレクチャーに感銘を受けたのが始まりである。元々ラップが好きで、フェミニズムやジェンダード・イノベーションに関心があったが、そのような興味関心だけでなく、実生活においては子育てを経て女性が一方的に担わなければならないものの多さや、特に地方では今尚色濃く残る男性中心社会の空気にモヤモヤしていたので、それらすべてを呑み込めるフィメール・ラップに自分なりの想いをぶつけてみたいと思ったのである。

第1部でレクチャーを行うキュレーターの岡田有美子さん(左)

当日は、初参加の方対象のレクチャーや通常のサークル活動も含めた三部構成になっていた。第一部では、先述の労働にまつわるヒアリングを主動したキュレーターの岡田さんによるフィメール・ラップについてのレクチャーを聞く。今やすっかり日常的な存在となったヒップホップ文化は、MC(ラップ)、DJ、ブレイクダンス、グラフィティの4つの要素から成る。1970年代のニューヨーク、貧困や差別といった厳しい社会状況の中で生きるブロンクス地区の若者たちによって、自己表現の手段として生み出された文化である。その一つであるラップは元々持たざる者の音楽、マイノリティの音楽であったが、男性中心の文化であったことから、一部のラッパー達の間でミソジニー(女性蔑視)色の強いラップが広まっていく。そのようなマチズモ(過剰な男性性)とミソジニーに対抗するフィメール・ラップであるが、現在ではクイーンマザー、シスターフッド、サブカル系など様々な形が生まれている。

14歳でデビューしたロクサーヌ・シャンテはフィメール・ラップの歴史において重要な位置にある

レクチャーを聞いて、元来虐げられている側として権力を行使する側を揶揄する者であったはずの男性ラッパーが、より弱い立場の女性を攻撃するという状況が哀しかった。苛められている者がより弱い者を探して苛めるというのは、一般社会でもよく見られる構図である。一方で、フィメール・ラップがそのような力に対抗しつつ、様々な形で発展していく姿に逞しさを感じた。今、インターセクショナリティ(複数のアイデンティティが組み合わさることによって起こる差別や抑圧を理解するための枠組み)という概念が注目されているが、女性は二重三重の抑圧に苦しめられているケースが多い。そのような中から生まれたしたたかさや強さなのだろう。

サークル初心者は自分の名前から韻を踏む練習を行う


第二部では既存メンバーによるライブ練習の傍ら、初参加の方は自己紹介ラップの作成に取り組む。1小節4拍、16小節で1バース、最後に韻を踏むという同じルールの下で作っても、短いリリックの中にそれぞれの個性が光る。「ここだけの話」と断らなければ言えないような恨み言も、ビートに乗せて叫べば昇華される。同じリリックでも歌うたびに違うリズムで流れていく。これがリアルの場でラップすることの楽しさなのだと実感する。

第3部のライブには13名が参加し、岡田さんによる調査報告に聞き入った

いよいよ第三部、ライブの始まりである。最初に、岡田さんから「持続可能なアート活動のために – 鳥取の個人的な芸術と労働についての話を収集する」というプロジェクトでの労働に関するヒアリングの報告があり、その調査研究をベースに生まれたラップ『私の仕事を認めて欲しい』が披露された(2) 。報告の中で、40歳を過ぎてパンクバンドを始めたエクアドルのアーティストが紹介され、詩に「トラブル」を落とし込みつつ散させていく⾳楽の可能性について語られていたが、実際にラップという形になった詩を聴いてその可能性を実感した。それからMi-mi Blazeのソロラップ。『わたし おまえの ママじゃない』に首が痛くなるくらい頷き、『「家ではやらないんですけどね」またはSDGs』に「わかるー」とつぶやく。続いて、ガイドラインとなるリリック『My Rhyme, My Rights』のフック(サビに当たる部分)をオーディエンスの方々も含め全員で歌うために練習する。

My Rhyme, My Rights  このままじゃ愛は死ぬ
My Mic, My Life  家父長制の 外来種!
My Rhyme, My Rights Shi is 獅子身中の虫
My Mic, My Life  なめんなよ アニサキス

最初はたどたどしく繋がっていた音がやがて大きなうねりとなっていく。段々と熱気が高まる中、メンバー4人がステージに上がる 。観客も含め全員合唱のフックから始まり、メンバー個々のリリックを挟んで、最後は上記のヒアリングで集められた声を畳みかけるように連ねていく。そしてまた全員で大合唱 。拳を突き上げてフックのリフレインを続ける。

終了後、参加者の一人が「畳みかける部分が心に刺さった。聞く人によってそれぞれ刺さる部分が違うのでは」と感想を語った。皆、抱えているものが違う。そして、皆多くのものを抱えている。溜まりに溜まったものがあるのに、どうして口に出せないのだろう? 何らかの力で押さえつけられているから? ただの愚痴あるいはヒステリーとして片付けられるから?「わきまえた女」になった方が得だから?
私自身も、自分が我慢すれば済む、面従腹背でテキトーにやり過ごして賢く立ち回ればいいと、感情に蓋をしてきた面がある。そうやって日々やり過ごしているのは女性だけではないだろう。声を上げないことは、周囲だけでなく自分自身に対しても見て見ぬふりをすることなのに。深まる闇は、より弱い者への攻撃に走る危険性を蔵しているのに。

別の参加者が「みんな歌えばいい」とつぶやいた。そう、みんな歌えばいいのだ。そうやって声を上げれば、どこかの誰かの心に刺さって繋がっていくだろう。反論もディスもラップで返ってきたら上等だ。レクチャーで、「安心して取り乱せすことができる場」としてのラップという言葉が紹介された(藤高和輝著『<トラブル>としてのフェミニズム』より)。私はそれに加えて、ラップという約束事の下で安心して堂々と傷つけあうことができる場でもあるのではないかと思う。傷つくことへの過剰な配慮によって慎重に言葉を選ばなければならない一方で、匿名の力を借りたヘイトスピーチが溢れるという二極化が進む現在、rapでwrapして(ラップで包んで)吐き出せば、何かが開けて転がっていくかもしれない。

男女共同参画、ジェンダーギャップ解消、ダイバーシティ、etc.、耳障りのいい言葉が溢れる中、まだまだ物申せない空気が残っている。私たちは「家父長制の外来種」だけれども、在来種を駆逐したいわけではない。弱者として声を上げるけれど、強者に取って代わりたいわけでもない。マチズモとミソジニーにNOを突き付けたフィメール・ラップは、色々な人たちの想いを乗せて様々な方向に増殖を続けている。The personal is political(個人的なことは政治的なこと)。日常の些細なモヤモヤや怒りは社会に繋がっている。ライブのエンディングで声を合わせて叫んだように、「思いやりは革命になる」。

佳人ハクメイ 冗談じゃない
向かうのはただ 愛とカクメイ


(1)ニュース記事:トットローグvol.23「持続可能なアートと暮らしのためのラップ 鳥取からフィメール・ラップについて考える」10/29(火)13:00開催 参照
(2)「持続可能なアート活動のために -鳥取の個人的な芸術と労働についての話を収集する」2024年度 最終報告書 参照


フィメール・ラップ SAN-IN 2025
ラップライブ「My Rhyme, My Rights」

日程|2026年3月20日(金・祝)

時間|第一部 12:00-13:00 レクチャー
   第二部 13:00-14:30 サークル
   第三部 15:00-16:00 ラップライブ「My Rhyme, My Rights」

場所|ちいさいおうち(鳥取県米子市皆生温泉2-9-36)

主催|TPlat(ティープラット/一般社団法人鳥取クリエイティブプラットフォーム)
助成|令和7年度よりん彩活動支援事業補助金
協力|子どもの人権広場

ライター

福間久美子

島根県松江市在住。フリーランスのIT系翻訳業を経て、現在は哲学カフェ(「なごテツ」「哲学のタマゴ」など)の企画や運営に関わる傍ら、(有)マイカで編集補助や執筆協力にも携わる(『AI時代の読書革命』など)。哲学対話関係者からトットの情報を得てフィメール・ラップSAN-INに辿り着く。ここ数年は哲学沼にはまり、日々哲学書と格闘中。好きな哲学者はライプニッツとシモーヌ・ヴェイユ。